特集 生成AIを利活用した授業等の紹介と今後の授業の在り方を考える

「地域価値発見支援事業」に生成AIを導入する学びの構想

衛藤 大青(別府大学短期大学部 准教授)

後藤 善友(別府大学短期大学部 教授)

1.はじめに

 ChatGPT等の生成AIは、ブレインストーミングなどの学びの場面で効果的に利用できることが知られていますが、短大生による地域の課題解決活動の場面において学生や教員にとって特に大きな効果が見込める可能性があります。
 本稿では、「地域価値発見支援事業」[1]において明らかになってきた学生や教員の抱える課題が生成AIの利用で解消される可能性を議論し、本事業に生成AIを活用する構想について紹介します。

2.地域価値発見支援事業で見えてきた学生と教員の課題

 令和4年度に私立大学情報教育協会の「地域価値支援事業」として大阪夕陽丘学園短期大学、志學館大学、和泉短期大学、別府大学短期大学部の4つの大学・短期大学が協力して三重県志摩市の廃棄真珠の新たな活用法を模索する「真珠価値探求プロジェクト」を行いました。この活動は異なる地域にある大学の学生がオンライン上で定期的に話し合いを行いながら、廃棄真珠の新たな活用法のアイディアを出すことで、多様な視点から新たな地域価値を考えるという点が特徴です。
 プロジェクトは、学生のアイディアや他校との連携で想定以上の成果がありましたが、一方で活動に参加する学生や指導する教職員側には課題や負担が生じることも明らかになりました。
 短期大学の学生は、2年間という短い学修年限で授業や実習、就職活動などに取り組まなければならないため、一般的に4年制大学の学生に比べて過密なスケジュールになっています。そのため、学生同士が集まり議論や活動を計画したり、経験を積んだ2年生から1年生が助言を得るなどの時間確保が困難でした。こういった状況的な制約のため、学生たちは、未知の領域の情報収集やアイディア出し、役割分担などの行動計画と調整を、限られた時間の中で行わなければならない、という課題が見えてきました。
 学生の抱える時間的な制約や経験不足を補うためには、多くの場面で教職員による支援・指導を必要としました。例えば、自県・他県のイメージや観光客のニーズを考えるといった社会を俯瞰的に考える活動や、学生が学内・学外関係者と連携が必要になった際の依頼方法や関係調整などは、学生だけでは短時間で成果が得られにくく、教職員の支援・指導が必要でした。日常の細かな活動も含めて全般的に教職員による支援・指導が必要であり、教職員の負担感は少なくありませんでした。さらに別の観点から見ると、教職員が過度に支援することが、学生が課題解決の経験や自主的な活動を行うという、事業の根本的な目的から学生を遠ざけてしまっていないかという懸念も生じました。
 これらの課題の解決に向け、生成AIを活用することで、学生の経験の不足を補い、時間も短縮し、教職員の負担を減らしつつ、結果的に学生主体の活動を実践できるのではないか、というのが本構想の動機です。

3.プログラムの構想

 現在、本構想で活用している生成AIはChatGPTです。まだ本格的な実践前であり、構想イメージの紹介になりますが、試行プロジェクトとして、「地域の特産品を用いたアレンジレシピを生成AIを活用して考え、それをSNS等で発信していく」を進めているところです。
 試行プロジェクトに取り組む過程で、生成AIの活用により学生が主体的に活動を推進することができるのか、教員負担を減らせるのか、について事例と方法を蓄積したい、と考えています。
 生成AIを活用するためには、学生がうまく課題を言語化し、生成AIに入力する必要があります。その出力結果を評価したり、出力結果に基づいて学生間や教職員と議論を進めたり支援を求めたりする過程においても言語化が求められます。このように生成AIの活用は、課題の言語化を通して議論を活性化し、結果的にプロジェクト全体を推進させる効果が期待できます。この「生成AI活用による学生主体のプロジェクト推進モデル」の構築を目指しています。

