投稿原稿
尾崎 裕(城西大学薬学部)
教育に際して、コンピュータは補助的なものである。人間を直接教育するのは人間であり、機械ではない。コンピュータは指導のための道具にすぎない。
我々教員はプログラミングの専門家ではない。本業の教育と研究のバランスを考慮してメインテナンスの簡便なソフトを使用する。各Macintosh には古くからHyperCard が添付されているので、これの利用やHyperCard playerの使用を考える。また、HyperCardは歴史的にもMacintoshと関係が深くて他のソフトと相性が良く、簡単に化学構造式や、図を入れることができるので都合がよい。また、HyperTalkも扱いやすい。
薬学CAIは、コンピュータを単なる道具として使用する国家試験問題についての演習であり、コンピュータ等についての教育ではない。従って、コンピュータ操作の経験が全くない学生、あるいはコンピュータに弱い学生でも演習できるようにする。そのような学生にとって一番苦手なのはキーボードの操作であるが、キーボードの操作部位は数字0〜9のテンキーのみで、自分の学生番号を入力するときだけ使用し、あとはマウスのクリックのみで演習を行えるようにする。
CAI教材のなかで迷子になるような複雑な教材は演習の妨げとなる。プログラムの裏側が複雑であっても、表側に出るところは単純明快なものにする。また、どんなに間違った操作をしてもシステムがそれに対して指導的なコメントを発して演習が中断しないようなものにする。
このような演習は、ただひたすら正解を求めるだけのものでは教育的効果は期待できない。単に「あたった」とか「はずれた」だけでは、勉強にならない。学生に、「どのような過程を経て正解が得られたのか」、「どのような誤りをなぜしたのか」ということを考えさせなければならない。そのため、間違った問題、理解できなかった問題、あるいは、まぐれで正解を出した問題については、そのヒント・解説を学生が理解できるまで何度も読めるようにすることが重要である。
さらに、問題とそれぞれの解説の集合体は国家試験データベースと考えて、問題中の重要な語句や問題番号等をキーワードとした検索システムを構築する。これにより、設定したキーワードに関連するすべての問題が選択され、その事柄に関する問題のみを演習することもできる。
実力をつけるには数問で終るような演習では効果が上がらない。数十問以上のまとまった問題を反復練習する必要がある。また、毎回、同じ問題が同じ順序で提示されるようなものではCAI教材として配慮不足である。
できなかった問題を反復練習させることは効果的である。演習が終了した時点で、その演習においてできなかった問題のみを集めた復習コースが自動的に作成され、実行できるようにする。
やりっぱなしのゲームになってしまっては時間の無駄である。「どのような問題ができなかったのか」、「演習状態はどのようなものだったのか」、「演習結果はどうだったのか」、「この学生の弱点は何か」等の情報をコンピュータが学生や指導者に提供し、指導者はこれを把握して学生を適切に指導しなければならない。最後に人間を指導するのは人間である。
演習の状態や成績等はプリントできるようにする。さらに、演習をした学生のウィークポイントを指摘した"診断書"のようなものもこのプリントに入れるようにする。また、これらのデータをコンピュータ内のハードディスクにも記録する。保存するデータ形式は、表計算ソフトやその他の方法(例えばUNIX)でデータ処理が容易にできるようなものにする。総ての学生にフロッピーディスクを所持させて、これに演習データを記録する方法もあるが、この方法は採用しない。学生によるディスク管理(紛失、破損)の問題、学生数の多数のディスクからデータを読みとる作業の問題が現状では解決できないからである。
楽しく演習ができることも必要である。教材システムが演習した問題数や成績をモニターし、それに応じて、コメントを発するようにする。音声や画面展開を利用して学生に何らかのインパクトを与えることを考える。また、演習の途中でいつでも終了して演習の結果がプリントできるようにする。これは演習に拘束されているという精神的苦痛をなくすことになる。
コンピュータに弱い学生もいるが、しかし、得意な学生もいる。このような学生が答や成績データを覗いたり、あるいはCAI教材に変更を加えたりする可能性がある。何らかのプログラムの保護が必要である。
しかし、作成者にとっては容易に変更が加えられて、毎年の問題の追加や継続的なプログラムの修正改良に苦労しないようにする。プログラムは 常に進化が必要である。
作成に際して、多くの教員が参加できるような分業システムを考える。問題画面、および解説画面の作成は専門分野に従って各教員に依頼する。これらのデータを予め作成しておいたHyperCard stackのカードに挿入する。これはデータ部分とスクリプト部分を分業的に作成し、ひとつの教材プログラムに作り上げる方法である。
内容を入れ替えるだけで、他の同形式の国家試験や検定試験のトレーニングに利用できるような汎用性のあるシステムにする。
Table 1. 平成7年度全演習履歴
1 96.2.29 16:20 X88244 薬局方・国試 93 0 B 23 18 78 29 78 Normal 2 96.2.29 17:36 X88244 薬局方・国試 93 0 B 45 32 71 84 78 Normal 3 96.2.29 15:49 X88244 薬局方・国試 93 0 C 10 6 60 44 269 over:1344 途中省略 3420 96.3.12 4:47PM Z92123 薬理学・国試 94 0 S 30 29 96 17 34 Normal 3421 95.11.21 11:06AM Z92123 薬理学・国試 95 0 C 30 20 66 32 64 Normal 3422 96.3.12 4:27PM Z92123 薬理学・国試 95 0 S 30 30 100 27 54 Normal
Table 2. 個人別集計
Record Student day hr question % min/q 1 X88244 5 24.5 803 62.5 1.83 2 X89102 8 27.9 917 74.9 1.82 3 X90002 1 0.3 22 22.7 0.82 3 X90002 1 0.3 22 22.7 0.82 途中省略 229 Z92120 3 5.4 154 68.8 2.10 230 Z92121 4 10.5 316 66.8 2.00 231 Z92123 8 12.2 905 79.4 0.81