農学の情報教育

農学部での情報教育


熊谷 惟明(東京農業大学農学部電算機室助教授)



1.はじめに

 本学は、農学部一つの単科大学であるが、その学科構成は、農学科、林学科、畜産学科、農芸化学科、農業工学科、農業経済学科、醸造学科、国際農業開発学科、造園学科および栄養学科と人間生活のほとんどの部分を支える学問分野を擁しており、農業の総合大学ということができる。したがって、それぞれの教育研究分野における情報教育の形態または内容は異なっているが、情報教育の目標として共通していることは、学生に専門とする分野でコンピュータを知的道具として十二分に駆使できる基礎的能力を修得させることであろう。
 本稿では、この共通部分についてのみ報告する。


2.情報教育ハードウェア環境

 現在、富士通M1600/8を中心にメインフレームを組み、教育用LANが構築されているコンピュータ演習室と光ファイバーを使った100Mbpsの伝送速度を持つFDDI(Fiber Distributed Data Interface)で結んでいる。コンピュータ演習室には、ノート型パソコンをそれぞれ100台、50台、30台を設置している3室と、デスクトップ型パソコン150台を設置している1室およびCAD教育専用のための1室がある。それぞれの演習室では、パソコン独自の機能のみを利用して授業を展開することもできるし、また大型コンピュータに接続して高度な数値計算処理や統計処理を行うこともできる。特に、本学の特徴として、コンピュータ演習室、3室にノート型パソコンを採用しているのは、将来、学生が自分で購入することの多いノート型パソコンに早くから自分の知的道具として慣れ親しむ機会を多く提供するためでもある。
 インターネット利用に関しては、電話回線およびサーバを整備している段階で、現在は、教員の研究用にしか解放されておらず、学生の利用は、一部のコンピュータ演習室か学生の所属する教員研究室のみとなっている。近い将来、インターネット利用環境を整備し全学にその利用が解放される予定である。


3.情報教育ソフトウェア環境

 パソコンのOSにはWindows95、アプリケーションソフトには、Microsoft Office(Word,Excel, Access)、一太郎(ワープロ)、Visual Basicおよび通信ソフトがすべてに導入されているが、一部演習室には、このほかC++言語ソフト、または農業簿記ソフト、インターネット関連ソフトとF-Basic、またはCAD関連ソフト等が付加されて多様な教育に対応できるようになっている。
 パソコン演習室とネットワークで結ばれている大型コンピュータシステムには、高級言語(アセンブリ、COBOL、PL/I、FORTRAN),SAS(汎用統計システム),MAP(多変量解析プログラムパッケージ)およびSSL II(科学計算用サブルーチンパッケージ)が使用可能であると同時に、本学教員が開発したもの、または導入したものに数量化理論I類〜IV類やクラスター分析等があり同じくこれらも利用可能である。
 ひまわりネット(農業情報提供ネットワーク:株式会社IBC)よりオンラインサービスで国内すべての都道府県を対称として農産物市況情報、気象データ、農産物生産データおよび土壌分析データの提供を受け研究教育に利用する環境を整えている。


4.コンピュータ概論

 学生が、諸科学における情報利活用の基礎知識として、情報理論、コンピュータの構造と機能を理解、コンピュータに仕事をさせるためのアルゴリズム、コンピュータネットワークとコンピュータ通信そして情報を扱うときに生ずる情報倫理の問題等について、学生の専門とする分野から身近な例題、課題を提示しつつ学び理解を深めることを目的としている。
 数年前までこの講義は、コンピュータリテラシー教育の位置づけで行われてきたが、近年はより専門教育での活用に重点をおくとともに、専門研究に役立つパソコンの仕様、望ましい性能、価格等を付け加えることにより、学生が積極的に知の創造を助ける道具としてのパソコンを理解するよう手助けしている。


5.コンピュータ演習

 ここでは主にパソコンの機能を十分理解させるとともに、表計算ソフトを利用してデータの入力・分析・蓄積そして出力方法を修得させる。また、蓄積されているデータの様式を(例えばExcelファイルからCVSファイルに)変換して、それをネットワークを介して大型コンピュータシステムに転送(アップロード)し、SAS(汎用統計システム)を利用してコンピュータによる問題解決の方法とデータ処理方法を学ばせる。
 最初の数時間は、未だコンピュータに触れたことのない学生も受講しているので、パソコンを使うための操作と文字入力を学び、パソコンに慣れるために使っている。この時間帯で、文字入力等に利用する文字やデータは、なるべく学生の専攻する分野から選び、次の表計算ソフト(Excel)での使用へとつなげている。
 表計算ソフトでデータの修正、加工、複写、グラフ化処理の後、統計処理を行う。同じデータを利用して大型コンピュータシステムでも同じ統計処理を行う。とくに農学における変量やサンプル数の大きいデータを扱う場合、大型コンピュータ(またはUNIX系ワークステーション)の使用の効率性を体験させればよいのだが、現在のカリキュラムでは不可能である。


6.おわりに

 これまでのコンピュータリテラシ教育は、機器の高性能化とより高度なヒューマンインターフェースの組合せにより、大学における専門教育を充実させる一つの技法への橋渡しの教育へと変貌しなければならないのだが、現実的にはもう少し時間がかかりそうである。


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