農学の情報教育

学生の実態を考慮した農学における情報教育


鈴木 博実(明治大学農学部講師)



1.はじめに

 農学が対象とする領域は農業、林業、畜産業、水産業、醸造業等の生物産業や流通産業、食品加工産業、造園業等広範囲に渡り、必要とされる情報教育の内容や程度は様々であるが、農学部で最低限必要と思われる情報教育としては第1に数値処理を中心としたアプリケーションソフトの応用能力、第2にネットワークの利用能力が挙げられるであろう。さらに様々なシミュレーションを行う分野ではプログラムを開発するための言語教育も不可欠である。インターネットや各種ウィンドウシステムが簡単に利用できるようになってきた今日のコンピュータ環境の中で行われているこのような情報教育について私の講義内容を含めて紹介する。


2.農学部の情報教育の概要

 明治大学では情報科学センターが理工学部を除く全ての学部および短期大学を対象に、情報関係科目を原則的に全学共通科目として設置し、基礎的および応用的情報教育を実施している。農学部の情報関係科目もこの枠組みの中に組み込まれており、情報基礎論(10コマ)と数値情報論(1コマ)が情報関係科目として開講されている。
 情報基礎論は単にコンピュータの扱い方やソフトウェアの使い方のみに力点を置くのではなく、情報の処理・通信・蓄積を通して情報の意味を知り、また創造のための手段・手法・方法論を教えるための基礎的情報講座と定義付けられており、大別するとBASIC、FORTRAN、Cといった言語を中心に指導するコースとワープロ、表計算等のアプリケーションソフトの利用法を中心に指導するコースに分けられる。またコンピュータの概要、電子メール、WWWブラウザ等のインターネット関連ソフト利用法等についても触れられている。このように同じ科目でありながら内容が異なっているので、シラバスを参考に学生が自分の目的にあった授業を選択する仕組になっている。
 数値情報論は、情報基礎論を習得した後に履修が認められている講座であり、数値処理を行うための問題の定式化と数値計算および具体的なシミュレーションへの適応について講義を行う。具体的にはFORTRANを用いて、ニュートン法による非線形方程式の解の求め方、掃き出し法による固有値計算、ルンゲクッタ法による数値積分等基礎的な数値計算法を指導している。
 これら情報関連科目用に3つの情報処理教室が用意されている。そのうちの1教室にはWindows3.1が搭載された富士通のFMVが70台、他の2教室には富士通のSシリーズのワークステーション(SunのOEM)が各々70台用意されており、全て教育用のネットワークに接続されている。
 情報関係科目以外では、専門の実験で表計算ドフトを載せたノートパソコンを用意し、得られた実験データを統計処理させている。
 また、授業とは別に情報科学センターが開く各種講習会も用意されている。機器操作やアプリケーションソフトウェアの利用方法などの技術面については、この講習会を受講することによって補えるようになっている。


3.アプリケーションソフト利用の情報基礎論

 農学部の多くの学生にとって、数学や物理は苦手科目であり、Windowsやインターネットブームでコンピュータに興味を持つ学生は増えてきているが、コンピュータは未だに畏れ多くて近寄り難い物のようである。さらに農学の一部の分野を除いては、コンピュータは理工学部ほどは使われてきていない。このため研究室に配属され卒業研究を行う場合でも、一部の学生を除いてはコンピュータでプログラムを組むことは稀で、実験データを既存のアプリケーションソフトで解析したり、ワープロやDTPあるいはプレゼンテーション用ソフトを使用して、論文やスライド等を作成したり、あるいはブラウザソフトを利用して各種インターネット上で公開されているデータの検索、収集、または電子メールやネットニュースによる情報のやり取りを行うのが殆どである。さらに農学部の学生のうち数値情報論まで履修する学生はコマ数の関係もあり数10人に過ぎない。つまり多くの学生にとって情報基礎論が唯一履修する情報関連科目となる。
 私が担当している情報基礎論は、このような学生を対象にした、パソコン(富士通FMV)を前にする実習型講義である。授業で使用するパソコンには、ワープロ、表計算、メール、ブラウザ等のアプリケーションソフトやC、FORTRAN等のコンパイラが用意されている。
 情報基礎論の受講者の多くは新入生であり、現時点ではあまり情報教育を受けてきていない。そこで前期は初心者としての教育を行っている。コンピュータの仕組みに始まり、パソコンの立ち上げ方、タッチタイピング、ワープロ(MS-Word)、インターネットの仕組、email(LaMsil)ブラウザ等について指導している。ブラウザでは、その表示の仕組だけではなく、農学関係の幾つかのWWWサーバにアクセスし、どんな種類のデータがどんな形で公開されて、研究にどのように利用できるかを示し、データの入手・加工方法についても触れる。またこの授業では単なるコンピュータリテラシーだけではなく、情報倫理や情報化社会への対応等についても触れることにしている。
 後期は専門科目や卒業研究に向けて、表計算ソフトExcelを使用した各種統計解析について講義する。具体的にはデータの入力方法に始まり、数式・組み込む関数の使い方、データのグラフ化、回帰曲線の求め方、相関関係の把握、データ予測等といった内容である。ここでは単にExcelの使用方法を指導するのではなく、そこで使用している統計学にも簡単に触れる。また与えられたテーマを解決するためにどのようにデータを処理するかについても考えさせている。例えば、アミノ酸の持つ幾つかの性質と膜蛋白質のアミノ酸配列、および膜貫通領域を与えて、膜貫通領域を決定しているアミノ酸の性質を類推させている。また農学においてデータベースの占める役割は高いので、データベースの構築法やデータ検索、データ抽出、並べ替えといったデータベース機能についても講義している。


4.まとめ

 上述した内容は現時点での内容であり、高校での情報教育が充実してくるにつれて当然変化してくる。またアプリケーションソフトの発達に伴い、シミュレーション等が簡単に行えるようになれば、様々な専門科目でコンピュータを利用する機会は増えていく。このためにはコンピュータの基本的操作法、各種言語教育、アプリケーションソフトの習得等技術的な面は情報科学センターが用意している各種講習会で賄うようにすべきである。それにはより多くの学生が必要な講習会に参加できるように、学部と情報センターとの協力体制の強化が必要である。


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