特集 生成AIを利活用した授業等の紹介と今後の授業の在り方を考える
松本 章代(東北学院大学 情報処理センター長・情報学部教授)
2022年11月30日にAIチャットボット「ChatGPT」が公開され、日本でも瞬く間に広く利用されるようになりました。ChatGPTに代表される生成AIは大学教育にも影響を与えることが懸念され、2023年度の初頭においては、各大学で学生に対する利用基準設置や注意喚起が行われました。その一方で、レポート課題を課す教員側においても、生成AIを利用した不正を防ぐ対策や正当に評価するための工夫が求められることになりました。
筆者は情報系学科に所属し、主にプログラミング等の専門科目を担当しています。そのうちプログラミングに必要な知識を教える科目では、レポート課題で成績を付けています。例年と同様にレポートを課した場合、学生が生成AIを利用してレポートを作成する可能性がある以上、教員としてそれを見抜くことに多大な労力を割く必要があります。そこでレポートの出題の仕方を工夫しようと考えました。
「プログラミングの基礎」は本学教養学部情報科学科2年生を対象とした専門科目です。前期週1回(90分)計15回で実施します。必修科目ではありませんが履修推奨科目という位置づけで、対象学生のほぼ全員(約120名)が履修します。システム開発の仕事をする上で必要なプログラミングのリテラシーを身に付けることを目的としています。
テキスト[1]の1章から5章において、各章を学習し終えるごとにまとめのレポートを提出させます。そのレポートが成績評価のうち50%を占めます。
2022年度までは「テキスト○章の範囲において、授業の中で疑問に感じたことを1つ選び、それについて自分で調べまとめなさい。」という課題で各章ごとにレポートを書かせていました。2023年度も同様に出題した場合、生成AIの回答がそのまま提出されることが予想されました。
そこで2023年度は、初回の授業において、まずChatGPTに関する3つのニュースを紹介し、どれほど有能かということと、使用に当たり注意が必要かということを説明しました。つづいて、初回の授業内容(コンピュータの歴史)について講義した後、その内容をChatGPT3.5に尋ねるとどのくらい不正確な情報が出力されるのかを紹介しました。
なお、授業の冒頭で学生にChatGPTについて使ったことがあるか、知っているかどうかについて尋ねたところ、「使ってみた」が13.4%、「ネット記事やTwitter、YouTubeなどで見た」が53.6%、「知らない/わからない」が33.0%という結果(有効回答数112)でした。2023年4月の時点では生成AIに対して学生の認識に差があったことがわかります。
本授業では、あえて生成AIを履修者全員に使用させることによって、不正に利用することを防ぎ、生成AIの欠点を認識させ正しい使い方を促すことにつなげます。さらに不正利用を未然に防ぐことにより、教員が不正を見抜くためにかける労力を不要にします。
(4)レポート課題内容 2023年度はタイプA、タイプB、タイプCの3通りのレポート課題を出題することにしました。
タイプAでは、例年同様にまず学生自身に書かせた後、ChatGPTにも同じテーマのレポートを書かせ、両方をセットで提出させます。具体的な出題内容(学生への指示)を以下に示します。
○章の範囲において、授業の中で疑問に感じたことを1つ選んでテーマとし、そのテーマについて自分で調べまとめなさい。
- タイトル(テーマ)、このテーマを選択した理由、レポート本文、参考文献に分けて書く
- そのうえでChatGPTに同じテーマのレポートを書かせる(できるだけ自分にとって役立つように試行錯誤して工夫する)
- ChatGPTの文章を参考に自分のレポートを改善するとしたら、といった視点で感じたことをコメントする
- レポート本文が600〜1000文字になるように
- 参考文献は2つ以上(裏取り・補完)
タイプBでは、最初からChatGPTでレポートを書かせ、その内容について正しいかどうか検証を行わせます。学生への提示内容を以下に示します。
○章の範囲において、授業の中で疑問に感じたことを1つ選んでテーマとし、そのテーマについてChatGPTに600字〜1,000字程度でレポートを書かせ、その情報の内容について正しいかどうか検証をおこないなさい。
- 以下の項目について書く
タイトル(テーマ)、このテーマを選択した理由、ChatGPTに与えたプロンプト、ChatGPTが生成した文章、正しいことが確認された情報、誤っていることが確認された情報、正誤不明な情報(調べても確認できない情報)、欠けていると思われる情報、参考文献(最低でも2つ以上)、感想
