事業活動報告 No.4

2022年度 大学職員情報化研究講習会
開催報告

 学修者本位の教育への転換、質の向上を目指した新しい学びの創出、学修成果の質保証に向けた教学マネジメント確立の対応が急がれている中、ICTを駆使して教育の手法や仕組み、教職員の意識改革、学生一人ひとりに応じた学修支援を大学全体の問題として捉え、教育改革DX、学生支援改革DX、業務改革DXに向けた取組みを着実に実行していくことが重要な課題となっている。
 そこで本協会では、私立大学における職員の職務能力の開発・強化を支援するため、教育の質向上を目指した企画・提案及び学修成果の可視化、全学的教学マネジメントの確立に向けた指針の実施、業務改革に求められるICTの利活用等について、知識・理解の獲得と実践的な考察力の促進を支援することを目的に本研究講習会を実施している。昨年までは、実践的な課題解決を中心に行う基礎講習コースとICTに係る最新の情報提供を中心に行うICT活用コースに分けて実施してきたが、コロナ禍によるオンライン開催が続く中、参加者も減少傾向にあったことから、今年度は初めての試みとして両コースを一本化して開催し、DX化に向けた先進的な取組等の情報提供をした上で、フリーディスカッションを行う1日コースとグループ討議を行い、大学改革を目指した具体的なDXの構想提案をまとめる2日コースを設定し実施することにした。
 開催方法については、今年度もコロナ禍が終息しておらず、集合型研修の開催は困難であると判断し、11月15日〜16日の2日間にわたりZoomを利用したオンラインで実施した。
 参加者全体では、35大学・1法人から66名(1日コース44名・2日コース22名)、所属部門では、情報センター部門26%、学事・教務部門が20%と多く、総務・広報が15%、学生部門6%、人事、企画、管財部門がそれぞれ5%、そのほか就職・会計・図書館等であった。年齢別では、20代が33%、30代が27%、40代が22%、50代が14%、60代が3%であった。男女比は男性64%、女性36%であった。オンライン開催という利便性もあってか幅広い年代・部門からの参加となった。(図1参照)

(b)年代別
(a)所属部門構成比 (c)男女比
図1 参加者の構成

1.プログラム構成

 本講習会では、1日目の全体会において、①教育改革に向けたDX、②学生支援改革に向けたDX、③業務改革に向けたDXについて、それらを考察するためのICT利活用の意義・先進事例について情報提供を受け、デジタル技術を駆使して大学改革を進める上での課題認識を深めた後、1日コースでは部門・大学規模等を参考にグループ分けを行い、情報提供の中で関心ある課題等について各参加者から感想・意見を受け、フリーディスカッションの場を設定した。2日コースでは1日目の後半及び2日目のグループ討議・発表において、本研修のテーマとして設定した①から③の観点から、具体的な課題を絞り込み、自らがどのように関与すべきか、ICTを道具として利活用した望ましい改善案の提言作りを行い、グループ発表・相互評価を通じて、主体的な考察力、イノベーションに取組む姿勢の獲得することを目指した。

2.事前課題

 今年度は、あらかじめ、①「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(中教審第211号)②新たな時代を見据えた質保証システムの改善・充実について(審議まとめ)(令和4年3月中教審大学分科会)③「教学マネジメント指針」(令和2年1月中教審大学分科会)④教育と研究を両輪とする高等教育の在り方について〜教育研究機能の高度化を支える教職員と組織マネジメント〜」(審議まとめ)(令和3年2月中教審大学分科会)等を参照し、大学の抱える今日的課題について理解することを事前学修として課した。また、参加者自身の目標設定を明確にするため、自大学の活動を振り返り、他大学に紹介する自己紹介シートを作成させ、同じグループのメンバー間で事前に共有させることで、当日のグループ討議がスムーズに進行するように配慮をした。

