事業活動報告 No.1
本大会は、「AI時代の教育と人材育成を考える」をテーマに、大学としてどのように向き合うことが期待されるのか考察するため、国の教育政策を共有する中で、変革の世紀を生き抜く教育課題の論点、生成系AIの取り扱い、デジタル教材の著作権対応と生成系AIの対応、教育・学修支援DXと業務支援DX、学びの質向上を目指すICT活用、データサイエンス・AI授業のワークショップなど、喫緊のテーマを取り上げ探求するとともに、ICT利活用による授業改善の研究や学修成果可視化などの実践又は研究事例の発表などを通じて、理解の促進を図ることにした。
1日目の「全体会」では、向殿政男会長(明治大学)から、「AI等の技術を生きとし生けるものの幸せに役立てられるか否かは、正に人間の叡知に期待されている。大学では、真理の探究を通じて自然との共存、科学技術との調和、人と人との共生など、倫理観を踏まえた全体最適を目指す学びが望まれており、今、正に大学教育へ変革が迫られているのではないかと考えている」との挨拶の後、9月5日から7日に亘るプログラムがオンラインで実施された。
文部科学省総合教育政策局政策課企画官 廣田 貢 氏
教育振興基本計画は、平成18年に全面改定された教育基本法に基づき、政府が策定する教育に関する基本計画で、平成20年度以降5年おきにこれまで3期策定されてきたものである。その内容は、我が国の目指す教育の姿やそれを実現するための具体的な方策を示すものとなっている。
新しい基本計画を策定するために、まず第3期計画のフォローアップを行った。高等教育関係では、大学生の授業時間外学習時間が増加したこと、修士課程修了者の博士課程進学率が若干上昇したことなどが確認できた。次に、社会の現状や変化に関するデータから、人口減少が進む中で日本の一人あたりの労働生産性はOECD諸国の中でも下位となっており、どのようにして労働生産性を上げていくのかが大きな課題となっている。また、グローバル化、情報化、グリーン化(脱炭素化)による産業構造の転換などにより、変化が激しく予測困難な未来が待っている状況に、どのようにして未来を乗り越えていく人材を育てていくのかが求められている。一方で、18歳の意識調査では、自分の行動で国や社会を変えられると回答している割合が、諸外国の中で極めて低く、社会に貢献できるという意識を高めていく必要がある。
そうした背景から作成した教育振興基本計画では、計画のコンセプトとして、「2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成」と「日本社会に根ざしたウェルビーイングの向上」とした。前者は、自らが社会の創り手になる意識をもって果敢にチャレンジをしていく人材(主体性、リーダシップ、創造力、課題発見・課題解決力、論理的思考力、表現力、チームワークなど)を備えた人材が求められている。後者は、日本社会に根差したウェルビーイングの向上という視点として、個人が幸せや生きがいを感じていることと併せて、地域や社会全体が幸せや豊かさを感じられるものとなっていく教育を目指していく必要がある。ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的によい状態にあることで短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる持続的な幸福を含む概念である。この概念を含めたことが今回の計画において特徴的であると考えている。
こうしたコンセプトを受けて、今後の教育政策に関する基本的な方針として次の5点を定めた。
① グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成
② 誰一人取り残されず、全ての人の可能性を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進
③ 地域や家庭で共に学び支え合う社会の実現に向けた教育の推進
④ 教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
⑤ 計画の実効性確保のための基盤整備・対話
これら5つの方針の中にはそれぞれ具体化したものを示している。例えば、①に「主体的・対話的な深い学びの視点からの授業改善、大学教育の質保証」、「専門知では課題解決が困難な中での文理横断・文理融合教育の推進」、「グローバル化対応の留学等国際交流や大学等の国際化」、「リカレント教育を通じた高度人材育成」など、②に「多様性、公平・公正、包摂性(DE&I)ある共生社会への実現に向けた教育の推進」、④に「DXに至る3段階(電子化→最適化→新たな価値)において、第3段階を見据えた第1段階から第2段階への移行の着実な推進」などがある。
さらに、これら5つの方針に対して、16の目標と100近くの対応する施策を策定した。これらの各目標はどの目標が初等中等教育でどの目標が高等教育といったものではなく、それぞれの教育段階で目指すものであると考えている。
この中で具体的に触れておきたい目標として、「グローバル社会における人材育成」がある。この目標に対する基本施策の例として、日本人・学生・生徒の海外留学推進、外国人留学生の受け入れ推進、高等学校・高等専門学校・大学等の国際化、外国語教育の充実を示している。これを受けて2033年までの目標に「日本人学生・生徒50万人派遣」、「外国人留学生の受け入れ・定着40万人」を示している。また、「教育の国際化」も示しており、高等教育機関において英語のみで卒業・修了できる学部・研究科の数を学部で200(現状86)、研究科で400(現状276)にすること、海外の大学との交流協定に基づく交流のある大学の割合を80%(現状48%)にすること、ジョイントディグリー・プログラムの数を50(現状27)にすること、ダブルディグリー・プログラムの数を800(現状349)にすることを示している。こうした計画の実現に向けて予算を確保するために、現在概算要求を行っている。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
グローバル化の点について強調されていたように思われるが、これまで言われていたことと何か異なっている点はあるのか。 | ||
【回答】 | ||
グローバル化について、これまでも重要だとしてきたが、教育基本振興政策の中に「グローバル化」を盛り込んだのは今回が初めてである。日本学生の派遣、外国人留学生の受け入れ・定着、教育の国際化それぞれに目標を立て実現を目指していきたい。 | ||
【質問2】 | ||
高等教育を担う人材(大学教職員)の育成について、何か検討していることはあるのか。 | ||
【回答】 | ||
人材の育成は重要な問題であり、現場との対話を積み重ねながら、社会全体としての教育の方向性を作り上げていきたい。 |
東京財団政策研究所長、日本学術振興会顧問、本協会副会長 安西 祐一郎 氏
技術革新に伴う社会変容によって教育は転換を迫られてきたが、現在、AI技術の急速拡大による「知能」が拡張される社会において、教育の質的変換が必要となっている。このようなAIによる変革の世紀における教育では、「イノベーションの学び」が必要である。
その学びとは、「学びの原動力(目標を発見し共有すること)によるスキルの学び」である。この学びを進めるに、「主体性」だけではなく、「信念」、「共感」、「メタ認知」、「思考」、「イマジネーション(未来のイメージを体系化する)」、「知識」が必要となる。
イノベーションとは、シュンペーターによると「価値を産み出す方法を変革し、社会を良い方向に変える大きな変化をもたらすこと」である。AI、デジタルの影響で、知識の概念が世界的に変わってきている。覚えたことが知識の時代から活用できなければ、社会で共有されなければ、知識ではない時代になってきている。この知識を「鍛える」ことが重要で、大学教育では、知識創造・スキル学習、問題発見・解決、臨機応変力を伸ばすように展開すべきである。そのためには、高等学校でアクティブ・ラーニングを行い、自分の目標を見つけたり、さまざまな人と付き合ったりしながら経験を積み、自分で知識を得る方法を知っておく必要がある。その上で、大学において知識を自分で創り出す方法を学ぶべきである。しかし、現状はこの順序が逆になっているように思われる。
具体的には、12の「学びの基本項目」の学び方として、一つは、思考の方法(類推的思考、因果的思考、帰属的思考、批判的思考、合理的思考など)を身に付けるために、文章や映像をAIで大量に自動生成し、それを提示して鍛えることが大事である。二つは、社会的文脈の中で応用して知識の活用を鍛える。三つは、「目標を発見する」力を体験の中で鍛える。四つは、協働学習で新しい知識を創り出す。五つは、「言葉の力」をつける。他者の立場や痛みを感じとることが大事になる。六つは、「社会的関係を築く力」をつける。
一方、AIは「人間の持つ知的機能と同様の機能を情報処理(ソフトウェア、アルゴリズムなどを含む)によって実現すること、また実現されたもの」と言われるが、その実態は「人間が実現できない(あるいは想像できなかった)知的機能」をも含んでいる。また、人間の知的機能はその人の生きる中でその人に合わせて活用や適応が可能なもので、コピーや伝送が困難であったりコスト高であったりするが、AIによって実現されたものは誰にとっても知的機能であり、コピーや伝送が容易である。
こうしたAIの特徴を活かして教育を行う必要がある。具体的には、知識を鍛えるための教材を作成することができる。そうした問題に取り組むことで、社会的文脈の中で知識を活用できるような思考方法が身につくと思われる。また、大学で協働学習を行うことは意味があると思われる。チームでの議論をする中で、相手の気持ちを理解したり、相手に共感しながら自分を表現したりといったことを通して社会的な力を身につけることができる。一緒に学びながら議論し、自分たちで新しい知識を創り出していくということがこれからの教育のあり方ではないかと思う。
但し、ものの見方や社会の参加の仕方、目標の持ち方といった内容を、教育のメソッドとして作り上げることが必要で、スキルを身に付けることができるカリキュラムや教材を10年かけてでも開発していくことが重要である。政治や行政は、教育弱者がAIによってより分断されてしまわないよう、重要な役割を果たす必要がある。AI礼賛ではなく、人間による時代を作っていくためには、やるべきことが実は数多くあると思っている。
【質疑応答】
【質問】 | ||
国の方針として理工系人材の不足が言われており、そうした人材を増やす教育政策として、AI・データサイエンスに取り組むことに大きなギャップを感じる。社会全体が理工系教育を重視することよりも、知識を鍛える教育を重視した上で、人文科学系、社会科学系、理工系という学びを全体的に底上げしていくようなことが大切と考えるが、行政との整合性との関係について伺いたい。 | ||
【回答】 | ||
知識を鍛えていく、クリエイトしていくことが大事で、これからの時代の教育全体をどうすべきかという問題と、現在、理工系人材を増やそうとしている取り組みの問題とは、別の問題と思っている。後者は、社会の変革に対応するために必要な措置であって、社会の問題を深く考え、哲学をもってAIを乗り越えていくこととは別のことと理解している。 |
文部科学省高等教育局専門教育課課長補佐 奥井 雅博 氏
政策動向について、以下の5つの観点から、社会的背景が説明された。
1.高等教育段階におけるデジタル人材育成の政策動向
18歳人口が80万人をきり、大学進学率が6割になる中で、一人ひとりの学びにどう付加価値をつけ、大学として学生を成長させていくのかが、非常に重要になっている。
世界時価総額ランキングTOP50の1989年は日本の金融、製造の多数企業が台頭していたが、2023年はこのランキングに登場していない。一つの要因として、データサイエンのスキルが非常に遅れており、IT人材の不足もあげられる。
昨年、政府として理工系への転換・強化策・人材養成への組織改革を促す継続的な支援のための基金を設置した。メインとなる既存の学部とデータサイエンスを融合した成長分野を支える学部への転換支援と、大学院モデルとして数理・データサイエンス・AI、情報分野に特化した人材育成の強化という、2つの支援の取組みを進めている。組織改組、教員確保が難しいなどの課題があると思うが、令和6年度概算要求において数理・データサイエンス・AI、GIGAスクール構想、文化やスポーツ分野でもデジタル化、教育のDX化などを要求している。
2.数理・データサイエンス・AI教育の推進
ソフト面を含めたサービス業の人材があまりなく、人文社会系学生のデジタル人材が求められている。このような人材不足の解決に向け、デジタル田園都市国家構想基本方針の中で、デジタル人材育成の目標を5年間で230万人と掲げている。リテラシー教育とデータサイエンスにおける応用基礎・専門の学びの推進を重点に、教育プログラムを認定する制度を2021年度からスタートしており、3年目の現在、リテラシーレベルは382件、応用基礎レベルは147件認定している。また、数理・データサイエンス・AI教育を進めるため、全国に9ブロックのコンソーシアムを形成し、現在230校が会員となっている。文科省においても事例紹介によるアドバイスなど相談を受けるとともに、オンラインでの説明会も開催している。
3.産学連携によるデジタル人材の育成
文部科学省と経済産業省が連携して、デジタル人材を育成するための産学連携の会を設けている。一番大きな課題は、教員が不足している。データサイエンス・AI担当者不足に対して、地域企業との連携を深めるなど、実社会との繋りの中で、いわゆる実務をしている人を担い手に、コンソーシアムの活動を通して教えることができる教員人材の育成を、コンソーシアムの代表校を中心に進めている。
4.人文社会科学系大学院におけるデジタル人材育成の推進
デジタルと掛けるダブルメジャー大学院教育構想事業、人文社会系をバックグラウンドにしながら、かつ高度な情報スキルを身につけるような大学院レベルでの教育を展開する事業に、令和4年度6大学が選定された。理工系だけが重要ではなく、人文社会系の高度なDX人材を育成していくことで、新規の公募ができるような形で令和6年度概算要求を拡充要求している。課題を設定して解決し、価値創造できるような、そういった人材を生み出していくことを念頭において、例えば、ビジネス分野はもちろんだが、GIGAスクールが浸透している教員養成、また、コンテンツ産業を支えるアート・デザイン・文化・スポーツ、いろいろな領域がある中で、デジタル人材の育成を推進していきたい。
5.大学・高専における生成AIの教学面の取り扱い
生成AIの取扱いについて、文科省からも有識者の意見を参考に、利活用が想定される場面、留意すべき観点などをまとめて7月に各大学に通知した。各大学においても指針が公表されている。AIを使った事務改善というものもあるが、基本的には各大学の教育の実態に応じて、対応を検討することが重要で、主体的な学びの向上を目指す中で、どのように使うか、生成AIの全てが正しいというものではない点を留意しつつ、対応を適宜見直しながら活用していただきたい。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