4.想定される活動場面と効果

 試行プロジェクトでは、具体的な活動場面ごとに生成AI活用方法を事前にシミュレーションしています。以下に、いくつかの活動場面を紹介します。

<ステークホルダーや多面的分析の場面>

 「地域の特産品を用いたアレンジレシピを生成AIを活用して考え、それをSNS等で発信していく」の活動を行う際には、様々なステークホルダーとの関わりや多面的分析が必要になってきますが、具体的にどのようなステークホルダーとの関わりや分析が必要かを、短大生がゼロから考えるには多くの労力が必要となります。しかし、生成AIを活用しアイディアを出してもらうことで、この労力を軽減させることができ、議論のスピード・精度が大きく改善すると見込まれます。ChatGPTを使えば「生産者、地域コミュニティ、栄養学の専門家、大学関係者、SNSフォロワー、小売店/レストラン」などの回答例が得られます。

<チーム活動支援の場面>

 役割分担やスケジュールを検討するためには、一般的には豊富な経験が必要となりますが、短大生にとっては初めての経験であったり、チーム活動の経験が不足していたりすることから難しい問題となります。このような場面でも、生成AIを活用し役割分担やスケジュールを提案してもらうことで、経験不足を補い従来よりも短時間で円滑なチーム活動を行えることが想定できます。ChatGPTで「10人のチームで13週間でプロジェクトを推進するための役割分担とタイムスケジュールを一覧形式で提案してください」などの利用が想定されます。

<SNS情報発信の場面>

 SNSを活用して情報発信を行う際にも投稿の内容、時間帯、頻度、キーワード、画像編集方法など、考えなければいけないことは多くあります。これらは投稿を見てもらいたいターゲット層によっても異なり、より効果的な情報発信を行うためには多くの知識が必要となり、短大生にとっては負担となります。生成AIに提案してもらうことでこの負担も軽減することが可能となり、従来よりも効果的な情報発信が可能となることが想定できます。

5.試行プロジェクトでの学生の反応

 試行プロジェクトの一環として、現在大分県中津市と連携して行っている地元食材のスッポンを活用したレシピの開発において栄養学を学ぶ短大学生にChatGPTを使ってもらいました。
 学生たちは、まず「既存のスープやシチューにスッポンの出汁を活用した料理を5つ提案してください」というプロンプトを入力しました。ChatGPTからは「スッポン風味のビーフシチュー」「スッポン入りクリームシチュー」「スッポン風味のポトフ」「スッポン出汁のトマトスープ」「スッポン風味の具だくさん味噌汁」という提案があり、その中から「スッポン入りクリームシチュー」「スッポン風味のポトフ」の2つを選択し試作しました。その際「スッポン入りクリームシチュー」は、学生のアレンジをくわえて「クラムチャウダー」に変更しました。
 試作の結果、「クラムチャウダー」は問題なく作成できましたが、「ポトフ」はスッポンの臭みが若干感じられるものとなったため、さらにChatGPTに「スッポンの肉の臭みをとる調理方法を5つ提案してください」というプロンプトを入力し、「醤油やみりんを使った下味漬け」「酢やレモンを使ったマリネ」「薬味を活用した料理」「唐辛子や山椒を使った辛味料理」「高温での焼き調理」という回答の中から「薬味を活用した料理」の提案を採用し、万能ねぎとともにスッポン肉を下茹でするという調理法を試しました。その結果として臭みの薄れたポトフを作成することができました。
 このように、それまで新規レシピ開発に必要であった「事前にスッポンの特徴を調べる」「応用できそうなスープの候補を調べる」「その作り方を調べる」「問題点があればその解決法を調べる」という何段階かのステップを、生成AIを活用することで高速に実行することができ、実際に運用した学生たちからも「慣れれば使いやすかった」「色々な手間を省けた」「アイディアを出してくれる点がよかった」という声を聞くことができました。

6.終わりに

 試行プロジェクトを通じて、学生が生成AIを活用して課題解決を進める方法に大きな可能性があることを実感しています。生成AIの活用は、未知の課題へ挑戦する際のハードルを下げ、主体性を引き出す効果があるようです。試行プロジェクトを継続し、学生が主体的にプロジェクトを推進するための方法論を整備していきたいと考えています。

関連URL
[1] 私立大学情報教育協会「短期大学生による地域貢献支援事業の試行紹介」
https://www.juce.jp/LINK/tandai/consortium.html

【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】