数理・データサイエンス・AI教育の紹介

北海道医療大学の数理・データサイエンス・AI教育
取組みの概要

二瓶 裕之(北海道医療大学 教授)

西牧 可織(北海道医療大学 講師)

1.はじめに

 北海道医療大学(以下、本学)における数理データサイエンスAI教育プログラム(以下、MDASH)の取組みについて報告します。本学MDASHは文部科学省MDASHリテラシーレベルに認定され、さらに、MDASHリテラシーレベルプラスにも選定されました。その特色は「学生どうしの学びあい」と「内製化したAIの活用」です。このようなMDASHに本学が取り組んだ背景には、かねてより実施している教育支援システムの内製化とICTを活用した学びあいの取組みにあります。
 教育支援システムについて、本学では、独自の教育手法をICTにより具現化することを目的として、15年以上にわたり教育支援システムを独自に開発(内製化)してきました。最近では、教育支援システムにAI解析機能を拡充しながら教育DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めています。
 ICTを活用した学びあいについても、情報リテラシー教育において、Googleドキュメントを利用したオンライングループワークやGoogleフォームを利用した学生どうしのアンケート調査(同僚間アンケート[1])などの授業方略を取り入れ、一定の教育効果をあげてきました。
 このような中、政府からAI戦略2019[2]が発表されるとともに、大学等における情報リテラシー教育に対してMDASHへの転換が求められ、MDASHに関するスキルセットと学修目標も策定されました[3]。MDASHには、4つの学修項目があり、そのうちの3つ(「導入」、「基礎」、「心得」)がコア学修項目とされ、もう1つの「選択」は学生の学修歴や習熟度合い等に応じて設定される項目とされました。
 本学MDASHでは、コア学修項目を扱う科目として、主に「情報処理演習」からなる授業科目群を設定し、令和4年度以降入学の学生からは、全員が当該プログラムを履修できるようにしました。さらに、一部の学部では、「選択」を扱う科目として「情報科学」も用意して、習熟度の高い学生に、自らの専門領域とのかかわりを踏まえながらより高度な知識や技術を修得できるようにしています。
 本報告では、まず、本学MDASHの取組みの概要として、MDASHの対象学生、授業科目の構成、授業で扱う学修テーマについて紹介します。次に、MDASHの特色となっている「学生どうしの学びあい」と「内製化したAIの活用」による学修教育支援について、授業内容と合わせながら、具体的に紹介します。

2.MDASHの概要

 本学MDASHは、薬学部、歯学部、看護福祉学部、心理科学部、リハビリテーション科学部、医療技術学部の医療系6学部のすべてにおいて開講をしています。学生総数は約3,000名であり、2021年度にMDASHの履修対象者となった初年次学生は約700名でした。
 表1には、MDASHを構成する授業科目を提示しました。ここで、○が付記された授業科目で、コア学修項目である「導入」、「基礎」、「心得」を修得します。また、○が付記された授業科目の背景色は白色になっていますが、これは、必須科目であることを示しており、全ての学部で、MDASHのコア学修項目を必須科目で修得できるようにしています。

表1 MDASHを構成する授業科目
○がコア学修項目(「導入」、「基礎」、「心得」)、※が「選択」を扱う(灰色は選択科目)

 一方、一部の学部では、※が付記された授業科目がありますが、ここでは、MDASHの「選択」を修得できるようにしています。また、背景色が灰色になっている授業科目は、選択科目であることを示しています。
 表2は、2022年度の前期と後期におけるMDASHに関わる授業科目の開講時限です。ここで、リハビリテーション科学部「基礎統計学」と歯学部「医療情報処理演習」は2時限連続のクオーター制で実施しています。また、薬学部「文章指導」と「情報科学」ならびに、医療技術学部「医療情報処理演習」と「情報科学」は3時限連続で開講し、15週のうちの5週を使って実施をしています。

