特集 学びの質向上に向けたICT活用の取組み(その1)

オンラインと対面を融合した
観光地・ホテルとの産学連携授業

吉田 雅也(淑徳大学 経営学部観光経営学科学科長・教授)

1.はじめに

 新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、観光業は甚大な打撃を受け、多くの人材が観光業界を離れました。ポストコロナに向かう中で、人々の交流は再び活気を取り戻しつつありますが、一方で観光業の人材不足は以前にも増して深刻な状況にあります。政府は観光業を成長戦略の柱とする方針を打ち出していますが、それを担う人材の育成と確保が喫緊の課題となっています。
 本学では、将来、観光産業のリーダーとなる「観光産業人材」と、観光地全体の経営と地域づくりを担う「観光地経営人材」の育成に向けて、経営学の基礎知識と観光の最新動向を学ぶことに加え、観光地や観光産業と連携して、商品開発や課題解決に取り組む実践型学修を重視してきました。とくに観光は「体験型商品」であるため、学生が身をもって観光地や観光施設を訪れ、実体験することが欠かせません。
 2020年度以後、コロナ禍の影響により、本学でもオンライン授業の実施を余儀なくされましたが、産官学連携の実践型学修を継続するため、Zoom等のオンラインツールを使用して、宿泊施設と議論を行い、学生が企業にプレゼンテーションを行うなどの試みを行いました。
 本稿では、こうした取組みの概要と、そこから得られた効果や、今後の課題について紹介します。

2.取組みの概要

(1)2020年度 株式会社ヤドロクとの産学連携授業

 2020年度は緊急事態宣言の中で授業がスタートし、前学期ははじめてのオンライン授業や学生対応に追われました。一方、観光業においても需要が急激に減少し、感染症対策や事業存続のための措置など、予断を許さない状況となり、産学連携はむずかしい状況でした。
 2020年度後学期、本学と数年前から連携実績のあった長野県の株式会社ヤドロク(代表取締役 石坂大輔氏)と協力し、観光庁の誘客多角化等のための滞在コンテンツ造成実証事業に採択された「秘境秋山郷 マタギ文化発信地化計画事業」に参画しました。長野県栄村は、マタギの里として知られる豪雪地帯で、まさに秘境と呼ぶにふさわしい地域ですが、マタギ文化を観光コンテンツとするモニターツアーが企画され、本学の学生がSNSで情報発信して、ツアー参加者を集客する取組みを行いました。
 10月1日、現地の石坂氏とZoomでつなぎ、本プロジェクトの趣旨説明と質疑応答を行いました。その後、グループワークや中間報告、最終報告もすべてオンラインで実施しました。グループワークでは、学生たちはZoomのブレイクアウトを使用して3チームに分かれ、世代別にターゲットを設定して、募集広告を制作しました。20代の若者にはInstagram、30〜40代向けにはtwitter、50代向けにはFacebookを選び、現地から提供された写真素材を学生がデザインし、テキストを考案しました。
 10月29日の中間報告会で石坂氏からいただいたアドバイスをもとに修正を加え、11月26日に最終報告会を実施しゴーサインを得て、各SNSプラットフォームでの配信を開始しました。1週間という短い期間でしたが、目標とする25名の参加者を集めることができました。

表1 SNS広告の効果測定結果
図1 学生がデザインしたSNS広告記事

(2)2021年度 株式会社パレスホテルとの産学連携授業

 2021年度後学期は、株式会社パレスホテル(取締役社長 吉原大介氏)と連携して、「パレスホテルの強みを活かした新業態の考案」に取り組みました。夏休み中から9月末までは緊急事態宣言が発出されていたため、ホテルの担当者からのプロジェクト趣旨説明と質疑応答はオンラインで実施されました。
 緊急事態が終了した10月以後、キャンパスでは基本的に対面授業が再開され、学生のグループワークも教室で行えるようになりました。学生は3チームに分かれ、それぞれに新業態のビジネスアイデアを検討しました。10月25日には、実際にホテルを訪問し、館内見学の後に、担当者の方々とディスカッションすることができました。
 11月25日の中間報告会と、2022年1月14日の最終報告会は、オンラインで実施しました。最終報告会ではホテルの役員に対してプレゼンテーションすることができ、学生たちにとって貴重な経験となりました。

3.授業実践の効果

 2020年度の株式会社ヤドロクとの連携授業では、すべての授業がオンラインで行われましたが、アクセスしづらい長野県の栄村とのやりとりは、むしろオンラインだったからこそ実現できたものです。学生にとって身近なSNSによる情報発信というミッションを通して、実際にモニターツアーの集客法を考案し、配信できたことは、まさに今後求められる観光DX人材のスキルを身につけられる経験であったと考えられます。
 2021年度の株式会社パレスホテルとの連携授業では、現地フィールドワークとオンラインによるディスカッションを織り交ぜながらグループワークをすすめ、最終的に企業の役員にオンラインでプレゼンテーションを行うことができました。観光地経営人材、観光産業人材に求められるイノベイティブな発想力と、それを伝えるプレゼンテーション能力の涵養にもつながる実践的な経験になったと考えられます。
 これらのオンラインによる実務家との連携は、副次的な効果として、就職活動でも一般的に行われるようになったオンライン面接等でも活かせる貴重な経験になったと言えましょう。

4.おわりに

 本学では、コロナ禍のなかでも実践型学修を継続するため、ICTを活用し、試行錯誤を繰り返しながらオンラインと対面を融合した産学連携授業を実施してきました。
 一方で、オンライン授業には、学生間のコミュニケーション不足や、集中力・学修意欲の低下などの課題があることも浮き彫りになりました。
 ポストコロナ時代にあっては、対面授業に加えて、適宜オンラインを活用することによって、地理的、時間的な制約を超えて、業界の方々と直接意見交換を行うなど、レクチャーだけでは伝えられない実践的な学びを融合させて、学びの質向上につなげていく工夫が必要であると考えます。


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