特集 学びの質向上に向けたICT活用の取組み(その2)

基礎化学実験におけるLMSを活用した
ハイブリッド授業の成果

小池 裕也(明治大学 理工学部応用化学科専任准教授)

鈴木  来(明治大学 理工学部応用化学科助教)

小川 熟人(明治大学 理工学部応用化学科専任准教授)

1.はじめに

 本学理工学部において、「基礎化学実験1、2」は、学習レベルを「基礎的、入門・導入的な内容の科目」と設定した1年次の必修科目です。成績評価は実験終了後に提出する所定のリザルトシート、実験への取組みおよび面接での質疑応答により行っています。基礎化学実験は、コロナ禍において、2021年度と2022年度は実験室に滞在する学生数を減らすために、対面実験とオンデマンド実験の「ハイブリッド授業」を行いました。授業は様々な学科の学生が所属する無学科混合クラスの形態で実施されており、「ハイブリッド授業」では、春学期と秋学期の四半期、それぞれで1クラスが実験室での対面実験を3回、動画視聴によるオンデマンド実験を3回の計6回実施するため、一年間で計12回の実験を受講します。
 学生の対面実験の機会が半減する「ハイブリッド授業」で、オンライン実験を如何に有効活用できるかを課題としました。本学の学習管理システム(LMS)である「Oh-o! Meiji」[1]を活用した自主的な学びを併用することで、自ら情報収集する能力の向上、学生の学習意欲の醸成と学習機会の提供をこれまで目指してきました。ここでは、「ハイブリッド授業」の成果を振り返り、その成果をまとめることで、オール対面実験となった2023年度に、「ハイブリッド授業」で培った経験と知見をどのように活かしていくかを検討した内容について紹介します。

2.ハイブリッド授業での取組み

 2022年度からLMSにより全ての実験の収録動画をあらかじめ配信するとともに実験テキストに収録動画のQRコードを掲載し、「ハイブリッド授業」受講時の事前・事後学習の自由度を持たせました。事前にオンデマンド実験教材[2]を視聴した学生の対面実験での理解度が向上したため、事前学習を学生全体に定着させることを目的としました。「ハイブリッド授業」の利点を活かし教員が情報交換を行うことで、学生が質問や相談をしやすい環境づくりに努めたことも工夫の一つです。さらに、「データリテラシー実習」の一つとして、2022年度からの「Oh-o! Meiji」の新機能である「小テスト」を活用したデータサイエンス課題を導入しました。授業改善は兼任講師への毎週の進捗報告により、随時必要な情報配信と資料改善を進めています。

3.ハイブリッド授業の成果検証

 2021年度は本学のLMSである「Oh-o! Meiji」を活用した「オンライン実験」の成果を事前・事後学習に展開した際の教育効果を検証しました[3]。また、2022年度はデータサイエンスの導入と「ハイブリッド授業」の進捗について評価しました[3]。2021年度と2022年度は、学生の対面実験の機会の減少に対して対策すること、また、効果の高いオンライン実験を実現することを継続課題として授業を進めてきました。「ハイブリッド授業」でのICT利用に関する2年分の成果をまとめ、オール対面実験へ展開することを目標とし「ハイブリッド授業」の効果をLMSの「アンケート」機能で検証しました。具体的には、本学でのLMSで実施した「授業改善のためのアンケート」より、「ハイブリッド授業」に関連する設問として「毎回の授業の事前・事後学習に取り組む時間は平均してどの程度ですか」、「この授業は質問や相談ができるように配慮されていましたか」、「課題の分量は適切だと思いますか」を中心に集計を行い、効果を評価しました。

4.データサイエンス課題の導入成果の検証

 本学理工学部では、「数理データサイエンス人工知能リテラシーレベルプログラム科目」のデータリテラシー実習として、「基礎化学実験1、2」が対象となっています。そこで、授業到達目標の一つに、自身で取り組んだ化学実験で得られる様々なデータを「読み、扱い、説明する」ことで、実験結果を正しく理解し、化学実験の現場のデータを適切に分析する方法を修得することを組み込みました。実験で得られるデータに関する基礎的な知識や理解能力(Data Literacy)および実験データの分析方法を、実験の中で培うことも基礎化学実験の課題としています。データサイエンス課題の導入成果についてもLMSの「アンケート」機能で検証しました。

5.ハイブリッド授業の教育効果分析

 基礎化学実験の「ハイブリッド授業」の試みに対する評価は、LMS の「アンケート」機能による「授業改善アンケート」から、学生からの意見を集計しました。「ハイブリッド授業」の試みに関する集計結果を次に示します。
 「毎回の授業の事前・事後学習に取り組む時間は平均してどの程度ですか」の集計結果を図1に示します。2019年度から2021年度では、事前・事後学習に30分以上取り組んだ学生は回答者に対し、2019年度は17.9%、2020年度は62.1%、2021年度春学期は60.9%、秋学期は51.1%でした。2022年度は、春学期は48.1%、秋学期は56.3%という結果となり、事前・事後学習時間は低下する結果となりました。まったくしていない学生も多く、オール対面実験における課題と考えています。

