情報教育と環境
松山大学の情報教育および環境の構築について
1. はじめに
現在、学校教育において情報教育が重要視されていることには、複数の要因がある。この要因は、教育手段の変化に起因するものと社会からのニーズによるものとの2つに分けられる。それぞれは、異なる立場から情報教育を行うことになる。それによって、情報処理環境の構築も異なってくる。
前者は、コンピュータによる教育支援、教育方法論、教育技術などの名前で、さまざまな手法があげられている。具体的に松山大学の授業の中でもそれぞれの科目の担当教員が各自工夫をして取り込んでいる。
後者は、情報化社会が進展していく中、卒業後も学生が社会において、企業の中で情報化社会に適応してゆくための知恵を身につけることにある。
2. パソコンのアプリケーション・ソフトウェアの多面性
本学での情報教育は、パソコンやソフトウェアが普及するにつれてコンピュータの専門的な知識がなくても使えるようになったこと、安価になったことで、パソコンを授業に取り入れることから広がっていった。
そのきっかけが、表計算ソフトなどのパソコン・アプリケーションの普及であった。十数年くらい前からポピュラーになってきたパソコンと表計算ソフト、ワープロソフトを経営学部の学生にビジネスの道具として使うことを教育することがスタートした。具体的には会計学の授業で表計算ソフトを使うようにマニュアル化したことである。これは、教材作成の効率化と学生の学習意欲を高める効果があった。
このパソコン・アプリケーションを授業に取り込むことは、会計学のほかに、統計学、計量経済学、経営データ解析などで行われはじめ、現在も続いている。情報教育の教育手法的な面である。
3. 学生所有のパソコンの多面性
アプリケーションを利用する授業では、アプリケーションのバージョンアップ、OS環境の変化によるアプリケーションのユーザインターフェイスの変化など、教材を作成しマニュアルを作成した場合、それらを変更しなければならない。また、世の中の主流のアプリケーションが変わったとき、社会的なニーズに応えるためには、教育の場のアプリケーションの変更も考慮しないといけないが、この場合、「社会的なニーズ」と「教育技術的」な面のバランスが問題となる。また、教員、環境構築のスタッフの負荷も考慮しなければならない。
経営学部の学生は、入学時に携帯できるパソコンを購入する。現在、1年生から4年生まで全員がパソコンを所有している。
このパソコンでは、アプリケーションを指定している。このことによって、学生は同じアプリケーション環境を卒業まで使うこともできる。ただし、能力のある学生は、WindowsのほかにLinuxなどを入れる自由は束縛しない。
このノートパソコンを学内のネットワークのHUBに接続するためのイーサネット・カードは情報処理事務室で貸し出している。カードの総数は、
約100枚である。
4. CAI的な教室施設の多面性
教育手法、技術的な面では、平成3年に120台のMS-DOSパソコンを導入したとき、パソコン教室で、一人の教員が多人数の学生を指導するためにPC-SEMIなるCAI的な装置を導入したこともある。
これは、この装置を使いこなした教員の間では今でも人気が高いが、このシステムのパソコン1台あたりのコストがパソコンの価格と変わらないため、コスト対機能の比率でプロジェクターを使ったものに変わりつつある。
また、情報処理教室において、AV(オーディオ・ビデオ)教室のような面の役割も、マルチメディア的な教材の増加によって出てくる。
5. 情報教育としてのプログラミング言語教育の多面性
アプリケーションと同時にプログラミング言語の教育も変化した。本学での実習を伴ったた情報教育は、ミニコンでのFORTRAN言語教育からスタートした。ミニコンによるTSSとコスト的に比較して、パソコンが大量に導入されるようになりBASICへと変わった。プログラミングの内容もパソコンのカラー画面を活かしたグラフィックの教材が効果をあげる。
その後、パソコンでFORTRANとCOBOLの2つの言語によるプログラミング教育は続いている。その間、教員によっては、Pascal、C言語などの教育も行ってきた。
しかし、プログラミング教育のあり方については、担当者の間でも結論が出ていない。このために、情報処理教室のパソコンがIP接続された後は、ホームページ作成が学生の関心を集め、プログラミングからHTMLでのテクニックへと関心が移った。(再び、プログラミングが復活するのはJava?)
6. 松山大学図書館情報システムとイントラネット
中四国の私立大学としては豊富な蔵書量を誇る図書館では、文献情報検索サービスが、図書館と総合研究所にLANを設置し、学生のための専用端末を数台図書館内に配置して10年以上前から行われている。
平成8年夏から、文献情報検索サービスがウェッブ(Web)の技術と連携することになる。これはイントラネットとして利用される。
図書のディジタル化に伴いCD-ROMサーバなども導入され、これもイントラネットに接続されることになる。
7. AVとパソコンのマルチメディア利用
語学教育でのLL関連の設備の拡充を進めていく過程で、AV教室にパソコンが導入される。昭和63年のことであった。語学での用途を考え、国産のサウンド機能を持つパソコンであったが、やはり時期が早すぎ本来の目的には役不足であった。
待望のMacintoshの導入が平成6年になされ、40台入れた教室ができ上がってから、CD-ROMを使った英会話の教材利用や、スピーチトレーナを使った発音練習などの教材が活かされることになった。その後、Macintoshの台数は倍以上に増えている。
8. パソコン・ネットワークの構築
ネットウェア(NetWare)がパソコン・ネットワークとして導入されたのは、平成3年である。教材などの一元的な管理としてのファイルサーバとしての役割が主な役割であった。
このパソコン・ネットワークの導入で、クライアントはMS-DOSパソコンであったが、プリント・サーバの共有、ファイルバックアップの運用などネットワークを管理する知識と経験をスタッフは得ることができた。
学内LANがIP接続されてからは、IPトンネルの実験として、隣の愛媛大学とNetWareサーバの共有などを行った。
9. インターネット接続とFDDI,ATM環境の構築
それまで、UUCPで電子メールとネットニュースを利用していたが、平成5年にインターネットにIP接続をし、同時に学内にFDDIを敷設する。教室のパソコンは、すべて学内LANに接続し、研究室までの配線を行う。
平成7年に、マルチメディア・アプリケーションとしてビデオ会議などを行うために、クライアントにWindows95パソコンおよびMacintoshを導入し、AVライブラリーと情報処理教室の間の幹線をATMとして、UNIXサーバをATMに接続している。
10. 公開講座や地域のネットワーク化推進
松山市との提携で、「市民向けのパソコン講座」、さらには大学独自の「インターネット講座」を開設している。また、地域ネットワークへの貢献として、「愛媛ネットワーク研究協議会」の活動をセミナーの開催など平成7年から積極的に行っている。
また、松山発、地球規模のHAIKUサーバの運営を平成6年7月から行い、世界のHAIKUサーバの中でも人気は高い。HAIKUコンテストも定例化し、優勝者を松山に招待するなど国際的な交流にも貢献している。
11. 統合的な学内情報システム − 将来に向けて
インターネットの爆発的な普及がコンピュータやネットワークを社会に浸透させる大きな原動力となった。ネットワークの中の仮想的な社会が現実の社会との間に相互に影響を与え始めた現在において、人間の文化を支えるものとしてコンピュータやネットワークが自然に人々の間に認められるものになりつつある。学内でも、インターネット登場以前はコンピュータを触ったことがない教員も、ブラウザを操作して情報検索を行うよになっている。このような状況で、情報教育はさらに自然に学校教育になじんでいくだろうし、コンピュータあるいはネットワークにかかわる教育は、学校という組織の中でさらに統合したものへとなっていく。このためには、現在の技術にとらわれない広い視野が重要となっている。
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