特集 ICT活用によるリカレント教育(社会人の学び直し)の推進

女性のための「DX人材育成コース」とリカレント教育

梨 博子(日本女子大学 生涯学習センター所長・文学部英文学科教授)

1.はじめに

 本学のリカレント教育課程では、2023年10月に「次世代リーダーを目指す女性のためのDX人材育成コース」を開講しました。このコースは、DX推進人材の育成並びにデジタル分野における女性のリーダーシップの推進を目的とし、学びへの意欲の高い就労中の女性の方々を対象とするものです。
 日本で初めての女性のための総合大学である本学の「リカレント教育」は、創立者成瀬仁蔵の「生涯教育」の理念、即ち、「私たちが生涯を通して学び続け、成長し続けることが大切である」という教育理念のもとに実施しております。リカレント教育のフロントランナーとして取組みを推進してきましたが、今新たなデジタル時代を迎えています。
 コロナ禍を契機に社会で急速に多様化した学び方・働き方の現状を踏まえて、デジタル社会の基盤となるICTの活用・推進とあわせ、本学リカレント教育課程が女性活躍の推進に向けて、どのように取り組んでいるのか紹介したいと思います。

2.リカレント教育とICTの活用・推進の取組み

 「女性活躍の推進」は、政府においては「女性活躍・男女共同参画の重点方針2024」等で重要な課題と認識され、また国際的なレベルでは、2023年6月に開催された「G7栃木県・日光男女共同参画・女性活躍担当大臣会合」において女性の経済的自立などの課題に関する取組みや方針がとりまとめられています。
 こうした中、本学リカレント教育課程では、女性のためのリカレント教育の推進に向け、内閣府・文部科学省・経済産業省・厚生労働省・観光庁等の省庁、東京都・文京区などの自治体、東京商工会議所や関係企業からのご支援や、他大学との連携を通じ、さまざまな活動を展開してきました。
 大学間では、2019年度に「女性のためのリカレント教育推進協議会(FRE)」を発足させ、現在は京都女子大学など8大学共同で、オンラインシンポジウムの開催などの普及啓発活動を行っており、また実務家教員養成の面では、社会構想大学院大学を代表校とした取組みに参画してきました。
 本学のリカレント教育課程では、「次世代リーダーを目指す女性のためのDX人材育成コース(DX人材育成コース)」のほか、「働く女性のためのライフロングキャリアコース(働く女性コース)」、「再就職のためのキャリアアップコース(再就職コース)」と、それぞれ特色の異なる3つのコースを提供して、社会人女性の学び直しを支援しています。いずれも文部科学省「職業実践力育成プログラム(BP)」に認定されている履修証明プログラムで、大学という教育機関だからこそ、体系的な学びを通して知識やスキルを身につけるだけでなく、働く姿勢やマインドの醸成を目指すものとなっています。
 ICTの活用・推進の面では、各コースの特性にあわせてICTを利用したカリキュラムを提供しており、さらにICTを学ぶ科目も取り入れています。「DX人材育成コース」ではDXの仕組みを理解しながら、幅広いスキルを習得しマインドを高めるなど、総合的な力をつけることができます。「働く女性コース」(2021年度開設)と共に全面オンライン授業としていますので、どの地域からでも受講することができるようになっています。コロナ禍前は対面形式のみで行っていた「再就職コース」(2007年度開設)でも、現在ではオンラインと対面の混合形式で実施しています(写真1)。

写真1 ハイブリッド修了式の様子

 運営の面では、本学の学部・大学院が利用しているLMS(学習管理システム)のmanabaを導入し、お知らせの通知、課題の提出、教員への質問や教員からのフィードバックに活用することにより、スムーズな授業運営が可能となっています。オンライン授業は主にZoomやTeamsを使った双方向型で実施していますが、ブレイクアウトルームなどの機能を利用して、受講者同士のグループワークやディスカッションの活性化にも役立てています。

 次に、各コースの概要とICTの活用・推進の取組みについて、詳しく説明していきます(表1)。

表1 日本女子大学リカレント教育課程 2024年度 3コースの概要

<DX人材育成コース>

 「DX人材育成コース」は、文部科学省の事業の採択を受け、コロナ禍で顕在化した日本の職場におけるDX導入の遅れやDX人材不足を解消するために、DX推進人材の育成並びにデジタル分野における女性のリーダーシップ推進を目指すものです。本学理学部の協力を得て、DXやICTの総合的な知識が得られる概論科目のほか、データ処理やツール学習などの演習、ビジネススキルやキャリア形成に関する科目も提供し、DXについて体系的に学ぶことができるコースとなっています。
 受講者が同じコンピューター環境で学習できるように、予め必要なソフトウェアをインストールしたPCを貸与して行うプログラミングの科目や、実務家がDX推進事例を紹介する科目もあり、多くの方々に履修していただいています。なお、このコースは、厚生労働省「一般教育訓練給付金講座」に指定されています。平日夜間と土曜日にすべてオンラインで授業が行われるため、働きながら学びやすい環境となっています。
 受講者は、すでに社内でDXを推進していく立場にあるチームリーダーや管理職の方、将来管理職を目指している方など、ICTのリスキリングによって職場に変革をもたらし、日本の経済や社会を牽引していこうという気概にあふれる女性たちです。

