特集 反転授業によるアクティブラーニングの有効性と普及への課題

反転授業を取り入れた小児科シミュレーション実習の効果と
課題・展望

岡田  満(近畿大学医学部 関西空港クリニック所長・教授)

1.はじめに

 医学教育では、良き医療人育成が求められ、知識修得だけではなく、態度教育や技能領域も身に付けなければなりません。その基本的診療技能の修得には、シミュレーション教育が最も有効的であります。また、医療安全の観点からも、臨床現場を想定した環境にて、シミュレーションによるトレーニングを積むことが、実際の臨床現場で適切に対処できる医師を育てることになります。
 しかし、実際のシミュレーション実習では、学生は技術習得には興味を示しますが、積極的な参加意欲は高くなく、シミュレーション実習に必要な基本的知識を予習してくる学生はほとんどいません。
 小児科シミュレーション実習では、これまでも実際の医療現場に近い状況を見据えた形で行ってきましたが、シミュレーション実習として改善すべき点が多々みられました。そこで、能動的参加意欲を高めることを目的として、反転授業を取り入れて、医療現場で必要となる自己主導型の臨床的判断力・知的技能力を修得することを目指しました。

2.反転授業を取り入れた小児科シミュレーション実習の効果と問題点

 2015年度から、反転授業を取り入れた小児科シミュレーション実習を開始しました。事前学習に使用した動画は、自分達で作製したビデオを中心に用いました。初年度は事前学習を行わなかった学生を考慮して、シミュレーション実習前に事前学習の説明を行いましたが、翌年からは、実習を直ぐに始める形式に改めました。また、カリキュラム変更に伴い、2016年度は4年生と3年生がシミュレーション実習を行い、その後は3年生を対象として、シミュレーションセンターの各ブースに分かれて、小児の挿管手技、小児・新生児の採血、小児バイタルサイン、バックバルブマスクによる乳児のCPRトレーニングなどを行いました。
 学生からのアンケートを解析した2015年度の4年生、2016年度の4年生および3年生の結果を中心に示します。
 事前学習を行ったかの質問では、2016年度の4年生では全員が行ない、3年生では1人のみが行いませんでした。また、事前学習をいつの時点に行ったかでは、前日までが74%、当日が15%、直前が11%で、学生は早めに事前学習を行なっていました。
 5段階評価アンケートの平均点数の結果では、事前学習は積極的にできたかでは、2015年度では3.56、2016年度の4年生では3.39、3年生では3.61で、反転授業を行うことで、自らが積極的に参加できたかでは、2015年度では4.03、2016年度の4年生では4.01、3年生では3.94で、反転授業を他の授業に導入する方が良いかでは、2015年度では3.81、2016年度の4年生では3.10、3年生では3.31で、シミュレーションを使用した授業は有意義であったかでは、2015年度では4.20、2016年度の4年生では4.13、3年生では4.41で、トレーナーは良く指導してくれたかでは、2016年度の4年生では4.39、3年生では4.72でありました。
 事前学習を行うことには、学生はあまり積極的ではなかったようですが、反転授業を取り入れることにより、学生自らが積極的に参加できたことが確認されました。しかし、反転授業を他の授業に導入する方が良いかについては、図1のごとく、学生からの意見では、賛否がきれいに分かれました。

