数理・データサイエンス・AI教育の紹介

武蔵野大学データサイエンス学部における
データサイエンス・人工知能(AI)人材育成プログラム

清木  康(武蔵野大学 教授 データサイエンス学部長 データサイエンス研究科長 アジアAI研究所長)

熊谷多加史(武蔵野大学 研究支援部)

1.はじめに

 本学は、2019年に、全国で3番目、私学では初めてのデータサイエンス学部を開設しました。また、2021年に大学院データサイエンス研究科(修士課程)、2022年に博士後期課程を開設しました。先だって、2018年には、アジアAI研究所を開設し、海外の大学や研究機関と連携した国際的な教育・研究活動の環境を準備し、常にデータサイエンス研究の実践を意識した、研究体験連動型学修を推進する教育・研究体制を構築してきました。これらの実績をもとに、本学部は、文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」おいて2023年に認定教育プログラム(応用基礎レベル)「プラス」の認定を受けています[3]。本稿では、この認定を受けた本学のデータサイエンス学部のデータサイエンス・人工知能(AI)人材育成プログラムを紹介し、あわせて「プラス」の認定の対象となった特徴あるデータサイエンス教育についても紹介します。

2.人材育成プログラムの概要

 本人材育成プログラムは、図1に示す通り、主にデータサイエンス学部データサイエンス学科カリキュラム[1]の1・2年生の専門共通科目によって構成されています。以下、詳細に説明します。

図1 データサイエンス・人工知能(AI)人材育成プログラム

(1)データサイエンスリテラシーの習得

 本学部は、文理融合によるデータサイエンス学の実現を目指しており、学際的な学業を志向した学生が入学してきています。各自の情報技術、スキルのレベルは多様です。1年生の前期(1・2学期)の「メディアクリエーション・データデザイン演習Ⅰ・Ⅱ」では、情報システムの基礎、プログラミング、データベース、Web技術等、IoTセンシング技術など、データサイエンスリテラシーとして必要な内容を学修します。それをベースとして、その後の授業では、多くの実習を伴った課題により、提出物として、プログラム、Webなど、「動くもの」の作成およびその発表のトレーニングが行われます。
 毎年、本学は、6月にオープンキャンパスを実施しており、本学部では、訪問者を対象に、色々なデモンストレーションを行っています。デモンストレーションは、4月に入学したばかりの1年生が担当しておりますが、見学者からはこの2ヶ月間での上達ぶりに、毎年、驚きの声があがっています。
 また、データサイエンスの世界への導入として、1年1学期に行われる「データサイエンス学」は、オムニバス形式にて行い、各教員は各自の専門分野や担当する授業科目の紹介を行います。データサイエンス学科にて学修する内容、学び方、学科科目を俯瞰的にみることができようにしています。
 1年後半(3・4学期)の「データサイエンスプログラミング演習Ⅰ・Ⅱ」では、イーラニングツール(PyQ)を利用してPythonを学修します。各自のレベルに合わせて習得する指導により、毎年、数名PyQの全てのコースを終了してしまう学生がいます。
 本学では、冒頭に述べました通り、実践を重視した研究体験連動型学修を推進しています。したがって、実装力が重要です。色々なアイデア、問題解決の手法などを考案し、これを自身でプログラミングし、実装し、デモンストレーションするスキルを身に付けるため、1年生では、データサイエンスリテラシーの学修をインテンシブに行っています。

(2)人工知能(AI)・機械学習の習得

 本学の特徴として、色々な課題解決に対して人工知能(AI)・機械学習を活用することとを主としています。
 「人類と人工知能」では、今までの人工知能の歴史から、最新の生成AIの内容、活用法、また問題点を学び、「機械学習と深層学習」にて専門的なことを学修します。2年次からは、「機械学習デザイン演習Ⅰ・Ⅱ」にてさらに高度な活用法を学修し、「人工知能(AI)デザイン演習Ⅰ・Ⅱ」で応用的な活用法を学修します。
 ここ数年の生成AIの発達に対して、本学では積極的にその利用・活用を推進し、良い面、悪い面、また、倫理しとして守らなければならない点までも、研究対象として、学生を指導しております。
 このように本学では、人工知能(AI)分野に多くの学修時間を割り当てております。

(3)データと数理

 本学の数学関連の授業科目名としては、「データと数理Ⅰ・Ⅱ」、「データと経済統計」、「データと計量経済学」があります。それらの科目では、データサイエンスを適用可能なテーマ、問題、課題の解決を対象として、どのように数学が適用されるのか、その手法、アルゴリズムは何かを中心に学修します。そこでは、毎回、数学を活用したプログラミングが授業の主対象となり、さらに、数式の学修が行われます。
 データサイエンス学の学修において、数学は重要ですが、新入生の数学の知識や興味の度合いは多様であり、数学関連の授業科目は主に2年生から開始することとし、1年生時は色々な授業や、研究体験を通じて、数学学修へのモチベーションを引き上げる工夫をしています。

