特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その3)

KUIS DX Experience
〜デジタル・パートナー・プラットフォームの構築〜

吉野 知義(神田外語大学 学術・研究支援部ゼネラルマネージャー)

1.はじめに

 1987年に開学した本学は外国語学部のみの単科大学でしたが、2021年にグローバル・リベラルアーツ学部を新たに開設しました。それまでも先進的な教育手法をいち早く取り入れ、システムの導入や組織の設置を進めて、効果的な外国語教育や情報教育に努めてきました。しかしながら、昨今のデジタル環境の中においては全体像が不明瞭となり、教職員と学生が一体となって教育の質向上に資することに課題が生じてきていました。
 そのため、新学部の開設に合わせて、本学が第一義とする自立学習者の育成を実現できるよう、学生自らが学習成果を把握し、振り返りや活用ができる新たなデジタル環境の構築に着手することとなりました。
 なお、文中の“KUIS”は本学の英語名称Kanda University of International Studiesの略称で、「クイス」と呼称しています。

2.取組みの概要

 まず、全体の目指す方向を明確にするため、すべての学習者がデジタル技術及びデータを学びのパートナーとして効果的かつ適切に活用し、個人及び社会のウェルビーイングを実現する「KUIS DXビジョン」を掲げ、学生を中心としたすべてのステイクホルダーがデジタル技術及びデータを安全かつ適切に利用できる統合的デジタル環境の構築を目指すこととしました。(図1参照)

図1 神田外語大学 デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン

 取組みの中心として、LMSと連動した本学独自のeポートフォリオ(以降、KUISポートフォリオ)を開発・運用し、学習者を中心として正課内・外を含むあらゆる学習機会において多様なステイクホルダーと学び合うデジタル・プラットフォームを構築していくことを計画しました。
 さらに、個別最適化された学びを実現するために、キャンパス内の学習施設の利用状況等の「人の行動履歴」と、学習を支える設備や教材等の「モノに関する履歴」を含む統合データシステムを構築し、学習者がデジタル技術とデータを積極的活用することで質の高い学修を保証し、生涯にわたって学び続けることができる自立学習者の育成に寄与することを目指しています。

3.重点施策

 KUISポートフォリオに加えて、全体計画では下記の6つを重点施策として設定して計画を立てています。(太字はPlusDX補助での取組み事業)

① 感染症対策を含めたオンライン及びハイブリッド型学習環境のさらなる向上

② LMSと連動したKUIS ポートフォリオの構築及び運用

③ 感染症対策を含めたキャンパス内での人の行動履歴の収集と情報活用

④ 感染症対策を含めたキャンパス内での「モノ」の動きに関する情報収集と活用

⑤ 全学デジタル技術・データ活用基盤環境「KUIS Digital Platform」の構築及び運用

⑥ 上記の運用を効果的に機能させるための人材育成及び教職員等の能力開発

 中心となる・は、Salesforce社の高等教育機関向け製品であるEducation Cloudを基盤としたKUISポートフォリオの開発・運用、Google Classroomとの連携、そしてキャンパス内での学生の行動に関するデータを収集・活用するための施設入退館履歴システムで構成されています。
 その核となるKUISポートフォリオでは、学習者の「学びのパートナー」としてゆたかな学習体験と自立学習を支えることを目的とした、他には類をみない機能を持つユニークなeポートフォリオとなっています。その機能として、授業等の正課の学習機会に加え、クラスメイトやアドバイザーとの学び合いや、キャンパス外のステークホルダーとの学外活動を含めた多様な学習活動に関する情報を統合的に可視化するだけでなく、学習者が自身の学習を多面的な角度から把握し、さらなる学習活動に連続させるための「学びのサイクル」を提供しています。
 このように、本学のDX推進計画では、学習者の生涯にわたる学びを支えるデジタル・プラットフォームの構築を目指し、キャンパス内に設置された各種ハードウェアやインターネット環境、キャンパス内外を問わず利用するPC、スマートフォン等の端末、LMSを含むクラウド・アプリケーションサービス、さらにはKUISポートフォリオ等を有機的に統合し、デジタル技術の利用を通じて生成される膨大なデータを効果的かつ適切に活用することで、学習者に高度な学習体験及び教育機会の提供を実現するものとなっています。

4.期待される成果

 本取組みは、研究・教育・業務全体を対象にしたものであり、学内の各部門のみならず学校法人及びステークホルダーとの連携を射程にした計画であることから、全学的かつ多面的な効果が期待されています。
 すでに2020年度にはコロナ禍によるオンライン授業実施において、非常勤教員を含めた多くの教員がGoogle Classroom やZoom を活用し、これらを効果的に活用した授業設計に取り組んだ結果、授業全体の目的及び到達目標がこれまで以上に明確化され、学生・教員ともに高い授業満足度及び習得度を実感できたことが、アンケート結果より明らかとなっています。このことは本取組みを継続的に実行することで一層の教育内容の高度化につながることを実証していると考えられます。
 また、2021年度以降は、KUIS ポートフォリオの運用が始まり、学習者が自身の学習に関するデータを主体的に活用し、自らの学習に還元できるようになることで、学習者が自身の学びの特性をメタ認知することが可能になり、卒業後も自らの学びに責任を持つ自立学習者として自信を持って活躍できるようになることが徐々に実現しつつあります。
 今後は、KUISポートフォリオの活用により、教職員が担う教育活動や業務を適切に振り返ることが可能となり、学習者それぞれの個別性に対応した教育及び学習支援が可能になるため、教育内容の一層の高度化が合わせて期待されています。

5.おわりに

 コロナ禍により、学生の学習行動や生活様式が大きく変容した今、デジタルの力を活かして本学の教育の質向上を継続できるよう、様々な可能性を模索し続けたいと考えています。


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