 第1回生の修了生からは、「カリキュラムが多岐に亘り、DX推進だけでなく幅広い日常業務への応用が効く内容だった」、「実務で即利用できるスキルが身についた」、「今後のキャリアアップの機会に大きく影響してくるのではないかとワクワクしている」などの感想が聞かれました。

<働く女性コース>

 「働く女性コース」は、2021年度に全面オンラインで開設しました。2018年度に採択された文部科学省の事業の一環として、社会人女性や企業を対象としたニーズ調査を行い、その結果を踏まえて、英語やICT、プレゼンテーションをはじめ、ニーズの高いビジネススキルやキャリアデザインなどの科目を設置しました。調査結果からは、学び直しを求める社会人女性が、離職した方だけでなく就労中の方にも増えていることがわかりましたので、働く女性に受講していただけるように授業時間を平日夜間と土曜日に設定しました。また、時間を有効に使えるようオンライン実施にすることにより、全国から、さらには海外からも受講されています。このコースは、厚生労働省「特定一般教育訓練給付金講座」に指定されています。

 修了生の声としては、「受講生同士がディスカッションして意見をまとめ発表し、それをもとに授業を進めていくなど受講生参加型の授業が多く、普段周りにいる人とは違う考えを聞くことができとても新鮮だった」、「異なる年代、異業種の受講生と一緒に学びの楽しさを味わうことができた」、「総合的にビジネススキルを習得できるプログラムが用意されているので、マネジメント層を目指している方にお勧め」などがあります。

 オンラインの利便性が、様々な年齢、業種、職種の方々と共に学び、意見を交わし、切磋琢磨できる環境を創造していることがわかります。さらに、体系的なビジネススキルが身につけられることに加え、「人材育成の導入理論」など、キャリアアップを目指す女性のための科目も取り揃えていますので、管理職を目指したい方にも適したカリキュラムとなっています。

<再就職コース>

 「再就職コース」は、社会人女性のエンプロイアビリティ向上と再就職支援を目的に本学リカレント教育課程の創設時から継続しているコースで、厚生労働省「専門実践教育訓練給付金講座」に指定されています。
 必修科目に英語やICTスキルのほか、自身のキャリア設計について考える「キャリアマネジメント」の科目を設置し、再就職支援としては、キャリアカウンセリングを行う他、東京商工会議所、東京都労働局、文京区の支援による企業説明会を開催しています。

 修了生の感想としては、「勇気をもって第一歩を踏み出し、じっくり学べた」、「再就職を果たして新しい自分になることができた」、「良き仲間に巡り会えた」、などがあり、他の受講者たちと共に学ぶ中で相互に刺激し合い、自己成長が促進されていることがわかります。

 コロナ禍では、対面授業からオンライン授業への移行について不安もありましたが、実際に行ってみると、オンラインでも Zoomや Teamsを使った双方向型授業がほとんどなので、全員がビデオをオンにして顔が見える状態で参加し、講師や他の受講者たちと共に学ぶ環境を維持することができました。ブレイクアウトルームを使ったグループワークでは、かえって対面よりも発言しやすいと感じることもあったようです。また、オンライン授業は通学不要なので、その分時間を有効に使うことができて履修しやすく、その結果、より多くの授業を履修できるなどの利点があることもわかりました。「プレゼンテーション」など、科目によっては対面の方がより効果が期待されるものもあるので、2021年度からは対面とオンラインそれぞれの良さを活かした混合型の授業形態を取っています。企業説明会についても、現在は対面・オンラインの両方で実施しています。

3.さいごに

 日本の職場や社会においては、女性の管理職が少ないなど、ジェンダーギャップが課題となっています。筆者が留学中および研究員・教員としてアメリカに滞在していた時の経験から申し上げると、強い意志をもって学び、自分を高めながら人生を切り拓いていく人々と接する中で、個人の尊重を基盤とするダイバーシティが社会で実現されていること、そして学びのスタイルにも人それぞれ多様性があることを実感しました。本学のこれまでの取組みでは、受講者が「リカレント(=循環する)教育」で学んだことを社会の中で実践し、その経験を学びに持ち帰って反芻し、改善して実践に戻す、という「学び」と「実践」の好循環が生まれています。
 本課程での学びは、他の受講者や講師と交流し、視野を広げる機会を提供しており、ビジネススキルを磨くだけでなく、マインドも向上させ、さらに、人間力やコミュニケーション力も高めながら、学びで得た知見を実社会の中で活かしていく術を身につけてほしいと考えています。学び直したい女性がもっと自由に学べるように、そして、学んだことを活かしてもっと社会で活躍できるように、本課程ではこれからもリカレント教育を拡充させていきたいと思います。


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