2000年問題、最近の情報技術事情を少しでも耳にされた方はご存知であろう。コンピュータのメモリーが現在と比べると極めて少ない上に高価であった時代に、4桁の西暦年数を、通常の省略形として行われている下2桁で表わすことにしたのは自然であった。これが現在2000年問題として大きな荷物となった由縁である。2000問題がどのようなものであるかは、既にかなり報道されているのでここでは省くが、大学、特に事務システムでは、その対策にどのような問題を抱えているのであろうか。
当広報委員会では、この問題について大学の事務システム部門における対策の概観を知るために、昨年10月に私情協が開催した情報センタ等部門研修会の参加者にお願いして調査した。
以下はそのアンケート調査の集計結果である。調査表を配布した85校(79大学、6短大)のうち70校(67大学、3短大)から回答を頂いた。その集計をご覧にいれる。合計が100%に欠ける問いは無回答を省いたためである。
a.重大な事柄と思っている 69.3% b.大した問題ではない 0 c.本学では問題は起こらない 13.6% d.よく分からない 17.1%
a.よく理解している 44.3% b.分かっているが本学には関係ないと思っている 27.1% c.まったく理解していないだろう 17.1%
a.発生してないし起こらないだろう 28.6% b.まだないが、起こるかもしれない 64.3% c.発生した 1.4%
a.システムのハード・ソフトを入れ替える 35.0% b.西暦部分を4桁に直す 25.7% c.その他 16.4%
a.ほとんど問題点はない 35.7% b.大学トップの理解が乏しい 11.4% c.システム部門でこの問題を把握できない 4.3% d.問題を分析できる要員が学内で乏しい 24.3% e.要員はいるが人手、時間が足りない 2.9% f.ベンダーの協力が得にくい 2.9% g. その他 4.3%
a.何も言って来ない 14.2% b.こちらから問い掛けに応答があったが充分ではない 12.9% c.こちらから問い掛けてから十分対応してくれている 10.0% d.先方から対策を示してくれたが学内で対応しきれない 11.4% e.先方から対策を示してくれ、学内でも対策を講じている 31.4%
a.十分に協力してくれる 44.3% b.どんなトラブルがどこにあるか示してもらえない 21.4% c.トラブルの内容は分かったが対策を講じることに協力的でない 4.3% d.対策のための工数やコストの見積りを示してくれない 1.4%
集計結果では目立たないが、回答をつぶさに見ると大学間でのこの問題に対する認識には、民間企業や諸官庁と同様に、かなりの差があるように見えた。
すなわち、1990年代始めにこの問題を認識されてその対策を講じられ、既に終わったという大学から、認識が浅く対策がまだ始まってないところまである。しかし、この調査にご協力頂いた大学は、センター等部門研修会の会議に参加されるほど意識の高いところで、おおむね順調に対策がたてられているようである。
なかには、ハードやシステムの入れ替えをするからと言うだけで安心されている回答もかなりあった。既存のデータにどれ程の配慮をされたかを質問してないので不明だが、プログラム側だけでなく既存データの修正はかなりの手間であろう。
大学では、期限を切って捨ててしまうデータが少なく、財務処理も一般企業に比較すれば複雑ではないので、修正を要するプログラムもデータも企業ほどは多くはないのかもしれない。しかし、現在のように開発ツールを利用することは少なく、プログラマの個人的なタレントに依存することが多かった時代のプログラムでは、どこかに年号を年号表示以外のコントロールに利用している恐れもある。これはプログラムすべてをスキャンしてみなければならず、この種の時限爆弾がないことを願うという、悠長なことを言わざるをえない。
外国では、特にアメリカでは2000年問題を専門的に扱う雑誌が1年前に発刊されたし、数々のWebぺージ(代表的なものはhttp://www. year 2000.Ccom)もあるくらいの大きな関心が寄せられていることを書き留めておく。
大学における西暦2000年問題への対策は、教育・研究用システムにおいては、OSのバージョンアップやパッケージソフトの変更などが主体であるため、ソフトウェアメーカから提供される修正ソフトのインストール等で済む場合が多いが、事務システムにおいては、各大学個々で作成したアプリケーションソフトを一つ一つ書き換えるという手作業が残されている。この作業については、どの大学でも苦慮している問題であるため、現在作業を行っている大学2校に、その状況や対処方法について伺ってみた。
まず、本学の業務システムは、統合システムを開発した段階で2000年に対応しているため、特に変更の必要がなく、業務システムのほとんど(80%)が問題になっていない。残り20%の業務システムはパッケージソフトや学内開発ソフトで2000年対応の作業が必要である。
パッケージソフトの場合はソフト会社に変更作業をしてもらい、学内開発のソフトについては、順次センターと各部門の担当とで修正を行っている。
プログラムの書き換えの手間については、ドキュメントが最新かどうか不明なものが多く、プログラムのソースを見ながらの修正をしているため時間がかかっている。
ただし、修正するシステムがあまり大きくなく、ソフトの本数が大量ではないので、学内の人間で処理ができる範囲で済むと考えている。
その中でもシステムによっては、修正の手間を考えると作り直した方が良いと判断できるものがあり、ソフトを再開発することも考えている。
例えば、卒業生に関するOBシステムは、統合業務システムに移行する予定である。統合業務システムでは、OBシステムを構築できるようなデータベース設計をしているので、業務アプリケーションのみの作成でOBシステムを開発できる環境にある。また、作成するアプリケーションは、卒業生管理用のオンラインと名簿等の帳票作成とハガキや住所ラベルの作成である。このソフトは、現在稼働中のシステムのソフトをある程度流用できる。
もともとOBシステムも統合業務システムの一部として設計したが、事情により開発ができないままだったので、その開発をこれからやることにしている。
2000年問題に対しての弊害だけとらえて対応策を講じようとすると、経費ばかりがかかって、システム的にはほとんどメリットがない。
本学のように比較的前(20年余り前)からシステム化していたところは、プログラム本数も多く、規模的にも大きなものになっているので、古いものも多かったり、無駄もある。また、昨今のネットワーク化やC/Sシステム化に対応させるにも、過去の遺物が邪魔物になっているケースもある。
そこで、この際全てのシステムを洗い出し、使えるものはそのまま使い、2000年問題に限らず修正割合が40%程度に達するものは新規開発を行い、すっきりとしたシステムにしようということで動いている。
なお、洗い出しには約6ヶ月かかり、今年の8月を目処に新システムに移行する計画である。
この他、ドキュメントがないなどの不都合があるものについては、システム自体も陳腐化しているので、再構築の対象になっている。
因みに、3,200本の約6割にあたる1,900本程度が2000年問題に対して影響があるプログラムだった。
結論としては、2000年問題のための修正だけでなく、良いチャンスなのでシステム全体の見直しを考えることが大切だと思う。費用対効果を高めることにもつながるであろう。
この問題に対するご意見がありましたら、私情協事務局宛にE-mail:info@shijokyo.or.jpにてお寄せ下さい。