3.全体研修

(1)開会の挨拶

 冒頭、本運営委員会の担当理事である早稲田大学山名理事が協会を代表して挨拶した。同氏は参加者、情報提供者への謝辞、協会の目的及び開催の趣旨について語られた。

(2)イントロダクション

 「大学改革に向けた職員の役割」と題して上智学院理事である運営委員会の木村委員長から、大学職員として主体的に取組むための心構えとして、①環境の変化を知る、②社会に目を向ける、そして③「見える化」、「はかる化」から「見せる化」について紹介するとともに、大学職員が果たす役割について理解と共有化を図った。

(3)情報提供

1)「LMSの高度化と学修データ統合システムによる学修者本位の教育の実現」

熊本 悦子 氏(神戸大学DX情報統括本部情報基盤センター教授)

 神戸大学では、DX推進の目標として「with/after コロナ禍において最先端のデジタル技術によって、質の高い授業や実習・実験を安全に実現するための教育環境・教育システムを構築し、学修者本位の質の高い教育を実現するとともに、課題設定・課題解決型人材の育成すること」を掲げ、「LMSの高度化と学修データ統合システムによる学修者本位の教育の実現」に向けた取組みを推進している。
 具体的な取組みとしては、デジタル教材配信システム「LEAFシステム」の導入による学修行動分析と教育効果の検証、ハイフレックス型オンライン授業システムの整備(27教室)、学修データ統合管理システム(KDWH)の構築とAIアプリによる学修ビックデータ分析の実施、分析結果を可視化し学生にフィードバックするシステム「LAViS」の導入等があげられ、学修者本位の質の高い教育を実現するための環境が整った。特にKDWHの導入は、システムごとに管理されていた多様なデータの一元管理と蓄積したデータの多角的な分析・可視化が可能となり、教学IRにおけるデータ分析の障壁・課題を一部解消し、今後の取組みにつながる大きな成果であった。
 これらの取組みは「神戸大学DX推進本部」及び「Plus-DXプロジェクトチーム」が大学全体のDX推進事業と連携を図り実施してきたが、令和4年4月、DX推進本部と情報基盤センターを統合改組した「DX・情報統括本部」の設置により、DX推進体制がさらに強化された。
 今後は新体制のもと、デジタル技術を積極的に活用した教育効果の高いハイブリッド授業の拡充、教学IRの充実・活用によるエビデンスに基づいた教育・学修改善の実施、学修状況の可視化による個別最適化された学修指導・授業改善による「学修者本位の質の高い教育の実現」と「課題設定・課題解決型人材の育成」を目指す。

2)「教育DXに向けたスマートキャンパス構想」

藤田 高夫 氏(関西大学副学長・国際部長)

 関西大学では、①学生の学習機会の制限・制約バリアを軽減・除去、②学修成果の可視化、③DX推進に対応したインフラ、環境整備、④学内業務の効率化の4つの柱を立ててDXへの取組みを推進した。
 DX構想検討時には5つのキャンパス間で提供している科目に不均衡が生じており、オンデマンドやリアルタイムの授業配信用機器、支援スタッフの不足等が背景に存在した。一方、実現上の前提として、2018年にLMSを全学的に浸透させるために更新し、BYODに対応するため2016年からWi-Fi環境を前倒し整備し、2014年から開始したCOIL型授業をコロナ禍で注目を浴びて強化することにした。
 Plus-DXに採択された二つの柱としてLMSの強化が条件であったためオンデマンド授業配信用にPanoptoを導入しLMSと組合せ、課外活動と連携したキャリア支援ポートフォリオを構築した。さらに、ハイフレックス型授業に対応したGlobal Smart Classroomと発話を伴う遠隔授業に対応するSelf Learning Spaceを全キャンパスに設置した。
 トップダウンでの推進体制をとり、教学部門と法人部門からなる「DX推進会議」が方針を決め、教学に浸透させるため全学部長から構成される「DX運営委員会」により情報を周知することにした。特に留意したことは、当初から学内外へ推進に関する情報発信をする広報活動を開始したことであった。
 今後の展望として、コロナ収束後を見据えた新しいオンラインコンテンツを開発すること、学習ログを追跡することによる学修者自身にとっての成果の可視化を図ること、各部局に分散されているデータを有機的に活用する統合データベースを構築することがあげられる。そのために、原則対面授業の方針の下でオンライン授業の提供環境を活用する方法、学習ログ等の溜まっていくデータを分析する方法と体制作り、利用者が限定されたハイフレックス型授業環境を全学的に普及・浸透させる手段の確立等の課題を解決していくことになる。