数理・データサイエンス・AI教育の推進のための認定制度の取組みは、国家戦略的に重要な人材育成で、急務である背景は理解できるが、人文社会系教員からみると、大学がすべて理系になるべしという懸念がある。全大学共通の学生50万人を対象としたリテラシーレベルと考えてよいか。リテラシーレベルの3年間の達成率が32.5%ということで、目標は2025年度まで後2年間で67%を達成する計算になり、人文社会系の大学がネックになっているのではないか。人文社会系教員にチャレンジするモチベーションの向上施策は何かあるか。 | ||
【回答】 | ||
小中学校ではプログラミング教育、情報教育が進んだ生徒が間もなく大学に入学する。また、IT化がより進んだネイティブの子たちが大学に入ってきたときに、大学のIT化の遅れに驚くことがないよう、大学では戦略的に数理・データサイエンス・AI教育を推進すべきと思う。卒業後社会に出て仕事をするとき、統計的なデータをどう使うか、読み解く、データ集めて考えるということは慣用的なスキルになると思うので、大学が社会と接続、あるいは高校、小中高との接続の中で、理解を深めていただきたい。国がやりなさいというのではなく、大学の教育・研究戦略の中でどうしていくか、考えていただきたい。18歳人口減少の中で、どのように大学として魅力を高めるのか、というのは一つの取組みになると思う。 | ||
【質問2】 | ||
GIGAスクール構想が進み、一番のネックはやはり大学教員へのFD活動と思う。理系になるというのではなく、文理の中で大きなかじ取りをするということの大事なトリガーは何か。 | ||
【回答】 | ||
このような会に参加する方は意識がある方々だと思う。全員が同じ意識になることは現実的に難しいと思うので、意識のある方々で一定の仲間を作り推進する方法がよいと思う。例えば、社会学の中でもデータは絶対使って(分析等をして)いるので、自分の研究力を教育に展開していただくだけで、大きく変わってくると思う。何か新しいことやるというよりは、教員の教育・研究の中にデータサイエンス・AI・統計などを含めて、教育に少し振り向けてもらうというのが、一番早い解決策かなと思う。 |
対話型ChatGPTに代表される生成系AIの出現に、大学教員はどのように向き合うことが適切と考えればよいのか、学生に活用させる上で留意すべきこと、使いこなすための訓練の必要性などを通じて知識偏重型教育から考えるプロセス重視教育への転換を含め、最初に6人の登壇者から意見が開陳された。特に強調された点を紹介する。
*竹村 彰通氏(滋賀大学学長)
先端的なデータサイエンス・AI教育を推進している本学の背景から、生成系AIを使いこなし、生成系AIモデルを構築できる人材の育成を目指している。「生成AIの理論と活用」の授業では、生成系AIを活用した実習として、就職の志望理由書を生成系AIで出力し、その結果を修正して高度なものに仕上げていくなど、積極的に取組む姿勢を示している。
*須藤 修氏(中央大学国際情報学部教授)
現時点での生成AIとの付き合い方については、プロンプトの書き方を工夫して使うことで、相談、アイデア、論文の壁打ち、翻訳、要約、ヒントを与えるツールとして構想力・創造力の育成手段として使える。但し、内容の信憑性に注意が必要で透明性、説明可能性で大きな問題を抱えている。引用文の精査が必要で著作権の侵害に当たる可能性がある。個人情報、組織の重要情報をプロンプトに入れない注意が必要。将来、AIが作った文章が大半となり、レベルの低い内容となるので、出力内容にラベル付けして除外しないとモデル崩壊を起こすと言われている。
*安西 祐一郎氏(東京財団政策研究所長、日本学術振興会顧問、本協会副会長)
生成系AIとは、膨大なデータ資源と機械学習技術と高速AIコンピュータを駆使したユーザインタフェースのシステムであって、それ以上でも以下でもない。学びの場では「部品」と化していく。当たり前の知識を並べるのは得意だが知識の創造・活用・相互理解の学びと教育は苦手。やり方の知識としてのスキルは苦手なので思考・推論の方法を学ぶことは非常に大事になる。文脈の理解は苦手なので繰り返し違った文脈を与える学びになる。ChatGPTができることを学ぶよりは、できないことを学びの場に入れることが賢明ではないか。
*森本 康彦氏(東京学芸大学ICT/情報基盤センター、情報教育教室教授)
主体的な中で生成AIを仲間としてとらえれば、協働的に一緒に学んで行こうよという立場になるし、学修者が主体的に取組みながら生成AIを教員の代わりとするならば、足場かけ、アドバイスをしてもらい、それをヒントにしながら自分で学びを進めていく学修者本位の教育が可能となる。それを支える教員の存在が不可欠であることは言うまでもない。
*金丸 敏幸氏(京都大学国際高等教育院附属国際学術言語教育センター准教授)
英語を要約し自分の意見を英語で書くなど、課題の出し方が通用しなくなるので、英語の授業のあり方を抜本的に見直していかなければいけない時期に突入したのではないか。一人ではできないけれども、生成AIの助けがあれば学生の能力を伸ばしていくという共同学習が可能になる。その際、学生の主体性を引き出し、できないことができるよう試行錯誤をサポートする教員の行動が求められる。
*嶌 英弘氏(京都産業大学法学部教授)
個人情報保護は、プロンプトの中に個人情報を含めると全世界に出回る可能性があるので注意が必要。ChatGPTは、プロンプトに含まれる情報は学習しないという設定が可能。今後はAIサービス提供者側のシステムとしてオプトアウトの方向に進むのではないか。著作権法35条では、学習利用の場合は著作権者の承諾が不要という例外扱いをしているが、著作権者の利益を不当に害する場合には、著作権者の承諾が必要となる。他者の著作物を使用しても引用を明示していないので、生成AIの回答をそのまま授業以外のSNSなどで公表すると、著作権侵害になる可能性が高いので慎重な対応が求められる。
以上の意見を踏まえて、司会の辻 智氏(私情協情報教育研究委員会データサイエンス教育分科会アドバイザー、大阪公立大学研究推進機構特任教授)から、最初に論点1として、「生成系AIの出現により、大学教育にどのような変革が求められるようになると考えるか」について、登壇者間でおおよそ次のような意見交換が行われた。
① 生成系AIを使って、これからの学び・教育でどういうことを具体的にやっていくべきかが抜けている感じがする。そこが具体的には大事なのではないか。
② 英語を教える立場からすると生成系AIの導入によって自分の考えやアイデアをまとめ、英語・日本語で海外や社会に向け発信し、思いを伝えられるような発信力のある学生を育成していくことが大事になる。
③ そのようなことをやっていこうと思うと、音声で対話のアシスタントをすることが当然出てくるので、音声の対話型AIが役に立つと思う。そういう意味での技術開発と、英語教育の在り方について具体的に戦略を立てて行う話があれば、今後に期待できるように思う。
④ 生成系AIはヒントを与えてくれるので、問題はどういうアイデアを、どうやったら一緒にクリエイティブなことを考えられるか、という点に力を入れるべきだと思う。
その上で、生成系AIが入ってきた時の学修評価の問題について、意見交換した。
① 一回のテストがらみのレポートはもう意味がなくなると思う。レポートを書く時に結果よければすべて良しではなく、書いた内容について学生同士で意見・相互評価を行い、振り返りして改善していくプロセスを評価することが大事になると思う。その際にICTの支援ツールが開発されていることが期待される。
② 生成系AIを使いプロジェクト授業の中で評価する授業設計を行っている。そうしないと全体としての評価はできない気がする。
③ どこまで達成したかというよりも、どこまで伸ばせるかということが非常に大事と思うので、法律に抵触しない範囲で使いこなし、自分のやりたいことを達成できたかどうかに、評価をシフトしていくことが重要ではないかと思う。
次に、論点2として、「生成系AIを使いこなす教育を大学としてポジティブに捉える必要があると考えた場合に、どのような点に注意して進めればよいか」、危機管理体制を中心に、おおよそ次のような意見交換が行われた。
① 生成系AIは間違ったことを回答するので、信頼できないという意識をもたせること、著作権など法的な枠組みを理解する機会を設けるなどのリスク管理が必要となる。
② 生成系AIは、あまりにも変数が多すぎて説明可能性がない。なんでその結論を出したかというのはブラックボックス状態になっている。その中で、AIが出力する画像に電子透かしを埋め込んで追跡可能にする技術が開発されつつあるが、クラウドレベルでは著作権管理もセキュリティ管理もサービスが高額で大学などでは使えない。Webベースのサービスでは、オプトアウトはできるので、その技術を受ける必要があるのではないか。
③ 文部科学省の指針を適切なものにするため、ノウハウ、知見を統合して検討できるような場として、私情協のイノベーション会議などで検討いただければと思う。
東京大学バーチャルリアリテイ教育研究センター教授 雨宮 智浩 氏
メタバースの基盤技術は、VR(バーチャルリアリテイ)に根差していて、ユーザーの五感を刺激し、現実と同じような環境を再現する技術として定義される。VRゴーグル、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)は、この定義に出てこない。VR 学は人間にとって「何がリアル化」を追求する学問となっている。
VRの利点は、一つは、アバターを使用することで、顔を出さずに授業に参加でき、プロテウス効果と呼ばれるアバターを通してユーザーの行動特性や外向性に影響を与える可能性がある。オムニバス講義では成績の向上、学修意欲に効果がある。二つは、空間性(3D空間)があることによって、どこからでも参加が可能で、教員からは学生の反応が分かる。学生同士ではいろいろな学生と交流ができるメリットがある。三つは、自分が見ている世界と同じ映像を得られる疑似体験(主観性)を強めることに効果がある。HMDを使うと、適度な緊張をもたらし、逃げ場のない状況を作るので、プレゼンなど事前練習に有効に機能する。一方、VRの注意点として、異なる装置を使用することにより、VR体験が講師と学生、または学生同士の間でVR格差・VRデバイドが問題になることがある。
ここではメタバースとは、「オンラインで社会的な活動が可能な3Dバーチャル空間」と定義する。教育分野では、メタバースを使用して大学のキャンパスを再現し、高校生向けオープンキャンパスなどに活用している。また、メタバース工学部の中で、工学部のアピールをするため、1,000名以上の女子中学生を含む中高生、社会人がVR講演と実習を通じて、意欲的な作品を製作する機会が提供されている。学生のサークル活動は、メタバースを使用した勧誘活動が試みられている。英会話の授業では、教員や学生が直接VR空間に入って、海外の人と身振り、目線などを全部共有しながら話せるので学習効果が高い。また、シミュレーションが得意で、リアルでは難しい避難訓練の体験などもできる。
一方で、小さな文字の表示やリアルな体験の限界も指摘されている。
メタバースでしかできないことでは、やさしそうな顔と怖そうな顔のアバターを使用した授業を比較すると、やさしそうな顔の方が授業中の発言数が増えることが分かった。さらに、アバターを途中で切り替えることで、学生の印象や記憶にも影響を与え、授業内容をより良く覚えることが示された。このような手法は、学生の学習体験や記憶に変化をもたらす。アバターには、外見が変わると中身も変わるという心理学的な影響を持っており、アバターの外見を変えることで、行動や態度が変わる現象が観察されている。
VR体験には高性能なゲーミングPCが必要であり、同時接続数の制限やVR酔い、装着の重さなど、ユーザーとシステムの両面で課題が存在する。VR技術の信憑性を持って教育に活用するには、学生のジェスチャーや表情を正確にセンサーで取得する必要があるが、学生にそれを納得させ、その価値を説明することが課題となる。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
視覚、聴覚以外に触覚はどの程度可能なのか。 | ||
【回答】 | ||
触覚は存在感やコミュニケーションにおいて重要である。現状ではバイブレーターが主流だが、触覚の研究は進展中で、おそらくVRの次なるブームとなると考えている。 | ||
【質問2】 | ||
一人称と三人称視点で違いはあるのか。 | ||
【回答】 | ||
HMDでは一人称になるが、ディスプレイだと三人称で行う人もかなりいる。好みが結構ある印象である。 | ||
【質問3】 | ||
ゲームに慣れ親しんだ若い人に違いはあるか。 | ||
【回答】 | ||
社会的に成功した人は、フォトリアルアバターと言って、自分の見た目にそっくりなアバターを使いたいという人が多いが、若い人はアバターへの拒絶感は少なく、必ずしもリアルさを追求する必要はないと感じている。ゲーム的な要素やアニメ風のデザインが求められ、新しい視点を持つ学生たちが増えている。 |
東北大学における生成系AIに対する注意喚起発出の経緯と方針
東北大学データ駆動科学・AI教育研究センター准教授 三石 大 氏
2023年1月末から2月にかけて、教育DXの方向性や教育システムのグランドデザインを提案するデジタル教育アドバイザリ・グループによって、生成系AI(ChatGPTなど)の教育への注意喚起の検討を始め、3月末にWebサイトを作成し、教務係を通じて非常勤教員含む全教員に発出した。また、後期授業に向け9月中旬に、学内講習会(オンライン)で生成系AIに関する仕組み・技術解説、教育・学習における留意事項の説明を予定している。
注意喚起に当たっての方針として、「教員向け」には、教室内での利用制限は可能だが、授業時間外の利用禁止は現実的でないこと、演習課題やレポート課題の回答にAIが利用できることの具体例を示し、何も対策しない場合に成績評価の公平性に課題があることを紹介した。また、想定される対応策として、レポート課題に替えて、教室内での筆記試験を行うとか、解答内容のヒアリングを評価するなどを紹介するとともに、教育の質向上につながることを感じている。但し、筆記試験が適さない授業で大人数の対応方法は、検討中で皆さんの知恵をお借りしたい。「学生向け」には、コピペは学修につながらないこと、AIの出力が必ずしも正しいとは限らず、自身で確認する必要があることなどを紹介している。このような方針を他の教育機関と共有し、引用や二次利用を自由に行えるように提供している。
【質疑応答】
【質問】 | ||
文部科学省からの通達後、何か変更した点はあるか。 | ||
【回答】 | ||
文科省の通達と基本的な方針は一致しており、文科省も本学の方針を見ていたと考えられる。 |
近畿大学情報学部生成系AIに関する学生向けPosition Paper
近畿大学総合情報基盤センター長 井口 信和 氏
早い段階からChatGPTの影響を考慮して検討をはじめた。全学部における生成系AIの利用に関する方針が4月に間に合わないため、情報学部の学生向けに4月17日に情報学部長と学部長代理で利用に際しての方針を配信した。この中で、生成系AIを自らの能力を高めるために利用することを奨励している。
一方、レポート課題を生成系AIからの出力結果のみで提出することは禁止し、自ら作成した文章の校正、アイデアを練る過程で生成系AIを用いることは構わないとしている。出力結果を使用する場合は、使用箇所と入出力や使用条件を明記することを求めている。