(4)ソーシャルイノベーション

 データサイエンスを学修する目的の一つに、社会的なイノベーションを起こす方法論の構築があります。自らテーマやイシューを見つけ、それらに取組み、解決する知識とスキルを身に付けることが重要です。本学では「ソーシャルイノベーションの起こし方」を1年1学期から学修します。ソーシャルイノベーションの事例、背景、解決方法について、毎回の講義にて様々な実例を学び、その解決策について各自の考えをまとめ、発表することを行っています。
 1年2学期には「グリーンエコノミー基礎」があり、データサイエンスの視点からSDGsへの取り組むための意識付けを行います。
 2年次からは、「マーケティングデータ分析」「サイバーフィジカルシステム」「複合現実」「Webテクノロジ」など、より専門的な分野の学修をします。

(5)未来創造プロジェクトと社会連携活動概論

 (1)〜(4)までの授業科目と「未来創造プロジェクト」「社会連携活動概論」の授業科目が、文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」の認定教育プログラム(応用基礎レベル)の概要となりますが、本学ではさらに、「プラス」の認定に繋がった、次章に示す特徴的な学修を行っています。

3.特徴あるデータサイエンス教育

(1)実践教育を先導する未来創造プロジェクト

 未来創造プロジェクトは、1年生の後期から始まる少人数制の授業科目で、全教員が担当します。各学生は、自ら社会の課題を発見し、自身のテーマを決め、担当の教員の指導を受けながら、テーマに向けてのイシューは何かを考え、データサイエンス・人工知能を探求、応用して、その解決策を考えて提案する研究に取り組みます。解決するためには何を学ばなければならないか、自身のスキルセットとして何が必要か、常にモチベーションが与えられることにより、能動的に学修する習慣を身につけていくことができます。

写真1
未来創造プロジェクト
 また、1年生の後期末の毎年2月には連携企業を招待し、未来創造プロジェクト成果発表会を実施しています。今年度も、連携企業から20社、約40名以上の方々に参加いただきました。成果発表は、学生各自のポスターセッションの形式で実施しています。1年生の段階では、まだ、各自の研究は始まったばかりですが、企業からからの質疑に対応し、またコメントをいただくことで、実社会からの評価を学業の早い段階で受けることにより、データサイエンティストになる意識を高める重要な機会となっています。各参加企業からは、企業賞を設定いただいており、それぞれの企業の視点から優秀者を選んで頂き、成果発表会の最後に表彰式を実施しております。
 各企業が選ぶ優秀者は、毎年、特定の学生に偏る傾向に無く、教員にとっても興味深い事象となっています。これは、各企業の分野や価値観の違い、企業文化を反映した事象と推測されます。この事象は、学生諸君にとって、データサイエンティストは色々な分野で必要とされ、自身の価値を発揮するフィールドの多様性、個を大事にする重要性を認識する良い機会になっています。この事象は、教員にとっても成果発表会から学ぶ要素として、重要になっています。

写真2
未来創造プロジェクト成果発表会

(2)実社会を学ぶインターンシップ

 本学では、連携企業の協力の下に、2年生の後期からインターンシップを授業科目として実施しています。社会連携活動概論は、2年生の1学期の必修科目であり、ここではインターンシップにて学ぶ重要性、意義の意識付けを行い、企業からのゲストスピーカーによる講演等の機会を設定しています。
 実際のインターンシップは、データサイエンス社会実践学修(短期・中期・長期・海外)の選択科目になっており、インターンシップが終了した際に企業からの成果報告とインターンシップ担当教員からの採点結果により、単位を与えています。
 インターンシップで学ぶ目的は、その企業のジャンルに関連する対象に接し、実社会でのデータサイエンティストとしての職務を体験することあります。また、インターンシップに取り組むことにより、企業が進めるAIやDXなどへの取組みに接し、データサイエンティストとしての活動の場として、企業研究を行うことができ、将来の就職の選択にも大いに役立てることができます。本学学生はプログラミングやデータベース構築、Webデザインを1・2年生から実践しており、また未来創造プロジェクト成果発表会のみならず、授業においても、課題等のプレゼンテーションを行っており、自身のアピール力が強く、インターンシップの受け入れ先企業からも大きな評価を受けております。
 学生がスムーズにインターンシップに取り組めるように、連携企業とのインターンシップマッチングイベントを実施しています。そこでは、各企業による企業紹介やインターンシップ実施内容の説明機会を設定し、学生諸君は、企業からのプレゼンテーションを聞くことに加えて、各自のポートフォリオサイトを作成し、自身のスキルセットや興味のある分野のアピールを発信します。その後、企業から、のインターンシップの募集の詳細について、学生諸君に展開します。時には、企業から、特定の学生の参加の希望が示されることもあります。
 企業とのマッチングを行うため、専任のコーディネーターを雇用し、マッチング、開始、終了報告の授受を行っています。また、新たにインターンシップを開始したい企業との調整も行っています。このコーディネーターが、インターンシップのスムーズな運用のための大きな役割を果たしてします。
 大抵の企業では、インターンシップ終了後、企業内での成果発表会が行われています。コーディネーターや担当教員が参加し、時に、企業によっては役員も参加する機会であり、成果発表会にて、ものおじせず、堂々と発表する学生には、高い評価が与えられています。現在、インターンシップへの参加企業は、約30社にのぼっています。

