コミュニケーション学の情報教育
インターネットで情報の力を知る
江戸川大学のマス・コミュニケーション学科におけるネットワーク教育の目指すもの
久保 悌二郎(江戸川大学社会学部教授)
1.インターネット環境での出来事
江戸川大学のマス・コミュニケーション学科の最近のトピックスは、キャンパス・ネットワーク「EDO−NET」(エドネット:Edogawa University Education & Development Open Network System)の運用に伴い、積極的に活用し始めたことにある。学内ネットワークおよびインターネットを講義や演習・実習、ゼミ・卒業研究等にふんだんに活用できる環境を整えたことで、従来のコミュニケーション学の教育指導に厚みが出てきたと考えている。
教員は自らWeb上に講義内容(教材)をホームページの形で載せ、学生は講義を聞きながら手元のノート型パソコンでブラウズできる。あるいは、ビデオスクリーンに投影されたWebを見ながら受講する。Webは、ハイパーテキストで作られているから、関連のページにどんどんリンクできる。例えば、「情報メディアの最近動向」とか、「ジャーナリズム批評」といった講義の場合、日本新聞協会の「Pressnet」とか「日本ジャーナリスト会議」のページにリンクしておけば、全国紙から各地の地方紙まで、今日現在のニュース、論評を教材として使える。その場の講義だけで終わるのではなく、学生は後からゆっくりと詳しく調べ学習ができる。質問があれば、後でもいいから教員に電子メールで問い合わせる。
EDO−NETはオープンであるから、その講義を学外からも受けられるという理屈になる。他大学の学生でも、社会人でも、その気になれば授業を覗けるのだ。
また、マス・コミュニケーション演習・実習では、映像表現、文章表現、音声表現、情報企画、国際理解といったコースがあるが、それぞれのテーマにあった世界のWebを探して(調べること自体が学習の一環であるが)、それを参考資料として活用する。文章表現の中には、DTPを活用したデジタル編集のコースもある。もちろん、マルチメディア操作実習で、そのプリミティブな制作も試みる必要がある。
こうした場でのインターネット活用は、一度使ったらやめられない。
マルチメディア関連の講義で、EC(Electoronic Commerce)を取り上げたとしよう。さまざまな内外のサイバーモールの実際を見ながらその現状を学ぶ。さらに世界的なEC展開を見るため、例えばアメリカ政府がWTOに向けて提唱する「インターネット自由貿易圏構想」の元になっている「グローバルECのためのフレームワーク」の原文資料に当たって見る。さらに、日本政府の見解については各省庁のWebに当たる。あるいは閣議決定された「経済構造の変革と創造のための行動計画」を読む。地域研究関連の講義では、全国の地方自治体のホームページはもとより、地域のNPO等の市民活動の情報発信のホームページの内容を分析し、独自の市民活動論を展開し、また自らも地域社会の一員として情報発信を試みる。マス・メディアとパーソナル・メディア、あるいはジャーナリズムの今後の展開のありようについての知見を高めていく。最近は、ホームページ作成用ソフトも容易に入手でき、自動的にHTML化ができるようになったから、コンテント作りに集中することできる。
ここにある基本は、学生自らの創意工夫によるコンテントを作り上げる能力を、実践を通じていかに身につけていくかである。
講義を90分聞いて終わりというわけにはもはやいかない。リアルタイムにリアルワールドの出来事を追いかけていかなければ、先に進めない。そんな環境に大学は今ある。
マス・コミュニケーション学科には特徴的な講座として、「コミュニケーションと文化」「情報メディア論」「マス・コミュニケーション論」「視聴覚方法論」「放送論」「新聞論」「消費文化論」「メディアと技術」等がある。また、先の3年次生の演習・実習も大きな特徴である。
2.EDO−NETがかなめ
江戸川大学は、社会学部に応用社会学科、マス・コミュニケーション学科、環境情報学科の1学部3学科構成の小規模な(学整数約1,600名)大学で、平成2年に開学した新設校である。その特色とするところは、全学科を通じて情報教育に力を注いできており、また今後の大学を取り巻くネットワーク・カルチャー環境のなかで多様な講義展開を目指そうという点にあるだろう。
「EDO−NET」が本格的に稼働したのは平成8年9月と日は浅い。ネットワーク構築の基本理念は、「小規模大学ゆえのメリットの追及」というところにあった。
開学当初から学生全員に携帯用ノート型パソコンを貸与し、情報処理の技術と知識を日常的に身近に習得できる環境を目指し、その次の段階として個々の学生のもつパソコンをネットワーク化することを課題としていた。その意味で、学内ネットワーク、インターネットの導入に関しては後発組であるが、目指したところは、大学内に情報コンセントを張り巡らし、学生の手直なところで、インターネットにアクセスできる環境を整備することに置いた。全学生にIDとパスワードを与えている。
これは、後発としてのメリットであったかもしれない。先進大学が行っていたような、固定デスクトップ・マシンを大量に配置し、固定IPアドレスでネットワークにつなぐ方式をとらず(とはいえ、100台程度のコンピュータは各教室に用意しているが)、ノート型を主体にした新たなクライアント・サーバー・システム構築を念頭に置いた。学生の所有する約1,600台のクライアントを、自由にインターネット接続するために、DHCPを採用した。これは従来からのネットワークを構築している他の大学から見ても、あまり例のないことであろう。
これは困難をきわめたが、いくつかの試行錯誤の後、軌道に乗せた。
サーバー群は、WWW、メール、FTP、ニューズ、セキュアード、DHCP等、ネットワークOSは,WindowsNT、UNIX,MacOSである。100MBの光ファイバーで構内をネットワーク化し、全教員の研究室もイーサネットでつないでクライアントを配置し、ネットワークにアクセスできる環境である。また、学生に対しても固定クライアントを設置した3教室、ノート型パソコンをインターネットに接続する情報コンセントを図書館はじめ各教室に約500回線を設けている。なお、光ファイバーは4台のスイッチングハブに接続されており、そこからスター型に各サーバー、クライアントがつながっている。FDDIやATMという方式はとっていない。そして、学外(学生、教員の自宅)からもISDN回線でEDO−NETにアクセスできるようにした。
教員には、100MB、学生には40MBのファイルを貸与えている。これらの運営には、EDO−NETセンターが当たっている。
こうした環境を整備できたのも「小規模大学ゆえのメリット」であると考えている。江戸川大学のネットワーク活用による情報教育は、緒についたばかりだが、マス・コミュニケーション学科では、情報教育を以上のように位置づけている。
とはいえ、教員も学生も、ネットワークを使いこなせる者はどんどん使い、使わない者は使わないというのが正直なところである。
江戸川大学のURLは、http://www.edogawa-u.ac.jpである。ご覧いただき、ご意見をお聞かせいただけると幸いである。
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