3)「学修課程・成果の可視化を目的とした医療系の学びにおけるDX推進」

瀬戸 僚馬 氏(東京医療保健大学学長戦略本部教授)

 東京医療保健大学では、コロナ禍以前から、Society5.0に向けた文理融合によるAI人材育成に着目し、また全学生へのPC貸与、LMSツールやオンデマンドシステムの導入等、デジタル技術を積極的に取り入れていた。DX推進計画に拍車を掛けたのは、令和2年度の文部科学省の遠隔授業の補助金に関する文書中の「DX化」という言葉にも後押しされ、新型コロナウイルス感染症対応のBCPとして開始した遠隔授業を契機に、医療の大学に当然必要と考えられていた対面での実験・実習においても、学修効果を高める観点から全学による積極的なICT活用によるDX化が進められた。
 DXを推進するための整備経費を確保するため、文部科学省等の補助金を積極的に活用し、ルーブリックを用いた学修評価・可視化システム、バーチャル看護学修システム、医療技術アーカイブシステム等、DX推進計画に基づく教育課程と成果の可視化として、令和2年度大学改革推進等補助金「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(取組①)」に申請し、デジタル技術を積極的に取り入れている点、DXを全学的に推進する体制等が評価され採択された。
 令和3年度には、DX推進計画をさらに推し進め、教育DXの基本理念や推進体制、学修環境の整備等を明記したDX計画を策定した。学内でDXが普及しているタイミングで、文部科学省による令和3年度大学改革推進等補助金「ウィズコロナ時代の新たな医療に対応できる医療人材育成事業」、「デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する高度人材育成事業」の募集に申請して採択された。令和4年度は、同時進行の「数理・データサイエンス・AI教育認定プログラム(MDASH)」にも申請し全学部で認定された。
 また、「一歩先の教育」を実現するため、DXによる基盤強化により「学修者本位の多様な教育の提供」、「学びの質の向上」を図る第3期中期目標・計画を立て、計画達成のための方策として、教育DXの推進、研究DXの推進、事務DXの推進を掲げている。同時期に、「骨太方針2022」(令和4年6月)が閣議決定され、医療の将来像も示され、医療系大学における教育の方向性が明らかとなった。IoTやAIがこれからの医療の世界に拡大されることが予想されるため、学生は今の医療で働くのではなく、5年後10年後の医療で活躍することを念頭に、5年後10年後の医療の形を考えた教育をしていく。18歳人口が減少する中で、誰一人取り残さない大学づくりにICTを使ってどうやるかを今後も考えていく。

4)「大学体験価値モデルの創造を目指して」

寺澤 武 氏(桜美林大学学長室)

 大学の機能として求められるものは、学修者に対して、大学の保有する人的・物的リソースを最大限に利用し、正課内外で最良の学修機会を提供することが最大の使命といえるのではないか。大学体験価値とは、卒業後に大学生活を振り返ったとき「あの頃が一番楽しかった」と言える時間と空間ではないか。
 桜美林大学では、大学体験価値モデルを「学修×コミュニティ参加=大学体験価値」と定義し、これらの相関関係の分析を行うことで、学生満足度の新指標としたい。
 これらを高める施策としては、学修データ及び学内施設の利用状況・各種システムへのログイン状況等を用いた学生のGPA予測式の高精度化及び学修ポートフォリオシステムへの組込、通信環境、授業運営方針等の整備による学修機会の担保、オンライン・オンデマンド・ハイブリッド/ハイフレックスに対応した授業内容の見直し、在学生の「価値観」や卒業生のコミュニティ帰属意識の分析による大学の施策と学生の意識のずれ解消へ向けたデータ蓄積、授業外の交流を促進するためのオンライン交流プラットフォームの導入によるキャンパスを越えた交流機会の創出等があげられる。オンライン・オフラインを問わない、大学の提供するサービス利用率の向上を図ることがこのモデルの指標になる。
 DX化は、専門的な知識が無くても使える様々な分析ツール、RPAやAIチャットボット等を利用した定型業務の省力化・均質化、時間と空間、言語を越えた教育及び交流の場等をもたらし、チャンスでもあり、変化への対応も迫られる苦難のタイミングでもある。
 今後、さらに発展した取組みを実施し、学生が大学の提供する施設に滞在している率、大学の提供するサービスに参加する率を増加させるとともに、学修成果との相関関係の分析を行うことで、このモデルに還元する。