図1 設問に対する回答

 また、シミュレーション実習を行うことは高評価であり、トレーナーの指導に対しても、評価は非常に良好でした。
 学生からの自由記載の内、主なものを列挙します。授業全体に関する記載では、シミュレーション実習は実践的で、良い経験ができたが最も多く、次いで、実際の手技の難しさが理解されたでありました。また、シミュレーション実習は新鮮で、頭に入り易かったなどの意見が続きました。さらに、反転授業のスタイルは良く、モチベーションが上がり、これから学習の向上に繋がったなどの意見もみられました。他の意見としては、待ち時間が長い、シミュレーション実習の回数をさらに増やしてほしいなどの改善点を述べてくれました。
 シミュレーション実習に関しては、半数近くの学生が、シミュレーション実習を行う機会はこれまでほとんどなく、楽しく貴重な体験ができ、大変有意義であったと答え、次に、実際にシミュレーション実習を行うことで、手技の大切さについて理解が深まったようでした。対して、もう少しシミュレーション機器の台数を増やしてほしい、もっと少人数に分けて、ゆっくりと実習をしたかったなどの意見がみられ、改良すべき点を指摘してくれました。
 反転授業に対しては、 事前学習を行うことで、スムーズにシミュレーション実習に取り組むことができ、重要な箇所がよく理解されたが最も多く、その次には、反転授業によって、イメージが湧きやすく、身に付きやすく、理解しやすかったようでした。動画によって、実際の医療現場における臨場感が伝わったなどもみられました。また、反転授業は初めてなので、目新しく、非常にためになった、シミュレーション実習だけではなく、より効果的であったなど、シミュレーション実習に対する前向きな影響が見られることが理解できました。さらに、事前学習は、繰り返して視聴することで理解しやすい、復習にも利用できるなど、反転授業の利点を上げて、多彩な効果があることが分かりました。改善すべき意見としては、 事前学習の量が多かったが最も多く、内容が少し難しかった、事前学習をもう少し早めに公開してほしいなど、 直すべき事柄を理解することができました。
 全体としては、学生は積極的に事前学習を行うことはありませんでしたが、反転授業を取り入れたことにより、小児科シミュレーション実習に積極性を持って参加していたと考えられました。また、反転授業を他の授業に導入する方が良いかに対する学生からの意見には賛否両論がみられました。

3.現状の課題と今後の展望

 近年、一部の診療科から、反転授業を導入した報告がなされました[1][2]。また、医学生の医療面接、深部腱反射スキル、眼底診察などの授業に、反転授業が取り入れられ、また、シミュレーション教育においても、反転授業形式で、研修医の入職時研修、腹診実習、腹腔鏡下手術などで行われるようになってきました。
 しかし、2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大に伴って、大学教育は多大な影響を受けました。小児科シミュレーション実習においても、ここ2年間は全く行うことができず、実習とは異なるビデオ閲覧と講義の形になってしまいました。
 一方、コロナ禍によって、これまで十分には施行されていなかったICTを活用したオンライン授業、音声付きのスライドや録画動画を使用したオンデマンド授業が当たり前に行われるようになりました。それに伴い、教員は事前学習に必要な動画作製は難しいものではなくなり、また、学生はPC、タブレット等にて、授業を受けることに対して十分に慣れました。これらの経験を踏まえて、授業形態について再考する機会となり、知識伝達型の一方向型授業はオンデマンド型講義でよく、双方向型授業や実習など対面でないと十分な効果が得られない形式のみ、対面にて行うという結論になってきました。そのため、ウイズコロナ時代では、知識伝達は事前学習に任せて、対面にて行う授業では、双方向型授業や実習をいかに上手く実施していくかが重要となってきました。今後、反転授業を活用した授業をどのように普及に繋げていくかが課題となります。

4.おわりに

 小児科シミュレーション実習に、反転授業を取り入れたことにより、学生が積極的に参加することができました。一方、学生からの意見から、反転授業を他の授業に導入することに対しては、拮抗する賛否両論があることが確認されました。
 今後においては、反転授業の際に、学生が事前学習を行うための仕組み作り、反転授業が有効に活用できる授業の選定など、十分な事前準備を行って、反転授業を進めていくことが大切となってきています。

参考文献
[1] 平田修司、深澤宏子:山梨大学医学部の産婦人科の全講義への「反転授業」の導入 山梨産婦人科学会雑誌 9、2-5 2018
[2] 鋪野紀好、伊藤彰一、生坂政臣:反転授業と学習者相互学習を取り入れた身体診察能力向上のためのInterest groupの取り組み 医学教育 51、133-137 2020

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