タイプCでは、ChatGPTを使って未経験のプログラミング言語でプログラムを作成させ、レポートとしてまとめさせます。学生への指示内容を以下に示します。
ChatGPTを使ってWordまたはExcelのマクロをVBAで作成し、それを実際に実行して動作を確認したうえでレポートを作成し提出しなさい。
- 以下の項目について含めること
プログラムのテーマ、ChatGPTに与えたプロンプト、生成されたソースコード、プログラムの説明、実行後の感想
- プログラム作成の手順
① まず、「Excel マクロ」などで検索し、マクロでどんなことができるのかについてリサーチしてChatGPTにどんなプログラムを作らせるかを考える。
② ChatGPTにプログラムを生成させる。
③ そのプログラムをWordまたはExcelで実行して動作を確認する。
2023年度は1章・3章・4章をタイプA、2章をタイプB、5章をタイプCで実施しました。
(1)調査目的
本授業で課した5回のレポート課題は、いずれも生成AIの利用を前提とする内容です。多くの学生が初めて生成AIを活用して課題に取り組む中で、何を考えどのように感じたのかについて分析します。
(2)調査内容および方法各レポートから感想の項目を抽出したテキスト情報、および第15回(最終回)の講義の中で「この授業でChatGPTを利用した感想」について自由記述アンケート調査を実施し回収したテキスト情報を対象とします。これらのテキストをKH Coderを用いて語の出現頻度に基づき分析します。なお、対象テキスト数をnとします。
(3)調査結果および考察出現頻度の高かった語を表1に示します。
表1 出現頻度表
タイプA(n=326)では「分かる」という単語が80回出現していました。ChatGPTが出力した文章が自分の書いた文章と比較し、分かりやすいかどうかについて言及したコメントが多数ありました。また、「詳しい」が59回、「簡潔」が43回、「構成」が36回出現しているように、限られた字数の中でのまとめ方についての検討に、ChatGPTの出力が役立つと感じた学生が多いことが分かりました。
タイプB(n=111)では「正しい」44回、「正確」37回、「間違う」30回、「誤る」22回、「正誤」13回、「間違い」12回と正誤に関連する語が多く、また「調べる」59回、「必要」21回、「検証」20回、「確認」14回といった語も目立ちます。タイプBは正確性の検証を行わせたため、多くの学生はChatGPTの出力について真偽を検証する必要性を強く実感していました。
タイプCについては、情報系科目特有の出題内容であるため、紙面の都合上ここでは省略します。
最終回で尋ねた「この授業でChatGPTを利用した感想」(n=111)でもっとも目を引いたのは「便利」であり39回出現していました。また「正しい」17回、「使い方」17回、「活用」16回、「間違う」13回、「正確」12回、「利用」11回となっており、全体的に「使い方に気を付けつつ活用していきたい」という感想が多かった一方、「難しい」も7回出現していました。図1はアンケートのテキストから作成した共起ネットワーク図です。
図1 本授業でChatGPTを利用した感想
総合的には、こちらが出題の際に想定した感想を多くの学生がもっており、ねらいは成功したと言えます。
文部科学省は2023年7月13日、全国の大学と高等専門学校に対し、生成AIの教学面の取り扱いについて対応を促す通知を出しました。その文書[2]内では「生成AIへのプロンプトに関する工夫やそれによる出力の検証、生成AIの技術的限界の体験等により、生成AIを使いこなすという観点を教育活動に取り入れることも考えられる。」と述べられています。
生成AIの登場によりレポート課題の出題方法を見直す必要があると感じ、生成AIの利用を前提とした課題を考案し実践しました。タイプAとタイプBについては、他の様々な科目で適応可能であり、上述の「生成AIを使いこなすという観点を教育活動に取り入れること」も達成できていると考えています。
今後も、学生による生成AIの不正利用を防ぎつつ有効活用を指導し、かつ教員側の課題採点の労力を極力増やさない授業を目指し、さらに議論と実践を重ねていきたいと思います。
参考文献及び関連URL | |
[1] | 増井敏克,基礎からのプログラミングリテラシー,技術評論社,2019. |
[2] | 文部科学省,大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて(周知), https://www.mext.go.jp/content/20230714-mxt_senmon01-000030762_1.pdf |