5)「創造的業務への移行を目指して〜RPAの活用実践・効果〜」

三原 あや 氏(立命館大学 財務部財務経理課長)

 立命館財務経理課では、2大学5附属校の学生49,778名、教職員3,566名、全拠点(部課数約120)の経理処理を京都市の朱雀キャンパスで実施しており、決算期の超過勤務や休日出勤が常態化していたことにより、2018年度のRPA導入に至った。
 経理課業務改善のRPAシステム選択は、経理課職員が担当した。導入業務は、業務の洗い出しから始め、「定型」「定期的」「大量」に加え、クリティカル度合いを基準に実施優先順位を決定し、経理課内で業務の整理や見直しを実施した。RPA化のためには、業務手順を見える化するためのフローの作成は重要であり、必ず複数人の目線で業務の見直しを実施した。次にシナリオの品質を保つための共通のルールを定め、必要部品をテンプレート化した。RPAロボットの安定稼働に向けて運用ルールの策定をした。①セキュリティ・エラー対応のため職員の就業時間内での稼働とする、②継承性を担保するために一覧やフローのメンテナンスの更新ルールを定めた、③シナリオの実行時間を管理するためにタスクを管理する。以上により、4年経過した現在も大凡維持している。
 RPA導入により、決算終了時期が半月早まり、GWの休暇取得日数も3倍増、決算時期の一人あたりの総労働時間は7%減、超過勤務は30%減、年度末には休日出勤なしという成果に繋がった。また、副次的な効果として、自発的に業務フローを整理し、RPAにあわせた業務手順の見直しや実行方法を検討する機会となり、業務を減らす意識が醸成され、何よりも担当者の精神的な負担が軽減できたことは大きな成果である。
 2019年度には、財務経理課のRPA活用が学内のグッドプラクティスとして紹介された。経理課では新たにワークフローシステムの活用を開始し、各種申請の電子化、人員削減や在宅勤務を可能とした。他部署においてもワークフローシステム利用が開始され、脱押印の動きが加速した。
 今後の課題としては、DXやRPAによって紙手続きをさらに削減し、教職員の仕事の質として、創造的業務に取り組む時間の増加を目指している。

6)「大学データの収集・前処理から分析、結果の共有まで:そして価値創造へ」

鎌田 浩史 氏(上智学院IR推進室チームリーダー・上智大学基盤教育センター非常勤講師)

