特集 大学のマルチメディア環境
個別学習におけるマルチメディアの利用
−講義と連携したノートパソコンの利用−
金沢工業大学
1.はじめに
金沢工業大学では、学園創立以来AV設備の整備に重点をおき、利用するビデオテープを予約しておけばAVライブラリーから自動転送される教室や、ビデオテープやノートパソコンを持ち込めば大画面に再生できる教室が現在では57教室ある。さらに1972年よりCAIシステムを導入し、新入生に対する補完教育を実施してきた。現在では、多方面の専門基礎教育を支援するシステムに発展している。また一昨年より学内基幹ネットをATMによる高速ネットワークに再整備し、学生の持つノートパソコンからインターネットに接続した授業も行っている。
本報告では、教室内の情報コンセントを利用した授業形態の報告ではなく、学生のノートパソコンを自学自習として利用する個別学習についての現状報告である。対象としている分野は英語教育である。
2. 英語教育の環境
ここで紹介する外国語科目のイングリッシュコミュニケーション1,2の授業は、本学が現在進めている教育改革に沿って、その目的を明確にして生まれたものである。本改革の全容を紹介することはできないが、その特色を列記すれば次の5項目になる。
- 修学基礎科目の設定
- 人間形成基礎科目の設定
- 工学基礎科目および専門基礎科目による基礎学力の向上
- 専門コア科目の新設
- 工学設計科目の重視
イングリッシュコミュニケーション1,2は人間形成基礎科目の外国語科目に属している。
外国語の科目の内容は、実用的コミュニケーション能力(英会話リトゥン・コミュニケーション等)の訓練を目的として実施する科目である。学生向けのガイドブックによると、ここでは、大学レベルでの英語によるコミュニケーションに求められる基礎的な技能を修得する。実際のコミュニケーションを行うために必要とされるリーディング、リスニング、ライティング、カンバセーションの各技能に対して集中的な学習活動を行う。本科目では、次のような活動ができることを学習目標とする。
- 学生が、日常生活において遭遇する場面で短い会話を行うことができる。
- 必要な情報を得るために、簡単な一般向け記事、指示書、説明文、手紙が読める。
- 簡単なメモ、手紙、説明文、指示書を書くことができる。
とされている。この科目はコミュニケーション中心であるため15人の外国人教員によって、1クラス30人前後の比較的少人数で行われている。
3.教材の提供と利用
最近は、パソコンを利用した教科教育用の教材ソフトが多く市販されている。その中で、語学教育に関した教材ソフトも多く見られる。本学でも幾つかの英語教材を作成してきたが、これらの教材は、
(1)講義の内容と密接な関係がない。
(2)教材作成に時間がかかるため、最新の題材を扱うことが困難である。
(3)教材作成に多くの人材と費用を要する。
といった問題点があった。従って、
- データの入れ替えを短時間でしかも簡単に行えるようにする。
- コンピュータの専門家でなくてもCAI教材を作成できるようにする。
- 学習状況を教員が簡単に評価できるシステムとする。
といったことがクリアできれば、講義の補助として、講義に連携したCAI教材はいっそう学習効果を高めることに役立つと考えられる。
教材の提供は、昨年(1996年秋学期)には“Reading Strategies”を授業のときにCAI教室でサービスが受けられることをアナウンスするだけで、後は学習者の自主的な活動に委ねられた。約300名の学生が、所有するノートパソコンにフロッピーディスク等を介してダウンロードし利用した。
本年度の春学期には、教員の要望もあり約2,000名の学生にテキストに付随した形でCD-ROM“Idea,Design,Machine”を配布した。対象となった学生のノートパソコンにはCD装置がないためにプログラムのインストールは希望する学生約800名に行った。
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図1 ノートパソコンでの教材画面例(カラーページ参照) |
4.英語教材の構成
自学自習を支援する英語CAI教材の学習目標は、
- 分からない単語のひとつひとつにとらわれず、本文全体の意味に集中して学習することにより読解能力を向上させる。
- 本文中の特定のそれぞれの場面にふさわしい意味を理解しながら語彙を増やす。
- 一つの本文で読解練習を行いながら、さらに聴解能力も養う。
のように設定されている。
教材は上記の学習目標を達成するために次の4つのモードから構成されている。
(1) Reading Mode(読解練習モード)
単語の意味を調べたり、発音を確認するためのモードである。意味を調べたい単語にマウスカーソルをあわせ、マウスの左ボタンをクリックすることによってウィンドウの下方に意味が表示される。さらに発音を確認する場合には「再生」ボタン、もしくは単語をダブルクリックすると音声が再生される。一度単語をクリックするとその単語はピンク色に変わり語彙リストに記録される。
(2) Listening Mode(聴解練習モード)
表示されている任意の文章をクリックすると、その文章が反転表示される。「再生」またはダブルクリックによって音声を再生する。
(3) Dictation Mode(書取練習モード)
本文が表示されず、現在学習しているChapterの各Paragraphの先頭の文の一部が一覧表示される。任意のParagraphをクリックするとそれが反転表示される。「再生」またはダブルクリックによってそのParagraphの音声が再生される。
(4) Vocabulary Mode(語彙学習モード)
Reading Modeを学習中に意味を検索した語彙のリストが表示される。ここでは次の操作ができる。「英文消去」、「和文消去」、「再生」、「参照」、「印刷」。これらの操作で、発音やスペルの練習を行う。
5.おわりに
授業と連携したCAI教材を自学自習用として利用する個別学習の形態を紹介した。昨年度は初めての試みであったことから、利用した学生全員にアンケート等の調査は行っていないが、教育改革の一環として行われている「授業アンケート」の“学生の学習に関する内容”によれば、アンケートに答えた1,815人の内、「授業科目の行動目標が達成できた」が約80%、「授業内容が良く理解できた、理解できた」が約85%、「予習、復習をした」が約60%になっている。
本年度は、英語教員全員の参加の下に行っているので、教員の立場から授業の運営、効果について、また、学生の立場から本教材の活用状況、並びにノートパソコンの活用状況等についての調査を計画している。
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