特集 電子メディア教材を探る

ホームページを活用した学習環境と授業運営
Web活用からハイパーテキスト作成まで


妹尾 堅一郎(産能大学経営情報学部助教授、慶應義塾大学環境情報学部・経済学部講師)



 私はここ数年、担当科目の多くをデジタルメディアとの関連で展開している。本稿の目的は、その内のいくつかを簡単に紹介することにある。


1.Webを活用したプロジェクト型授業

1-1 概要

 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の「社会調査法(妹尾担当)」では、1996年より、受講生がグループに分かれ、社会調査のプロジェクトを実際に行っている(97年度は19組)。これを、わずか1名の教師と数名のSA(Student Assistant)で常時指導できるのはデジタルメディア(電子メールとホームページ)のおかげである。本授業を「デジタルメディアを活用した学習者志向の学習環境の構築と運用、ならびにプロジェクト型授業運営の開発」と位置づけ、大学の新しい授業形態の試みとして、毎年ヴァージョンアップを図っている(詳しくは妹尾他1998を参照されたい)。
 本授業のきっかけは、いかに100名近い受講生に方法論と調査プロジェクトを指導ができるか、という点であった。社会調査、特に新しい「社会的意味の探索」においては、実際の調査プロジェクトなしに、その修得は難しい。私はこの点を打開するために、Web (電子メールとホームページの両者を含み、Webコンピューティングを行いうるデジタルメディア環境という意味で使用。必ずしもWWWを指すわけではない)を活用する可能性を探った。幸い慶應SFCにはWeb環境が整備されていたので試行を始められた。

1-2 本授業の特徴

(1)ホームページの活用

(2)電子メールによる指導
 スタッフは、各班のホームページを見ながら適宜、指示・指導を行う。また、学生からの質問や相談も電子メールで受け付け、その返事もメールで送り返すことを原則としている。共通のエイリアスを設けたので、スタッフ全員が常に「受講生とスタッフ」「スタッフ間」のやり取り情報を共有できる。この類のメールは授業期間中約2,000通を越える。

(3)コラボレーションとログ取り
 プロジェクトは、分担・分業ではなく、コラボレーションに重点をおくよう強調している。Webを単なる「連絡メディア」ではなく、「コラボレーションメディア」と見なす。 逆をいうと「オンメディアコラボレーション」の実習となる。また、活動のログ(経緯記録)をホームページ上にアップさせる。ログは受講生の思考過程の記録であり、スタッフはそれを参考にしながら指導できる。さらに、学生が行き詰まったときに、自ら振り返り、気づき・発見・学習を起こせる等、プロセスの共有化として有効である。

(4)大学間・大学外とのコラボレーション
 メディアの活用は学間・学外とのコラボレーションも可能にした。第一は、大学間コラボレーション。私は、本務校である産能大学の授業でも、SFCでの試みをベースにプロジェクトを積極的にホームページ化する指導を行っている。97年度は「マーケティングマネジメント」授業において「インターネット上の『母の日』調査」、3年次ゼミにおいて「『母の日』研究」(カラーページ図3)を進めたが、それらに加えて、SFC社会調査法で2つの「母の日」研究プロジェクトを立ち上げた(カラーページ図4)。
 これら3班はお互いのホームページを参考にしながら電子メールで協力を進めた後、自主的に「母の日会」を結成し合同研究会を行うようにまでなった。
 第二に、大学外とのコラボレーション。本授業のホームページは外部からもアクセスでき、ジャーナリストやビジネスマンが次々と受講生への励ましのコメントを送ってくれた。「プロ」からの注目は受講生にとって動機付けとなる。また、調査対象となった企業からのアクセスもあり、励ましや情報提供、さらにデータの読み違えの指摘等「注意」も来る(今までのところ、否定的な「介入」はない)。
 こういった「学間・学外」とのコラボレーションが可能なのは、Web環境があるからであり、またホームページを自由に公開できるからに他ならない。学生のホームページ公開をためらう大学がまだ多いと聞くが、一層の「規制緩和」を望みたい。

1-3 成果と学習

 主たるポイントは次の通り(詳しくは論文参照)。

  1. ベンチマーク化により「プラス志向授業」への転換ができた。
  2. 活動のログ取りとアップによって、自省による学習が進んだ。
  3. グループによるコラボレーションの意義が実感できた。
  4. メディアリテラシーが一気に高まった。
  5. スタッフへ大きな学習効果をもたらした。
  6. 「公開すること」のメリットや諸問題を認識できた。

1-4 この授業法から得られたもの

(1)メディア活用による授業の質の向上
 本授業が従来と異なる点の一つは、よりきめ細かな指導・支援が可能になったということである。従来、学生からの質問や相談は教師に直接会える僅かな時間に限られていた。それをオンメディアで適宜行えるようになり、指導・支援の密度と頻度が圧倒的に高まった(その分、教師の負担が大きく増した!)。特に私は非常勤のため週1回しかキャンパスを訪れなかったが、メディアの活用によってそのハンデを埋めるだけでなく、学生の指導・支援を密にして授業の質を高められたと自負している。