写真3
企業でのインターンシップ成果発表会

(3)能動的な協調学修

 自らテーマや課題を見つけ、それらの解決方法に取り組む学修を身に付けるため、本学部では、全ての授業科目で、グループワークを導入しています。

写真4
グループワーク

 各授業では教員の説明を前半に集約し、後半は、提示される課題について、5人1組のグループにて、議論課題解決に取り組みます。授業の最後に、各グループでどのような議論を行い、課題を解決したのかについて、発表を行います。
 また、本学部では能動的な学修を支援するための様々なコミュニケーションツールを導入し、授業時間外での教員・学生や学生間コミュニケーションに活用しています。

 データサイエンス学部開校の2019年より、これらのコミュニケーションツールを本学内のシステムとして取り入れていたことにより、新型コロナウイルスの発生で2020年の新学期から全面オンライン授業になった際においても、多くの大学ではその準備のため1ヶ月遅れて授業開始を余儀なくされる等の中、本学は全学部にて従前のスケジュール通り4月から授業を開始することができ、全学的な貢献となりました。

(4)学外への積極的な発信、海外大学との連携

 本学では、未来創造プロジェクトでの自身の研究がどのレベルにあるか、学外ではどのような評価を受けるのかを知るために、研究成果を学外に積極的に発信する指導を行っています。
 2022年度は査読付き国際学会に14件の論文が通り、内1件のBest Paper Award、2件のStudent Best Paper Awardを受賞しています。国内の学会にも多数論文を投稿しています。

写真5
本学2年生が
Best Paper Awardを受賞

 また、研究のみならず、自身のアイデアをプログラミングやアプリケーションと完成させるスキルや知識を評価してもらうために、ハッカソンやアイデアソンにも積極的に参加しており、2022年度は8件が入賞しました。
 さらに、データサイエンス学部・研究科に付属するアジアAI研究所が主導している海外大学との連携活動にも積極的に参加しています。特に、海洋プラスチックゴミ問題は世界的な課題であり、複数の海外大学とデータサイエンスを活用した課題解決に取り組んでいます。学生には海洋プラスチックゴミ問題の重要性を学ぶとともに、国際連携活動についても学ぶことができます。

写真6
タイでの海外連携大学との活動

4.エキスパートレベルへの橋渡し

 本学部は、3年次からは、エキスパートレベルとしての知識、スキルを身に付けるため、専門コースを設定し、研究テーマ設定や課題解決の素養と海外挑戦の意識を身に付ける機会を応用基礎レベルとして形成しています。
 専門コースは、図2に示す通り、3コースを基軸とし、各学生がどのコースのエキスパートになりたいか志向し、選択するようにしています。本学部としては、3コースの内、2のコースをメジャーとマイナーとして、選択するように指導しています[2]

図2 3コースを基軸とした専門コース(エキスパートレベル)

5.終わりに

 本学のデータサイエンス学部の設置の趣旨は、データサイエンスの高い知識、スキル、リテラシー、分析力を持つ人材を育成するとともに、「知の創造」を目的とする新しい学術としてのデータサイエンスを志向し、創造性の向上と、多様な応用を開拓できる、高い理念を持った人材を育成することにあります。一貫した研究体験連動型学修にて常にテーマを発見し、課題を見極め、率先して、それらを解決する方法論の構築に向き合い、個々のスキルを向上させ、リーダーシップを発揮する人材の輩出を目指しています。また、日々、楽しく学修する雰囲気作りも重要です。本学部は、各人が日々研鑽を重ね、新しい学術としてのデータサイエンスの発展を志向していきたと思います。

関連URL
[1] 武蔵野大学データサイエンス学部データサイエンス学科紹介(カリキュラム)
https://www.musashino-u.ac.jp/academics/faculty/data_science/data_science/curriculum.html
[2] 武蔵野大学データサイエンス学部データサイエンス学科紹介(学科の特徴)
https://www.musashino-u.ac.jp/academics/faculty/data_science/data_science/features.html
[3] 武蔵野大学データサイエンス学部データサイエンス・人工知能(AI)人材育成プログラム
https://sites.google.com/ds.musashino-u.ac.jp/datascience-ai-edpg/

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