特集 学びの質向上に向けたICT活用の取組み(その1)
茂泉(吉名)佐和子(東京女子医科大学 医学部講師)
本学の教育目標の1つに、将来活躍するあらゆる分野で必要な基本的知識、技能および態度を身につけ、生涯にわたって学習しうる基礎的能力を獲得することがあげられます。Team-Based Learning(TBL)はその目標達成のための力をつけるための学修法として、2008年から順次導入していました。しかし、2020年に新型コロナウイスルの感染が拡大するなかで、対面でのTBLを実施することができなくなりました。そこで、コロナ禍でもコロナ禍後でも、コロナ禍前と遜色無く実施できるよう、かつ学生の能動的な学修を一層促すことを目的として構築した、ZoomとLMSを用いたTBL方法を紹介します。
本学の1年後期には4回を1セットの課題とし、計5セット(20回)のTBLを行っています。ZoomとLMS(Learning Management System、当校はWebClassを使用)を用い、1年後期のTBLは以下項目①〜⑩のように進めます(図1、図2)。
図1 Zoom対応TBLの概略
図2 Zoom対応TBLのルーム分けイメージ
① 担当教員から事前に予習事項が示されますので、学生は教科書や授業資料などを用いて予習を行います。予習事項は、各分野の基本事項とします。
② TBL開始時、指定時間に学生とファシリテーターはZoomミーティングにログインし、メインルームに集まります。予習事項に即した予習確認テストをLMSから提示し、個人で回答します。この際、資料の閲覧は不可とし、学生自身で基本事項がきちんと学修できているかを確認します。以降の出題・回答も全てLMSから行います。回答の制限時間以外は、問題の閲覧と回答はできないようにします。
③ 司会の教員は、予習確認テスト正答率を確認しつつ、解説と正答の提示を行います。正答率は口頭や画面表示などにより、学生にも伝えます。
④ 事例や写真が示されたシート(課題シート)が、LMSから学生に提示されます。
⑤ 課題シートから考えられる疑問点を、問題として出題します(シート関連問題)。シート関連問題は、予習内容を用いて考えれば正答を導ける程度の応用問題とし、グループ回答の正答率が75%以上になるような難易度の問題作成を心がけています。
⑥ まず、このシート関連問題に対して、資料の閲覧をせず個人で回答します。
⑦ 次に、1チーム8名程度+ファシリテーターでZoomのブレイクアウトルームに分かれ、同じ問題についてチームで考え、回答します。この際は資料の閲覧は可能とします。チームごとに、その答えに至った経路や根拠、問題に関連して討論した事項を、Googleスライドにまとめます。誤答肢については、なぜその選択肢が間違っているかも討論します。著者が担当しているTBLは1年生を対象としており、討論の進行に不慣れであることから、ファシリテーターが学生の議論を見守り、議論への参加姿勢を評価します。司会の教員は、メインアカウントから全てのチームのGoogleスライドを見ることができますので、各チームの議論の進捗状況、間違えやすいポイントなどを検討することができます。
⑧ Zoomのメインルームに再集合し、学生はチームで回答に至った経路などを発表します。
⑨ 司会の教員が問題の考え方・正答などを解説します。多数の学生が間違えやすいポイントがあった場合は、随時解説に反映させることが可能です。
また、⑤〜⑨の過程は、1回あたり複数回実施する場合もあります。個人回答とチーム回答の正答率は、口頭や画面表示などにより、学生にも伝えます。
⑩ 最後に、再度Zoomのブレイクアウトルームに分かれ、アセスメントを行います。ファシリテーターからもアセスメントがあります。ピア評価はTBLの必須要素であると言われていますが、学生の不安払拭のために、行いませんでした[1]。
対面授業を実施することができなかった間、学生は自分自身の学修の進め方や、理解状況などに不安を持ち、孤独を感じているようでした。オンラインでも、対面時とほぼ同様の内容のTBLを行うことができたことは、学生同士で知り合うきっかけと会話の機会を持ち、学修を進める上で励みになっていたようでした。学生アンケートによると、「自分とは違う意見をもとに答えを探っていく経緯を新鮮に感じた」、「グループの人と話し合うことで自分が誤解していた部分やよく分かってなかったところなどが明確になった」、「講義内で分かったつもりになっていたことに気がついた」などの意見がありました。このことから、対面でのTBLでなくとも、多くの学生が知識の丸暗記だけではなく、知識を踏えて考えることができることがわかりました。1年の前期にZoomを用いたテュートリアルを実施し、本TBL開始前にも予行演習回を設けていることも、スムーズな学修に役立っていると思います。
学生はPC、タブレット等を用いて、授業に参加することに対して慣れてきました。対面でのTBLを行うことが可能になった際には、オンラインと対面それぞれの長所を生かした形のTBLに改変していく必要があります。このようなTBLシステムは、複雑ではなく、多くの先生にとって取り入れやすいシステムとなるよう、再構築していく必要があると考えています。
参考文献 | |
[1] | TBL-医療人を育てるチーム基盤型学習 瀬尾 宏美(監修), Larry K. Michaelsen, Dean X. Parmelee, Kathryn K. McMahon, Ruth E. Levine (編集) |