特集 学びの質向上に向けたICT活用の取組み(その1)
金野 祥久(工学院大学 工学部教授)
筆者が工学部機械工学科の授業で取り組んでいる反転授業とゲーミフィケーションによる理解度向上の試みについて、コロナ禍前の取組みとコロナ禍での遠隔授業対応を含めて報告します。
筆者は2013年度から、担当科目のほとんどに反転授業を取り入れています。例えば初回の授業のみ通常の講義を実施し、2回目以降は指定した動画教材を予習することを受講生に義務づけ、授業ではクイズに取り組ませたり、演習問題を解かせたりしています(図1)。このような授業をはじめたのは受講生に自宅で学習する教材を提供するとともに、授業中にもっと問題を解かせたいと考えたためです。
図1 筆者が実施している反転授業の流れ
配信している動画は、レポート用紙に説明を書き入れながら音声でも説明するもので、受講生にとっては板書を見ているのに近いものと思います(写真1)。これをYouTubeで配信しています。2013年当時は、ノートPCにウェブカメラとヘッドセットを接続し、ウェブカメラ付属の録画ソフトを使って動画を撮影していました(写真2)。現在はカメラやヘッドセットが更新されましたが、やっていることは本質的に変わりません。
写真1 ビデオ教材の一画面
写真2 2013年当時の教材撮影環境
PCにウェブカメラ(フレームに隠れている)とヘッドセットを接続して録画している
ビデオでの講義は、対面講義よりも短い時間(動画内の時間)で詳細な説明ができると感じています。説明用の図を事前に用意できるのと、受講生の板書筆写時間を考慮する必要がない(必要なら一時停止すればよい)ことが理由だと考えています。対面での一斉授業では省略するような発展的な内容もビデオ教材としてなら気軽に提供できます。
さらに受講生の好奇心を喚起するため、2019年度からゲーミフィケーションを授業に取り入れることに取り組んでいます。
具体的にはKahoot!によるクイズを授業内で実施しています。Kahoot!は、教育を楽しく効果的にすることを目的に開発された、オンラインでインタラクティブなクイズを実施できる教育プラットフォームです(図2)。対面で実施する場合は、受講生はクイズ実施者が実施するクイズに、スマートフォンなどの個別デバイスから参加します。そしてクイズ問題に制限時間内に回答し得点を競うものです。
図2 Kahoot!の実行画面例 対面で実施する場合はこれをスクリーンに投影する
筆者の場合は反転授業を実施しているので、Kahoot!を自宅で予習してきた内容の確認のために用いています。クイズを行い、その結果を受けて受講生が一喜一憂しているときすぐにその問題の解説を行うことで復習としての役割を果たします。なおKahoot!では回答時間が短いほど得点が高くなりますが、筆者が授業で実施する場合には回答時間は考慮せず、正答率を成績に換算しています。
2019年度に実施した受講生アンケートでは「ゲームでその日の内容で重要なことを認識することができた」「予習する気が出る」「ノートを写すだけでなく理解しようという気持ちになる。普段より楽しく学べる」などの意見があり全般に好評でした。
2020年度にはCOVID-19蔓延防止のため、本学では多くの授業を遠隔授業に切り替えて提供しました。このとき、すでに動画教材を多数作成していた筆者は比較的容易に切り替えられました。授業では動画教材を予習してきたことを前提に演習問題をLMS経由で受講生に提示し、同LMS経由で答案を提出させていました。
Kahoot!のクイズも自宅学習用教材として受講生に提示し、解かせました。しかし当時のKahoot!クイズでは正解提示後の解説を行わず、クイズ実施の翌週に不正解の多い問題の解説を行うだけだったため、対面でクイズを実施し直後に解説を行っていた2019年度と比べ、復習や理解定着にたいして効果的ではありませんでした。受講生アンケートでは「問題の解説がないので、なぜ自分が間違えたのか、どの部分を勘違いして覚えてしまっているのか、が分からずただ点数だけが下がっていく画面が表示され続けるのでモチベが下がり続ける」「不正解のときに何を間違っていたのか確認しづらい」などの意見が寄せられました。
そこで2021年度から、正解提示直後に動画による解説を入れました。Kahoot!にはクイズの間にスライドを挿入する機能があり、そのスライドには文字や画像による説明のほか、YouTube動画を差し込むことができます。この機能を用い、クイズ問題に対する短い解説動画を多数作成してKahoot!クイズの間に差し込みました。この場合はPowerPointスライドに音声の説明を入れたものを動画に変換して使いました(図3)。
図3 Kahoot!に差し込んだ解説動画(YouTube動画)の例
これにより受講生アンケートで「分からなかった、間違えた問題をすぐその場で解説され理解できる」「短時間でその回の要点を復習できて役に立った」「予習した日から時間がたっているときに予習の復習ができる」などの評価を得るなど、復習としての効果を取り戻すことができました。
反転授業用のビデオ教材やKahoot!のクイズを用意するのはたいへんでしたが、同時に楽しい取組みだったことを強調しておきます。受講生の理解度向上のため、あれこれ工夫し、新しい教材を取り入れるのはやりがいのある仕事でした。
本稿で紹介した試みは、いずれも受講生が個人で取り組むものですが、現在はグループワークを取り入れたゲーミフィケーションの実施を模索しています。適当なゲーミフィケーションのプラットフォームを探していますが、今のところこれといったものに出会っていません。読者の方々からお知恵を拝借したく、お願いする次第です。