表2 MDASHに関わる授業科目の開講時限
( )内は学部名の冒頭文字

 これらの授業科目を二瓶と西牧の2名体制で担当をしています(「文章指導」については担当教員10名ですが、MDASHに関わるテーマについては二瓶と西牧で担当しています)。担当教員数は限られていますが、授業スライドなどの教材を共通化したり、クラウドアプリケーションを活用してレポートや授業コメントなどを一括で管理したりすることで、これらの授業科目を実施しています。なお、MDASHで使用している授業スライドなどは、本学DX推進計画にしたがって、DX推進計画サイトに公開しています。
 図1には、コア学修項目を扱う授業科目の例として、看護福祉学部で開講している「情報処理演習」の学修テーマとMDASHのコア学修項目との対応をまとめました。「情報処理演習」には、5つの学修テーマがあり、例えば、「数理データサイエンスAI」は、モデルカリキュラムの表と線により結ばれた「社会で生きている変化、データ・AI利活用の最新動向」と「データ・AI利活用のための技術、データ・AI利活用の現場」の学修内容に相当していることを示しています。

図1 「情報処理演習」であつかう学修テーマ

 表3には、「選択」を扱う授業科目の例として、同じく、看護福祉学部で開講している「情報科学」の学修テーマを提示しました。「情報科学」では、「選択」での学修項目となっているプログラミング基礎、機械学習、自然言語処理などを学べるように設計しています。

表3 「情報科学」であつかう学修テーマ

3.MDASHの特色:学生どうしの学びあい

(1)オンライングループ

 MDASHの特色として、まずは、「学生どうしの学びあい」について紹介します。「学生どうしの学びあい」として取り入れている授業方略の1つが、オンライングループワークです。オンライングループワークでは、複数のユーザーが同時に書き込みできるオンラインドキュメントであるGoogleドキュメントを使います。オンライングループワークでグループになった学生は、1つのGoogleドキュメントファイルを共有します。Googleドキュメントには、定められたテーマに沿って、図2のように学生が自身の意見を書き込みますが、同時に、他者の意見が書き込まれる様子もリアルタイムに見ることができます。

図2 Googleドキュメントへの書き込みイメージ

 オンライングループワークは、まず、図1に示した学修テーマ「数理データサイエンスAI」で取り入れています。「数理データサイエンスAI」では、授業の初回に、内閣府「Society 5.0」などSociety 5.0やAIに関するWebサイトを教材としながら、社会で起きている変化やAI最新技術の活用例について講義をします。
 続く2回目の授業では、医療分野におけるAI活用について、学生一人ひとりが情報検索をします。しかし、医療分野におけるAIの活用事例についても、インターネットには、膨大な量の情報が公開されています。そのため、一人の学生が調査できる情報量には限りがあります。
 そこで、各自がインターネットで検索した情報をグループ内で共有することを目的として、オンライングループを実施しています。これにより、グループの学生一人ひとりが異なる着眼点で調査した結果が共有され、一人では検索しきれなかった量の情報や、一人では気づくことができなかった観点からの情報を把握できるようにしています。
 同様に、図1に示した学修テーマ「データ分析」でも、オンライングループワークを取り入れています。「データ分析」では、7回目の授業で総務省統計局「統計ダッシュボード」[4]を使いながらデータ分析の手法を学ぶとともに、データ分析を通して今まで気づかなかったような広く社会に起きている現象や課題を見つけるようにします。
 続く8回目の授業で、自身が発見した問題や課題について、オンライングループワークを実施します。ここでも、グループ内での情報共有を主な目的としていますが、問題や課題を発見するのが難しい学生にとっては、他者の意見を手掛かりにして自分の考えを発することができるようになるなど、発想のきっかけ作りとしても実施しています。