プログラミングの実習では原則禁止とした。手を動かし自身で考えながら問題に取り組むことが学びの本質であり、それを欠くと学生の成長を損ねることになる。学生からの反応は、利用が推奨されていることで、概ね好意的である。
使いこなすスキルは、一つは何をどう問い合わせるか、質問力としてのプロンプトエンジニアの経験をさせること、二つはAIが出力する文章の真偽を見極める、批判的思考・分析力を高めるためにそれ以前の学習が非常に大事であることを伝えている。
技術者倫理、特に著作権への配慮を徹底する教育を行っている。教員に対しては、安易に解答が得られない課題の検討と、生成系AIの使用についてのスタンスを学生に伝えることを呼びかけている。全学的には9月にChatGPTの全般的な話と課題作成、問題作成にどの生成系AIを使っているかの話をFDとして開催する予定にしている。
【質疑応答】
【質問】 | ||
プログラミングの実習で禁止しても、正解が出たらわからないのではないか。 | ||
【回答】 | ||
難しい。原則禁止としたが、ヒントを得るのはかまわない。その結果、うまく動いたのであれば、自分が解決したということを伝えてもらえれば、使ってもいいかなと思う。教員間では、丸投げして正解が出るような課題は避けなければならないとしている。 |
ChatGPT等の生成系AIの使用に関する上智大学の対応と取り組み
上智大学学事センター長 池田 真 氏
2023年1月に英語圏の大学における生成系AIなどの状況を確認し、学内の「教育開発領域」という会議で議論を本格的に行い、学生の立場から課題や評価における使用の可能性を検証した。3月上旬には生成系AIに関する教員アンケートを行い、その時点で9割の教員が認識し、3割強が使用を経験していた。また、3月中旬にシラバスにおけるChatGPTへの対応・評価の仕方等を見直すようにしたところ、「ChatGPTを利用しにくい課題を設けた」、「非対面の課題による評価比率を下げた」、「非対面の課題をなくした」などの対策を考え、シラバスに反映していただいた。そのような中で、3月27日に「生成AIに対する対応方針」を発出した。
基本方針としては、本人が作成すべきものについて、生成系AIの使用は認めないとし、使用が確認された場合は厳格な対応を行う。但し、教員の指示があれば使用できるとしたが、「厳格な対応」が切り取られ一人歩きした。5月〜6月に「生成AIと上智の学び」のFDを5回開催し、延べ500名参加した。そのような中で、6月30日に「教育における生成AI利用のガイドライン」を発出した。そこでは、学生、教職員で倫理的、法的、社会的側面を含めて広く学び議論を深めて行く、より良い世界を目指す実践の活用を積極的に継続するとし、禁止だけでなく積極的に検討を継続することも明記した。また、授業科目での取り扱い方、積極的な活用の検討の明示、使用が疑わしい場合に聞き取りするなどの確認の手順も示している。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
疑わしい内容を確認する手順は、何を参考にしたのか。 | ||
【回答】 | ||
香港大学を訪問したときに聞いた。事例が1件だけあり、学生本人も少しだけ使ったことを認めた。処分でなく先生がしっかりと指導した。 | ||
【質問2】 | ||
こういう手順はとても参考になる。資料をいただけないか。 | ||
【回答】 | ||
学内で検討した上で回答する。 |
生成AIに対する大学対応
京都ノートルダム女子大学ND教育センター長 神月 紀輔 氏
「学生と一緒に考えようではないか」という姿勢を持つ中で、3月頃に取り扱いの方針について検討を始め、5月、6月、7月にFD委員会、教務委員会、ND教育センターの共同開催による研修会を教職員、学生にも参加を呼びかけ3回実施した。1回目は「生成系AIとは何か? その現状や仕組み」、2回目はユネスコの「高等教育におけるChatGPT利用のクイックスタートガイド」の解説、3回目は「生成系AIを『本学の教育で』どう活用するか」という形で対面により実施し、参加できない人には動画収録を配信した。3回の研修会の間に教員や学生自身で使用体験を重ね、理解をすすめた。6月に全学教職員集会で「生成AI (ChatGPT等)利用について」学生向け文書の原案を提示し、6月末に正式に発出した。
そこでは、全面的に生成AIの使用を禁止するのではなく、学生が特性を知った上で、活用できる部分においては、自身の学習にうまく取り入れることと、学びのプロセスや何を学ぶのか第一に考えること、レポートや課題は自分自身の言葉で作ること、個人情報の流出、著作権などに留意が必要であることを掲げた。今後は、学生が「自分たちでダメなものはダメとか考える」時間を設け、教員と情報を共有して丁寧に進めて行きたい。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
非常勤教員からの反論はどういうものか。 | ||
【回答1】 | ||
はじめは大学としてどうなのかをすごく問われた。学びの中でどう使っていくか、前向きに考えてほしいと丁寧に説明し、研修が進むにつれて理解が深まった。 | ||
【質問2】 | ||
学生たちの意識はどうか。 | ||
【回答】 | ||
ホームページにあるものがChatGPTに替わったととらえて、そのまま使うのはおかしいということは分かってきている。 |
生成系AIに対する取り組みの紹介
順天堂大学医学部一般教育准教授 川村 浩之 氏
5月に学長から、全面的な生成系AIの使用禁止はしない。但し、個人情報と機密情報の流出には注意が必要との指針が発出された。特に、医療系学部は患者情報に触れる機会が多く、慎重な取り扱いが必要とされている。レポート等を生成系AIのみで作成することは不可、情報収集や文章校正に利用は可とし、授業でのAI使用は担当教員の指示に従うべきとしている。
医学部1年生では、レポート課題の回答に生成系AIの使用を認めたところ、学生からの反応は6割の学生がAIを知っており、利点として時間の節約や質の高い文章生成、アイデアや情報の収集、学習効果の向上をあげている。AIを大学教育に許容すべきかについては賛否が分かれた。
教員向けのFD研修がローカルに行われているが、学部規模ではまだ行っていない。ローカルではAIの技術や使用方法の解説や適切な使用法、課題設定についても議論が行われている。将来的にはChatGPTを活用した実験レポートの課題添削やフィードバックシステムの開発が計画されている。また、医療系ならではの応用(医療面接シミュレーションなど)を今後考えていかないといけない。
【質疑応答】
【質問】 | ||
1年生のアンケートは、意識が高い学生が多すぎないか。 | ||
【回答】 | ||
問題点の注意を行った後のアンケートであることと、医学部生は受験の時に総論を書くことを訓練されているので、AIに頼らなくてもよいという意識がある。 | ||
以上の説明を受けた後、分科会参加者(教職員47名)に質問し、各大学としての対応について、挙手で傾向を打診した。 | ||
① 生成系AIについて、大学の指針・考え方を公表している大学は、約8割近くであった。 ② 生成系AIの利活用を禁止している場面として、 * レポート・課題提出に生成された結果をそのまま使用することを禁止している大学は、約7割であった。 * 製作物の生成結果をそのまま使用することを禁止している大学は、約3割だった。 次いで、教員個人の受け止め方について、挙手で傾向を打診した。 ③ 授業で生成系AIを使うことを考えているは、約5割強であった。また、使用場面としては、 *「アイデア出し」全員、「論点・課題の洗い出し」約6割強、「情報取集」全員、「翻訳の点検」約8割強、「プログラミングの点検」約6割、「デザイン・曲などの政策」約2割近くであった。 ④ 誤情報、偽情報の確認方法を授業又は大学で紹介しているのは、約6割であった。 ⑤ 著作権侵害の確認方法などの紹介を授業又は大学で紹介しているのは、約2割強であった。 |
生成AI 踏まえたデジタル人材育成施策の改訂について
経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課調査官 島田 雄介 氏
経済産業省では産業全体の競争力強化や社会の課題解決を図るために、「企業のDX推進」と「デジタル人材の育成」を推進している。日本の DX が遅延している要因は、担い手不足で、量的にも質的にも人材ニーズの増加に供給が追い付いていない。その課題に対応するため、経営層を含む全ての企業人が見につけるべき知識・スキルと、新たな価値を見出すために必要なマインドスタンス(意識・姿勢・行動)を「デジタルスキル標準」として整理し、DXを自分ごととして捉え、変革に向けて行動できるよう、学びの指針を提示した。また、企業のDXを戦略的に推進するために、具体的に求められる人材類型(ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティ)を掲げ、それぞれの役割・責任を体系化した「DX推進スキル標準」の指針を策定した。
一方、生成AIの出現は、各企業におけるDXの進展を加速させ、企業の競争力を向上させる可能性があることと、求められるデジタルスキルも変化していることから、デジタルスキル標準(DXリテラシー標準)について見直しを行い、8月に一部改訂した。
一つは、生成AIを積極的に使っていくことが望ましいとし、生成AIツール、プロンプトの指標を学習項目に追加した。二つは、注意すべき点として、情報漏洩、法規制などに正しく対処しながら利用することを追加した。三つは、マインド・スタンスのところで、「問いを立てる」「仮説を立てる・検証する」というスキルも生成AIと共同していくためには必要であるなど、改めてリテラシーの中で発信した。今後も状況等を見ながら、このスキル標準も適宜適切なものとするようにして、人材育成の指針として活用していただけるように取り組んで行きたい。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
日米間の人材の格差は、情報社会・情報技術に対する教育が遅れていたからとみられるが、高校での「情報」、大学でのデータサイエンスの教育は、解決への一つの対策と考えられるか。 | ||
【回答】 | ||
過去、日本ではデジタル関係への投資が少なく、ITベンダーに頼ることが多かったが、外部に頼らず自社でデジタル化を進めることが重要になってきた。高校、大学での教育によって、デジタルの知識を付けた人材が輩出されることは好ましく、他省庁とも連携しながらデジタル人材育成の拡大に取り組んでいきたい。 | ||
【質問2】 | ||
文科系学生のITマインド、ITのスキルセットの育成に経済産業省の考えはどうか。 | ||
【回答】 | ||
理科系人材がまだ少ないこともあるが、文科系含めて文部科学省との連携、具体的にはデジタル人材育成協議会でさまざまな施策を検討しているところである。 |
社員が様々な業務に活用
パナソニックコネクト株式会社IT・デジタル推進本部戦略企画総括部戦略企画部シニアマネージャー 向野 孔己 氏
国内の全社員にChatGPTとGPT-4をベースとしたAIアシスタント(ConnectAI)を展開している。AIアシスタントを始めた理由は、業務生産性の向上、社員のAIを使いこなすスキルの向上、シャドーAI(外部のAI)利用リスクの軽減を目指すため、社内で使えるAIのサービスを提供する必要があった。
利用に当たっての注意事項は、回答が正しいとは限らない。最後は社員が判断する。成果物ではなく、あくまで参考情報として扱う。情報は最新ではない(ChatGPTは2021年9月まで)ので2年間欠落している。公開情報で学習しているので、社内情報は回答できない、英語の方が正確な回答が返ってくるなどとした。
活用方法は、「聞く」と「頼む」に分け、「聞く」ではアドバイスを聞く(例えば、会議進行のアドバイス)、専門知識を聞く(例えば、サブスクのサービス開発に法務面の注意点)、アイデアを聞く、ITサポートを聞くなど。「頼む」では、判断を頼む、文章作成を頼む、資料作成を頼む、翻訳とプログラムコードの作成を頼むなどがある。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
社員の使用頻度や使い勝手などの評価はどうか。 | ||
【回答】 | ||
AIの回答に対する評価結果は、5点満点中3.6点で72点、最新モデルのGPT4は4.2点、84点と非常に高い評価になっている。 | ||
【質問2】 | ||
生成AIを使うにあたり、企業としては学生がどのようなスキルを身につけることに期待するか。 | ||
【回答】 | ||
AIが非常に高度な回答をするので、それが正しいかどうか、判断できる知性と知識を身につけていただきたい。 |
化学素材の新規用途の探索に活用
三井化学株式会社DX推進本部DX企画管理部データサイエンスチームリーダー 向田 志保 氏
自然言語処理を含む人工知能技術の発展と生成AIの登場によって、論文の内容そのものの分析がより簡単に実施できる環境が整ってきた。化学実験や材料開発など、多岐に亘る領域で新たな可能性が開拓されており、生成AIの進化はこれらのタスクの精度向上だけではなく、新しい化合物の提案や材料の特性予測など、高度な用途の利用事例が増えている。三井化学では、素材の新規用途探索や新規対応探索に注力しており、論文に加えて、ニュースやSNSなどのマーケティング情報を加味して顧客のニーズを分析することを試みている。例えば、食品包材を電子部品に使える、建築材料が半導体に使えるなど、ピンポイントで用途探索や材料開発などに結び付けられる。
ChatGPTの大きな問題としては、2021年9月までの情報しかないので、外部ソースへのアクセスができない。多種多様な大規模言語モデルを活用して、ドキュメントセット、公開データベースなどのアクセスを速やかに許可することで思考の連鎖を示させ、どこでつまずき間違えているのかが確認しやすくなった。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
プロンプトエンジニアリングを駆使して、AIが収集したデータをAI自身に見直させて、間違っている可能性を見つけ出せるための事例の質問を考案したというが、その成果はどうか。 | ||
【回答】 | ||
ChatGPTでほぼすべてのケースでハルシネーションを防ぐことで、間違ったデータを特定することができるようになり、精度の高い文章、回答を得られるようになった。 | ||
【質問2】 | ||
信州大学の学生にChatGPTを活用したレポート作成を課しているが、適切に作成されていたのか、何か特徴的なようなものは見出せたか。 | ||
【回答】 | ||
誰でもできる、難かしい式が不要などの感想があり、今後研究室に配属されたら取り組みたい様子だった。ただ教員が使用を止めたりする場合もあるようで、そこは世代間の考え方の違いがあり、難しいところではあると思う。 |
やってTRYプロジェクトの紹介
アサヒグループジャパン株式会社Data & Innovation室 服部 怜奈 氏
