情報教育と環境

城西大学における平成10年度の情報教育環境



1.はじめに

 今年は、本学が情報教育環境に関する一大決心を行った年度であった。「メインフレームの教育への利用を廃止する」という方針を打ち出し、それに代わる環境の構築と時代に促した情報教育をめざして、300台以上のパソコンを刷新したからである。本稿では、このでき上がったばかりの情報教育システムの特徴と構築にまつわる苦労話を紹介する。紙面の都合で、情報教育における本学の体制や取り組みなどを十分に述べることができなかった。その意味では多少バランスの悪い紹介となっているかも知れないがご了承いただきたい。


2.清光コンピュータネットワークラボ

 SCNL(Seiko Computer Network Lab)は、「清光会館」という棟を中心として学内に構築した情報教育環境である。このSCNLの配下にある演習室は清光会館301(80名)、302(90名)、303A(40名)、303B(20名)、303C(12名)、402(30名)、403(30名)、3号館105(30名)、1号館102(32名)であり、この内、清光会館303B、303Cおよび1号館102が自習専用室である。
 センターが管理を行っている演習室のいくつかは、センター事務室から離れてキャンパス内に点在しているので、これまで教室管理やLANへの接続といった問題を難しくしてきた。そこで、新しい演習室をセンター事務室が位置する清光会館内に集めることができれば、LAN配線にかかるコストや管理の手間を大幅に削減できると考えたのである。しかし、この建物は当初からコンピュータ演習棟として設計されたわけではなかったので、建物内に「いかにして教室を確保するか」が問題となった。例えば、従来303と呼ばれていた演習室をパーティションで仕切り、303Aと303Bに分けるというような努力を強いられている。

(1)SCNLの特徴

 SCNLの実現にあたっては、次のように、本学としてはかなり思い切った発想を導入している。

以下では、これらの特徴について紹介する。

  1. 環境を Windows NT 4.0で統一
     今回は、176台のデスクトップ型と110台のノート型DOS/V機を購入し、これらにWindows NT Workstation 4.0を導入した。ファイルサーバとしてのNT Serverは教員と経済学部の学生用に1台、理学部の学生用に1台用意した。一方、新たに導入したMacintoshは48台で、専用のファイルサーバを、やはりNT Server 4.0で構築している。これらのクライアントと3台のサーバは1つのNTドメインで統一され、管理が簡便になっている。
     SCNLとよばれる演習環境はこのドメインの配下にあるものだけであり、学内ネットワークに接続されている演習室のうち、その配下にない演習室もあるが、ここでは紹介を割愛させていただく。

  2. クライアント環境の変更防止と復元化
     各クライアントについては、ネットワーク環境などの基本設定をユーザーが勝手に変更できないようにすると同時に、デスクトップ環境をログオンのたびに初期状態に復元する「PCクラスルーム」(富士ソフトABC(株))というシステムを導入している。ワープロや表計算ソフトのように頻繁に利用されるアプリケーションについても、ツールバーなどの操作環境を同システムにより復元化している。このようなユーザー環境の復元化は、演習室の管理者を煩わすことなしにユーザーにいつも変わらぬ操作環境を提供できるので、教員も授業進行や教材作成がし易い。
     だが一方で、「新しいソフトのインストレーションが自由にできない」という問題もあることが分かった。というのも、この「PCクラスルーム」というシステムは、復元化を行うための原形情報のイメージをインストレーションの種類だけ用意しておかなければならず、新しいソフトをインストールするたびに、このソフト自体の購入費用とは別に、原形情報のイメージ作成のコストが発生してしまうのである。

  3. 電子メール受信プロトコルをIMAPに統一
     学生ユーザーがどの演習室へ行っても新着メールが読めるようにするには、通常、ファイルサーバ上のユーザーのホームディレクトリに、いわゆる受信フォルダを置けばよい。これは受信プロトコルとしてPOPを使う場合であるが、メーラーが新着メールを電子メールサーバから受信フォルダへロードするため、ネットワークのトラフィックが二重化してしまうという問題がある。IMAPを使うと、ユーザーが読みたいメールだけをメーラー上で展開するが、受信フォルダ自体は電子メールサーバ上にあるために、ファイルサーバ上へのメールのロードが発生しない。SCNLのクライアントを使う限り、ユーザーの電子メールの受信はすべてIMAPで扱われるよう設定してある。
     IMAPの採用に関しては、比較的新しいプロトコルということもあり、これに対応したメーラー探しから始まった。AirMail((株)AIR)およびNetscape Communicatorが対応していることが分かり、結局、両方を採用することになった。
     Netscape Communicatorを利用するには、通常、ユーザーが「プロファイルの選択」を行うことにより、このアプリケーションへログインしなければならない。プロファイルはprofilesが置かれるディレクトリなどを値として持ち、レジストリ情報として書き込まれている。したがって、SCNLのユーザーに任意のクライアント上で同一のインターネット環境を提供するには、各ユーザーのprofilesをそのホームディレクトリに置き、対応するプロファイルをレジストリ情報として作成しておく必要がある。
     結局、この作業のうち、profilesの作成は各ユーザーに任せることになったが、プロファイルの方は、クライアント全台に、ユーザーとして考えられる者全員分だけ作成することになってしまった。

