特集 学びの質向上に向けたICT活用の取組み(その1)

オンデマンド授業を応答的に進めるLMSの活用

木下  勇(大妻女子大学 社会情報学部教授)

1.はじめに

 コロナ禍が一段落して対面授業が復活し、ほぼ以前の授業風景に戻ってきました。しかし、コロナ禍で経験した遠隔授業の利点も、学生にも感じられるところもあり、一部にオンデマンド授業を取り入れている所も少なくないでしょう。本学でも希望により、特に大人数でオンデマンドに相応しい授業は一部取り入れられています。
 筆者も前期、後期に一科目をオンデマンド授業で行っています。
 e-Learning LMSの利用について筆者は、コロナ禍以前は、正直言ってきわめて消極的に最低限の利用しかしていませんでした。シラバスを掲載し、学生のレポート提出に使うぐらいでした(以前の職場ではMoodle)。その機能をフルに活用していたとは言い難い。対面授業の時は時間をかけてつくりあげた授業の教材、構成、また話す内容まで、でき上がったものをそう簡単に変えることはできない思考が働いていました。
 本学に赴任して新たに授業をつくり上げる時がちょうどコロナ禍が始まり、すべてがオンライン授業となった時です。本学のLMSはmanabaです。新しく授業をつくりあげなければならないという時期とコロナ禍の状況がLMSを徹底的に活用することに突き動かしました。
 筆者はまちづくりを専門にしていて、現場でワークショップ手法を駆使していたことから、その方法を取り入れたアクティブ・ラーニングで授業を進めていました。その応答的な授業を同期的なオンライン授業ならまだしも組み立て方がありますが、非同期型のオンデマンド授業への組み立てには工夫が必要でした。ここではそんな試行錯誤の結果を示し、オンデマンド授業による学びの質の向上への課題を考えたいと思います。

2.コンテンツをシナリオに

 オンデマンド授業というと、まずビデオ教材作成が頭に浮かびますが、90分の視聴は、映画と同じ長さで、映画ほど飽きずに惹きつけることは難しい。そう考えた時に、LMSのコンテンツを台本、シナリオとして作成するという考えが浮かびました。
 コロナ禍以前のLMSでは授業の一コマの内容のトピックを並べるぐらいでありました。それとは異なり、その授業の一コマのテーマに沿って、時間進行のシナリオ(台本)の流れとして提示します。学生はそのシナリオに沿って受けるが、一度でなくても数回に分けて受講できます。
 その構成を考える際に、便宜的にYouTubeにアップロード可能な15分ずつの単位(セグメント)に区切りました。その標準的構成が表1です。

表1 オンデマンド授業1コマのシナリオ

3.プロジェクトの非同期型グループワーク

 LMSにはグループワーク機能があります。manabaの場合はプロジェクトがそれにあたります。ほぼ1週間の間、いつでも受講可能とするオンデマンド授業で、スレッドへの意見交換は学生によって差が生じるのはたしかです。プロジェクトの提出課題を評価対象とすれば、動機づけることもできます。だがそれはこちらの意図とずれます。学生にはチームのコミュニケーショを活発にするための投げかけ、参加しない学生がいたらその促しなど、ファシリテーションのスキルを磨いてほしいので、ファシリテーションに貢献している場合には加点すると伝えてあります。教員は各チームごとのスレッドの意見交換が閲覧でき、コメントもできるので、個人の働きもチェックできます。よいファシリテーションがあれば、その例を次回の授業の冒頭の振り返りで紹介し、ファシリテーションの仕方を学んでもらいます。
 コロナ禍で対面授業がなかった時期は、このプロジェクトを通じたコミュニケーションが学生同士をつなげる機会となりました。対面が戻った今は、このプロジェクトを通じて、関係がとれていなかった学生がキャンパスにて実際に顔をあわせて仲良くなるということも見られます。

4.小テスト(ドリル)の活用

オンデマンド授業では学生が実際に受講しているかどうかの確信は得られません。小テストのドリル機能を使い、ビデオ等の内容に関する問いを設定します。オンデマンド授業での出席のチェックはプロジェクトのチームスレッドの意見交換への参加とドリルの受講で出席と判断しています。

5.responの活用

 本学ではmanabaにresponを連動して導入しています。responはリアルタイムアンケート・チャットシステムです。では、オンデマンド授業には使えるでしょうか。筆者は、授業前後のアンケートで意識変化を見る授業評価に使っています。また、その結果を次回の授業の冒頭にフィードバックとして視聴できるようにしています。学生は教室で手を上げて発言することはためらいますが、コメントやチャットにはしっかりと書き込みます。授業の改善に役立つ意見もありますし、学生同士も異なる価値、多様な意見から学び合っているようです。筆者は、有意義な意見や質問には反応を図入りで返すようにしています(図1)。

図1 responへのフィードバックの一例(2022年度 環境生態デザインの授業より)

6.今後の課題と展望

 本学のLMSでのグループワークのスレッドの意見交換のやり取りにはグループの差があらわれます。活発な学生がいるグループを羨ましく思い、自身のグループ討議の低調を嘆く学生に、自らグループの討議を活発化する行動に起こすような意識改革にまで突っ込んだ教育はできていません。LINEに比べてLMSのスレッドは応答が遅いという不満も聞かれます。誰もが見られる掲示板への質問も少ない。応答的にできるはずのLMSの機能が十分にその機能を発揮し得ていない部分もあります。それはそのシステテムの技術的な問題なのか、それとも学生の嗜好、思考、気質にマッチしないことなのか、その点も明らかにすることで、さらにLMSの応答的授業への活用も広がるでしょう。


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