生成AI技術が業務に溶け込む時代の到来を想定し、「ジェネレーティブAI『やってTRY』プロジェクト」を立ち上げた。業務効率化、潜在ニーズの掘り起こしや理解、商品開発やサービスの創造につながる可能性が高いため、生成AI関連の商用サービスを使い、業務への有効な適用や効果創出の可能性を探っている。プロジェクト参加者からは、「自身のバイアスを排除して思考を巡らせられる」、「論点を整理した指示をすると適切で現実的な回答が得られるなど有益な意見もあったが、事実と数値が違う、漠然とした質問には適切な回答が得られない」などの声も寄せられている。AIへのプロンプトの例文、不得意な分野や禁じ手の事例などを示した利用ガイドを配付し、指示文から画像を生成できるAIを提供しており、最新版でのGPT-4の提供も検討中である。全社員がWeb検索をするような感覚で生成AIを活用できる環境づくりを目指している。
【質疑応答】
【質問】 | ||
学生に対して、何かしっかりやっておいたほうがよいというアドバイスはあるか。 | ||
【回答】 | ||
AIを使う側として、技術的なことはいらないが、AIの回答を見極める力、論理的な指示文を作成する力、つまり論理的に構造的に物事を考えて組み立てる力を養ってほしい。 |
ChatGPTで英語教育の在り方を探究
立命館大学生命科学部教授 山中 司 氏
ChatGPTのもたらす影響について、英語教育において大きな変革が起こっている。日本人は母語話者(ネイティブスピーカー)のような直観(native intuition)を持っていないので、中間言語(interlanguage)の状態に留まっていることが英語教育の課題となっている。ChatGPTを活用することで、ネイティブと肩を並べられるだけの表現を手にすることができる可能性が出てきた。また、単に答えだけを提供するだけでなく、個々人の英語能力に合わせた個別最適化の学びが実現できそうになっている。さらに、解説までしてくれることから、いつでも答えてくれるので、教員よりも非常に役に立つ。
ChatGPTの出力(表現)を自分のものにすることで、生身の英語を使ってコミュニケーションする、自分では考えられない高度な英語表現に触れ、自分のしたいことを経験させる中で、自分の英語力を高めていく可能性がある。加えて考えられるのが母語の復権である。生成AIを使って母語の直観を英語表現に変換することが可能になってきているので、日本の学生が自分の言語感覚を活かして、高度な英語表現を生み出すことができ、新しい世界が広がっていくが、このような学習の仕方に教育現場でも混乱も起るだろうと思う。
最後に、将来の英語テストにおいても、生身の英語力を評価することの重要性は変わるものではない。ChatGPTのようなツールを活用することで、コミュニケーションの中で英語力をつけていく教育が、今後は実現できる可能性があると考える。
【質疑応答】
【質問】 | ||
外国語教育全般を担当する教員の今後について。 | ||
【回答】 | ||
教室設計や環境設計などの点で引き続きニーズがあると考えるが、現在必須となっている英語教育の在り方については、今後議論されるかもしれない。 |
模擬授業を考えるグループワークにChatGPT使用
甲南女子大学文学部准教授 | 高尾 俊介 氏 |
山下 香 氏 |
ChatGPTを活用したメディア表現学科における「メディア表現発展演習1」では、プログラミング、ジェネラティブアート、建築計画、まちづくりなどを専門とする教員2人が共同で担当し、70名程度の1学年で実施している。授業では、「メディア表現」に関連する授業テーマを学生が選定し、そのシラバス作成や模擬授業の計画立案にChat GPTを活用した。授業の流れとして、まず、フェーズ1で学生たちにはChatGPTや学生同士のグループワークを通して15回の授業計画を作成させた。テーマとしては、メディア表現の中で開講されている授業などを参照しながら、学生にとって興味をひいたり、直接的な学びになったりする授業を学生が検討する。次のフェーズ2で学生に模擬授業を実施させた。フェーズ1・2の中で、ChatGPTを個人又はグループの中で活用しながら、グループワークの中に1人AIがいるような形で、シラバスの作成、模擬授業を計画立案した。
学生アンケート結果では、ChatGPTはグループ作業では全員が役に立ったが、個人作業では活用に至らなかったという学生がいた。自由記述では、例えば「何度も応答していくうちに、グループでの議論をきっかけとしてアイデアを出してくれるのが役に立った」、「本質的には人間が頑張る感じだ」というような答えがあり、役に立った場面と立たなかった場面が半々のコメントが見られた。
今後注目されるのは、AIに対応した思考プロセスであると考える。また、人間に、今後求められていく能力としては、アイデアを形にしたり、それを社会の中で実装したりする力ではないかと考える。このような気づきを今後の生成系AIを活用した授業の取組みに反映していきたい。
【質疑応答】
【質問】 | ||
仮想の学生を想定させたChatGPTを含めて行うグループディスカッションについて、詳しく説明してほしい。 | ||
【回答】 | ||
グループディスカッションにおいて、ChatGPTに登場人物として複数人の視点を提供してもらい、複数のAIの登場人物を含めたディスカッションを行うことになる。 |
職員の働き方改革宣言(ビデオ講演)
上智学院人事局人事グループ主幹 千野 雅裕 氏
学校法人上智学院では、2020年4月から若手・中堅層の職員20名程度で、部署横断型プロジェクトとして5つのチーム(意識改革・行動変容、学生対応、環境・制度・モチベーション、ICT活用、業務分析・業務の見直し)に分かれ、建学の理念のさらなる実現を目指して検討を進め、同年12月にプロジェクトチームからの提案を受け、「職員の働き方改革宣言」を決定した。それを具体化するアクションとして、14の取組みを掲げ、全ての活動が学生支援に繋がることを、職員一人ひとりが認識できるように作成した。
プロジェクトの活動について、2020年度と2021年度では、例えば各年度でアンケートをとり、職員が実際にどういうことを考えているのかなど確認を行うとともに、そのアンケート結果をもとに電子決裁システムを提案・導入した。2022年度では、課題となっていた教職員会のコミュニケーションの活性化策として、教職員交流会の実施、創立記念行事プログラム「働き方から上智を考える」を実施する中で、教職員が相互に考えていることを理解し合う、課題認識の共有も行った。
会議運営の工夫としてのペーパーレスでは、最初にiPadでペーパーレスをはじめた。次いでコロナ禍でのオンライン会議への導入により、役員会を中心に議案の収集、資料の共有化を進め、ペーパーレスも同時に実現した。また、コラボフローとしての電子決裁システムの取組みでは、自分の部署で運用・改善できる使い勝手の良いシステムを導入した。3年を超えて帳票数では1万件以上の利用があり、現在はコラボフォームを使う学生対応の充実を構想している。
意識改革・行動変容を進めていくキーワードは、信頼と傾聴が重要で心理的安定性が確保されていることが全ての意識改革の基本になると考えている。働き方改革を何のためにするのかについては、職員自らの働きやすさ・ワークライフバランスだけではなく、職員一人ひとりの働きがいを改革することで、教育研究活動の推進を図り、選ばれる学校法人にあり続けるため、職員の意識を本気で変えることが何よりも大切と思う。
国際交流業務のDX取組みと展望・課題
桜美林大学国際交流センター課長 中村 文武 氏
国際交流分野でDXが必要な背景は、一つは、学園の方針で国際的に通用する大学となることを目指し、国際交流の人口が増えてきた。二つは、働き方改革の一環として、キャンパスの多拠点化に伴う各拠点の強みを発揮していく上で、情報共有できる環境を整えていく状況にあった。三つは、全体的な支援システムが汎用化する中で、多様化する学生ニーズにどうやって大学の強みを探っていくかという二律背反的な課題に対応していく状況にあった。
複数拠点での業務遂行体制を構築するために、紙の申請書類をなくし、データベースを一元化することで、教職員が共有する環境に期待を込めて、デジタルツールに移行した。国際業務は、学内外のステイクホルダとの調整を図りながらすすめていくことから複雑になりがちで、シンプルなワークフローにすることで学生に利益をもたらせることを期待して、2015年に留学関連業務のDXを推進することになった。
留学生向けのデータベースとして、クラウド型のプラットフォームにsalesforceを導入した。クラウドに移行して実現できたことは、留学管理情報が一元化された(在籍管理、危機管理、プログラム管理)、外部決済サービスと連携して請求・入金管理がシンプルになった、協定校との協定書管理が簡単になり、統計が取りやすく業務の汎化が進んだ。反面、まだ実現できていないこととして、一つは、自分の国際交流体験が4年間の学びにどう繋がってきたかを学生自身が分析できるようなデータの見せ方・活用、二つは、学内で保有する様々なデータをつなぐことで、どういう学びを積むことで国際経験ができるようになるのか、ストーリーが見えるように今後は進めていきたい。書類をデジタル化し、組み合わせてワークフローを組んでいくというところまでデジタル化が進んできてはいるが、学生が自分で国際交流体験を豊かなものにしていく、そういう行動変革を促していくところまでできるようになってから、初めてDXなのかと感じている。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
留学支援という汎化が難しい領域で、DXにはどのようなシステムを利用し、独自の開発を行ったのか。 | ||
【回答】 | ||
アジャイル開発のできるセールスフォースのシステムの最大のメリットを活用しながら、ニーズに適切に応じた開発を進めてきた。 | ||
【質問2】 | ||
2015年からのDXは早い動きであるが、どんなきっかけでDX推進をスタートさせたのか。 | ||
【回答】 | ||
私自身が前職でWebデザインをしていた経緯で、業務改善のためにWebフォーム導入したことがきっかけとなり、効率化を実感したことから、徐々に学内でも浸透して理解されるようになって拡大した。 |
デジタル技術活用プロジェクトと業務自動化(RPA)の事例紹介
滋賀医科大学情報課主幹 石田 宙久 氏
大きな業務削減を期待してRPAの運用を開始して4年目を迎えているが、さまざまな問題が発生して、試行錯誤しながら運用してきた。RPAの運用実績としては、令和4年末で年間2,636時間まで削減時間が詰みあがっており、ロボットの稼働本数は44本になる。費用対効果は、ソフトウエアライセンスに比べ削減効果が120%まできた。
RPAで発生した問題と解決策では、・RPAのコスト問題で、サーバー型の高額な製品を導入したため、各ロボットによる業務時間の削減効果は小さく、費用対効果の実現が困難な状況に陥った。解決策としては、無償版RPAの導入を進めた。・引き継げないロボットが多数出てきたという問題で、RPAの開発量が多いと引継ぎに問題が起きるので、簡素化して運用していくことが大事。事例としては、会計伝票のエラーチェック、科研費に関するメール送信、問い合わせ情報の可視化などがある。
国立大学には文部科学大臣の認可を受けて進める第4期中期計画の中で、令和4年から9年までの6年間で1,080時間の業務量削減という目標があり、AIやRPAなどのデジタル技術を活用した業務改善を掲げている。12部署17名の事務職員が理事直轄のプロジェクトとして活動しており、各自で1つ以上のデジタル技術を用いた開発を行い、現在748時間の業務削減を行い72%達成している。今年度は、繁忙部署に特化した業務改善に取り組んでおり、対象業務の選定、改善案の検討を行っている。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
「デジ活」のメンバーと、参加のモチベーションはどのように形成されたか。 | ||
【回答】 | ||
第4期中期計画の目標もあり、開発に協力していただけないかということを、各課長にお願いして回り協力いただいた。若手の職員の方でRPAに興味がある方、スキルアップにもつながるということを説明して、参加いただいた。 | ||
【質問2】 | ||
RPAの活用を人事異動が発生したときに、スムーズに引継ぎする工夫をされているのかどうか、事例を伺いたい。 | ||
【回答】 | ||
事務局で一旦引き取って、また新しい方が来られたらお伝えするというような形で、対応している部署もある。 | ||
【質問3】 | ||
今後、病院のレセプトにPRAでチェックするなどの構想があるかどうか。 | ||
【回答】 | ||
病院でもRPAの活用は行われている。聞いた話として、病院の朝に印刷する帳票を夜中に印刷して、朝の作業を楽にするロボットであったりとか、病院の患者数を統計して毎日、病院長に提出するような業務も自動化し、メールでレポートが送られるようになっているとか、電子カルテを使って自動化し、いろいろなファイルを出力している。 |
一人ひとりの個性を伸ばす目標・学修支援DXの取組み
日本経済大学業務推進部長、准教授 田代 雄三 氏
「個性を伸ばす」教育を大切にしているが、どんな学生なのかデータがなく、学生データの集計・分析が未整備、教育方法にデジタル活用の余地があるなどの課題があり、デジタルを活用することで、個性を伸ばしていく教育を新しく考えられるのではないかと判断した。学生一人ひとりの目標を見える化、実行を支援するために、個別最適な学修を支援するアプリとして、2022年に「日経大PEAK」の開発に着手し、2023年現在稼働している。
教育にデジタル技術を使う目的は、①学びの実績を積み上げ、就職の質向上を目指す。②中退率の減少を掲げている。具体的には、就職の質向上に向けて、学生にスマートフォンで学期ごとの目標を設定させ、進捗管理を行い、教職員や友人が後押しをしていく体制をとっている。中退率の減少には、学生の出席や成績の悪化をデジタルで自動検知し、学生にアラートを出し、アラートの出た学生に担当教員が支援を強化する仕組みを設けている。
アプリ利用率を向上させるため、全員が所属するゼミで強制的に使用している。また、授業の出席や目標の完了などでポイントが加算されるPEAKポイントも導入しており、活動指数として捉えている。さらに学生の活動を評価し、共有する仕組みが整備されている。このアプリは、まだ結果が出ていない段階であり、中退率や就職にどれだけ貢献できるかは確定していないが、数千の目標が登録され、新しい教育方法を開発・実施する機会となっている。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
個人のプライバシー侵害に懸念を持つ学生に、どう対策されたか。 | ||
【回答】 | ||
入力したものは、他の学生に見えないように制御をかけている。内容的にセンシティブと思われるようなものは、センシティブ情報として別枠で入れられるようにしており、システム管理者と、入れた人しか見られないようにしている。教員が交代して引継ぐときは見られるが、教員にも見られたくない場合には見えない所に入れるよう管理している。 | ||
【質問2】 | ||
学生同士が見られない理由は、何かあるのか。 | ||
【回答】 | ||
お互い刺激になって、いい面もあるかと思ったけれども、プライバシーがあるので、見せるとしたら、クラスの先生が、個人名が見えない形で、目標を皆で共有するようにしている。 | ||
【質問3】 | ||
