巻頭言
大橋 秀雄(工学院大学学長)
平成3年に導入された大学設置基準の大綱化とリンクして、自己点検・自己評価が教育改革の重要な手段として位置づけられてきた。今や大学の8割が自己点検・自己評価を実行し、5割がその成果を報告書あるいは白書の形で公表するまでに至っている。最近では自己点検・自己評価の客観性を高めるために、学外者の評価すなわち外部評価を併用するケースが増え始めている。
外部評価には、大学が独自に行う自己点検・自己評価に大学が指名する外部評価委員が加わって意見を述べる方式と、大学基準協会が行う相互評価のように確立されたマニュアルに従って評価を一括委任する方式とがある。筆者は、そのいずれの方式にも外部評価委員として加わった経験があるが、各大学から提出される膨大な資料の山を前に、大学の実像を掴むべく悪戦苦闘するのが常であった。その中で、最近強く感じるようになったことが一つある。それはインターネットを通じた大学の情報公開が急速に拡大してきたことである。
今や、私情協加盟大学の8割はホームページを開設しているし、非加盟校を含む全私立大学でも、その2/3はホームページを持つ時代となった。大学自体がホームページを通じて発信する内容は、印刷物を通じて公表する各種資料とあまり変わらないかもしれない。むしろ面白いのは、学生自身が発する情報、すなわち学生個人、各種団体などのホームページ、あるいは学内のニューズグループに投稿される記事などであろう。そこには、学生の生の声が溢れている。
外部評価にあたり、圧倒的に物足りないと思うのは、教育をする側の理念や意図については有り余るほどの資料が提示されているのに、教育を受ける側が、それをどのように受け止め、どう感じているかについてほとんど言及されていないことである。この意味で、インターネットは学生の発する信号を直接キャッチする貴重な情報源である。いくら大学側が、情報教育に力を入れていると力説してみても、ホームページを開設している学生の数が微々たるものであれば、情報教育の設備的環境が悪いのか、あるいは生きた情報教育が行われていないかの何れかと推察せざるを得ない。この意味で、インターネットによる情報探索は、大学の素顔を発見する得難い手段である。ちなみに筆者の大学では、情報教育用のサーバーにホームページを開いている学部学生が千人強で、卒論などの所属研究室のサーバーに乗っている学生を加えると、学部学生のホームページ率は25%というところであろうか。おそらくこの割合は、さらに増える一方であろう。
私情協は、設立以来20年の長きにわたり、計算機環境の整備から始まって最近のネットワーク環境の整備、マルチメディア、大学間コラボレーションの推進に至るまで大きな成果を残してきた。このような情報環境の変化は、単なる情報教育改善の枠を越えて、実は大学の教育改革そのものに大きなインパクトを与えていることに改めて着目すべきと思われる。