私情協ニュース2

平成10年度情報教育問題フォーラム開催される



 平成10年度情報教育問題フォーラムは、開催地を京都に移し、6月26日(金),6月27日(金)の2日間、龍谷大学の深草学舎において開催された。参加者数は約330名余り(115大学、19短期大学、賛助会員16社)にのぼった。
 第1日目に開催された全体集会では、フォーラム運営委員会の山崎和海委員長(立正大学)の司会のもと、戸高敏之会長(同志社大学)による開会の挨拶と、会場校を代表して龍谷大学の北畠典生学長による挨拶が行われた。その後フォーラム運営委員の紹介と、井端事務局長による私情協事業報告、平成10年度の事業計画、補助金申請についての補足説明等が行われた。
 今年度の全体会では、私情協における事業報告の一環として、「授業支援システムとしてのシラバスデータベースモデルの開発事例」について、丸善株式会社、並びに日本電子計算株式会社の協力を得たデモンストレーションとシステム紹介がなされた。
 全体会後に開かれたテーマ別自由討議は、フォーラム運営委員各位による司会のもと、第1日目(6月26日)4テーマ、第2日目(27日)4テーマの分科会を設定して進められた。各分科会は約30名程から、多いところで100名を越える参加者のもと、熱意のある、2時間半ほどの時間を有効に使った活発な自由討議が行われた。今年も、情報教育問題フォーラムの趣旨である「情報教育の現場で、またそれぞれの情報環境で実際に直面している問題/課題についての意見交換と情報の共有、会員同士の理解と協力を必要とする問題及び関連情報等について協議する」ことが全体的に活かされた会議であったといえよう。
 なお第1日目の分科会終了後に、フォーラム担当理事である加賀美鐵雄氏(中央大学)による開宴の挨拶、会場校を代表されて龍谷大学萬井隆令副学長による挨拶の後、懇親会が開催され、参加者相互の親睦を深めた。
 また2日目の午前中に開催された分科会終了後の午後に、龍谷大学深草学舎のキャンパスツアーが組まれ、多くの参加者が5号館総合情報棟等を見学した。
 最後にあたり、本フォーラムの会場校をお引き受け下さった龍谷大学の関係教職員の皆様に敬意を表します。


文責: 立正大学 山崎 和海


テーマ別自由討議(6月26日)


A:センターにおけるネットワーク管理の問題

 最初に山岡由美子氏(神戸学院大学薬学部教授)に情報倫理の問題を中心に、「LAN利用教育と情報処理センターの役割」という題名で問題提起をしていただき、続いて約100名の参加者で討論を行った。問題提起の概要は以下の通りである。
  1. 教育用LANは最初から学生全員にメールアカウントを与えることを前提に設計され、管理は外部委託している。メールにはIMAP方式を採用し、学内のどの端末からでも自分のメールを管理できるようにしている。
  2. 「ネットワーク利用のためのパソコン基礎編」という講習会を開催した。学生からの要望により「アドバンス編」も開講したが、今後の講習会の内容は検討中である。
  3. ネットワーク社会と倫理、ネットワークシステムの危険性、利用マナーとエチケットから構成される「基本ルールとエチケット(情報倫理指針)」という小冊子を、情報処理センター運営委員の有志によって作成した。特に知的所有権と人権の保護に関しては、法律等の出典を明記し、付録として条文を添付している。
  4. 種々のトラブルを起こさずに学生にパスワードを配布することは、一般に仕事量の多い注意を必要とする仕事である。ユーザー名とパスワードをシーラーで封じ込んで手渡す方法にした結果、問題が解決した。パスワード配布時に、守るべきルールの周知徹底を計っている。
  5. 情報倫理教育がどこまで徹底できているのか、まだ確認がとれていない。パスワードを忘れる学生が少なくないことから、学生の意識が十分とは言えない。
 以上の問題提起に続き参加者で討論を行った。参加者からは、以下に関係する事柄に多くの発言があった。  参加者の多くは、ネットワーク管理作業量の増加、ネチケットに関する新たな問題などを抱えているため、活発な議論が続いた。これらの問題は、それぞれのセンターが個別に対処するのではなく、各大学のセンターが協力して解決していくことの大切さを示した討議であった。


文責: 東京電機大学 星野 洋


B:衛星利用双方向実験授業

 私立大学情報教育協会の呼び掛けに応じて、1997年12月に同志社大学と明治大学間で実施された、衛星放送利用双方向実験授業をもとに、技術的側面からの準備状況、および実験授業の概要について、ジェームズ R.バワーズ氏(明治大学商学部教授)が課題提起し、衛星放送利用双方向授業を実施する上でのポイントや問題点、今後の可能性について活発な討議が行われた。
 会場における質疑応答の主要な点を以下に記す。  以上のような質疑応答の後さらに、次のような意見があり、討議が締めくくられた。
 外国との衛星放送利用双方向授業では、異文化間で意見をぶつけあうような授業が、相互理解を深める上で面白い。また、恒常的に衛星放送利用双方向授業をやっていくためには、大学間で、単位互換をスムーズに行えるような準備が必要である。