(2)同僚間アンケート

 「学生どうしの学びあい」を取り入れるためのもう1つの授業方略が同僚間アンケートです。同僚間アンケートでは、Googleフォームを利用して、定められたテーマにしたがって、クラスの学生に対してアンケート調査を行い、その結果を分析して、データの読み取りを行います。
 同僚間アンケートを取り入れているのは、まず、学修テーマ「データ処理、データ集計、データ分析」です。このテーマについては、10回目の授業で、スプレッドシートを使ってデータのフィルタリングやクロス集計などの基本的なデータ処理とデータ集計のスキルを修得します。さらに、Googleフォームを使ってアンケートフォームを作ったり、アンケート結果をダウンロードして複数項目間でクロス集計したりするスキルを修得します。
 続く11回目の授業で、同僚間アンケートを実施しています。ここでは、「コロナ禍における大学生活」といったテーマに従って、クラスの学生に対して学生自身がアンケート調査を行います。主な目的は、実体験を通して、データ分析に問われるスキルを学ぶことです。例えば、データの種類や種別(数値、文字、単位など)を明確にしながら質問項目を設定しなければ正確なデータ分析ができないこと、また、学生間の生きたデータ、つまり、実データであるからこそ生じるデータのばらつきや誤差の扱いをしなければならないことなどです。
 最後の学修テーマ「情報セキュリティー」でも、同僚間アンケートを実施しています。このテーマでは、13回目の授業で、総務省「国民のため情報セキュリティサイト」[5]を教材として、悪意ある情報搾取、データ改ざん、情報漏洩などによるセキュリティー事故の調査、ならびに、インターネットを安全に使うためのスキルについて講義をします。
 同僚間アンケートは14回目の授業で実施します。ここでは、「インターネットを安全に使うためにはどうしたらよいのか?」といった課題にしたがってアンケート調査を学生同士で行います。主な目的は、実態調査に基づいた課題解決ができるようになることです。例えば、図3にように「迷惑メールを週に何通程度受信していますか」などの情報セキュリティーについての実態調査を行い、その結果から、インターネットを安全に使うための最適な方策を多面的な視点から発想できるようにしています。

図3 同僚間アンケートの例

4.MDASHの特色:内製化したAIの活用

(1)授業支援としての活用

 次に、「内製化したAIの活用」による学修教育支援について紹介します。現在、内製化したAIとして、最も頻繁に使用しているシステムが自然言語処理に関するシステムです。その1つが、講義ノート可視化システムです。ここでは、pythonの自然言語ライブラリであるnlplotを使っており、AIというよりも、テキストマイニングの範疇にあるシステムです。このシステムでは、講義ノートをテキストマイニングしてサンバーストチャートやワードクラウドなどを作ることで、講義ノートの可視化を図っています。
 講義ノート可視化システムを利用しているのが、「数理データサイエンスAI」や「情報セキュリティー」をテーマとした授業です。ここでは、グループワークの前に、30分間程度の事前講義をしています。そこで、講義の内容についての理解を深めるために、講義を聞きながらメモを取り、講義後にメモをもとにGoogleフォームからノート(400〜800文字程度)を提出してもらっています。さらに、講義の記憶が定かなうちに即時に、講義ノート可視化システムにより講義ノートのフィードバックをしています。
 図4は、「数理データサイエンスAI」で提出された講義ノートに対して、講義ノート可視化システムで作ったサンバーストチャートの例です。例えば、サンバーストチャートからは、講義ノートには3つのテーマ(サンバーストチャート中央の0〜2)が含まれていて、それぞれ、「Society 5.0〜Society 1.0」、「自然言語処理に関するAI」、「ビッグデータ」がテーマとなることが読み取れます。

図4 サンバーストチャート

 このような結果を、学生にリアルタイムに提示することで、例えば、自分の講義ノートに3つのテーマの内容が過不足なく記載されていたのか、また、適切な用語で内容をまとめることができていたのかなどを確認できるようにしています。また、教員にとっても、講義の内容が学生へ、どのように伝わったのかを確認できる効果もあります。
 同じく自然言語処理に関するシステムとして、正答類似度提示システムも利用しています。ここでは、自然言語ライブラリであるdoc2vecなどを使っていますが、doc2vecはニューラルネットワークモデルの一つとなっています。このシステムでは、過去に提出された要約の文章をシステムに学習させてdoc2vecモデルを作り、このモデルを使って正答との類似度を推測します。
 正答類似度提示システムを利用しているのが、文章指導を学修テーマとして扱う授業科目です。この授業では、例えば、文章の要約などの課題がありますが、学生には、要約の要領(コツ)を徐々に伝えながら、同じ要約の課題を繰り返し提出してもらっています。このようにして課題を提出するたびに、正答類似度の提示システムにより、学生一人ひとりに正答との類似度を即時に提示しています。
 図5は、2022年度に実施した要約の課題に対する学生の正答類似度の分布です。これは、同じ要約の課題を3回(#1〜#3)提出してもらった結果になります。初回(#1)の提出から3回目(#3)の提出に至る結果から、学生が要約の要領をつかむにつれて、正答類似度が高まっていることがわかります。このように、正答類似度の結果を学生一人ひとりに即時にフィードバックすることで、徐々に要約の要領をつかめていることを実感できるようにしています。

