特集 生成AIを利活用した授業等の紹介と今後の授業の在り方を考える
三田 薫(実践女子大学短期大学部 英語コミュニケーション学科教授)
及川麻衣子(山野美容芸術短期大学 美容総合学科准教授)
2023年度に実践女子大学短期大学部と山野美容芸術短期大学で「カルタプロジェクト」を実施しました。これはカルタ制作を通じた学生と高齢者の相互支援の活動であり、その中で生成AIを活用しています。今回はその活動に至るまでの経緯と、カルタプロジェクトの具体的な内容、その成果について紹介します。
実践女子大学短期大学部と山野美容芸術短期大学は、私立大学情報教育協会が主催している「地域貢献支援事業コンソーシアム」のうちの「高齢者支援事業」を通して連携を開始し、2021年度より学生と高齢者による世代間交流を、オンライン・オフラインの様々な方法で実施してきました。コロナ禍の時期は、Zoomを使って学生と高齢者の交流を実施しました。また2022年度には、映像の撮影方法について映画監督を招いてワークショップを開催し、それを基に学生が高齢者にインタビューを行い、YouTube動画を作成しました。
こうした活動は、学生と高齢者の交流機会を増やすという成果があった一方、課題も見えてきました。第一の課題は、Zoomの短い時間の交流では、学生が高齢者とうまくコミュニケーションがとれず、高齢者から学生への一方通行の会話になりがちであること、第二の課題は、コロナ禍が終息して以降の学生の参加率の顕著な減少でした。両校とも昼休みの短縮などで時間的余裕がなくなる中、こうした活動をすべて課外活動として継続することが困難となりました。
そこで2023年度は、学生の負担を大幅に軽減しながら学生と高齢者の交流が一方通行ではなく双方向の学びあい、相互支援となることを目指しました。また、各教育機関の関わり方も見直しました。すなわち、実践女子大学短期大学部は正課授業を中心に活動を行い、山野美容芸術短期大学は課外活動で協力するという体制にしました。さらに活動の負担を軽減する手段として、生成AIの積極的な導入を試み、「カルタプロジェクト」を計画することとなりました。
2023年度の活動にカルタをとり入れたきっかけは、日本福祉大学が制作した認知症カルタでした。このカルタは、認知症に優しい地域づくりを考え、「遊び」を通じて将来、自分の身近な人が認知症になった時に優しい対応ができるようになってほしい、という願いを込め制作されたカルタです。このカルタをモデルとしながら、高齢者のフレイル予防や健康寿命延伸を目的としたカルタを目指し、カルタのテーマを「健康、美容、食生活」とすることとしました。
カルタ作りには、実践女子大学生活科学部食生活科学科も含めた3つの教育機関が参加しました。実践女子大学、実践女子短期大学部英語コミュニケーション学科の学生は、「健康、食生活」に関する知識を基に、また山野美容芸術短期大学の学生は、日常の整容、美容の知識を基にカルタを制作しました。
高齢者の団体としては、これまで交流を続けてきた2つの異世代者団体(BABA lab、地域デビュー楽しみ隊)の協力を受けることとなりました。こうして3つの教育機関と2つの異世代者団体が共同でカルタを制作することになりました。
参加者の負担を減らすという点では、カルタの読み札制作は、学生と異世代者が分担して制作することが可能です。また、読み札の句や絵札のイラスト制作では、生成AIを活用することにより、学生の負担が軽減されると考えました。
学生と高齢者の学びあいを促進するという点では、それぞれが制作した読み札を通して、学生と高齢者が互いの感性や日常的に抱えている課題を知る機会となることを目指し、また、カルタが完成した際に対面でカルタ大会を実施することにより、交流が深まると考えました。
(1)実践女子大学短期大学部の活動
実践女子大学短期大学部では、英語コミュニケーション学科の三田ゼミクラスの学生が中心となって活動を行いました。まず、生成AIに慣れるための練習を行いました。カルタの読み札制作ではChatGPTに質問して読み札の候補を出させる作業を体験させました。必ずしも思い通りの読み札が出力されない中、学生は何度かのトライアルで納得のいく読み札を見つけるプロセスを体験しました。著作権への配慮に関しては、ChatGPTの出力した読み札について、インターネット上で同じ読み札がないかをチェックさせました。絵札制作では、グラフィックデザインツールCanvaで画像を制作する練習を行いました。Canvaで制作した絵札は、商用利用も可能なものとなっています。学生たちはさらに、Zoomセッションを開催して高齢者にChatGPTとCanvaの使い方を説明しました。同時にオンデマンドのChatGPTとCanvaの説明動画を作成して、山野美容芸術短期大学の学生向けに配信しました。
