特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その3)
石井 和也(宇都宮大学 大学教育推進機構基盤教育センター准教授 Plus-DX推進チーム)
変化の激しい時代においては、自ら学びを進めて常に自分の知識の幅を広げ、質を高め、仲間とともに課題解決に取り組んでいくことができる力が不可欠です。こうした力を大学生に身につけさせようとするにあたり、種々のブレンディッド・ラーニングは適した教育手法であり、こうした手法を全学展開する取組みが急務であると言えます。さらに、この取組みを有効に機能させ、学生を、学修の自己管理と学びのバージョンアップができる自律的学修者に育て上げるためには、様々な教育実践の効果を丁寧に検証し、教育・学修成果の測定と改善を重ね、より質の高い教育と学びを生み出していく体制とシステムの整備が不可欠です。
こうした考えに基づき、本学では教育DX化に向けた取組みをコロナ禍前より行ってきました。本稿では、機関全体のDX推進計画の概要説明の後、2020年度に「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に採択された取組み(以下、「Plus-DX事業」と表記)の全体像を紹介します。
本学では、機関全体のDX推進計画として、情報基盤の高度化と、学修環境・学修支援の高度化を推進しています。このことを通じて、大学全体のDXを加速させ、オンライン授業の高度化と、次のステップとしてのブレンディッド・ラーニングの全面展開を目標としています。具体的には以下の取組みを行っています。
① 新たなクラウドサービスと旧来の学内ネットワークの双方に対応した認証基盤の導入
② 学内のあらゆる場所にWi-Fi環境を整備
③ 全学生のPC必携化
④ BYOD化のサポート
⑤ LMSとe-ポートフォリオとを連携させた新たな学修支援システムの構築
本学のPlus-DX事業は、・〜・の取組みを基盤として、・の取組みを推進するものです。
本学のPlus-DX事業は、種々のブレンディッド・ラーニングを実践し、効果的で質の高い授業と学修の在り方を追求するとともに、多面的評価の実施により、明確な目的意識と自己評価能力を身につけた自律的学修者を育成することを目的としています。
この目的を達成するために、以下に述べる3つの取組みを実施してきました。
(1)Plus-DX推進チームの設置
まず、Plus-DX事業の推進を統括するために、教育DX担当学長特別補佐(現副学長)を中心としたPlus-DX推進チームを設置しました。このことにより、本学に適したブレンディッド・ラーニングの検討と試行、新学修支援システムの整備、授業実施のための支援、取組み成果の検証を組織的に行う体制が確立しました。
(2)新学修支援システムとICT環境の整備
次に、ブレンディッド・ラーニングをより効果的に実施することを可能にするために、Plus-DX推進チームでの検討を経て、新たな学修支援システムを構築しました。
ブレンディッド・ラーニングを通じて高い学修効果を得るためには、学生自身が現在の学修状況を確実に把握し、次の学びでどのような取組みが必要かを自ら考えていくことが必要です。
そこで、新学修支援システムは、LMSにe-ポートフォリオを連携させ、常に自身の学修状況を意識できるシステムとして設計されました(図1参照)。e-ポートフォリオは、学修プロセスにおける自己評価やピアコメント、ルーブリックを基にした教員のフィードバックなどの形成的評価をもとに、学生の学修状況を多面的に可視化することで、次の学びを学生自身が計画することを促すものとなっています。
図1 新学修支援システムにおける多面的な評価
こうした学修計画を立てる際には、評価に留まらず、第三者からの様々な助言があることが大きな助けとなります。そこで、新学修支援システムでは、教員と学生間だけではなく、学生同士のコミュニケーションを促す機能を実装しました。このことで、着実に学びを進めるための学修コミュニティの形成も図っています。
また、ブレンディッド・ラーニングを通じた学修をより深化させるために、学修状況に応じたデジタル学修コンテンツをいつでも利用できるデータベースを構築しています。これらの機能は、段階的に活用が進むことにより、学修効果のさらなる向上が見込まれています。
(3)授業での試行とFDの実施
最後に求められる取組みは、新学修支援システムを活用したブレンディッド・ラーニングを実際の授業で試行し、そこから明らかとなった成果と課題を、FDを通じて全学的に共有することです。このことを通じ、一人ひとりの教員が、自律的学修者を育成するという意識を持ち、積極的にブレンディッド・ラーニングを実践する状況をつくり出すことが重要です。
そこで、複数の授業でブレンディッド・ラーニングの実施と新学修支援システムの活用を試行しました。Plus-DX推進チームは、試行授業の教員と受講学生を対象としたアンケートを実施するとともに、その結果と実践例を全学のFDで共有しました。その際には、ブレンディッド・ラーニングと多面的評価を通じて成長実感を得られたということや、従来型授業との違いに戸惑ったということなど、学生の生の声も紹介しました。さらに、学外有識者との意見交換も行い、本学の取組みを高等教育の大きな潮流に位置付けることで、各教員の理解を深めることができたと言えるでしょう。ブレンディッド・ラーニングの深化と拡充に加え、下記の取組みを行います。
(1)カリキュラムの改訂と継続的な見直し
新学修支援システムを活用し、本学で養成する汎用的能力「宇大スタンダード」を体系的に身につけさせることを目的として、主に1、2年次生が受講する基盤教育科目のカリキュラム改訂を行いました。今後、すべての学年において同様の目的を達成するために、専門教育科目においてもカリキュラム改訂の検討が行われています。また、新学修支援システムで得られた各種データをもとに、カリキュラムの継続的な見直しを行うことも予定しています。
(2)ディプロマサプリメントの開発
新学修支援システム上に表示されるレーダーチャートにより、学生は「宇大スタンダード」の獲得状況を視覚的に把握することが可能となりました。これを学びの成果の1つとして示すディプロマサプリメントを開発しています。
新学修支援システムやディプロマサプリメントを活用し、自らの学びや活動とその成果・課題について、自分自身の言葉で説得力のある説明ができるようになることこそが、自律的学修者の完成と言えるのではないでしょうか。
本稿では触れられませんでしたが、本学ではEMIRのさらなる推進も図っています。多様なデータの分析に基づき、新たなシステムや、そのシステムを活用して実施される教育を継続的に改善し、より質の高い教育と学修を追求していきます。