図1 「毎回の授業の事前・事後学習に取り組む時間は
平均してどの程度ですか?」の集計結果

 「ハイブリッド授業」の利点は、対面授業で直接、さらにLMSの「ディスカッション」やメールにより、オンラインで質問や相談ができることと考えています。問い合わせ先にメールアドレスを記載したところ、メールによる質問が増えています。「この授業は質問や相談ができるように配慮されていましたか」の集計結果、“とても配慮されていた”の回答が50%を上回っており、的確に対応できたと考えています。自由記述において、「ハイブリッド授業であることで、人数が少なく先生に質問がしやすい」、「メールでの対応もとても早く助かった」などが印象に残りました。
 データサイエンス課題を導入する際に課題の分量が重要となります。「課題の分量は適切だと思いますか」の集計結果を図2に示します。今回のアンケートでは、対面実験とオンデマンド実験で分けて設問を設定しませんでしたが、“適切である”が78%以上の結果でした。実験時間内で課題に取り組む場合は適切な分量であったようですが、対面実験の学習課題とする場合は分量を検討する必要があると考えています。

図2 「課題の分量は適切だと思いますか?」の集計結果

6.LMSを活用したハイブリッド授業の成果

 オンデマンド実験への取り組み方は学生によって様々であるため、実験テキストに収録動画のQRコードを掲載しましたが、閲覧記録からLMSからの視聴が多い結果となりました。オール対面実験時の事前・事後学習環境を確立することが、2021年度からの継続課題です。2022年度の「授業改善アンケート」の自由記述において、データサイエンス課題に関連して「オンライン対応のExcelシートを用いた問題はかなり新鮮だった」とコメントがあり、貴重な意見でした。一方で、「Excelには、標準偏差関連の関数が『STDEV』『STDEV.S』『STDEV.P』など複数あり、誤答をしても正しい解答や解説が表示されないため、学生側からは理解を修正する(学ぶ)ことができなかった」、「有効数字について問題を出し、さらにその解答が提示されないのであれば授業中か授業資料でしっかりやり方を教えて欲しい」、「オンデマンド実験の課題について、問題を増やしてもいいので、配点をもっと低くして欲しい」などのコメントがありました。そこで、オール対面実験においてデータサイエンス課題を課した2023年度は、データサイエンス課題の解説資料(図3)と収録動画を配信しました。さらに、提出時に自動採点する設定とすることで、課題に挑戦する機会を増やしました。対面実験におけるデータサイエンス課題の在り方は、事後学習への取り組みとしての位置づけもあわせて今後検討していく予定です。

図3 データサイエンス課題の解説資料(抜粋)

7.今後の課題と展望

 「オンデマンド式と対面授業を組み合わせたオンデマンド資料は、事前学習という形で現在の形式の対面授業に組み込め、円滑に進められたと感じました。是非今後もうまくオンデマンド式と対面授業を組み合わせた授業を実施してほしいです」というコメントがあり、「ハイブリッド授業」の有用性を感じました。オンデマンド資料による事前学習を対面実験に有効に取り入れられるかが重要と考えています。オンライン授業に対して好意的なコメントがいくつかあったことも印象的でした。一方で、「オンデマンド時の内容が、(自分の場合は対面ですでに実験をしていたので)対面実験とまったく同じ内容だったので少しつまらなく感じました。もう少しバリエーションのある内容だとオンデマンドでも意欲的にできると感じました。」といった課題も多数寄せられており、「ハイブリッド授業」の難しさも感じました。
 今回の成果検証により、「ハイブリッド授業」のメリットとデメリットが明確となりました。オール対面実験において、「ハイブリッド授業」で培った経験と知見を活かし、課題を解決していくことで、学生の学習意欲の醸成と質の高い学習機会の提供を目指していきたいと考えます。

謝辞

 「基礎化学実験」に関係する本学理工学部応用化学科の専任教員および兼任講師の先生方、助手およびTAの皆様に感謝いたします。

参考文献および関連URL
[1] 「Oh-o! Meiji システム」概要・利用方法について(明治大学)、https://www.meiji.ac.jp/ksys/oh-o_howto.pdf(2023年12月7日参照)
[2] 小川熟人、小池裕也、「基礎化学実験」におけるハイブリッド授業での材料教育、材料の科学と工学、60、50-53、2023
[3] 小池裕也、小川熟人、基礎化学実験におけるLMSを活用したハイブリッド授業とデータサイエンス導入の試み、私立大学情報教育協会 大学教育と情報、No.1、14-15、2023

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