就職の質まで向上できそうな、手ごたえはあるのか。 | ||
【回答】 | ||
質に関しては、何らかの指標、例えば、上場企業の就職の内定者数とか、3つくらい指標を組み合わせて評価を考えている。学生が満足して決めたというよう結果を増やしていきたい。それにつながる手ごたえというと、学期の最初に自分で目標を明確にしておくことで、将来に向けたところでは役に立っているのかなと思っている。どれだけ授業で使われたとか、資格取得者数など見えるようになってくると、手ごたえが期待できる。始まったばかりで追跡していく。 |
学修課程・成果の可視化を目指した医療系DXの取組み
東京医療保健大学学長戦略本部准教授 西村 礼子 氏
医療系教育DXを推進することが、目的なのではなく、医療系実践能力の向上をどのような目標と評価と方法で行うかという一貫性を保証していく仕組みをこの医療系DXで目指している。具体的には、コンピテンシー基盤型教育で何が実践できるようになり、医療の対象者にどのような成果がもたらされたのか、医療職の知識・スキル・態度が育成されてどのくらいの生涯学習能力に繋がったのか、それらを可視化することによって、どのような医療の質保証、教育の質保証、社会へのアカウンタビリティを発信できるのか、ミクロの段階からマクロの段階で教育評価を行っていく必要性があると考えている。
そのような経緯を踏まえて、3か月前にDXを取り入れ、スマートキャンパスの構築を目指して、教育DX、研究DX、事務DXをどのようにDP、CP、APに落とし込んで学修データを評価していくか検討を進めており、学修成果と実践の一貫性のある教育と評価のスキーム作成を重要視している。
DXをすることで、教育デザインが学生に可視化されやすいように、一律のものを提供している。科目と単元のデザインの可視化を行い、学修者や教職員がそれぞれの点数や出席状況を一覧化し、可視化する方法や、DPの重み付けに基づくルーブリックを学年・科目ごとで行う仕組みをつくる。それぞれの出席状況のログ、さらにはDPに達成状況をレーダーチャートで可視化し、教員と学生がインタラクティブにコメントを書けるような仕組みも用意している。知識だけでなく、バーチャルシミュレーションを取り入れ、パフォーマンスレベル評価も重要視している。実際の授業動画を公開し、学生自身の自己評価、学生同士の相互評価、教員の他者評価、教員・学生の相互評価の形で、ログや評価が行われるような仕組みを取り入れている。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
学生のDPの達成度も分かってくると、場合によってはDPを変えるとか、組み直すなどの観点から大切だと思うが、そのようなレベルに取り組まれているのか。 | ||
【回答】 | ||
DPの各学年等に落とし込んだマトリクス表を作り、各科目で何パーセントかを、DP1から5まで配分して教授会で決定し、今この機能を搭載したところになる。取組みが始まって2年目なので、カリキュラム改正までには繋がっていないけれども、学習評価に基づいたカリキュラム改正、カリキュラム評価を狙っている。APやCP、DPに反映されていないと、入学した学生がこのDXの取組みについていけないといった評価が、アンケートレベルであった。各学部、各学科で今後カリキュラム評価に落とし込んでいく必要性があるというところで、大学ビジョンにDXを追加した経緯がある。 | ||
【質問2】 | ||
DXに基づいた、学生の意識改革を取組めているようでしたら、何か教えていただきたい。 | ||
【回答】 | ||
新入生オリエンテーション時に、DXのオリエンテーション時間を、4日間に分けて6時間とっている。PCサポートセンターの方々も含めて、リテラシー能力をあげられるような仕組みを設けている。さらに、4月と5月に参加型、任意型にはなるが個別補修も行いっている。 | ||
【質問3】 | ||
DXの取組み以前の学生と、何か違いが出てきていることがあれば紹介いただきたい。 | ||
【回答】 | ||
大学としてそのレディネスに差がある状況で、情報収集能力は情報を要約するといったところは力がついてきているのではないかと、科目レベルのアンケートでは出てきている。 |
DXによる時間・場所の制約を超えた学びの場創出の取組み
金沢工業大学学長補佐、工学部教授 鈴木 亮一 氏
「時間と場所の制約を超えた学びの創出」の目標として、①対面と遠隔の授業を最適に融合するため、デジタル教材やシステムを制作し活用する。②実空間と仮想空間を融合した実験・演習で学生の学習意欲と満足度の向上を目指す。③産学連携プラットフォームを活用した分野融合型教育の推進で、大学を越えたPBLを目指すことにしている。
期待している効果として、対面と遠隔双方のメリットを活かした効果の高い授業運営ができる。対面と同様の臨場感ある学習環境を構築して積極的なコミュニケーションが生まれ、学ぶ意欲が向上する。専門分野が異なる学生、世代の異なる社会人、海外の学生と多様性あるチームをつくり、問題発見から解決策を考えるPBLの経験ができることを目指している。
具体的な学修環境として、多地点を等身大で接続するシステム、ヘッドマウントディスプレイなどのVR・MR機器、教員の動きに合わせて自動追尾カメラが追従するシステム、自宅にいるけれども教室にいるような感覚で授業が受けられるハイフレックス授業ができる講義室、PBLがしやすい演習型教室、SA・TAが学生の進捗状況をタブレットで情報共有するシステムなどを整備した。実空間と仮想空間を融合した実験環境を作ることにより、学生一人ひとりが仮想空間の中で、実験装置を作るとか、仮説を繰り返し検証しながら実験ができるようになり、学生の評価も高く、実験ではいい成績をとる学生が増えた。また、oViceというソフトを活用しながら、仮想空間で学生の指導ができるようになり、オフィスアワーに質問に来る学生よりも増えている。
産学連携プラットフォームの活用では、「学都金沢」のブランド確立を目指して、石川県の私立大学が個々の大学の特長を活かし、学問分野を超えて連携教育を実践する場を構築している。実際に等身大の接続システム等々を活用しながら、3大学で共同PBLを実施している。さらに、海外大学とのPBL、他大学の共同研究を計画している。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
デジタル教材を利用した実験で、教材の導入後の成績分布でいい成績をとる学生の割合が増えた原因として、DXの何が有効だったのか。 | ||
【回答】 | ||
一つの実験機器を6人・7人で共有していたが、DXでVRをチームで2台から3台自由に使えるようにすると、実験に関係しない学生は仮想空間の中で実験してくれるようになり、効果があがった。もう一つは、従来実験する場所に行かないと実験できなかったのが、私の研究室、他の場所で実験できるようになった。VRの仮想空間の中でもう一度実験したいと来てくれる学生が増えた。学生に連携のモチベーション、実験現象観察のモチベーションが向上し、成績が上がったのではないかと考える。 | ||
【質問2】 | ||
実験でパラメータを自由に変えることができることも、一つの特徴としてあげられていたが、学修効果として上がったことはあるのか。 | ||
【回答】 | ||
それもあると思う。学生たちが場面要素の設定が違うのではないかとか、他のパラメータ違うのではないかという疑問をもって、自分たちでパラメータを調整して実験をシミュレーションし、自分の仮説などを確かめて、レポートを書く、考察するとところにDXを導入することで、影響が表れたのではないかなと考えている。 |
DXによるバーチャルクラスデジタルラーニングの取組み
広島大学情報メディア教育研究センター長 西村 浩二 氏
DX推進基本計画を令和2年度に策定し、3年ごとに更新している。基本計画は、10年後のデジタル環境を見据えた長期的な基本方針と3か年で優先して実施する5つの全学的重要事項から成っている。特に、教育DXでは、学習者への効果的なフィードバックと教育方法の改善等の利活用が期待できる成果として掲げられ、「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」の補助を受けて、次世代オンライン教育を実現する「バーチャルクラスルームデジタルラーニング(VCDL)」環境の構築とDXで拓く新しい教育方法の実現に向けた取組みがすすめられた。
具体的には、大学に来ることなくバーチャルクラスルームを構築し、その中で学びを支えるLMSをGoogle Cloud上に構築し、連携大学間での教材の共有ができるmoodleへの移行など、LMSの増強・拡張を図るとともに、教育・学習利活用ポリシー等の策定、動画コンテンツの作成などを整備した。その上で、大学連携による開発により、VR を含むデジタル教材を使った効率的・効果的な教育の展開や、開発したVR教材を使った県内初等中等学校教育の支援、障害のある学生への特別支援教育指導者育成プログラムの展開等の取組みが進められている。
VR教材の活用では、特に、医療系の臨床能力試験のトレーニングをVRで行う世界初の試みや、画像診断装置で体の中を透視しながら、カテーテルなどで治療のトレーニングを行うVRシミュレーターを開発するなど、新しい教育方法の実現に向けたアプローチが進んでいる。計画は3年ごとに進捗がまとめられ、事務の効率化や大学のIRデータの整備なども実施されている。
【質疑応答】
【質問】 | ||
補助金を導入して、ソフトウエアなり、ハードウエア入れたりすると、少なくとも5年程度の継続性が必要になると思うが、予算はどう考えられているのか。 | ||
【回答】 | ||
クラウドサービスを使って行くには、コストがかかってくるので、大学上層部に認識をしていただけるよう、DX計画の中にきちんと盛り込んでいく。かなり高度なVRの教材を作ると、コストが非常にかかり、継続性が問題になってくる。今後は、汎用的で長期間使えるような形に作るとか、大学構成員による教材開発のサポートを重要視している。 |
神奈川大学学長補佐、法学部教授 中村 壽宏 氏
著作権法は、デジタルコンテンツを作った著作者等と著作物の利用を許された利用者の全体を著作権者として、権利者保護と権利制限による利用促進の二本柱となっている。保護の対象となる著作物は、法律で、著作者人格権、著作財産権、著作隣接権となっているが、大学教育では著作者人格権、著作財産権が重要である。著作者人格権は、コンテンツを作った人にだけ生じる権利で、出版社や学会等に譲渡することはできない。著作財産権は、著作物にかかる経済的活動を他者から妨害されないための権利で、コンテンツコピーの複製権、ネットを使って著作物を配信する公衆送信権などがあり、著作者から他人に譲渡できる。
保護される著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの」となっているが、思想や感情表現の判断は難しいので、他人が創作したものは全て著作物と思ったほうがいい。著作物に当たらないものとは、誰でも思いつくありふれた表現、他人の創作物の模倣、単なるアイデア、憲法その他の法令、パブリックドメインなど。保護される期間は、著作者人格権は死亡によって消滅するが、著作財産権は70年間遺族によって相続される。
一方、利用者は他人の著作物を様々なシチュエーションで利用できる。特に、教育関係では著作権法35条で授業目的に利用する場合は、著作者の許諾を得ずに利用できる。但し、複製や公衆送信又は伝達の態様に照らし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合には、この限りではないとなっている。例えば、本からかなりのページを複製し配付する、購入が前提となっているテキストや問題集の複製は不当に害する例となっている。公衆送信では、他人の著作物をサーバーにアップロードし、教室内の学生に配付する場合や、学生が好きな時にデータをダウンロードして勉強する異時授業公衆送信も35条に基づく補償金制度によって無許諾で利用できる。また、授業外で大学が他者の著作物を管理している場合、経年で利用するなどの場合にも補償金の支払いが必要となる。なお、他人の著作物をLMSに教員がアップロードすることは授業利用で、機関管理には該当しない。
補償金の支払いは、大学が毎年5月1日の在籍学生数に720円と消費税を掛けた額をSARTRASという団体に支払う。プールされた補償金はSARTRASの活動に伴う経費を除く残額が全部著作者に分配される仕組みになっている。他方、補償金の分配は、全ての大学で著作物の使用状況を調べているわけではなく、一部の大学に対して使用状況の報告を依頼し、その結果を踏まえて、フェルミ推定(実際に調査することが難しい数量や規模をいくつかの手がかりをもとにしながら、論理的に概算する)を行い、出版社などの分配業務受託関係団体を経由して補償金を分配しており、全ての著作権利者に分配されていないという最大の問題がある。
生成系AIに関する著作権法上の問題としては三つの問題がある。一つは、AIが情報解析のために利用する場合は、著作権者の許諾は不要として、早い時期に著作権法を改正している。しかし、他人の著作物をパターンとして蓄積する場合、画像生成系AIでは問題となるので注意が必要。二つは、他人の著作物をそのままプロンプトとして、生成AIで要約するような場合は、著作物性はないが、プロンプト自体に創作的な意見を入れた場合には、著作物性があると考えられる。三つは、出力結果にプロンプトを投入したユーザーの思想・感情が反映されている場合は、ユーザーの著作物となる。しかし、そういうのが考えられない場合は、単なる操作者にすぎない。また、誰かが作った生成AIの出力が似ている場合は、絶対にこれを踏まえて作られているだろうという依拠性が要件になるので、証明されないと著作権侵害とは言えない問題がある。
京都産業大学法学部教授 嶌 英弘 氏
生成AIの学習利用に際して、気を付けることは、社会に出て生成AIを使うことになるので、ビジネスベースでの著作権規制の概要を認識している必要がある。例えば、EUと取引のある企業に学生が就職した場合には、AI利用の包括規制法を成立させていることから、生成AIを使った文章や画像にAI製でであることを書かなければいけないなど、基本的な著作権の仕組みとChatGPTの適切な使い方について、教員も含めて学習していかなければいけない。
学生が著作権侵害をするような行為をどんな場合にするかという視点から見ていくと、一つは、生成AIを利用してそのまま文章や画像を授業だけに使っていたら問題はないが、SNSやホームページで公表する、自分の著作物として利用する場合には、既存の著作物との類似性、依拠性があれば著作権侵害になる。二つは、学生が自分で書いた文章の一部に生成AIで出力した文章を切り貼りし、類似性と依拠性が認められる場合がかなりあると思う。
生成AIの特徴は、引用の部分は全く明示されないので、部分的な利用であっても著作権侵害の危険は出てくる。どのように回避するか難しいが、一つの技術的な方法として、生成AIが出力した文章をアプリにかけると、元になった依拠性のデータを追跡して表示するシステムも開発されているようなので期待できるが、今のところやはり難しい。三つは、画像の生成AIに一番問題が生じやすい。キャラクターなど全く同じではないけれども、非常に類似画像になることが多い。例えば、プロンプトの中で「トトロと似たって」指示した場合には依拠性がある。これを自分の名前で公表し、利益を得たりすると、スタジオジブリの同一性保持権侵害になるのは明らかで、学生が一番やりかねないような例と思う。