 上智大学IR推進室の業務内容から、IR業務を行う上でどのように大学データを収集・分析・共有して有効活用するのか説明された。
 まず、大学データの収集では、①個人情報の収集に対する抵抗。②学内データの散逸。③学内データの未整理の課題がある。
 これに対して、個人情報の事業所内利用は「個人情報保護法第23条」の適用範囲外であり、大学全体で「学生情報は共有財産である」という雰囲気を醸成することが重要。また、データの散逸については、データの棚卸を行い、「どのようなデータがどこにあるかを把握する」データカタログの整備が大切。最後にデータ整理については、入力・保管・分析の時に構造化することが肝心であるとした。
 次のデータ分析では、「いきなり細部をみない」という鉄の掟を紹介し、全体を俯瞰(鳥の目)し、詳細を分析(虫の目)し、潮流を把握(魚の目)する3つの視点が重要であるとした。
 また、データは比較することが大切であり、①内部比較、②ベンチマーク、③時間推移の比較方法を紹介し、ベンチマークとしては私立大学連盟のデータやSciVal等のオープンデータの利活用が有効である。
 分析結果の共有では、大学のデータ資料は細かいものが多いと指摘し、単純にグラフ化するだけで、分かりやすい(見てわかる)データになり、データの性質に合わせたグラフを利用することが重要であり、よく使われる「円グラフ」は非推奨であると注意を促した。そして、グラフでは事実を伝えるだけでなく、メッセージを入れることが大切とし、デザインする際には、アートではなく「伝わりやすさ」を重視することが必要であるとした。
 最後の価値創造については、IR業務の視点から「IRは組織ではなく機能である」とし、エビデンスのあるデータを分析して、他者に分かりやすく可視化(グラフ化)してメッセージを伝えることで、意識や課題を共有し業務改善を進め、建学の理念を実現することが重要である。

7)「サイバー攻撃のリスクとセキュリティ対策の基礎知識」

松坂 志 氏(情報処理推進機構セキュリティ対策推進部標的型攻撃対策グループ)

 情報処理推進機構では、情報セキュリティ10大脅威を毎年公開している。
 2022年版は1位が「ランサムウェアによる被害」となった。ランサムウェア攻撃とは、攻撃者がウイルスを何らかの方法でパソコンやサーバに感染させ、パソコン内のファイルを暗号化することで、パソコン自体を利用できなくさせ、ファイルやパソコンを元に戻すための金銭を要求するという攻撃手法である。
 従来のランサムウェア攻撃は、攻撃者がばらまき型メールや悪意あるウェブページにより不特定多数に攻撃し、感染した人からデータの復旧と引き換えに身代金を要求していたが、人によっては身代金を払うまでのデータではない場合があった。
 現在のランサムウェア攻撃は、攻撃者は企業や組織を標的にしている。攻撃者は何らかの方法で企業・組織のネットワークへひそかに侵入し、そこからネットワーク内で侵害範囲を拡大させ、重要データの保管サーバからデータを窃取し、ランサムウェアによる暗号化や、ドメインコントローラ等の管理サーバを乗っ取り組織内の業務用パソコン等を一斉にランサムウェアで暗号化することで、事業継続(データ・システムの復旧)や窃取したデータを公開しないことと引き換えに身代金を要求する侵入型ランサムウェア攻撃になった。
 攻撃対象が個人から企業・組織になったことで、身代金の規模は数千万円から数億円を要求され、被害企業・組織は1,000を超えると思われる。あらゆる企業・組織が対象となりうる。
 また、攻撃者は高度な分業や複数グループが連携しているため、小さなほころびから企業・組織は非常に大きなダメージにつながるので、不審なモノ・コトを見かけたら通報する。「情報セキュリティ対策の基本」は、多要素認証を使う、ソフトウェアを最新にアップデートする、クリック前に考える、強固なパスワードを使う等の徹底が個人にも必要である。
 なお、サイバー攻撃は今後悪化することが予想されるため、リソースに対する経営層の理解や、システム対策だけでなく、多層的に組織全体で戦う必要がある。

4.1日コースのフリーディスカッション

 1日コース参加者を対象に当日受講した各種の情報提供に関する感想・意見、あるいは自大学自身の取組みや抱えている課題等について、参加者間で情報共有するための場を新たな試みとして設定した。二部構成として前半は5グループ、後半は所属部門別の3グループに分かれ各45分、計90分間実施した。以下に、情報提供に関する感想・意見の一部を紹介する。

