特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その3)

学修活動分析を利用した教育高度化のための
デジタル活用仮想基盤整備

大西 淑雅(九州工業大学 情報統括本部情報基盤センター准教授)

1.はじめに

 本学は、日本初の情報工学部を設置以来「キャンパスは情報社会のモデルであるべき」との基本方針のもと、複合的学習空間の整備を進め、キャンパス環境の充実と共に、各種サービスの情報化とネットワークを活用した教育を推進してきました。本学では、単純なデジタル化にとどまることなく、共創空間の利用や教室設備の充実など、組み合わせを別途考慮することで、キャンパスの多様性を促進し、未来思考の「学びの環境」の構築を目標としたDX計画を策定しました。
 本稿では、「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」(以下、Plus-DX)の本学の取組みについて紹介させて頂きます。

2.本学における教育DXの推進

 本学では、オンライン教育と対面教育を柔軟かつ適切に組み合わせ、シームレスに連携させる環境を構築するため、統合学修環境とその方法論を整備することを重要視しました。つまり、学生個々の環境や担当教員・対象科目に依らず、

 の実現を目指します。そのための具体的な基盤整備の課題として、本事業では、・対面教育とオンライン教育の有機的連携を可能とする学習データや多様なツールを統合的に管理するデジタル教育基盤の確立、・時間・場所の制約を受けない実践力習得を可能とする仮想演習環境の確立、・デジタル教育の準備および実践を効率化するための適切なユーザインタフェースを持つ支援環境の確立、等を推進することにしました。

3.取組み内容

(1)デジタル教育基盤の確立

 学習活動や学習履歴といった学習データを分析し活用するためには、各種処理システムの強化とデータの流れの最適化が必要です。また、学生の学習活動や教員の教授活動をできるだけ細かく把握するためには、システム間の連携も不可欠です。そこで、複数のシステムやサービスを統合的に管理する「デジタル活用仮想基盤」を整備(図1参照)しました。そのうえで、拡張性や柔軟性に優れた認証システムを構築しました。採用した認証システムは、オープンソースソフトウェアであるため、他の教育機関での導入も容易であり、必要なノウハウを本学から提供することもできます。

図1 デジタル活用仮想基盤整備の概要

(2)演習環境の確立

 本学では、2019年度入学生からノートパソコンを必携とし、個人が管理する情報デバイスを活用した学習活動を推進してきました。一方、理工系大学では実験や演習を伴う科目も多いため、これらの環境をどのように実現するかが課題となっていました。本取組みでは、「デジタル活用仮想基盤」のリソースを使って、Linuxの演習環境を提供・管理する仕組みを試行しています。具体的には、Webブラウザで演習用サーバに接続し、データベースやサーバ構築などの情報演習を行うことを目指しています。

(3)デジタル教育の効率化

① ツール間連携

 複数のビデオ会議サービス(Zoom,WebEX)をシームレスに活用できるように、認証システムを経由した利用法と学習支援サービス(Moodle)からLTI(Learning Tools Interoperability)経由での利用法の2つを用意しました。Zoomについては、会議主催者(ホスト)をすべての教職員および学生に付与し、教職員の授業や会議での活用に加え、学生の自主利用も可能にしました。学年や所属情報を認証システム(Keycloak)に提供することで、利用の制限や許可もコントロールすることができます。

② Moodle間の連携プラグイン

 利用目的の異なる複数のMoodleを、教員や学生が手軽に利用できるように、Keycloakを用いたSSO認証をはじめ、異なるMoodleシステム間におけるコースの複写(バックアップ&リストア)ができるように、API機能を持つプラグインを開発[1]しました。これにより、コースの再活用や共同開発が行いやすくなります。また、学生向けの復習専用のMoodleや学生が過去に提出したレポートなどの参照が可能なMoodleなどの運用も可能になります。また、将来的には大学連携による教材配信も可能なプラグインとしました。

③ エフォート把握と教材検索機能

 学生の学習負担を教員が簡単に把握し、適切な課題設定(分量や締め切り)が可能な仕組みを、Moodleのプラグインとして開発[2]しました。これは、学生の学習エフォート状況を簡易に観測する仕組みとしても使用でき、学生の学習指導への活用への展開も可能です。その他にも、教員が作成するコース上の教材の構成状況を許可されたユーザーが把握あるいは検索できるプラグインも併せて開発しました。このプラグインは、デジタル教材の再活用などを図る目的もあると共に、コース間の連携を支援する際への活用も計画されています。

4.データの収集と分析ツールの充実

 学習/教育/活用データの一元収集に向け、データレイクとデータウェアハウスとなる基盤の整備にも着手しました。これは、教学IR専任教員が戦略的な分析を、教育DX専任教員が学習分析(LA)を進めていくために、不可欠な基盤となります。さらに、大学内に散在していた様々なデータを収集し、データ分析の処理の効率化を図るために、データ成形などを行うETL(Extract Transform Load)ツールも別途、導入しました。これにより、様々な教育ツール群からのデータを収集し、デジタル教育の分析が可能な環境の提供が可能となり、既存システムとの連携も強化できました。なお、国際標準化を意識しLRS(Learning Record Store)への収集も引き続き行い、収集データ項目の拡張についても、持続的に検討を進めています。

5.今後の展開

 学習支援サービス(Moodle)を核とした教育の定着を図るために、分析項目の多角化と学生・教員へのデータ提供・提示などを進めていく予定です。他大学の分析手法や活用事例を参考に、即時性の高い分析結果の提示方法の開発とその自動化を目指します。将来的には、クラウドサービス上の分析機能(API/LTI)の活用し、学生個々人に適した学習アドバイス(分析結果)の提供、学習・教育に関する支援機能の充実を構想中です。

6.まとめ

 デジタル教材や教育ツールといった教育/学習コンテンツの充実とその活用方法の確立するためには、教職員に対しても持続的に提供可能なデジタル教育環境の構築と効率的な連携が必要です。今回整備したデジタル活用仮想基盤を足掛かりに、教職員の教育の質向上と生産性の向上を支援し、教育の高度化に努めます。また、DX推進室では、Kyutech DXビジョンとして、さらなる計画の充実を検討しています。
 なお、Plus-DXの趣旨に従い、本事業で開発したプラグインや機能などは、無償での公開を予定しています。また、他機関との連携を深め、学習データの活用と分析結果の活用についても、広く情報の交換と発信を行う予定です。

謝辞

 遠隔授業支援WG及び情報統括本部および教育高度化本部の各メンバーには、本プロジェクトにご協力頂き、感謝いたします。

参考文献
[1] 大西他、学習済み科目における学生レポートの閲覧環境の構築、第38回CLE研究会(2022/11)
[2] 大西他、学習負担の把握に向けたプラグイン機能の開発、第35回CLE研究会(2021/12)

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