カルタの読み札と絵札が完成した暁には、カルタ大会を対面で実施しました。前期の対面カルタ大会は2023年7月20日、実践女子大学渋谷キャンパスで開催し、実践女子大学短期大学部学生15名高齢者4名(地域デビュー楽しみ隊3名、BABA lab 1名)で行いました。また終了後に夏休みに楽しみたいこと、頑張りたいことについて話し合う機会を設けました(写真1)。
写真1 カルタ大会とその後の話し合いの様子
(2)山野美容芸術短期大学の活動
カルタの読み札制作は、各校で50音の中から分担しました。本学学生は健康・美容をテーマに5・7・5のリズムを大切に考え制作しました。その際、高齢者が内容を理解しやすいよう、難しい言葉や分かりにくい表現は使わずに、絵札のイラストを使用して内容を可視化するなど工夫しました。また、カルタ制作には、ChatGPTやCanvaなどICTを活用することを試みました。基本になる用語と出来上がり文字数などを設定し、生成した読み句の意味を点検しました。
以下の、a,bはBABA labの作品、c,dは地域デビュー楽しみ隊の作品です。e,fは実践女子大学短期大学部、g,hは実践女子大学生活科学部食生活科学科、i,jは山野美容芸術短期大学の学生の作品です。異世代グループの作品は、その世代ならではの実感が伝わる作品となっています。学生の作品には、それぞれの専門や興味が反映されています。
- 痛みなく 検査結果で 病あり
- うた歌い 口の体操 誤嚥なし
- 茶のカテキン 血糖値下げるって ほんまかいな
- ぬかどこに 美味しくなーれの おまじない
- ヘル酢ケア 和風サラダで 野菜摂取
- るんるんで 沢山運動 頑張ろう
- モロヘイヤ カルシウム多く 骨に良い
- 焼きいもで エネルギー補給 おやつにしよう
- フェイシャルマッサージ 血行良くする むくみとる
- ほうれい線 表情筋トレ マッサージ
絵札は、3つの教育機関の学生が分担して、Canvaを用いて制作しました。(図1)
図1 学生がCanvaを用いて制作した絵札
以下は、生成AIを用いたカルタ制作についての学生の感想です。
- キーワードを入れるだけで読み札を作ってくれるので想像していないものができて面白い。
- 自分では思いつかないようなこともどんどんアイデアを出してくれるので、よかった。
- 異世代の方が考えてくれたカルタや自分達が作ったカルタがどんどんカードという形になって、実際にカルタ大会も開催できたことはとても嬉しかった。
- 一緒に何を作り上げる楽しさに気づけた。カルタ大会当日もとっても楽しめた。
以下は「カルタプロジェクト」に参加した高齢者の感想です。
- ChatGPTやCanvaの使い方がよく分かりました。一生懸命に学生さんが教えてくれて大変有意義な時間でした。説明も上手でした。
- カルタ大会は、試合ということもあって盛り上がり、一所懸命取り組むことができて、大変楽しく参加できました。
- カルタの完成度が高いなと思います。こうしたことができるのであれば、応用としていろいろできるのだろうなと感じます。
- もし1セットいただけましたら、地元の団体で活用いたしたいと思います。
- シニアは、何かと、自分を発信する場所、居場所を探しています。この場が、新しい発見の場となり、何かを伝えたいし、自分の役割・出番を求めています。こういう機会いただいたことは、今回の参加者全員が、感謝しております。
短大生が多忙のために、長時間の課外活動への参加が困難になる中、核となる正規授業と複数の教育機関の課外活動の組み合わせにより、学生が無理なく活動に参加できる体制が整えることができました。
今回の活動にChatGPTやCanvaといった生成AIを導入したことで、学生の作業時間が大幅に短縮され、学生があまり負担を感じずに活動に参加することが可能となりました。
また1つの教育機関の学生が作成した説明動画を他校の学生がオンデマンドで視聴できる体制にすることで、学生が自由な時間に視聴して生成AIの使い方を学ぶ機会を提供できることとなりました。
さらに学生がChatGPTやCanvaに慣れ、その使い方について情報共有することで、学生自身の新時代の技術に対するリテラシーが向上していくことが期待されます。
カルタの読み札は「健康、美容、食生活」をテーマに3つの教育機関と2つの異世代団体が分担して制作しました。でき上がった作品は、世代による興味や課題の違いを如実に映すものとなっており、互いの理解を深める機会となりました。「美容」や「健康」に着目したカルタ制作については、「美容」を高齢者支援にどのように活用できるかについて、学生同士で話し合い、「美容」「健康な身体づくり」について考える機会ともなっています。
カルタ制作は、学生と高齢者が一方通行ではなく相互に貢献する有意義な場となりました。何よりも生成AIや各種アプリを活用することで、学生と高齢者の「協働作業」が実現し、相互理解、相互支援の機会が実現したことは、主催者として大きな成果であると感じています。