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早田 宰(早稲田大学 社会科学総合学術院学術院長)
上野 博(株式会社早稲田大学アカデミックソリューション[1]業務支援室 ジェネラルマネジャー)
山田 寛邦(早稲田大学 大学総合研究センター研究員)
文部科学省「知識集約型社会を支える人材育成事業」は、Society5.0時代等に向け、全学横断的な改善の循環を生み出すシステム(全学的な教学マネジメントの確立、管理運営体制の強化や社会とのインタラクションの強化等)の、学内における形成を実現しつつ、今後の社会や学術の新たな変化や展開に対して柔軟に対応しうる能力を有する幅広い教養と深い専門性を両立した人材を育成することを目的とした事業である。
本学では、本事業メニューⅢ「インテンシブ教育プログラム」の採択を受け、令和3年度より、「ソーシャルイノベーション・アクセラレートプログラム」[2](図1)の取組みを進めてきた(最終年度:令和6年度)。メニューⅢはインテンシブ教育プログラムを推進するものであり、授業科目の精選・統合を進め、学生が同時に履修する授業科目数の絞り込みを行うとともに、授業科目を週に複数日実施し、質と密度の高い学修の実現を目的としている。
図1 ソーシャルイノベーション・アクセラレートプログラム概要
本学において先行的にインテンシブ教育を導入する社会科学部では、複雑化するグローバル社会において、高い志のもとに自ら課題やその解決策を明らかにし、国際社会および地域社会において周囲を巻き込みながらその実現を図るソーシャルイノベーションの担い手を育成することをディプロマポリシーに掲げている。また、その中では特に3つの力、①学際性(多領域の知を結集した問題解決能力と社会を切り拓く社会構想力を身につける)、②臨床性(理論と実践、思考と行動を往還しながら、矛盾や葛藤を自らが乗り越える主体的な自己修正力を身につける)、③国際性(多様な国、言語、価値、利害関係を背景とする主体とコミュニケーションできる国際的な表現力と協働力を身につける)を養成するため、学問分野を横断した複合的なアプローチによる課題解決型教育やオープンイノベーションの理念による社会連携実習を実践している。
インテンシブ教育を進めることで、これらの取組みはより加速され、学生の成長により良い効果をもたらすことが期待されている。
ソーシャルイノベーション・アクセラレートプログラムの先進性として、以下の3点があげられる。第一に、インテンシブ教育を活用した「学際教育」の新たなモデル化である。本事業を既存の学生生活・学修行動調査による効果測定を基礎としつつ、国内外にも事例の少ない、学際教育のルーブリックを開発し、学生の学修成果を多面的に検証することで、その成果や課題を広く発信することができる。本プログラムでは、社会科学部のディプロマ・ポリシーに基づいた、学際・社会科学ルーブリック(「知識と志」「学際性」「臨床性」「国際性」)を作成し、令和5年度から本運用を開始した。
第二に、インテンシブ教育の教育効果を学際教育という観点で実証的に評価することで、学位プログラムレベルの効果検証の方法や教学に関するデータ分析体制、すなわち質保証システムのモデルが示され、普及が期待できる。本事業では、大学総合研究センター(以降:大総研)と連携し、大総研が実施する全学を対象とした学生生活・学修行動調査を活用することによって、より合理的・効率的な効果検証の事例を示す。大総研では、特定の個人を識別不可能とした上で、学生の入学から卒業・卒業後まで一貫したデータの分析ができるエンロールマネジメント・IRの体制を整えている。そのため、インテンシブ教育受講後の学生についての効果検証も大総研が実施する卒業生調査等を通して今後検証可能になり、効果測定の効率性や有効性を示すことが可能である(図2)。
第三に、プログラム履修者を支えるメンター・高度授業TA制度の先駆的なモデル化である。本事業のカリキュラムの履修済み学部生・大学院生等が、メンターやTAとして参画する自己循環型のサポートシステムとし、在学生に限らず、社会に出た卒業生もメンターや社会連携コーディネーターとして関与できる仕組みを目指す。大学で涵養された能力をもとに社会連携教育の観点から卒業生が社会的ニーズ・課題も踏まえて在学生に関わることで双方の相乗効果も期待でき、「学びのエコシステム」としてインタラクティブな学びのシステム・集団の構築を目指している。また産学官連携や海外大学共同の、インテンシブワークショップをプロジェクト形式で開催し、この計画・運営にメンターやTAが関与することで、ソーシャルイノベーターとしての資質の醸成を促している。
図2 プログラムの効果検証・評価サイクルの全体像
インテンシブ教育による学修成果を検証するために、学際・社会科学ルーブリックを用いた効果検証システムを開発し、POC(Proof of concept)を実施した。Microsoft社のクラウドサービスである、Azureクラウドプラットフォーム上に、Data Lake機能(Azure Data Lake Storage Gen2)、Data Ware House機能(Azure Synapse Analytics)、機械学習による分析機能(Azure Auto ML)、可視化機能(Power BI)を複合する学修成果効果検証システムを実装した。
機械学習について、教師あり学習を例にすると、教師データとして、学際・社会科学ルーブリックの教員評価点数を正答とし、履修科目の成績や学修行動を例題として、機械学習を実施する。履修科目には社会科学部のディプロマポリシーで設定されている「学際性」「国際性」「臨床性」のフラグが立てられており、それぞれの取得単位数や成績素点により、ルーブリック評価点数への影響を機械学習で分析する。「学際性」「国際性」「臨床性」科目を履修し、成績が優秀な学生のルーブリック評点が高ければ、カリキュラムが学修成果につながっており、ルーブリック評価も機能していると判断できる。またインテンシブキー科目にフラグを立て、当該科目の履修者・非履修者の傾向を分析する。図3はAzure Auto MLで実際に機械学習を実施した結果の例であり、正答に対する影響度が高い項目を特徴量として数値化している。図4は可視化ツールPower BIの画面イメージである。
図3 Auto MLによる特徴量抽出(デモデータ)
図4 Power BIによる出力(デモデータ)
本学社会科学部では、高い志をもって社会課題を解決する、ソーシャルイノベーターを育成するために、「学際性」「臨床性」「国際性」の3つの教育理念を掲げ、多領域の専門分野と学際教育を活かした課題解決型教育や社会連携実習を臨床教育の場として実践する特色的なカリキュラムを有している。インテンシブ教育を通して、①知を結集させるCross-Disciplinary Approachの早期定着化による「学際性」の深化・多面化、②能動的学習機会の拡大による「臨床性」「国際性」の伸展を目指している。これにより学生の高い目標意識を促し、学生の成長を加速化させる。
学際・社会科学教育ルーブリックを開発し、大総研と連携し、学修成果の可視化・学際教育のモデル化を実施している。インテンシブ教育プログラムや、クォーター制の教育成果の検証のために、Microsoft社のAzureクラウドプラットフォームを用いた、学修成果効果検証システムの開発・稼働を進めており、Myポートフォリオと連動させて、学生による能動的な授業選択を推進している。
本事業の成果は全学へ展開され、グローバルイシューに取り組み社会変革を共創するソーシャルイノベーターの育成を推進し、教育システム改革、質保証、アセスメントの牽引が期待されている。
関連URL | |
[1] | 株式会社早稲田大学アカデミックソリューション company.w-as.jp/ |
[2] | 早稲田大学 社会科学総合学術院 ソーシャルイノベーション・アクセラレートプログラム waseda.jp/intensive/ |