機械工学の情報教育
コンピュータワークショップ
新津 靖(東京電機大学機械工学科教授)
小山 裕徳(東京電機大学情報通信工学科教授)
土肥 紳一(東京電機大学一般教育講師)
竜田 藤男(東京電機大学一般教育講師)
若井 英夫(東京電機大学一般教育助手)
1.はじめに
近年、パソコンの大衆化が進む一方で、コンピュータ内部は、ますますブラックボックス化が進み、その基本的な仕組みや動作原理の理解は、困難な状況になっている。一方、パソコンを個人で所有する学生からは、「セットアップがわからない」、「新しくソフトウェアを購入したがインストールがわからない」といった問い合わせが相次いでいる。これらの内容は、大学の授業ではとり上げていなかったため、パソコンを所有する学生が急増する中で、いよいよ無視できない事態となった。
このような状況を踏まえ、東京電機大学工学部では、1年生を対象に、マザーボード、CPU、メモリ等のパソコンを構成する部品およびソフトウェアを学生に与え、自力でコンピュータシステムを完成させる実習を平成7年12月から開始した。
実習の進行にあたってはコンピュータメディアを最大限に活用した。たとえば、作業進行における個人差を吸収するために、図1に示すようなパワーポイントなどのプレゼンテーションツールを活用し、さらに実習内容の復習および補助的な説明を行うために、CD-ROMによるマルチメディア教材[1]を積極的に活用した。
2.授業の概要
コンピュータワークショップは、東京電機大学工学部の1年生を対象に行っており、授業は、夏期・冬期集中講義形式で開催している。実習は1日4コマ、4日間連続(24時間)で行う。単位は1単位として認定した。1回の受講定員約44名(2人で1台組立て)である。
学生への指示を与えるため、既存の教育システムである教育支援システム(CAI-ACE)を使用した。授業は5名の教育スタッフで担当した。
3.カリキュラム
組み立てるパソコンは、マザーボードの種類毎に3つのグループに分けた。毎日の実習進行状況が適切であったか、受講者がどの程度実習を理解し、基礎知識があるかを知るために、実習の最後にアンケート調査を実施し、翌日の実習に反映した。主な実習内容を以下に述べる。
初 日
資料配布、実習の概要説明、部品の確認、きょう体の解体、マザーボード設定、CPU,メモリ,FD,ビデオカード,ディスクの取り付け、電源投入、BIOSの設定
2日目
PC-DOSのインストール、config.sys、autoexec.bat、CD-ROMの取り付け、ドライバの組込み、Windows 95のインストール
3日目
ビデオカード、サウンドカードの設定、音楽用CDの再生、SCSIカードの取付け、MOドライブの接続、各種アプリケーションのインストール
4日目
10BASE-Tケーブルの製作、LANカードの取付け、ネットワークのセットアップ、CU-SeeMeの取付け、フリーソフト、部品などの入手方法、レポート作成、後片付け
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図1 パワーポイントを用いた取付け手順の説明 |
初日は、PC-DOS導入のための準備を目標とした。ハードウェアの原型を完成させ、BIOSのセットアップを行い、コンピュータの基本構成、CPUの発熱の原理、半導体部品の静電気破壊のメカニズム等を中心に説明を行った。
2日目と3日目は、サウンドカード、CD-ROMドライブ、MOドライブの取付けとPC-DOS、Windows95および各種アプリケーションのインストールを行い、一般に市販されているパソコンの原型を完成させた。また、コンピュータ内部の理解を深めるために、市販のマルチメディア教材を活用した。
4日目は、組み立てたすべてのコンピュータをネットワークでつなぎ、ビデオカメラ(CU-SeeMe)を取付けて映像を送受信できるまで行った。写真1はネットワークケーブルを製作しているところである。また、今後各自がパソコンの組み立てを行うに当たって、必要なことを指導した。部品購入のためのノウハウや、パソコンを組み立てたり、活用する上で必要になる情報の入手方法について、インターネットやパソコン通信等の活用事例等を説明した。
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写真1 ネットワークケーブルの制作風景 |
4.教育効果と実習の問題点
コンピュータワークショップの教育効果を定量的に示すことは難しいが、学生のレポート等からその効果と考えられるものについて、指導に当たった教員が感じたことを報告する。
(1)実習の効果
学生の多くが、ソフトウェアを購入しても、何をどうして良いかわからなかったが、実際にソフトウェアのインストールを体験したことで自力で行える自信がついたようである。また、コンピュータを組み立てられたことに満足していた。
(2)実習の問題点
学生から最も多く寄せられた要望は、1人で1台を組み立てたかったというものであった。 実習で必要な部品はすべて大学が準備し、次回の開講のために、一度完成したパソコンは、後日スタッフにて再び分解し、再度実習を行うことを繰り返している。しかし、完成したパソコンは実費を支払ってでもよいから持ち帰りたいとの希望が、約半数の受講生からあった。
限られた日数の中で完成しなければならないといった切迫感もあり、各自がマニュアル等をじっくり読む時間が不足したようである。
コンピュータワークショップは、パソコンの組立てやセットアップ等、これまで大学の授業でとり上げられなかった内容を実習する新しい授業である。受講生の反応を見る限り、成功したと考えている。
<参考文献> |
[1] | 「CD-ROMで見るパソコン入門」、インプレス |
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