文責: 明治大学 下坂 陽男


C:文系における情報基礎教育のあり方を考える

 まず最初に阪井和男氏(明治大学法学部助教授)に課題提起いただいた。
 同氏は、明治大学において新しい情報基礎教育の試みをされており、また一方、私情協の情報教育研究委員会第1分科会が発表した報告書「情報基礎教育のモデルシラバス」(1997年)の作成において中心的な役割をされたという意味で、本分科会の最も適切な課題提供者であった。
 また、同氏は、コンピュータが情報を「処理」する特殊な機器であった時代は終わったと位置づけ、大学における情報教育の基本を(1)コミュニケーション、(2)コンピューティング、(3)プレゼンテーションと考え、問題解決の手足としてコンピュータの活用を情報基礎教育の目的に置いている。
 同氏が明治大学で展開している情報基礎論のモデルシラバスでは、インターネットの基本的利用方法、情報倫理、社会におけるコミュニケーションの役割、データの観察を通しての問題発見の方法、モデルの役割や問題点の検討、シミュレーション、分析結果の表現発表技法などより構成されている。同氏が提案する情報基礎教育は、コンピュータの仕組みやプログラム教育が中心だった第1世代の情報基礎教育、ワープロ・表計算・インターネットにウェイトを置いた第2世代(現在)の情報基礎教育に対して、第3世代(次世代)の情報基礎教育とも位置づけられるであろう。
 本分科会には90名近い参加者があり、熱心な質問や発言があった。その主なものは、コンピュータの原理、プログラミング、あるいはワープロ・表計算などの従来型の情報基礎教育の位置づけ、多数の講義展開における教育内容の統一の問題、多人数の学生を相手にした実習や評価の方法、著作権の問題、モデルや統計学的アプローチに重点をおいた講義の意味など、どちらかといえば現実的問題に意見や質問が集中した。


文責: 専修大学 斎藤 雄志


D:教材の開発

 前年度に引き続き、教材の開発をテーマに討論を行った。それは、大学の情報教育が、システムの利用教育から、マルチメディア教材の利用による教育効果の向上や教育方略の在り方に関心が向けられつつあるが、マルチメディア教材の開発は、その作成、構造付け、更新および利用に関わる様々な問題を抱えているからである。参加者は約50名であった。
 今回のテーマに関する討論では、善積 京子氏(追手門学院大学人間学部教授)から「マルチメディア教材とスティルトークの社会学授業への活用」と題する課題提起をお願いした。その要旨は、教材の内容説明と活用するための環境条件の整備に関してであった。特に、スティルトークという授業運用支援システムを説明され、教材の利用ばかりでなくその活用効果を引き出すには、リアルタイムの双方向コミュニケーション手段が有効であることを強調された。
 次に討議に移り、多くの問題で活発な議論が行われた。議論の一つは、マルチメディア教材開発の費用と労力に関してであり、費用規模の大きさと予算確保の方法に関心が集中した。二つ目は、著作権に関してであり、日本コンピューター・システム(株)の外山正隆氏から現状説明をいただいた。それによれば、著作権取得はかなり困難な作業であり、費用もかなり掛かるのが実状であり、大学個別ではなく、組織的な対応が必要であるとされた。三つ目は、マルチメディア教材の特性に関してであり、印刷媒体にはない広範な知識を多様な表現手段で提示しうることが強調された。特性として具体的には、コンテンツやジャンルに捕らわれない多様性、データに量の制限のないボーダレス性、データの劣化が生じない保存性、データの追加・更新・削除が容易な蓄積性、3次元表示も可能な臨場性、およびデータの自己増殖や自己更新可能な自己組織性などが議論された。



テーマ別自由討議(6月27日)


E:学内LANの運用管理

 約90名の参加者の下、豊田紘一氏(大阪歯科大学情報教育センター)により、同学内のLAN構築と運用に関する紹介に続き、次のような課題が提起された。
  1. ハードウェアとソフトウェアの維持費用と保守契約経費が教育情報センターの年間予算の50%余りを占め、新たな事業展開が困難になっている。
  2. 運用保守は外注しており、業務は順調であるが、LAN技術の進歩に伴って、中・長期的な立案とネットワークの改良を行っていくには専任の技術職員が必要である。能力の高い専任職員が確保できれば、保守内容の切り分けが可能になり、保守費用削減に繋がる。
  3. 事務組織とセンターの役割分担の不明確さが各部局における情報機器の整備計画やデータベース作成、ホームページ運用等においてネックになっている。職員全体のコンピュータ能力のレベルが大学のレベルを決定するので、大学全体としてその方策を練る必要がある。
  4. その他、学生用情報環境の整備、ネットワークの対外接続、マルチキャンパスLAN、学内向け各種講習会開催等に関する問題点が指摘された。
 豊田氏によるプレゼンテーションの後、熱心な質疑応答と討論が行われた。以下は主な討議項目である。  その他、各大学が抱える種々の悩みについての報告と質疑が相次ぎ、センター部門の負担増と少ない人員によるネットワーク運用の難しさ、要員養成の大切さを実感させる分科会であった。