今の段階では、各大学が生成AIの学習利用の指針を作り、公表しなければいけないので、走りながら指針を作り、走りながら修正していくことになると思う。いずれにしても、学生も教職員も著作権教育を大学として行っていくことが急がれる。
オンライン「インタカレッジ民法討論会」
京都産業大学法学部教授 嶌 英弘 氏
「インタカレッジ民法討論会」は、コロナ前は対面で毎年開催してきたが、2020年度と2021年度はオンライン形式で実施した。この討論会は、教員が事例問題を提出し、各ゼミの学生が問題の解決に向けた法律論を立てて報告し、立論の適切さ、論理構成を他大学の学生から質疑を行い、個々のゼミだけでは実現できない大規模なオンライン共同学習を行うもので、真剣にならざるを得ない。学生の主体性向上のために、報告内容に関して教員は一切助言や指導を行わない。学生の報告後に教員間で同じ問題について討論を行い、学生に参加させて多角的視点からの評価の重要性を認識してもらう場としている。
オンライン討論会では、Zoomを用いて画面共有、ブレイクアウトルーム、チャット、ファイル送付、録画機能等を活用して行った。こうすることにより、学生の相互交流ができるだけでなく、学生の論理的 思考、文章作成力、プレゼンテーション能力が向上した。また、その後の学生の学習活動や就職活動にも役立っている。今後の課題と展望としては、討論会のノウハウを法学関係以外の大学教育全体に公表共有することと、全国規模の大学が参加できるようハイブリッド形式の検討を行い、参加大学以外への学生、教員の参加と、報告に対する評価の投票にも参加できるようにすることで、一層開かれた教育の場の提供を考えている。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
発表する学生は何年生か。 | ||
【回答】 | ||
3年生が中心であるが、2年生が発表することもある。但し、評価に関して学年は関係なく同じ基準で評価する。2年生で発表した学生が次年度に3年生として発表する場合もあるが、発表のレベルが向上していることが多い。 | ||
【質問2】 | ||
オンライン討論会には、どのような人が参加しているのか | ||
【回答】 | ||
討論会には、発表するゼミの学生、教員の他に、上級生や下級生、卒業生も希望があれば参加できるようにしている。 |
ICTで「空き家活用」の可能性を探究する地域連携教育
共立女子大学建築・デザイン学部教授 橋 大輔 氏
1年生を対象とした課題解決ワークショップのグループ学習において、半期14回の内、前半の7回は調布市の行政の方が大学に来て講義を行う中で、行政の方たちから、調布市の空き家を抑制するためにはどうしたらいいのか、それを市民に提案していくためにはどのようなアプリケーションを作ればいいのか、学生たちに課題を出していただいた。後半の7回は、鳥取県南部町の行政の方たちが、南部町の地域課題である町内の空き家地域の居場所として学生たちが企画提案し、改修する課題を出していただいた。
グループ学習ではLINEを用い、IT会社にアプリケーション作成方法やアイデアを指導いただいた後、Linyを用いてアプリケーションを作成した。LINEおよびLinyを用いるのは、学生が慣れているICT環境の方が良いと考えたためで、授業開始当初アプリケーション作成に興味を持ってもらえるかどうか不安があったが、そのようなことはなく、学生は積極的に取り組んでくれた。アプリケーションの作成では、産官学連携だけではなく、質問形式で解決策、問い合わせ窓口があるアカウントを高校生と大学生による連携も進めている。
最終的な講評については、調布市の場合は実際に対面で講評いただいたけれども、南部町の場合はオンラインで行政の方たち、町民の方たちと繋ぎながら質疑応答に対応するというプロジェクト授業を行っている。
【質疑応答】
【質問】 | ||
調布市と鳥取県南部町を一つの授業で扱うとの話であったが、2つの地域差に学生が戸惑うことはなかったか。 | ||
【回答】 | ||
授業時に説明を丁寧に行っているので、そのようなことは起こっていない。 |
ICTを用いたTeam-Based Learningの実施方法
東京女子医科大学医学部講師 茂泉(吉名) 佐知子 氏
TBLとは、知識を応用してグループで考え、教え合う能力を鍛える少人数のチーム学習法で、2019年まで、1・2年生を対象に対面で行っていたTBLの授業をコロナのために、2020年からオンラインで実施することになった。TBLの流れは、「予習」、「予習確認」、「学修内容の応用」の3段階ですすめる。先ず、予習項目が教員から発表され、予習確認テストに個人で回答する。その後、課題シートの問題に個人で回答した後、グループで討論し、どうしてその答えが正しいと思うか、何で他の選択肢が間違っているのかなど、根拠を基にグループで回答を作成して発表を行った後、司会から解説を聞き、学生、ファシリテーターがアセスメントを述べる。各グループには、討論がより深まるような声掛けをする役割を持ったファシリテーターがついている。オンラインTBLの授業では、Zoomを用い、事前学習や課題提示などはLMSを活用した。グループ討議はブレイクアウトルーム、発表資料の作成はGoogleスライドを用いた。司会やファシリテーターは、オンラインのトラブルに備えて同じ教室に待機し、学生はこの教室に直接電話をかけることでトラブルに対処してもらうことができた。こうした結果、オンラインでも対面同様の授業を行うことができた。
学生からのアンケートでは、「グループの人と話し合うことで、自分が誤解している部分が明らかになった」、「わかったつもりになっていたけど、よくわかっていなかったことがあった」など、対面でTBLを行えない場合でも、オンラインの実施が可能。今後は、対面とオンラインの良い点を取り入れながら、いろいろな状況に対応できるようにしていきたい。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
学生が作成したスライド等を教育改善に用いているか。 | ||
【回答】 | ||
教員とファシリテーターで過去のスライドを見て、問題の内容や難易度が適切であったかどうかを相談し、問題を改善している。その結果、授業で用いる課題の質が向上し、課題に対応した内容に関する試験問題の正答率が向上したように思われる。 | ||
【質問2】 | ||
オンライン形式と対面形式で違いはあったか。 | ||
【回答】 | ||
オンライン形式の方が課題の内容を丁寧につくる必要があるように感じた。教育効果については、あまり差は感じられなかった。 |
多学部横断的なデータサイエンス授業の実践例と生成系AIとの向き合い方
大阪公立大学研究推進機構特任教授、本協会情報教育研究委員会データサイエンス教育分科会アドバイザー 辻 智 氏
理系・文系の各学部から、データサイエンスの定義を教えて下さいってよく言われる。そのデータから意味のあるものを抽出して、さまざまな社会活動に役立てていくとか、いろいろな定義がある。例えば、統計学とどう違うかという質問をよく受けるので、統計学を真理探究とすれば、データサイエンスは共創活動という見方を私はしている。イメージにこだわって、定義にこだわらなくてよいと思う。
文系向けの授業では、学生を励起することが必要で、知的好奇心を刺激するとか、教える順序の向きは理系と逆、あいまいな領域は出てくるけれども、あえて白黒つけない。海外の話題を沢山言ってあげると、文系の学生が結構食いついてくる。
私が担当の数理データサイエンス授業では、1回目から15回目まで、トピックの内容ですすめているけれども、実はトピックだけでなく、最後の20分から30分くらいに、AI系のアプリ、ビジネスプレゼンスが使うような内容を盛り込んでいる。授業を受けながら興味を引くドキドキするようなもの、例えば、セキュリティの体験ができるアプリを入れながら、パイソンのプログラミングも入れながら、AIのアプリなど様々なものを入れながら、工夫していく。その後、学生の意見も取り入れて、少しずつ変えている。
DXの次はQX、量子コンピュータトランスフォーメーションの時代に進んできている。スーパーコンピュータで数万年かかるような計算が量子コンピュータだと、例えば、10秒、20秒で計算が終わる可能性があるので、破壊的に沢山の計算ができ、地球上にあるデータがもしかしたら枯渇してしまうかもしれない。そうなってくると、AIがどんどんデータを作っていくけれども、人間が作ったデータが天然データとして価値が出てきて、魚の養殖と天然のような形で、区別して使われる時代が来るのではないかと思っている。QXの時代になってくると、天然データは皆でむさぼりあうことも起こってしまうのではないか、ということもあるので、DS、DX、QXは確実に進んでいることを感覚的にもっておくことを薦めたい。
テキストや画像に関する生成系AIとの向き合い方について、生成系AIが悪いのだということを、世論やメディアで意見が何となく引っ張られていく感じがする。生成系のAIやAIの問題になる前に、人間そのものがもっと倫理観というものをしっかりと養っていかないとダメだということを、データサイエンス授業の中で紹介していけば、こういったことをする必要はなくなると思う。例えば、生成系AIを自由に使いすぎると、様々な悪いことに使いだす人もいるので、気を付けなければいけないということを、セキュリティの授業とも絡めて、伝えて行かなければいけない。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
文系の学生には、この程度の怖さが必要なのだとか、自分自身の物差しを作らせておいて、ディスカッションを通じて全体知みたいな形にして行くのかなと思ったりしたが、そのようなことはあるのか。 | ||
【回答】 | ||
このレベルまでができなければいけないとか、そういったことではない。一日中同じことを教えるのではなくて、学生たちが自分の主専攻の役に立つような物差しとか、使い方ができればいいなと思っている。理解していただくことよりも、自分の体質の合うものを使えるようになってもらいたい。 | ||
【質問2】 | ||
DXとかQX時代に、どんな力を持っていれば対応できるか、またサポートして行けばいいのか。 | ||
【回答】 | ||
データサイエンス、DX、QXに対して、例えば、Kaggleというホームページに行けば、パイソンのエディッタが立ち上がるとかを知っていて、簡単なものができるというくらいでもいい。少しでも食わず嫌いにならないように、ハードルを下げてもらいたい。 | ||
【質問3】 | ||
人文社会系なので、統計的な部分から初めて、数式を使わないように解析は他のエクセル使う科目にまかせている。それでも統計の言葉など説明せざるを得ないが、カットしてもいいというようなところ、何か所かありますか。 | ||
【回答】 | ||
沢山ある。文科省ガイドでは、全部やれとは書いてなくて、沢山項目がある内のどれかをやる形になっている。例えば、私は重回帰分析、クラスタリング好きなので、結構入れるけれども、そうでないところは他の授業に譲ってきた。先生が学生を乗せることができる内容でやったほうがいいと思う。 | ||
【質問4】 | ||
ChatGPTの出力を学生が持ってきたときに、学生自身が考えてプロンプトを作ったので、学生自身が考えてやってきたという発想なのか、出てきたことを右から左に流したものと考えるか。 | ||
【回答】 | ||
テキスト系、画像系の生成AIも一通り先生たちが使っていることをいつも意思表示しておくというのが抑止力になる。一番大切なのは、先生が毅然な態度をとっていれば、学生は無茶しないと思っている。 |
メタバース・ラボでの課題解決型PBLの試み
久留米工業大学AI応用研究所副所長 小田 まり子 氏
令和2年度から地域課題解決型のAI教育プログムを全学的に導入し、2年生以降のPBLに重点を置いている。令和5年度は、14のテーマで51名の2年生の学生が4〜5人のグループに分かれて課題解決に取り組んでいる。このPBLは、コロナ禍の影響でZoomを使用したオンライン会議システムを活用している。また、令和3年度からはバーチャル海外留学も行っており、参加学生は20日間のバーチャル留学の後に、英語でプレゼンテーションを行っている。
昨年度から、学生、教員、地域の社会人が時間と場所の制約を越えて交流できるようなメタバース・ラボの構築を始めた。メタバース・ラボでは、AIやDXを活用した地域創生を目指している。メタバース内でのコミュニケーション方法には、チャットや音声による会話も含まれ、パワーポイントのようなスライドを使用した授業やクイズイベントなどもできる。メタバースの中で、学生と社会人との交流、地域との連携も可能であることも確認できている。また、メタバースを活用したバーチャル留学では、セントラルワシントン大学の教員との交流や自己紹介の場面が、設定されている。学修成果の可視化や次世代のコミュニケーション手段としての影響を検証するためにも、メタバースを利用している。さらに、久留米市の不登校児童や生徒の居場所、保護者の交流場としてのメタバース・ラボの利用について、外部にも公開する仕組みを検討している。
【質疑応答】
【質問】 | ||
メタバースのプラットフォームについて教えてほしい。 | ||
【回答】 | ||
本学独自のプラットフォームである。本学情報ネットワーク工学科がファンタスティックモーション社と連携しながら開発している。 |
メタバースによる国際協働学修の実践報告
東北大学高度教養教育・学生支援機構准教授 林 雅子 氏
メタバースによる国際協働教育学修の取組みの背景として、2023年に文部科学省が遠隔教育の実施に関するガイドラインを発出し、メタバースの導入が推奨された。オンライン国際協働学習(COIL)の拡充に努め、国際共修として国内外の学生がオンラインで参加し、授業内外で交流・協働する取組みを行っている。コロナ禍においては、留学生が来日できない状況となったことから、メタバースを活用し、オンライン参加者と対面参加者間の心理的な壁を低減するような工夫をした。また、VRカメラを使って、留学生がリアルな日本文化を体験できるようにし、メタバース内での学生の交流を促進した。この取組みにより、20ヶ国以上から学生が集まり、文化交流を深めている。メタバースを通じた留学体験を提供することで、学生たちが異文化理解に肯定的な意見を持つようになった。
2022年後期からは、メタバースVirtual Student Exchange(VSE)も取り入れて、異なる場所にいる学生同士が、同一空間にいるかのようにディスカッションやグループワークをできるようにしている。渡航できない学生にStudent Exchangeの機会を提供し、誰もが公平に教育を受けられるSDGsの観点からも、学生たちと教員が一緒になって取組んでいる。
メタバースに対しては、オンライン教育よりも学生の満足度が高くなっており、メタバースの教育分野の人材的可能性を示していると考える。
全体会について
分科会について
発表会について
A-1 | 生成AIによる自己理解の深化 ポートフォリオを活用したキャリア支援の可能性 | ||
