巻頭言

情報学部開設とともに活性化する文理を超えたデータサイエンスの学び
−新しい環境の中での「第二の改革」

佐藤 裕美(神奈川大学 常務理事)

 本学では2022年4月の建築学部新設に続き、2023年4月には理学部の湘南ひらつかキャンパスから横浜キャンパスへの移転を契機として理工系学部の再編が行われました。化学生命学部、情報学部の新設の2学部を含む理工系5学部が1つのキャンパスに集結することにより、研究から社会実装に至るまでこれまで以上に横断的な取組みが可能となりました。
 とりわけ、情報学部の新設は、AIを中心とするICTの進化が社会のあらゆる面に多大な影響を与える状況下、本学が文理の枠を超えたDX・AI人材を育成に取り組む中で象徴的な動きです。情報学部は、世界標準の情報教育カリキュラムCS2013に準じたカリキュラムを導入する「計算機科学科」、数理的視点からモデリングの方法論やシステム構築を学ぶことを主眼とした「システム数理学科」、ビッグデータの時代におけるデータを中心に処理やモデルを扱う考え方を学ぶ「先端情報領域プログラム」の2学科1プログラムで構成され、情報学の普遍的な基礎・基盤を修得し、論理的思考力や柔軟性を備え、あらゆる情報分野に精通した、技術の進歩とともに自ら成長していくことができる力を備えた専門家の養成を目指しています。
 全学的なデータサイエンスの学びについては、2022年度から全学部の学生を対象として「共通教養データサイエンスプログラム」をスタートさせ、それを柱として今年度は更なる拡充を図りました。「共通教養データサイエンスプログラム」には「リテラシーレベル」と「応用基礎レベル」があり、前者は、数理・データサイエンス・AIに関する知識・技能・問題解決に関わる基礎力の修得を目標として、ビッグデータとその活用、倫理的・法的・社会的課題、データに基づくコミュニケーションについて理解し、活用できる力の涵養を目指すものです。今年度開始した「応用基礎レベル」は、数理・データサイエンス・AIの観点から解決が可能な問題の発見と定義ができる能力、また、現実社会の問題を分析し、システム構築を担うことができる人材の育成を目指しています。両レベルとも所定の科目を修めたプログラム修了者に対しオープンバッジが付与されます。開始からの2年間で共通教養データサイエンスプログラムを修了し認定された学生は約4,000名になり、自由選択制であるにも関わらず履修率が入学者の50%を超える人気科目となっています。なお、「リテラシーレベル」は文部科学省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」に認定されており、「応用基礎レベル」は2025年度の申請が予定されています。
 新しい環境の中で行う教育の中身そのものを見直すとして本学の小熊 誠 学長が現在進める「第二の改革」では、基礎的なデータサイエンスの知識・技能を修得した学生たちが、その学びを自身の専門分野の学び・研究力の向上のために活かし、課題解決や新たな価値創造の実践に結びつけられるよう、経済学部の経済分析専攻の拡充、人間科学部における人間科学データサイエンスの強化をはじめとして、各学部のカリキュラムへの反映について検討が進められています。私自身はいわゆる人文系の学部に所属していますが、人間とはどのような存在かについて深い洞察をもつ人文系の学生は、ヒトの能力をよりよく発揮するために、AIとどのように協働するべきかについて興味深い提案ができると思っています。
 データ分析による客観性が重視される一方、SNSの普及によりフェイクニュースや感情的な意見が瞬時に世界中に拡散され、世論形成にも影響を与えうる現実もあります。最先端の知識・技能を学びつつも、情報の正確さを見抜く力、あらゆる情報を客観視する姿勢を身につけることについて大学は大きな責任を担っていることを改めて感じます。本学の建学の理念である、「質実剛健」「積極進取」「中正堅実」が意図する、本質を見極め、真理に対して誠実であり、変化にしなやかに対応し、自律的に行動する人を育て健全な世界の構築のために貢献する大学であり続けるために教職員一同努力を続けてまいる所存です。


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