巻頭言
寺尾 英智(立正大学 学長)
本学は2022年に開校150周年を迎えました。本学は学園メッセージとして「『モラリスト×エキスパート』を育む。」ことを掲げています。豊かな人間性に裏付けられたモラリストの精神を持ち、新しい時代に即して社会で活躍できるエキスパートとしてのデータサイエンティストの輩出を目標に、150周年記念事業の一環として2021年4月データサイエンス学部を熊谷キャンパスに開設いたしました。入学定員1学年は240名と、同種の学部としては国内最大規模となります。
周知のとおりデータサイエンス学部は滋賀大学、横浜市立大学、武蔵野大学などで本学に先行して設立され、今も多くの大学が同様の学部開設を準備しています。データの時代と言われながら、データ駆動型の社会実装がなかなか進展しない背景に、国内にデータ分析・利用の専門家が圧倒的に不足しているという事実があります。文部科学省、経済産業省、総務省、内閣府、デジタル庁などをはじめとする政府各府省はIT・AI人材の育成を急務として取り組んでいるところです。もちろん、データサイエンス人材の育成は社会全体の共通の課題であり、文部科学省もデータサイエンス学部で教えるべきカリキュラムについては、一定の基準を設けて、共通して学ぶべき科目を設定しているところです。
とはいえ、各大学のデータサイエンス学部はそれぞれの特色を出して、学生を呼び込むことを競い合っていることも事実です。例えば、(1)最先端の技術・知識を教えることで、この分野の最先端研究者あるいは起業家を育てるのか、社会のIT・AI人材の裾野を支える人材を育てるのか、(2)理系の人材か、文系の人材か、(3)統計分析・プログラミングなどを行う技術者か、新しいビジネスを起業する人材か、などの選択は、広くは各大学が持っている総合的な人材や設備、歴史的な経緯に依存するでしょうし、狭くは各大学のデータサイエンス学部設置理念によって違ってきます。
本学部の設置に関する構想では、文系のデータサイエンスをベースに、社会の様々な分野の裾野でデータサイエンスを応用する人材を育成していくということを念頭におき、カリキュラムや教員構成を決めていきました。文部科学省への新学部設置申請時点では、既存のデータサイエンス学部やそれに類似した学部で、文系であることを標榜しているところはありませんでした。しかし、本学では文系データサイエンス学部の社会的需要や人材の必要性に関する見通しのもとに、文系データサイエンス学部構想を真正面から展開しました。
この、本学の文系データサイエンス学部構想は昨年来多くのメディアで取り上げられ、データサイエンス学部の設置を構想していた文系私学の大学関係者や文系人材の雇用を考えている企業から多くの問い合わせを受けてきました。このことは、まさに、文系データサイエンス学部が社会的に要請されていることを物語るものと受け止めております。
本学のデータサイエンス学部の特色は、なによりも経済価値の創造を担うデータサイエンティストとしての資質を有する人材、すなわち「データの収集・加工・分析に関する基本的な知識・技能を身につけ、データに基づきビジネスの現場で新たな価値創造の担い手となり得るような人材」を養成することを目標に、各種の講義や実習を幅広く提供しているところにあります。とりわけ、「ビジネス」「社会」「観光」「スポーツ」といった幅広い応用分野において、データサイエンスを用いた新たな価値を創造するための力を養う講義や実習(価値創造基礎・発展科目群)を提供しているところに強みがあると自負しているところです。
データサイエンスの世界は現在進行形で進歩しており、大学における教育内容もそれに対応していかなければなりません。そのような柔軟な教育体制をいかに構築していくかが我々に課された課題となっています。