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大学卒業後のキャリアを考察するために必要な自己理解のために、キャリア教育科目にて課題レポートの分析を生成AIを用いて行う試みを行った。具体的には、自立したコミュニケーション力の向上を目的として3か月間行う連続課題の成果物であるレポートを、ChatGPT-3.5に読み込ませ、3か月間の成長分析、社会人基礎力指標を用いた成長分析、弱点及び改善点の導出の3点で出力させる。結果としては多数の学生が肯定的な反応を示し、学生個人では困難な深い理解につながる可能性が示唆された。今後は、さらなるサンプル数の増加やプロンプト改良につなげたい。
A-2 | 教職科目における情報通信技術の活用(生成AIを含む)の導入に関する一考察 | ||
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2020年に世界的に流行した新型コロナウイルスによる児童、生徒のICT端末活用の促進や2023年初旬の生成AIへの学校教育における対応の課題など、学校環境を取り巻く情報教育環境は著しい変化があり、教員養成における情報教育の重要性が高まっている。そこで、学習指導要領の改訂と教職課程科目間の系統性を考慮して、教職科目「情報通信技術を活用した教育の理論と方法」授業計画を検討した。その際には、教職課程全般を対象とした授業計画、ICT端末の児童、生徒への普及と利用環境の整備、生成AIの利用といった視点を加味した。さらに、教育の基礎理解に関する科目、教科の指導法との関連についても整理を行った。
A-3 | 生成系AIツールを活用した学生の小論文作成支援の授業実践 | ||
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小論文作成能力向上のために、ルーブリック評価と生成AI(ChatGPT、Being)を組合せて指導した。具体的には、ルーブリックを文章制作注意評価表として形成して事前配布し、生成AIによる参考解答文の提示を行った。学生へのアンケートは好評価であった。特に、AIチャットツールの活用で模範解答のバリエーションが増えた点は、学生の作文能力の向上に役立つと思われる。今後は、作文能力の定量的把握なども加えていきたい。
A-4 | 生成系AIの利用を前提としたレポート課題についての提案 | ||
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基礎的なプログラミング授業について、生成AIを利用した不正や正当に評価する試みを行った。具体的には、当該科目履修者にあえて生成AIを使用させた。その際に、①学生自身で書かせたレポートの後にChatGPTに同テーマでレポートを書かせて両方を提出、②最初からChatGPTでレポートを書かせて内容の正誤を検証させる、③ChatGPTに未経験のプログラミング言語でプログラムを作成させレポートとしてまとめる、という3パターンで出題した。その結果、学生には生成AIの有用性、出力結果の検証必要性などへの理解が見られた。今後も、教員の採点労力を増やさないことを視野に入れて生成AIの不正利用を防止しながらも、その有効活用を探っていきたい。
A-5 | 自主的な学びを促進するための大学授業におけるチャットボットシステム | ||
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コンピューターサイエンス科目において、質問への自動回答を行うAIチャットボットを掲示板に組み込んで自主的な学びの促進をはかった。具体的には、15回分の授業資料を、問題集などのファイルをChatGPTに読み込ませてカスタマイズし、質問回答を行うようプロンプトを与えた。多数の学生が関心を示し、抵抗感が見られなかった。今後は、受講者全員での質問・回答の共有とチャットボットの統合をはかりたい。
A-6 | 「情報活用演習(基礎)」の授業改善の提案 〜教育改革推進特別経費を受けて〜 | ||
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学内の教育改革推進特別経費の支援を受けてデータリテラシーの基礎教養を育む目的で、2022年度より看護学科「情報活用演習(基礎)」を開講した。内容はSDGsの17目標に関連付けて保健、医療、福祉に関係する公的機関のデータベースを基に、問題提起から解決案を行政機関へ提案する流れを採用した。さらに、高校学習指導要領の改訂を視野に入れ、上述のデータベース活用を教材として授業改善を行った。これにより、看護学科の学生からは、データへの親近感やデータ分析の楽しさ、高校での学習との連結といった観点からの好評価を得た。これらの成果をもとに、後続のデータサイエンス科目のシラバスも作成した。今後は、他学部や他学科への効率的な展開をはかりたい。
A-7 | 保健医療福祉の問題解決ためのPBLとDPPDACサイクル融合型データサイエンス | ||
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2022年度より看護学科で開講した「情報活用演習(基礎)」では、後半(第7〜15週)をProblem-based learningによるアクティブラーニングを導入している。その際に、滋賀大学データサイエンス学部で提唱されているPPDAC分析サイクルに新たにD(Data)を加えたDPPDAC分析サイクルを融合させた。これにより、まずデータから問題を抽出し、その課題解決へ向かうサイクルと手法を身につけさせることが可能になると考えている。受講した看護学科学生達には、積極的にデータに取り組む姿勢が見られた。
今後は、さらにデータサイエンス思考を習慣化させていきたい。現在は、DPPDAC分析サイクルの中心にSDGsを据えているが、将来的には様々な保健医療福祉のデータ分析に向けた内容に発展させたいと考えている。
A-8 | 富山短期大学における「データ・AI・情報リテラシー」教育への取り組み | ||
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2023年度にMDASH初級レベルの認定を受けた教育プログラムの必修科目「人間と情報」に関して、ルーブリック評価や食物栄養学科、幼児教育学科、経営情報学科、健康福祉学科での授業アンケート結果について報告した。授業アンケート結果からは、経営情報学科が他3学科に比して最も満足度が高いことが示された。今後は、学科を問わずMDASHへの意識向上をはかりたい。
A-9 | 近畿大学におけるDS・AIリテラシー教育の取り組み | ||
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2022年度より「近畿大学データサイエンス・AI リテラシー教育プログラム」を導入した。まず、第・期として、「データリテラシー入門」を開講したが、この科目は数理・データサイエンス・AI教育拠点強化コンソシーアムによって定められたモデルカリキュラムのサブセットのうち基礎と心得の学習内容を多く配分している。また、学習内容のアウトプットする機会が多いことも特徴である。
授業形態は、オンデマンド授業を採用し、その動画教材は通信教育部のノウハウを有した専用の収録スタジオKICSを活用しており高品質である。また、受講生にはオンラインによるグループディスカッションを課し、理解度を深めている。2022年度は、全学で1,700名を超える履修者があり、離脱者を除いた合格率は約90%であった。今後は、高校の情報・を履修した入学者に合わせてより高度な内容を含む教材を作成していくことが必要と考えている。
A-10 | プログラミング言語学習に向けた入学前教育 | ||
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年次の必修科目である数学を題材としたLMSを用いた入学前教育を実施した。自己評価や入学前教育へのアンケート調査から、受講生には基礎的なプログラミング言語スキルの習得による学習能力の向上が期待できる。教職員は受講者の進捗状況や理解度を把握することで個別に合わせた教育内容や大学生活へのサポートの提供などで、より効果的な教材作成などへの期待ができる。
A-11 | 体育会系学生へのプログラミング教育の施行 | ||
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プログラミングが苦手な工学系・情報系学部の大学生を対象として、プログラミング学習のレベルと音読の有効性を明らかにするため、音読学習、シャドーイング学習を取り入れたプログラミング講座を実施した報告を行った。音読・シャドーイング・黙読による学習効果は得られなかったが、プログラムの音読で効果がみられる層があることが示唆された。
A-12 | オンライン実行環境とLMSを活用したプログラミング授業の演習課題の自己確認 | ||
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学習管理システムの学習支援の一つである自己採点型のテスト機能を使い、受講生がプログラミング課題の提出前にプログラムを自身で実行してプログラムの正しさを確認、表示される解説ヒントなどを手掛かりにプログラムを修正、再テスト実行する手法を演習に取り入れた。受講生自身にプログラムの実行結果を確認させることで、正しい課題を提出するという動機付けとなり、学習効果の向上につながることが期待される。
A-13 | ICTを使った「気づき」を育む日本語教員養成 | ||
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十分な知識と指導力を持った日本語教員の養成を目指し、双方向授業に学習者オートノミーを育てる学習プログラムを構築するため、学習者の自律性を助ける、学生の「気づき」を引き出す形態を授業モデルに加え研究対象として行った。学生が外国人日本語学習者の使う日本語から文法・音声の誤用に気づき、レジュメとしてまとめる「気づき」を育む試みは、学習者オートノミーを育てる日本語教員養成には大いに役立つと報告された。
A-14 | 英語で学位取得する外国人留学生層対象のオンライン型日本語・キャリア教育学習モデル | ||
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外国人留学生と来日前から就職後以降も日本語習得を含めるキャリア教育を提供する英語トラック学位習得プログラムでは多くの日本語学習コンテンツを無償で使用できる。学習習慣の維持が困難という課題に向け、個人のペースで学ぶMLと日本語学習コーチと定期的セッションで学ぶ(CL)制度を組み合わせたブレンド型学習モデルを提案し、2側面から多角的な学習者支援アプローチを行いつつ、推進していくとの報告がされた。
A-15 | 被服構成学実習におけるICT教材〜オンデマンド教材の事前配信による予習の効果〜 | ||
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被服構成学の基礎的な知識・技術の実習科目において授業開始直後に一斉説明を行っているが、事前作成した動画を授業の前日に配信し、対面授業時の一斉説明動画を授業終了後に配信する授業実践のアンケート調査の報告を行った。授業後半になると、授業進行に遅れた学生が自身のタイミングで以前の授業回の動画視聴が増えることから、事前配信動画による予習および一斉説明のみでは理解が不十分であることが検証された。
A-16 | 物理教育におけるシミュレーションを利用した事後学習の試み | ||
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1年生の「力学入門」の座学の授業で、レポート課題等で解いた問題を再度PCにてシミュレーションを行う事後学習を取り入れた試行について報告を行った。プログラムの実行環境がパッケージ化されたCloud環境でのシミュレーションの導入であったが、授業後半での実施のため一部の学生の参加ではあったが利用環境としてはおおむね受け入れられた。対象授業がプログラミングの授業ではないため、利用環境の構築も含めた検討を進めていく。
A-17 | 単語の自動抽出による予習促進問題の自動生成 | ||
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学生に事前に読ませたい資料を形態素解析器にかけて、一定文字数以上の名詞を抽出したデータを基に穴埋め問題を自動生成するプログラムを試作した結果の報告を行った。日本語および英語の資料について自動生成が可能である。予習として試行した結果、日本語会話が堪能な留学生でも読み仮名問題で満点が取れないこと、満点を取るまで繰り返し受験する学生がいることがわかった。必ず出題したい単語を容易に指定できる方法が求められる。
A-18 発表辞退
A-19 | 大人数講義におけるZoomを用いたグループワークーポストコロナのICT活用授業 | |||||
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対面授業で学生にスマホからZoomにアクセスさせ、ブレイクアウトルーム上でグループワークを実施した報告を行った。グループの人数は各10名程度で自動振り分け機能を用いて割り振り、チャット上で議論する。消極的な参加者を許容しつつ、一定の水準のディスカッションが実現できた。Zoomとブレイクアウトルーム機能、チャット・注釈機能を使った非対面グループワークは学生全体の受講意欲を高める効果を生じる可能性があるとしている。
A-20 | 英語でつながるグローバル・アントレプレナーシップ教育のDXで若者の居場所づくり | ||
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今の日本に不足する失敗を乗り越える起業家精神と英語パワーコミュニケーション力をもつ「グルーバル・アントレプレナーシップ」教育のDXの実践と課題の報告を行った。境界を越えたコンテクストの共有からのクリエイティブなビジネスモデル創造が苦手な日本の若者をビジネスとアカデミックの協働によるDX環境で、プロトタイプングのプロセスを実際の現場で検証されたコンテンツを提供することが重要であるとした。
A-21 | ライティング支援施設のスタッフ教育:Teams会議機能を用いた教育機会の補い | ||
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ライティング支援施設における「長期的な指導力の維持」の改善策として学生チューターの育成方法にTeamsの会議機能を活用した報告を行った。Teamsの会議機能を利用することでキャンパスの垣根を超えた研修が可能となり、従来の能力差や偏りが解消され、学生チューター同士で不足を補えるようになり、長期的な指導力を底上げするための教育会の均等が達成された。理論に則った研修が行える研修素材の作成に努め効果を高めていく。
B-1 | コンピュータ実習を伴う遠隔ライブ授業における受講生の実習状況共有 | ||
