特集 反転授業によるアクティブラーニングの有効性と普及への課題
鈴木 良雄(順天堂大学 スポーツ健康科学部教授)
学生のアクティブラーニングを促進する手段としてICTを利用した反転授業の有効性や双方向授業の重要性が指摘されています。しかし、私立大学情報教育協会が2021年度に実施した「私立大学教員授業改善調査」では、多くの教員が反転授業を考慮しておらず関心も低いことが明らかとなりました。そこで、筆者が行ってきた双方向ツールを活用した反転授業について紹介します。本事例が反転授業導入のヒントになれば幸いです。
対象とした授業は週1回(合計14回)実施の「スポーツと栄養」と「運動生化学」という講義科目でどちらも科学的な知識と考え方を身に付けることを目標としています。
反転授業導入前には、パワーポイントを用いてスライドを示しながら授業を行い、毎回最後に授業内容に関する小テストを行っていました。このときは、授業中の学生はノートをとる作業に多くの労力を費やしていました。
そこで反転授業導入の試みとして、各講義のホームページを作成し、各回の授業で使用するスライド(PDF)と小テストの問題を、あらかじめアップロードし配布しました。
配布資料ではスライドの一部を空欄とし各自で埋めてくることを求め、小テストについても同様に回答を考えてくるよう求めました。そして授業ではその答え合わせと解説を行いました。
反転授業導入前にも同様に小テストを行い、教員が回収し採点をしていましたが、10点満点で0〜7点が多く、特に他人と全く同じ回答をする学生が散見されていました。一方、反転授業導入後は自己採点とし、得点は問わないこととしましたが、0点(すべて空欄)が目立って少なくなり正解数も増えました。
また、小テスト回答用の小冊子の感想欄に、授業の内容から派生した疑問が記載されることが多くなり、より積極的に授業に参加できている様子が感じられました。
そして期末のテストは、反転授業導入前に比べて、平均点は上昇し、特に低得点の学生が少なくなりました(図1)。
その後2020年4月より、新型コロナ禍のため対面授業に代わってZoomを利用した遠隔授業をせざるを得なくなり、これに伴い学内のICT環境が整備されました。そこで、自前で作成していた各授業のホームページに代わって、大学で導入していたUniversal Passport RX(日本システム技術株式会社)を通じて授業資料を配布することとしました。また、小テストは大学で契約したGoogle Formによって作成し授業後2日以内に回答することとし、次回の授業で答え合わせをしました。さらに毎回の小テストには自由記述の感想欄を設け、集まった感想と、それぞれに対する教員のコメントをPDFとし、Universal Passport RXを通じて共有するようにしました。
図1 反転授業の導入前と導入後の期末テストの得点分布
反転授業の導入後、2019年度にはリアルタイムのコミュニケーションツールとして、双方向コミュニケーションツール『Sli.do』(https://www.slido.com/)を使用しました。『Sli.do』は、授業中に投票やQ&Aを匿名で行えるサービスで、授業中に学生に質問を投げかけ回答を回収したり、各自の質問やコメントを無記名で集めたりすることができるツールです。学生はスマートフォン、タブレット、PCなどでWi-Fiを通じて『Sli.do』にアクセスし回答を行います。教員は付属の『Slide Switcher』により、プロジェクターで映写している画面をパワーポイントのスライドショーと『Sli.de』の回答画面と切り替えることができ、リアルタイムで反応を共有することができました。
Slideの例として、1ケ月の食費を選択肢で回答を集めた例(図2)を示します。
図2 『Sli.do』で選択肢への回答を集めた例
またsli.doではword cloudを用いてオープンな設問への回答を集めることもでき、その際には良い回答に「いいね」をすることができるので、学生も良い(人気のある)回答をしようとして、他者の回答を参考にしつつ、自分の回答を考えることができます。例として「鉄が足りないとどうなる?」という設問への回答を示します(図3)。
図3 『Sli.do』でWord cloudで回答を集めた例
Zoomによる遠隔授業ではsli.doではなくチャットを利用していましたが、対面授業が復活した現在は、大学で導入したUniversal Passport RXのクリッカー管理を使っています。Word cloudはできませんが、棒グラフと円グラフでの出力はできています。
以上のように、現在、オンデマンドビデオを利用した反転授業を行い、その際に双方向ツールにより学生の反応を授業に反映させています。これにより、教室に集合して時間を共有している時には、学生の疑問にフォーカスして解説したり、自分たちで考えさせたりする時間を圧倒的に増やすことができました。
同一のテストを用いた効果測定はしていませんが、授業資料の事前共有だけでも成績が向上していたので、現在はさらに理解が向上できていると考えています。
まだ、対面ではマスク着用で間隔を空けて着席させ発語を控えさせている状況ですが、正常化すれば小グループに分けて相談させるなど、対面であることの利点をより活かせると期待しています。
一方、反転授業では対面時の教員の役割は、説教者よりファシリテーターの比重が大きくなるので、それに対応する必要があります。また、小グループで考えさせる場合にはファシリテーターとなるTAを増やす必要があると思われます。
したがって、反転授業では教員の役割変化への対応と授業補助の方法などが、今後の課題でありましょう。