(2)メディアリテラシー訓練
 本授業の成功は、Web環境や、スタッフや受講生がコンピュータ操作スキルをある程度持っていたお陰であることは否定できない。しかし、より重要な点は単に「電子メールが打てるか」というスキルの問題ではなく、「自然体で電子メールによるコミュニケーションがとれつつ、コラボレーションできるか」という「リテラシー」の問題である。この違いは非常に大きい。本授業は「リテラシー」の必要性を学生に認識させると共に、その開発・訓練を行う場でもある。

(3)授業のメディアミックス
 本授業は「ヴァーチャルユニバーシティ」のようなネットワークに全てを依存するものではない。「教室における講義」「ホームページ」「電子メール」の三つの「メディア」の特徴を組み合わせ、教育的効果を狙うものである。今後の授業開発にあたっては、「デジタルメディア」だけではなく、多様なメディアの組み合わせを検討することが、現実的であり、かつ望ましいと考えられる。

(4)学習環境の提供
 学生からの評価は次の2点に集約できる:

 前者が「学習機会と学習環境の構築」に関し、後者が「学習者志向の運営」に関すると解釈できる。学生自身が授業に積極参加し、自ら興味を持って学習を進めていくこと自体に面白さを感じていると言える。大学授業のあり方が問われる中で、このような「学習機会を与え、学習を促進する仕掛けと仕組み」すなわち「学習環境」を提供することが新たな授業コンセプトとなり得るだろう。そのときWebを軸としたデジタルメディア環境は欠かせないものである。


2.Web探索と情報リテラシー開発

 インターネットの中である特定のホームページを「検索」することは、容易に修得できる。しかし、あるテーマに基づいて無数のホームページにおかれている様々な情報を「探索」することは難しい。どこのどんなホームページをどのように見ていけば、テーマに沿った情報を収集し、それを適切な問題として設定できるかということは、ほとんど訓練されていないからである。これは「検索」テクニックの話ではなく、「探索」思考と方法論の話である。ホームページのリンク先を次々に飛びながら情報の海を泳ぎデータを集め、そこから問題意識を紡いでいく、その意識をテーマに転換しつつ、データを活用して考察まで持ち込む。これは一種の「リテラシー」といえるだろう。コンピュータスキルを修得する「情報処理」教育とは別に、新しいメディアを活用する情報再編成力を開発・訓練する「情報/メディア・リテラシー」教育が急務である。
 この観点から、慶應SFC「情報活動論」と慶應経済学部「情報学」では、Web 探索のミニプロジェクトを行っている。前者では約300名が20のテーマに分かれ、後者では約40名が10のテーマに分かれ、それぞれ約1ヶ月半の探索を行い、レポートを提出する(図1、図2)。
 
図1 情報活動論(慶應SFC)   図2 情報学(慶應経済学部)
図1・図2:ミニプロジェクトによってWeb検索リテラシーを育成する
 
 
図3 経営管理総論のハイパーテキスト化(産能大学)   図4 大学履修・生活案内「ANGLE」のハイパー化(産能大学)
図3・図4:ハイパー化は文献内容と構造に関する学生の理解の促進する


3.文献のハイパーテキスト化

 ハイパーテキストとは、リンクをはれるHTML言語によって作成されるもので、ホームページはこの構造になっている。産能大学の「文献研究(妹尾クラス)」では、文献調査の結果をハイパーテキスト形式のデータベースにするプロジェクトと、既存の文献等をハイパーテキストにするプロジェクトを行っている。特に後者は、ハイパー化に当たって、学生が文献のコンテンツ内容とその構造を深く理解しなければならないことから、自然と「文献研究」が深まる点の効果がある。例として「経営管理総論(教科書)」のハイパー化を挙げる(図3)。さらに進めると、複数の文献を項目別に比較研究できるようになる。例えば「首都圏5都県総合計画書の比較研究」を行ったことがある。これはデジタルメディアでのみ可能であり、将来の政策形成の主要な支援ツールとなり得るものである。
 また、1年生を対象とする「基礎ゼミ(経営情報学基礎演習)」においては、クラス全員が5チームに分かれて、「ANGLE」(大学生活案内や履修案内をまとめたもの)をハイパーテキスト化した(図4)。これによって、HTMLの修得ができ、内容に詳しくなるばかりでなく、グループワークを通じて新入生の動機付けが大きくなされた。


4.大学ホームページ調査

 情報化への大学の取組みの一つとして「大学ホームページ」がある。私の研究室において4年制大学全数のホームページ調査を行った。私立430校の内、ホームページを持っているのは349校で81%。国公立では155校中、139校で約90%であった(合計で83%)。しかしながら、中身を見るとかなりの改善が必要と思われる。大学の多くは、授業や入試についての情報提供をしていないばかりか、英語等によるページ作成も僅かである。つまり大学の多くが「情報化」「国際化」を喧伝しているにもかかわらず、現実の動きは遅い(詳細は、近日中に報告書を作成する予定)。



<<参考文献>>
妹尾・藤本・橋爪「メディアを活用したプロジェクト型学習環境の構築と運用:
慶應SFC「社会調査法」の試み」,
コンピュータ&エデュケーション, Vol.4,1998年4月.

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