(2)各大学での事例・課題について情報交換の一部を紹介する

 短い時間ではあったものの参加者間で有意義な情報交換が積極的に行われ、今後の各大学の施策検討に向けたヒントが得られたものと考える。

5.2日コースのグループ討議・発表・相互評価

 1日コース参加者を対象に当日受講した各種の情報提供に関する感想・意見、あるいは自大学自身の取組みや抱えている課題等について、参加者間で情報共有するための場を新たな試みとして設定した。二部構成として前半は5グループ、後半は所属部門別の3グループに分かれ各45分、計90分間実施した。以下に、情報提供に関する感想・意見の一部を紹介する。

(1)グループ討議

 1日目は、前半に行われた情報提供や参加者が調べてきた課題等について情報共有しながら、グループ単位で「教育改革DX」、「学生支援改革DX」、「業務改革DX」の3テーマを一つに絞り込み、解決すべき課題を設定の上、具体的課題解決提案をまとめ中間報告としてメールで提出することにした。
 従来の集合研修時に比べて開催期間が短く、かつオンライン講習会ということで、時間配分やコミュニケーションの難しさに配慮し、参加者には事前に研修用ワークシートを配付し、「タイムスケジュール」や「今、検討すべきこと」が明確になるようにして進めた。また、各グループには運営委員がファシリテーターとして参加し、議論が煮詰まらないように適宜アドヴァイス等を行った。

(2)グループ討議のプログラム内容

 2日目は、前日に提出された各グループの中間報告をWebに掲載し、相互に他のグループへの感想や意見を掲示板に書き込んでもらい、それを参考に最終提案を作成した。

(3)各グループの発表

 4グループ中、「教育改革DX」が2グループ、「学生支援改革DX」と「業務改革DX」が各1グループであった。具体的には、①形骸化しがちなポートフォリオを学修以外の情報やAIや教員によるフィードバック機能を実装することにより学生の主体性を引き出す提案、②学生ひとり一人にあわせたAIの導入やVR、メタバースを活用した新しい学びの提案、③ネット上仮想空間を用いた学生とのコミュニケーション円滑化プロジェクトの提案、④学生目線と組織目線に分けたチャットボットの導入による属人化を解消するDXの提案等が行われた。
 各提案とも今日的なICT技術が活用されており、参加者の多くが長期化するコロナ禍の影響を受けながら日常業務を遂行ら迫られているせいか一昨年、昨年に比べてDXに対する意識が向上しているように見受けられた。

(4)相互評価

 発表後、その都度、質疑・参加者全員での相互評価を行い、発表内容の共有や実際に導入する際の問題点等の深堀を図った。最後の講評では、祖父江副委員長から「多くの大学に同じような悩みや課題がある。本講習で得た成果を自大学に帰ってぜひ役立てて欲しい、2020年から小学生のカリキュラムにプログラミングが必修となり、そのようなITネイティブの学生が入学してきた時、大学のDXに求められるものはかなり高いものになる。それを念頭において業務にあたって欲しい」と総括し、閉会とした。

(5)研修事後レポート・アンケート(図3参照)

 参加者には、本講習終了後、3週間程度の期間をとり研修事後レポート・アンケートの提出を求めた。

図2 アンケート結果

1)課題解決力

 講習全体を通して「課題解決力」は、発揮・伸長した21%(前年対比−6%)、ヒントを得た74%(前年対比+1%)と参加者の95%が、何らかの“気づき”を得ている結果となった。自由記述では「他大学職員と情報や意見交換することで、新しい学びや今後どのようにすべきか知ることができた。」「今回のグループ討議を通してロジカルな思考力が得られた。」等の回答が寄せられた。

2)創造的思考力

 「創造的思考力」については、発揮・伸長した26%(前年対比+1%)、ヒントを得た74%(前年対比+1%)と昨年同様、参加者全員が何らかの成果を感じている結果となった。グループの発表の中にも、チャットボット・AI・VR・メタバース等の今日的なキーワードが複数みられた。

3)ICT・データ活用意識

 「ICT・データ活用意識」については発揮・伸長した26%(前年対比−3%)、ヒントを得た68%(前年対比−1%)と全体の約95%を占め、参加者はほぼICT・データ活用の意識を持っているという結果となった。昨年同様、情報システム部門と学事・教務部門の参加者の割合が多かったが、他の部門であってもコロナ禍の影響もありICTの活用やDXを意識する場面が増加傾向にあると思われる。

