巻頭言
佐々木 重人(専修大学 学長)
インターネットが誰にとっても身近になった社会で生じたコロナ禍は、大学教育の継続のために、「オンライン授業」という新たなツールの急速な普及をもたらしましたが、2年の経験を経た2022年度において、本学での「オンライン授業」は、当初の「緊急性」というレベルから、「発展可能性」を持った教育ツールへと進化しつつあるという認識を全教職員が感じるに至ったと思います。
このことを最も肌で感じていたのが、本学の情報科学センターでした。従来、本学の教育・研究用システムの更新は、概ね4年程度で学内に据え置かれたパソコンを入れ替えることが中心で、「ハードウェアの要求スペックをどの程度にするか」という発想から要求仕様を考えることが多くありました。しかし、コロナ禍を経てコンピューティング環境が大きく変わった中、この発想から離れて、本学がどのような教育をして、どのようなアウトカムを学生に提供するのかという視点からゼロベースで新システムのあるべき姿を検討してくれていました。
情報科学センターを核にして2021年4月に設置された「次期システム検討委員会」による新システム検討は、次に掲げるような実態が認識されるなかで進められました。
① 各学部の研究・教育の現場では、専門領域に関する特殊なソフトウェアが複数利用されていること。
② コロナ禍のなかで実施したアンケート調査から、学生のノートパソコンの保有率が既に9割を超えていることが確認できていたこと。
③ Society5.0時代を見据えて、学生のデジタルデータの分析能力と活用能力の強化を目指して、2022年度から「Siデータサイエンス教育プログラム」を全学部で展開する準備が2021年度中で進んでいたこと。
④ 学生の学修活動や教職員による教育・研究活動をサポートするキャンパスDXの構築にチャレンジする機運が全学レベル(教学と法人)で高まっていたこと。
また、今後あるべきシステムを構想する際の情報提供やアドバイスをテクノロジーサービスプロバイダー等から頂くなかで(2021年6月頃)、同委員会は、上記の実態を踏まえつつ、次期システムの核となるのはBYOD(Bring Your Own Device:個人が所有するノートパソコンをキャンパスでの授業等で利用すること)とクラウド型のVDI(Virtual Desktop Infrastructure:仮想デスクトップ基盤)を同時に採用することでキャンパスDXを構築していくことが望ましいとするアイデアにたどり着きました。BYODとVDIの併用は、次のような効果も期待できるとされました。
① BYODによって、学生が多様なノートパソコンを授業に持ち込むことで、授業運営を困難にするという懸念がVDIにより払拭されること。
② 教員や学生のノートパソコンにインストールされていない特殊な研究・教育用ソフトウェアが学外からも24時間使えるようになること。
③ VDIの採用により、教員が個人研究費で高価なソフトウェアを購入する必要がなくなるという意味で、二重投資が回避できること。
④ VDIの採用で、最新のOSやスペックのパソコンを利用するのと同等の環境が利用者に提供できること。
⑤ BYODにより、学内に据え置いていたパソコンの数を減らすことができるので、端末室に充てていたスペースを他の用途に転用する余裕が生まれること。
⑥ BYODにより、学修コンテンツが端末教室の空き状況による制約を受けなくなり、教育効果の向上が図れること。
本学は、キャンパスDXの一環として、「SiUグローカル・スマートキャンパス」*を2024年度から順次展開する予定です。それは、教育効果や研究効率を向上させるため、AIを駆使しながら、学生の学修選択・進度把握・目標設定そしてキャリア形成等へのサポート機能や教職員の研究・教育活動への支援機能を実装したデジタル教育研究システムであり、グローカル的視野、すなわち、学生・教職員は、このシステムを「大学キャンパスや自宅」(ローカル)ばかりでなく、「国際交流協定校等の留学先や研究等での滞在先」(グローバル)からも、いつでもアクセスできることを目指しております。BYODとVDIの運用は、既に本年度から開始されており、今後、「SiUグローカル・スマートキャンパス」の大きな特徴となることでしょう。
*SiU(Socio-intelligence University)は、「社会知性(Socio-Intelligence)開発大学」として21世紀を歩む本学を表現しています。