文責: 武蔵工業大学 松山 実


F:21世紀の学習環境デザイン

 『私たちが「学ぶこと」そのものに楽しみを感じ、問題解決を軸とした創造的活動に没頭できる学習環境は、どのようにデザインすれば良いのであろうか。』これは、情報教育を含めた全ての教育における大きなテーマであるといえる。課題提起者である上田信行氏(甲南女子大学文学部教授)は、このことをテーマに、社会的・文化的文脈の中における「学び」とは何か、問題解決の過程の中で磨かれる「知性」とは何か、をワークショップ形式で呈示し、参加者との間でこれまでのフォーラムには見られなかった連帯感と自己表現の場を作って下さった。ワークショップでは、紙を使って服作りを各自が行うことによって、隠れていた新しい自分を発見することができた。さらに、自分の作品について参加者にコトバで説明させることによって客観的に自分の作品を評価させた。次に他人の作品についても目と耳で理解させた。さらに、上田氏は、参加者の作業の過程をビデオに収め、最後にそれを参加者に呈示し、創造の過程を客観的に示した。参加者全員がこのワークショップを通して、それまで気がつかなかった自分の「知性」と「創造性」を発見する経験ができた。
 上田氏はこれまで、学ぶ場の教育学について多くの実践的な研究を行ってこられた。上田氏自身は奈良にneoMUSEUMをつくられ、reflective design'97やHuman-Powered Computing Experiment 1993など非常にユニークで実践的な教育を行っておられる。参加者は短時間ではあったが、優れた教育は理論よりもむしろ実践を通して、なお一層可能になることを、この度のワークショップで実感した。今後の教育の方法に何んらかのヒントを得たのではないだろうか。


文責: 関西学院大学 雄山 真弓


G:CALLの活用について

 京都大学には京都大学総合メディアセンターのCALLシステムの教室があり、外国語教育に使われている。その教室での教育体験を材料に参加者からの質疑応答、意見交換を行った。まず、課題提起者である大木 充氏(京都大学総合人間学部教授)がマルチメディアを利用した語学教材である「CALLフランス語文法」について、メディアセンターにおける実際の教育経験を話された。その後、このシステムの維持管理と教材開発を実際に行っている三枝裕美氏(京都大学助手)が教材開発に伴う労苦と環境維持の困難について話された。
 発表の後、質疑を活発に行った。以下にそのトピックのいくつかを述べる。
  1. CALL教材開発について
    この教材の開発は90分25課で成り立っているが、素材の作成と教材への開発の時間が現在はタイムラグなしで行っているのが辛いという現状。

  2. 外国語の学習につきものの辞書について
    著作権の問題やコストの点で市販のものは使えない。1課毎に簡易に作っていて、20課を超えれば一つの学習辞書になるが、ただし汎用的ではない。英語ではフリーの辞書がすでに研究者には開放されている。また、中国語などはインターネットのグループで辞書を作る研究会があるが、これからはこうしたものが望ましいのではないか。

  3. メンテナンス
    教室のメンテナンスはかなり大変で、トラブルは多い。常に5、6台故障している。このためある程度の防御も必要と考えている。教材のインストールには1回2、3時間かかる。

  4. LLとの関係
    LLと比べると音声のみでなく、文字入力もできることが優れている。また、双方向である点も優れていると考えられる。発音についてもCALLは機能を持っているが、LLのほうが良い場合はLLとCALLを併用している。

 以上のような質疑を行った。CALLの効果についても質問があったが、使いはじめであることから、明確な解答はなかった。しかし、コンピュータを使う授業は、通常の対面式の伝統的な学習法と比較すると学生に興味を持たせ、欠席者が少ないことなどが述べられた。


文責: 金城学院大学 中田 平


H:ネットワーク教育とプロバイダ

 100名を越える参加者の下、課題提起が下記3グループ6名(各グループ持ち時間20〜25分程度)により、プレゼンテーション・ツール、OHP/OCP、インターネット等を利用して行われた。  前半の約70分は、外部のプロバイダを使ってネットワーク教育を進めておられる上記の3グループから、その事例と諸課題についての報告に多くの時間がさかれた。
 休憩後の後半約70分については、課題提起者と会場との積極的な質疑や、会場からの事例の紹介などを含めた、種々のテーマについて討議がなされた。一つの結論やテーマを絞って紹介することは難しいが、箇条書きで示すと、以下のような諸課題・問題について真摯な討議と情報交換がなされた。


文責: 立正大学 山崎 和海

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