特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その3)

統合的学習・教育支援プラットフォームを核とした
自律的学習者支援と教育高度化支援

星野 聡孝(大阪公立大学 国際基幹教育機構教授 教育学修支援室 教育支援系システム部門長)

1.はじめに

 大阪公立大学(以下、本学)は、2022年4月に大阪府立大学と大阪市立大学とが統合してできた大学です。新型コロナウィルス感染症パンデミックが起きたのは、まさに統合の準備を進めている真っ最中でした。教職員の負担面を考えると最悪のタイミングではありましたが、一方で、大学全体のDX化がまさに必要とされるタイミングであったとも言えます。本稿では、そのような状況下で「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に採択された大阪府立大学の取組みについて、簡単に紹介します。

2.取組み概要

 大阪府立大学では、以前より、オンライン上の学習・教育基盤プラットフォームとして「学習・教育支援サイト」を運営し、LMSや出席管理システムとの一体的な運用、学習・教育ポートフォリオ機能の提供などを行ってきました(図1)。そして、コロナ禍と大学統合によって、このプラットフォーム上に展開するシステムの重要性は、大きく増すこととなりました。

図1 大阪府立大学の取組み概要

 そこで、これらシステムの機能を強化し、このプラットフォームを中心に行われる教育と学習の高度化をさらに推し進めるための取組みを、「守りのDX」として進めていくことにしました。また、学内で議論が進められているスマートユニバーシティ構想に繋がる新たな挑戦的取組みとして、このプラットフォーム上に蓄積されるデータを含む様々な教育データをAI分析し教育学習支援につなげる試みを、「攻めのDX」として進めていくことにしました。

3.「守りのDX」

 「守りのDX」として進めた取組みは、以下の2つの取組みに大別されます。

取組1 対面型授業における教育手法の高度化推進

 コロナ後の多くの授業は、対面の形に戻っていくことが予想され、実際にそうなりつつあります。一方で、コロナ禍によるオンライン授業の経験を通じて、授業内外でのICTの有用性と重要性に多くの人が気づくことになりました。そこで、対面型授業において、ICTを活用した教育手法の高度化を進めるため、以下の取組みを行いました。

・ICT活用支援体制整備

 大学統合後の本学では、学生はPC必携となりました。そこで、PCや大学で利用するシステムの利用方法に関する問い合わせの急増を見込み、チャットボットを導入するなどサポート体制を充実させました。また、教員向けには、反転授業のセミナーを開催するなど、新たな教育手法の周知を図りました。

・Webクリッカー開発

 授業でのアクティブラーニングを支援するツールの一つであるWebクリッカーの追加機能開発を行いました。選択式・記述式に加えて描画式の回答を可能にするとともに、各授業回・授業科目全体・各受講生のアクティビティを可視化して授業改善等に活かせるようにしました。また、LMSとのデータ連携により、正規の授業科目以外でも利用できるようにしました。

・看護学習支援システムVR教材開発

 先駆的なデジタル教材として、大阪府立大学では、2007年より「看護学習システム」(通称CanGo)上で看護事例動画教材を学生に提供してきました。これを、Webテクノロジーの進展に追随する形で機能強化し、個々の学生の学習履歴の保存と、学生間の比較ができるようにしました。加えて、新規VR教材開発を行うとともに、より幅広い学生に提供できるよう、運用体制整備を行いました。

取組2 自律的学習者育成の高度化推進

 先に述べた通り、大阪府立大学の学習・教育基盤プラットフォームは、学習・教育ポートフォリオ機能を備え、以前より進めてきた自律的学習者育成の取組みの要となってきました。この取組みをさらに推し進めるため、本学向けに追加を予定していたショーケース機能について、その利用価値を高めるための追加機能開発を行いました。具体的には、運用管理者により成果物を個々の学生のショーケースに一括登録する機能、タグ付け・検索機能、教育成果物を蓄積するための教員用プライベートショーケース機能などを追加しました。

4.「攻めのDX」

取組3 AIによる教育ビッグデータを活用した教育学習支援の高度化推進

 オンラインでの教育・学習活動やデータ収集が活発になるほど、そこには様々なデータが蓄積されていくことになります。これら教育ビッグデータの分析をうまく行うことができれば、学生へのきめ細かな履修指導や教育の内部質保証などに役立つと考えられます。そこで、教務・入試・eポートフォリオ、LMS、就職といったデータについて、AIシステムでの分析を繰り返して仮説検証を行いました。これにより、学生の学修成果に関して幾つかの知見が得られた一方、収集するデータに関する課題も明らかになりました。

5.おわりに

 本学では、新たに設置した教職協働組織「教育学修支援室」内に「教育支援系システム部門」を設け、「守りのDX」の成果を引き継ぐ形で、授業内外でのICT利活用促進の取組みを進めています。今後は、「攻めのDX」で得られた知見を踏まえながら、教育ビッグデータ活用についてさらなる検討を行い、本学の教育DXのレベルをさらに高めるための取組みを進めていきたいと考えています。


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