特集 学びの質向上に向けたICT活用の取組み(その2)
大和田 和治(立命館大学 食マネジメント学部教授)
本学食マネジメント学部の英語プログラムは、専門科目との連携を念頭に置き、次の3段階で英語学習者を養成することを目指しています。1回生ではStep1として自律学習者、2回生春学期ではStep2としてキャリア形成を意識した学習者、そしてStep3(2回生秋学期以降)では専門知識を備えた学習者の養成が目標です。このStep3に相当するのが、英語を媒介言語とする専門外国語科目Gastronomic SciencesⅠ〜Ⅳです。
本稿は、2022年度秋学期のGastronomic SciencesⅠの実践報告です。学部開設次年度の2019年度より、台湾の輔仁大学人間生態学部餐旅管理學系と、半期15回分の10回分(1コマは90分)を遠隔共同授業として行っています。本科目では、学部の英語教育と専門科目を橋渡しさせるため、専門教員ではなく英語教員が担当しています[2]。
(1)科目の目的と形態
本科目の目的は、日本人学生が、異なる文化を持つ台湾人学生との英語によるやり取りを通して、食を軸とする異文化理解能力を深めること、及び自分の食文化を的確に説明できる英語発信能力を高めることです。
2022年度は、日本人学生の履修者は11名、台湾人学生の履修者は38名でした。15回の授業のうち10回において、日本人学生は各自の自宅もしくはキャンパス内の教室から、台湾人学生は教室からZoomを使って参加しました。以下の図1は、授業中のZoom画面の例です。
図1 授業のZoom画面
2022年度の授業内容とICTの活用状況を表1に示します。本年度はPBL(問題解決型学習)として、日台で同時にお茶の評価をする「オンラインフードラボ」及び「フードツアー動画とデジタルパンフレット」(最終グループプレゼン)を導入しました。
表1 遠隔共同授業10回分とICTの活用
(2)授業の進め方
日本人学生1〜2名と台湾人学生4〜5名の混合グループを8つ作り、グループ活動を中心に行いました。授業の前半約60分ではグループプレゼン、オンラインフードラボ、最終グループプレゼンを行い、後半約30分ではブレイクアウトルームで週ごとの食のトピックに関するディスカッションを行いました。
毎週の課題は、振り返りレポート(英文250語、計10回)を提出することでした。最終グループプレゼンでは、日本の学生が作成したフードツアー動画を踏まえ、台湾の学生が新たな食品の提案をしました。最終課題として、各グループで、フードツアー動画と食品開発をまとめたデジタルパンフレットを作成し、提出しました。
6・7回目の授業であるオンラインフードラボでは、両校の教室全体をZoomで繋ぎました。学生たちは、日台で同時に日本茶と台湾茶の評価をしました。その後、お茶と菓子をペアリングし、グループディスカッションを行いました(写真1)。なお、両校の共通のプラットフォームとして、Padletを導入しました。8回目のオンラインフードラボでは、事前に両校の学生がそれぞれ好きな菓子をPadletに掲示し(図2)、相手校の菓子で食べてみたいものを投票し合いました。そして、最も投票の多かった菓子を送り合い、実食しました。
写真1 官能評価時の教室風景
図2 日台の菓子の紹介と投票
(1)フードツアー動画
日本人学生は、各自5分間程度のフードツアー動画を英語ナレーション付きで作成しました。学生が作成した英語ナレーション付きフードツアー動画は全てPadletにアップしました(図3)。そのうちの一つ、Arashiyama Active Food Tourのスナップショットを図4に示します。
図3 英語ナレーション付きフードツアー動画
図4 Arashiyama Active Food Tour
なお、英文スクリプトの音読指導の際、学内のLMSを活用し、教員が指導内容をICレコーダに吹き込むなどして音声をアップしました(図5)。このような教員と学生とのやり取りを、授業外で約一か月続けた結果、学生一人の英文スクリプトについて、やりとりは平均15回(SD = 10.6)に達しました。
図5 LMSを活用した発音指導
(2)デジタルパンフレット
まず、グループごとに、台湾人学生が、日本人学生が作成したフードツアー動画を視聴しました。次に、グループメンバー全員で新食品を提案し、デジタルパンフレットを作成し、最終課題として提出しました(図6)。
図6 Food Tour in Kusatsuのパンフレット
授業後にアンケートを日本人受講生11名に実施しました。以下にその一部を報告します。まず、動画作成に関する項目からは、動画撮影にはスマートフォン(10名)、デジタルカメラ(1名)を使い、動画編集にはCapCut(2名)、inshot(4名)、VLLO(4名)、PowerDirector(1名)を使っていたことが分かりました。また、動画一本の編集時間の平均は4.6時間(SD = 1.7)、英文スクリプトの音読練習時間の平均は3.7時間(SD = 2.1)でした。
次に、発音指導に関する項目(「英文スクリプトの音読を通して,自分の英語の発音についての気づきについて具体的に述べてください」)には以下のような回答がありました。
さらに、受講後の意識の変化に関する項目(「本クラスを受講して、あなた自身に何か変化がありましたか」)には、以下のような回答がありました。「フィードバックを通して自分自身が単語の後につくsの発音が苦手なことや、イントネーション、stやthの発音の仕方、文節の区切りを理解しておらずただ読んでいるだけで、発音の基礎がなっていなかったことに気づきました」
「自分が今までは発音できていると感じていたところもしっかり発音できていなかったことに気付きました。特に、vの発音が自分は苦手だということに気付いたり、自分が思っている以上に単調にスクリプトを読んでいたことに気付きました」
「シャイな気持ちが減った。同じ日本人グループメンバーの影響を受け、間違っていてもいいんだ、話すことが重要なんだということに気づかされ自分から話せるようになっていった」
「台湾のことになると、反応したり、知りたいなと思ったり、台湾に対して興味が前よりも大きくなりました。また、英語でコミュニケーションをとり、友達ができ、発表したことでまた、自信がつきました」
「今までほとんど受験勉強のような勉強の英語しかしたことがなかったため、この授業を通して相手とコミュニケーションを取るための「英語」の根幹を学ぶことができました」
本科目の目的は、食を軸とする異文化理解能力と英語発信能力を養成することでした。アンケート結果から、前者については、日本人学生は、日台での茶文化の違いを認識し、日台の文化への興味・関心をさらに持つようになりました。後者については、フードツアー動画を作成する過程における発音練習や、実際の台湾人学生との英語によるやり取りを通して、分かりやすい発音で、物怖じせずにコミュニケーションをとることの大切さを実感したようでした。
参考文献 | |
[1] | 大和田和治(2023a)「ICTを活用した日台遠隔授業における異文化理解力と英語発信力養成の取組み」、私立大学情報教育協会2023年度ICT利用による教育改善研究発表会資料集、142-145 |
[2] | 大和田和治(2023b)「日台遠隔共同授業における探究型英語教育の実践―Online Food LabとFood Tour Videoをとおして―」、立命館食科学研究、8、1-14 |