  4. 外部接続をOCN 1.5Mbpsへ変更
     外部接続先の変更はシステム構築の一環とは言えないかもしれないが、他の学校が同様な計画を持っているかもしれないので、ここで触れておきたい。
     本学はこの夏にSINET(学術情報ネットワーク)への接続を廃止し、OCN(NTT)経由での外部接続に切り換えた。SCNLの完成に伴い、インターネットへアクセスするユーザーが急増する恐れがあったためである。それまで本学では、SINETのいわゆる「ノード校」である電気通信大学(東京調布市)に256Kbpsで接続していたが、「このままバンド幅を拡張しても、SINET外への接続状況は改善できない」と判断した結果である。
     通常このような場合、「マルチホームにすべきか?」というような議論になる。本学もその例に漏れず、結論を見るまで時間がかかったが、結局、OCN一本でいくことになった。
     理由はいくつかある。まず、マルチホームにしてもBGP4などのルーティングを行わない限り、この2回線が互いに他の予備回線とはならないのでムダであるということ。学内のルーティングが複雑になること等である。また、心配していたIPアドレスの変更も行わなくてよいことがわかったので、マルチホームという案を捨てたのだった。

(2)SCNLの利用環境

 学生に提供しているSCNLの利用環境はプラットフォームごとに異なる。以下では主に利用者数の多いWindows環境に話を限ることにする。
 ファイルサーバには学生全員分のアカウントを一括登録してあるので、学生がSCNLを利用するには、センターへの手続きを特に必要としない。システムへのログオンに必要なパスワードは学生証に記載されている図書館利用者としてのコードを流用している。また、1人の学生がファイルサーバ上に保持できるファイル容量の上限は20Mbytesである。これはNT版のQuota によって制限されている。
 ユーザーがSCNLの演習環境を使う限り、どこでも同一のインターネット環境が実現されるようになっている。ここで言う「インターネット環境」とは、Netscape Communicatorのprofilesのことで、前述のように、それぞれ各ユーザーのホームディレクトリに置かれるようにしてあるが、ことさらこのしくみを意識しているユーザーは少ない。
 なお、学外からのリモートアクセスサービスについては学生に開放していない。これは本学が、「プロバイダの代わりをすることはできない」という見地に立つからであり、現在は希望する教職員のみに、インターネット関係のサーバへのアクセスサービスを行っているだけである。


3.情報科学研究センター

 ここで、センターについて少しだけ述べておきたい。
 情報センターの成員は、兼任所長が1名、専任教員が1名、事務長1名、課員4名(内、教育・研究サービス担当2名、事務システム担当2名)、嘱託職員1名、パート2名、および学生アルバイト数名から構成されている。システム管理は、これらのセンター職員や業者のリモート定期保守などで行っており、業者からの常駐派遣要員はいない。
 また、各学部から数名の教員が参加して構成する「センター会議」という機関があり、月に2回会合を開いて、センターの教育・研究活動やそのサポート体制の方針決定と問題解決にあたっている。


4.センターによる初等情報教育

 情報教育の授業は数多くあるが、ここではセンターが行っている初等情報教育についてのみ紹介する。
 いわゆるComputer Literacyなどと呼ばれている授業は、コンピュータに関する基礎的なスキル(OSの基本操作、ワープロ、電子メール、WWWによる情報検索)を扱うので、各学部がその必要性を認め、カリキュラムの中で開講してきた。しかし、本学でも「このような教育は各学部の専門教育に依存しないので、本来、センターのような機関が実施すべき」と考えられてきた。
 数年前から「センター講座」というセンター独自の一連の授業が開講されてきたが、今年度は、このうちの「コンピュータ・リテラシーI」という科目が、経済学部の卒業単位取得の対象科目として同学部に認められている。本学にとってこれは画期的なことであり、今後は他の学部もこの例にならうことが期待されている。



文責:城西大学
 情報科学研究センター助手 青山 満

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