図5 正答類似度の分布

(2)学修教材としての活用

 「内製化したAIの活用」による学修教育支援については、さらに、「内製化したAIを教育支援のみならず学修教材としても活用する」といった新しい活用方法も構築しています。この取組みを実践しているのが、「選択」を扱う授業科目においてです。例えば、表3に示した「情報科学」では、機械学習や自然言語処理を学修テーマとしていますが、ここでは、「講義ノート可視化システム」や「正答類似度提示システム」のプログラムを学修教材として使用しています。
 例えば、「講義ノート可視化システム」で使っているサンバーストチャートを描画するためには、ストップワード、最小頻出数、ノード数などの幾つかのパラメータを設定する必要があります。そこで、サンバーストチャートのプログラムを学修教材として学生へ提示して、パラメータを変えることで、サンバーストチャートの結果がどのように変わるのかを視覚的にとらえながら、自然言語処理の仕組みを学べるようにしています。
 また、「正答類似度提示システム」にも、深層学習特有のハイパーパラメータ(エポック数やバッチサイズなど)を含めて、様々なパラメータを設定する必要があります。そこで、深層学習を用いた予測プログラムを学修教材として学生へ提示して、ハイパーパラメータを変えることで予測精度がどのように変わるのかを実感しながら、深層学習の仕組みを学べるようにしています。
 教育支援システムに使っている深層学習やAIのプログラムを学修教材に落とし込むことで、学生は、AIの動きを身近に感じながら、その技術も学べるようにするなど学修効果の向上を図っています。

5.むすび

 本学MDASHの特色である「学生どうしの学びあい」と「内製化したAIの活用」について紹介しました。「学生どうしの学びあい」を取り入れる学修方略として、オンライングループと同僚間アンケートを紹介しましたが、これにより、自分一人では気づくことができなかった意見や発想に触れることができたり、学生同士から取得できる実データをもとにしたデータ分析などができたりするようにしています。
 「内製化したAIの活用」として紹介したのが講義ノート可視化システムや正答類似度提示システムです。これらのシステムにより、講義ノートを可視化したグラフや正答類似度を学生へフィードバックしています。内製化したAIの活用ポイントは即時性です。講義ノートのフィードバックや正答との類似度(得点)は、AIを利用しなくとも学生へ提示できますが、AIを活用することで、授業の中でリアルタイムに学生へフィードバックできるようになり、学びの実感をより身近に得られるようにしています。
 また、内製化したAIを教育支援のみならず学修教材としても活用するといった内製化AIの新しい活用モデルも構築しているところです。
 現在も、本学のDX推進計画に沿ってAIの内製化も進めており、いま特に力を入れているのが、説明可能なAI(XAI: eXplainable AI)による個別最適化教育です。深層学習による予測・判断はAIの鍵となる技術ですが、これを、個別最適化教育へ繋げるためには、どのような理由や根拠に基づいて、AIが予測・判断をしたのかを説明できることが重要になってきます。そこで、AIをXAIへと転換して予測・判断の理由や根拠を明確にすることで、学生一人ひとりに個別最適化した学修計画がより具体的、かつ、高い信頼性を持って提示されるものと考えます。XAIについての成果などについても、今後、引き続き報告できるようにしていきたいと考えております。

参考文献および関連URL
[1] 西牧可織, 二瓶裕之:“クラウド活用による同僚間アンケート調査を取り入れた問題発見課題解決型協働学修”, 私立大学情報教育協会, ICT利用による教育改善研究発表会, pp. 113-116 (2019)
[2] 内閣府AI戦略”,https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/
[3] 文部科学省“数理・データサイエンス・AI教育”,
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/suuri_datascience_ai/00001.htm
[4] 統計局:“統計ダッシュボード”,https://dashboard.e-stat.go.jp/
[5] 総務省:“国民のための情報セキュリティサイト”,
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/security/

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