特集 学びの質向上に向けたICT活用の取組み(その1)
西 誠(金沢工業大学 基礎教育部教授)
本学数理基礎教育課程では2年生の全学部共通科目として「技術者のための統計」科目を開講しています。この科目はデータサイエンスの基本となる数値データの統計的評価の実践演習を行いながら、その数学的意味を理解するとともに、統計分析フリーソフト「R」を使って、実際に社会にある様々なデータをいくつかの統計手法を用いて分析を実践し、データサイエンスに関する知識と技能を深めることを目標としています。
この科目を実施するにあたり、講義ビデオの配信、統計ソフトのプログラミング、授業の資料の提供、課題の提出など、様々な場面でICTを活用して授業を運営しています。さらに、学生の授業の理解度を確認する筆記試験に合わせて、学習した内容の理解度を確認するためルーブリックによる自己評価をオンラインで実施しました。
本報告では、統計分析ソフト「R」を使った統計授業においてどのように、ICTを活用し授業を実施したかを紹介します。さらに、授業で行ったルーブリックによる自己評価から、学生が自らの授業において授業内容どの程度理解したかを確認するとともに、ルーブリック評価と筆記試験の結果と比較を行い、ルーブリックの妥当性について検証を行いました。
技術者のための統計は表1に示す学習目標をもって実施しています。
表1 学習目標
授業の流れは図1に示す通りであり、3つの部分に分けて小テストおよび期末試験を実施しています。加えて、統計フリー分析ソフト「R」を用いた課題を課すことによって、統計分析の実践学習を行っています。
図1 授業の流れ
授業の進行に関しては図2に示すe-シラバスを活用して授業を進めています。e-シラバスは本学の授業科目すべてに対応した統合型学習管理システム(LMS)です。
図2 e-シラバス
このe-シラバスは授業教材や授業ビデオの配信、レポート課題の提出、テスト、アンケート機能などを行う機能を有し、授業科目の学習支援計画書(シラバス)に沿って、ICTを活用した授業運営を行うことができるシステムです。
このe-シラバスを使い、様々な場面でICTを活用した授業運営を行いました。なお、授業における学習ビデオとしては、講義ビデオ、演習用解説ビデオ、「R」課題の実施ビデオ、試験対策ビデオ、グループ活動実施ビデオなど、授業の様々な場面における10〜30分程度のビデオを準備して配信を行っています。図3はe-シラバスを介して配信した「R」の解説と操作のビデオの1場面になります。
図3 プログラム「R」の操作解説ビデオのイメージ
授業で実施する学習項目に合わせてルーブリックによる調査を行いました。ルーブリックに関しては小テスト、期末試験および「R」の課題の学習項目に合わせて、表2に示す10項目で実施することとしました。
表2 ルーブリック評価項目
ルーブリックの達成度レベルとして「知識・記憶レベル(1点)」、「理解レベル(2点)」「表現・適用レベル(3点)」「評価・活用レベル(4点)」として評価を行いました。
図4は期末試験においてルーブリックで学生が自己評価を行った結果と筆記試験での成績を比較した結果です。なお、試験はすべて100点満点で実施していますが、すべて4点満点として表示しています。 この図より明らかなように期末試験において取得した得点に対して、ルーブリックにおいては得点を低く評価している学生が多い。このことはルーブリックの1点が「知識・記憶レベル」とし、公式を用いて最低限の計算ができることとして設定しているためと考えられます。すなわち、実際に試験で得点を取れたとしても「考え方を正しく理解するレベル」(2点)「学習した内容を人に説明できるレベル」(3点)、「学習した知識を社会の問題として活用できるレベル」(4点)に達していないと自己評価しているためと考えられます。したがって、学生は試験の結果だけでは、自らの評価を正しく表していないと認識していることがわかります。実際の学生との面談も踏まえれば、実際に学習内容を正しく理解するとともに、その内容を活用することに関しては十分できていないことを認識していると言えます。このことは、ルーブリックの評価が理解を超えた評価を実施できる可能性を示唆してします。
図4 期末試験とルーブリック評価
以上のことから、学習に対する学生の理解度とその活用能力の評価についてはルーブリックが有益な手段ではありますが、ルーブリックのみでは詳細な分析は困難であり、いくつかの手法を複合して評価することが重要であると言えます。今後、どのような評価手法と基準を設けて、どのように評価するべきかを考える必要があると思われます。
本報告は本学で実施している「技術者のための統計」において、ICTをどのように活用し授業を実施したかを紹介するとともに、学生の理解度をルーブリックを用いたオンライン評価で実施し、ルーブリックによる理解度調査の可能性について検証しました。