巻頭言
藤井 啓吾(流通科学大学 学長)
本学は、「豊かな社会の実現に貢献できる意欲と能力を持ったビジネスパーソン」を育成することを教育の目標としている。ここでいう「ビジネスパーソン」とは、企業はもちろんのこと、自治体やその他の団体、地域などにあっても、事業としての実現性、継続性を念頭に置きながら、豊かな社会の実現に向け、具体的な行動をもって貢献できる人をいう(本学「卒業認定・学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)」)。「ビジネス」を単に企業活動として捉えるのではなく、自治体やその他の団体、地域などの事業活動もビジネスに含まれるものと位置づけている。
こういった意味でのビジネスの世界は、大小様々な課題に日々満ちあふれている。そんなビジネスの世界でビジネスパーソンとして力強く生き抜いていくためには、変化を恐れず、ときには自ら課題を見つけ出して、直面する課題を解決していく力が求められる。一般の問題集に掲載された問題とは異なり、これらの課題には予め用意された正解は存在しない。また、これらの課題は必ずしも自分ひとりで解決しなければならないというものではなく、多くの場合、仲間とのチームワークで解決することになる。
現代はVUCAの時代と言われる。未来が、移ろいやすく、不確実で、単純ではなく、曖昧であることは、今に始まったことではない。ただ、現代はそれらの傾向がより顕著になり、その分、ビジネスの世界で取り組むべき課題の解決を難しくしている。デジタル社会の進展は、このようなVUCAの流れを加速する一方、課題解決を助ける様々な情報やツールを提供している。
本学では、2022年度後期から「流通科学入門」や「経営学入門」といった全学共通の専門基礎科目の一つとして「デジタル社会の基礎知識」を新たに開講した。この科目は、1年次後期開講科目とされ、「情報が社会にどのような変化をもたらしてきたのかを振り返り、IoTとビッグデータとの関わりと我々の生活への影響、AI(人工知能)がもたらすライフスタイルの変革を身近に捉え、今後の『社会』の在り方について考えること」および、「日常生活の中の疑問を統計の視点から見直すことで、データの基本的な扱い方を知り、新しい観点を養うことで、日常生活や社会の課題解決の糸口になり得ること、新たな価値を創出することを知り、社会の変化とそれにともなうリスクや配慮事項を理解し、自身や周囲の安全を守るために必要な知識を学ぶこと」を主題とする科目である(同科目のシラバスより)。選択必修科目の1つではあるが、1年生については、個々の学生につき受講すべきクラス(曜日・時限)を大学から予め指定するなどの方法により、大半の学生が履修するよう促している。この結果、2022年度後期においては、新入生909名のうち650名(71.5%)がこの科目の履修登録を行い、うち484名(74.5%)が単位を修得している。2023年度からは、1年次未履修者・単位未修得者のために、2年生以上を対象としたクラスも別途設置することになっている。
また、この科目では、「グループワークや個人ワークを通して」、数理、データサイエンス、AIが、「日常生活や社会の課題解決の糸口になり得ること、新たな価値を創出し得ること」を実感することを到達目標の一つとしている(同科目のシラバスより)。先にも述べたように、ビジネスの世界において直面する課題には予め用意された正解はない。また、ビジネスパーソンは、自ら、あるいはグループのメンバーとともに考え抜くことで、直面する課題の解決を図っている。本学では、この科目も含め、グループワークや個人ワークを採り入れた授業を実践することにより、学生たちが4年間の学生生活を通じて、こういったビジネスシーンの疑似体験を重ねられるような教育を目指している。
この科目に取り組むことにより、多くの学生たちがデジタル化を味方に付け、VUCAの時代を力強く生き抜く力を手にすることを願っている。