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VR・ARコンピュータ実習を伴う遠隔ライブ授業において全体状況や個々の学習状況を教員・受講生ともに効率的に把握・共有し、受講生の学習活動を促す仕組みとして、2次元メタバース上に仮想的な教室空間(以下、仮想教室)を構築し、遠隔ライブ授業の会場として運用する実践を進めている。
今回の実践では、通常回・まとめ回とも、仮想教室において対面授業と概ね同等の学習活動を実現しつつあるが、机間巡視による個別対応の学生満足度こそ高いものの、同じような解説を何度も繰り返すことは珍しくなく、オンラインの仮想教室上で運営される授業ならではの価値を示しているとは言い難い。その対策として、受講生の自動的な把握と誘導挿入の仕組みについて提案があった。
B-2 | 臨床実習前の学内演習効果を高めるVR教育プログラム構築に向けた基礎的研究 | ||
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臨床実習を控えた在校生を対象に、臨床実習の準備性を効率よく高めるためVR教材を活用した学内演習を行った。その結果、臨床実習前の学内演習にて想定される問題をVRで提示し、グループワークを通して事前に対策を検討することにより、演習後に「不安感」「自己効力感」の改善が得られることが確認された。また、演習後に臨床実習を経験することで、心配事への積極的な対処法や思考制御に関するメタ認知機能の改善が得られ、不適切な認知傾向が修正される可能性がある。
B-3 | オンラインシミュレーションソフトウェアによる致死的な急性期疾患診療の反復学修 | ||
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吸器・アレルギー領域で迅速かつ正確な診療技能が求められる、致死的な急性期疾患・病態を低学年の医学部生でも診療可能な状態に近づけることを目指し、学生のowned deviceで操作可能なオンラインシミュレーションソフトウェア(Body Interact、Take The Wind、ポルトガル)による反復的な自己学修と提示したテーマに関連した反転授業を導入した。反復学修することでGlobal Score、個別の診療上のプロセスに関する得点(3種類)、コンヒテンシーとも改善する傾向にあった。反復的に自主的に学修を繰り返すことができる点において、従来の医学教育、とくに臨床医学分野では“運”にかかっていた致死的な急性期疾患の診療機会を好きな時に好きなだけ学べる環境として学生に提供できるメリットは非常に大きい。
B-4 | 大人数反転授業時におけるICT機器の活用試行 | |||||
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今回、大人数授業かつ反転授業において、1.学生の意見等をリアルタイムでスクリーンに投影することにより、他人の意見を知り、受け入れ、さらなる学びが深まり、思考の活性化につながる、2.出席率の向上が見込まれる、3.成績の向上(学修効果)が見込まれる、4.知人が増えることにより、豊かな人生が歩める可能性が高まる等の効果を期待し、大人数反転授業を試みた。残念ながら統計的に有意な結果は見いだせなかったものの、次のステップの課題が観取された。それは、BYODを必須とすることで更なる教育効果向上の可能性があること、教員の意図するグループの編成について課題があること、最適なグループの人数が不明なこと、シャトルカードの活用方法についての検討である。
B-5 | 教養系授業における反転授業導入 ICTの力を借りて | ||
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高校時代からコロナ禍で授業を思うように受けられず、進学した先の授業に「期待感」を持っている。教員が見過ごしがちな対面授業への「期待感」に応えるべく、ICTを活用した反転授業を行うことでその期待感に答えることを意図した授業改善の2年目の報告である。
教室で一堂に集まることによって学生同士のつながり、情報交換などが期待できるような状態にすることができ、その効果は、1.事前に不明点が明確になり意見交換が充実、2.アウトプットの場を設けられ能動的になる、3.教員が学生の状況を把握しやすい、である。2年目からは動画教材の提供、Webでの連載記事を教材として活用も行った。
B-6 | プログラミング系授業の教育効果向上を目指した反転授業導入と教案の活用 | ||
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全分野の学生に対し、プログラミング系科目(以下「プログラミング基礎」という。)に興味を持ちながら最後まで受講してもらうことを目指し、反転授業の導入と教案の活用を検討した。反転授業を導入する際、デジタル教材や授業動画を積極的に活用することになるため、資料等を掲載するのではなく、教案と連携させる。これにより、事前学習として授業動画のコンテンツを活用して学生は個別に講義を聞き、教室では課題や演習を含む様々な形の学習活動を行うことができる。さらに、授業後には、公開された教案に従って、当日行われた授業の様子を思い出しながら十分な復習ができる。
B-7 | リメディアル教育情報系新学部における高大連携リメディアル教育の取り組み | |||||
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数学の能力が不足している学生への支援のためのリメディアル教育に取り組んでいる。リメディアル教育を実施するにあたり、学生が高校での学習状況を反映させることも重要であることから、本学附属高校の教員とも協力して進めている。そこで、入学時に数学の学力テストを実施し、数学の能力が不足していると思われる学生に、個別連絡を行った。学生が参加しやすいよう「数学リメディアルクラブ」(以下、リメディアルクラブ)という名称をつけ、通常の教室で多くの学生が集まりやすい環境で実施した。リメディアルクラブでは、担当教員が質問対応をする以外に、学生の自主的な学習を促すため大学受験向けオンライン数学教材の視聴を勧めた。その結果、リメディアルクラブ参加学生には、一定の成績向上の効果があった。
B-8 | 理系1年生を対象とした英語多読リーダー活用の有効性に関する調査研究 | ||
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多読リーダー(graded reader)は、「様々なレベルの読解力を持つ第二言語学習者に適した難易度に言語が簡略化された本」と定義される。
多読リーダーを使用することで、少なくとも平均22語/分(コース終了後のクイズで多読した学生では22語/分)の読書速度が向上した。アンケートの量的な部分に関しては、回答者は、1)多読リーダーを使うことの有効性に関する質問に対して、ほぼ肯定的な回答をしている、2)多読リーダーは面白いだけでなく、読んでいる間に出会った単語や言い回し・文法が他の場面で役立っている、3)読んだ本の内容を思い出すことがもたらす効果について、中程度に肯定的な「気づき」を示している。最後の質的な質問に目を向けると、建設的な批判だけでなく、肯定的なコメントも数多くあった。その結果、多読リーダー・プログラムは、学生が受講前に持っていた文法や語彙の知識と、口頭でのコミュニケーション能力向上の相乗効果を生み出すのに効果的であることがわかった。
B-9 | 機械翻訳(MT)を取り入れた英語リーディング授業モデルの開発 | |||||
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本研究のリサーチクエスチョン(RQ)でリーディングの実験授業を、①MTの導入で学習者の英文内容理解は促されるか、②MTの導入で学習者の語彙は伸びるか、行った。関西圏の私立大学にて英語を専門としない学部3年生12名に対して英文理解を促進するためにMTを使用した。さらに、視覚・聴覚からの情報解析と内容理解を一致させるために、通訳訓練技法のシャドーイングとサイト・トランスレーションを導入し、リーディング・スピードを速めることを促した。
その結果、学生の振り返りから、個人によってその程度は変わるものの、英文の内容理解は促され、2回目のCASECスコアから読解力は向上したといえるのではないだろうか。振り返りの結果により、MTを導入することで受講生の「無機質な作業」感という心理的な負担は軽減され、内容理解へと意識が向くことも分かった。次に、語彙力が増えた学生が大多数を占める一方、インタラクションが機能せず、内容理解が促されていない受講生は、語彙の知識も増えていないことが明らかとなった。
B-10 | 出欠打刻データ情報を用いた多欠学生の予防方法 | ||
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出欠管理システムの出欠打刻データを用いた多欠席学生の把握と予防対策についての報告が行われた。表計算ソフトを用いて、出欠情報を可視化した。学修のつまずきの原因となる欠席を早期に把握することができ、出席数が不足することにより失格となる学生が生じる科目をなくすことができた。これにより、欠席者の保証人への連絡も迅速化され、今後、退学率の低減が期待される。
B-11 | AIを活用したスクールバス混雑検知システムの開発計画と試作 | ||
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スクールバスの混雑状況を検知するシステムの開発を計画中で、その試作状況についての報告が行われた。バス内に設置したカメラから取得したリアルタイム映像をAIにより解析し、混雑状況を判定することが実現可能であることを、2種類の装置構成で確認した。本年後期に実験を継続し、実際の車内の映像を用いて機械学習を進めることで、車内への実装を検討している。
B-12 | スナップショット監視付きオンデマンドなタイマー機能アドオン付きフォームの再試活用 | ||
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再試験の実施において、日程調整が困難なため、オンラインテストの実施が必要となっており、その実施のためのフォームについて報告された。学生のオンラインテスト受験中に必要な監視方法として、受験状況をスナップショットによる写真で監視する方法を導入している。この結果、ごく一部の対面受験を希望する学生を除き、再試験をオンデマンド実施することができた。
B-13 | AI・IoT・DS分野における社会人の学び直しPBL講座の実践 | ||
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DXを推進できる人材養成プログラムとして実施した社会人の学び直しのためのPBL講座についての報告が行われた。多種多様な年齢や携わる業務の受講者が、「AI」、「IoT」、「データサイエンス」の基礎知識とスキルの習得を目指し、チームおよび組織として、要求仕様を満たすアイデアを創出し、提案アイデアを協力企業関係者に発表報告した。アンケート結果から、参加者が満足感・達成感が得られたことが分かった。
B-14 | 会計学授業での反復練習におけるICT活用の事例 | ||
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学習支援システムMoodleを用いることにより、会計学の授業で反復学習を実施できる事例の報告が行われた。具体的な反復学習はMoodleの小テスト機能を用いて構築する。一方で、学生のフリーライドの予防、学生のWiFi環境の使用可否への対応などの問題点を改善する必要がある。今後、この方法による受講生の能力向上についての計量的な分析実施が課題として残る。
B-15 | 日本語オンラインテストの評価と教育効果の可視化 | ||
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留学生に対する日本語についてのオンラインプレースメントテストに関する報告が行われた。プレースメントテストの結果により、自分の能力に適したクラスに配置されるように調整を行っている。またクラス受講後にも同じテストを実施することにより、学習効果を測定する意味も持たせている。今後、学習成果の可視化を実現して行くことを目指している。
B-16 | テキストマイニングを利用したレポート分析の活用 | ||
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テキストマイニングと機械学習の技術を組み合わせて、学生のレポート内容を把握し、客観的なフィードバックを行う手法についての報告が行われた。医療系大学における実施例として、専門用語の辞書を取り込むことにより、精度を向上させることができた。フィードバックとしては、学生に対してはワードクラウド、教員に対しては階層的クラスタリングを用いている。
B-17 | テキストマイニングによる情報処理科目の理解度の分析と検証 | ||
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文書作成および表計算ソフトウェアに関する情報処理科目について、リアクションペーパーをテキストマイニングの手法で分析し、評価する方法についての報告が行われた。分析結果として、抽出語の頻度分析の結果、理解度の高い層と低い層の2グループで比較することにより、文章量や抽出語の出現回数に差が生じていることが見られた。
B-18 | Office文書採点システムの構築と教育効果の検証 | ||
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コンピュータの操作スキルの文書作成に関する初年次科目における採点システムを構築し、それを用いた教育効果の報告が行われた。Microsoft Officeの課題に対して提出されたWordファイルを、VBAによりExcelシートに抽出して、従来は複数の教員が目視で確認していた、書式などの設定を自動的に確認できるようにした。これにより評価結果の公開までの期間が短縮される効果が得られた。
B-19 | 学生の情報環境利用状況から考える授業コンテンツ | ||
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初年次の情報教育について、学生の情報教育利用状況に基づいて制作された授業コンテンツの報告が行われた。コロナ禍のオンライン授業で作成されたコンテンツを、今後アクティブラーニング形式の授業用の教材として使用する方向性を検討した。教材として、一定間隔でのクイズの実施、再生速度の選択、字幕の追加などについて取り上げ、今後その有効性などを検証する予定である。
B-20 | 初年次以降のノートテイキングとICT活用の実情調査 | ||
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2年次以降の学生のノートテイキングの状況についての報告が行われた。2年生が履修するノート作成法を学ぶことを目的とせず、知識教授型といわれる板書の記録からノートテイキングが始まる科目のノート作成状況およびICT利用について調査した結果、板書を書き写すことに満足し、自ら調べ知識を整理し学習するという態度が十分に見についていない可能性が高いことが分かった。