4)グループ討議について

 グループ討議においての「発言」については、積極的だった32%(前年対比−14%)、発言はした58%(前年対比+9%)、あまりしなかった10%(前年対比+5%)という結果になった。1グループの人数を5〜6人(昨年は6〜7人)にした結果、概ね参加者全員が発言したと思われる。「交流と人脈形成」については、積極的だった37%(前年対比+17%)、対応はした58%(前年対比+9%)、あまり広がらなかった5%(前年対比−26%)という結果となり、昨年度に比べて大幅に改善した。「課題・企画の検討」については、積極的だった53%(前年対比+2%)、発言はした42%(前年対比−2%)、周りに頼っていた5%(前年対比±0)であり、昨年同様、Zoomの操作に慣れている参加者も多く、オンラインでも課題の検討等ができるという結果となった。

5)その他の意見について

 情報提供テーマについては、すべて高評価であったが、個別ではハイフレックス型授業、データの処理・分析・共有について参考になったという回答があった。職場に戻ってからの行動計画ついては、ICT知識の向上、意識改革と共有、自大学でできるDX提案の他、ペーパーレス化、RPAの導入検討等、身近なことから着手したいという回答が多かった。研修全体を通しては、概ね「他大学の現状等を知る良いきっかけとなった。」「オンラインでのグループ討議であったが、活発な議論と情報交換ができた。」等と良い評価の回答がある一方、「グループ討議では個々で話をする機会がとれず、その点が難しかった。」「対面のほうが進行しやすく、且つ議論が活発化しやすいと感じた。」という意見もあった。また提案として「情報提供に関して、実際に導入したICT技術・製品名・導入計画や数値データの提供が欲しかった。」「グループ討議に関して、実際にあった課題に対して討論し、結果のアイデアと実際の解決事例を比較してみてはどうか。」等の意見も寄せられた。

6.まとめ

① 長期化するコロナ禍の影響から、3年連続でのオンライン開催となったが、運営側、参加者のZoomの操作や討議マナーに関する慣れもあり、大きな支障もなく運営することができた。

② 初の試みであった1日コースのフリーディスカッションでは、事後アンケートにおいて、各大学の取組を詳しく聴けたことに対して一定の評価がある反面、所属部門別のフリーディスカッションの時間を長くしてほしいという意見も複数寄せられており、また、担当した運営委員からも、あらかじめテーマごとにグループ分けをする、業務経験によりグループ分けをする等の工夫についての指摘もあったことから時間配分・テーマ・グループ構成の見直しが、運営側の課題となった。

③ 2日間コースについては、参加者が22人(前年対比−22人)と半減したため、グループの人数を5〜6人(前年6〜7人)4グループで実施、業務経験や知識に起因する要件を除けば、昨年同様、グループ討議を円滑に進めることができた。しかし、今年も対面では存在する「雑談」のような時間が必要という意見が寄せられ、初対面の参加者でのオンラインによるグループ討議の難しさは解消されなかった。また、討議時間も集合研修時に比べて短いため、課題解決に対して一定の成果はみたものの深堀には至らない面もあった。

 研修全体として事後アンケートの評価は、概ね良好にもかかわらず、参加者数については毎年減少傾向にあり、本講習の良さを加盟大学にしっかりと伝えていくという必要性があるという意見も出され、次年度以降の継続課題としたい。
 最後に、長く続くコロナ禍というこれまで経験をしたことがない難局であるにも関わらず、全国の教職員が1〜2日間にわたる講習会に貴重な時間を割いて参加をしてくれたこと、また、職場に戻ってからの力強い行動計画を示してくれたことに対して、運営委員一同から感謝とエールを送るとともに、本講習会への参加がきっかけとなり、少しでも日々の業務のDX推進に寄与することを願ってやまない。

文責:大学職員情報化研究講習会運営委員会


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