私情協ニュース6
去る8月1日、品川区の松下電器産業(株)AV&CCシステムズスクエアを会場に第7回理事長・学長等会議を開催した。当日は、98大学22短期大学より223名の理事長・学長・理事・学部長等が参加。
今回は、「大学教育におけるストラティジー」と題して、補正予算で整備が進められている教室のマルチメディア化を契機に、教育方法、教育内容を見直し、学生に魅力ある授業を提供できるよう、大学での対応と課題について研究討議した。会は、まず戸高敏之会長(同志社大学)より挨拶があり、続いて、来賓として文部省私学助成課の村田直樹課長の挨拶、さらに会場提供の松下電器産業(株)の福原専務取締役より挨拶があった後、最初の基調講演に入った。以下に、会議の概要を紹介する。
「知のキャンパスに求められる情報環境」
慶應義塾大学藤沢キャンパスから衛星通信とインターネットによるテレビ会議方式で、斎藤信男氏(環境情報学部長)から、21世紀に求められる大学のマルチメディア環境について、次のような講演があった。大学は知的生産活動の場として、人材育成、政策提言、技術の方向付などにおいて社会のリーダシップとなることが要請される。それには、大学内だけでのネットワーク(イントラネット)では不十分で、学外の大学、企業、国、社会と連携協調する学外機関によるネットワーク(エクストラネット)の構築が不可欠と指摘。この知識ネットワークの整備には、全ての情報をデジタル化し、ネットワークで共有できるようにする。講義の映像も教材もデジタル化し、サーバに格納しておき、ビデオ・オンデマンド方式でインターネットでシラバスデータベースと連動して学生が常時利用できるようにすることが必要と、キャンパスのデジタル化の徹底を強調、実際の授業現場のビデオを通して紹介があった。他方、新たな課題として、教材作成から機器操作にいたる授業支援スタッフとして学生5〜10人程度の確保と、格納された教材、講義情報の知的財産の管理が今後重要になると指摘。質疑では、ネットワーク利用が進むことにより、距離、時間の制約がボーダレスになり、物理的なキャンパスは大きな意味を持たなくなること、講義をデジタル化するとしても学生と教員との意見交換などでは、カメラワークとして教員と学生を撮影することになるため手間が大変で、全てを満足させることにはならないことも紹介された。
「マルチメディア導入に伴う課題と対応策」
最初に課題提起として、山崎和海氏(立正大学情報処理センター長)から、新学習空間構築のための諸課題として、デジタル教材のコンテンツ作りの工夫、学内での支援体制(資金面での手当、教材開発への評価)、教員の教育業績評価の創設、教材の共有化・共同開発のための大学間連携が必要など問題提起があった。また、学外機関からのWWW、ビデオ、CD-ROM等による教材資料の提供の実情について、井端事務局長より新聞社、放送機関、行政機関、出版社、企業では、一部利用が認められている場合もあるが、利用許諾が認められないことが多いことから、当協会として関係機関に働きかける必要があることが報告。さらに、戸高会長より、大学審議会の中間まとめに対して、教育方法等の改善、多元的な評価システムについて、マルチメディア活用が避けて通れない課題であること及び大学審議会での教育評価の基準例示の早期検討を意見申し入れることが報告された。
これを受けて、全体討議では、つぎのような点について意見交換があった。1)紙メディア、デジタルメディアの是非はあるが、大学は多様なメディアを受け入れる必要があるのではないか。その中に新しい教育が生み出されることがある思われる。問題は、どのような教育を実現しようとするのか、新しい教育形態に対応できる教員、支援スタッフ、設備投資にコストがかかるだけに、どの程度投資すべきか、経営管理責任者に柔軟な対応能力が求められてくる。2)マルチメディア導入の目的は、これまで対応し得なかった授業実現のための一つの手段であること。例えば、大学審議会で指摘の学生の準備学習・復習をオン・デマンドで教室の内外で実現させることとか、学外の専門家(企業、他大学)と連携して、授業にネットワークで現場情報、体験情報を教室に直接提供し、現実感覚を持たせた授業にすること等が考えられる。3)教材として新聞社の情報を教員のホームページに掲載し、学内の学生に利用させたい。利用できないとなると社会的な損失になることから、今後、私情協として新聞社はじめ関係機関に要望していく必要がある。4)教育に積極的に努力している教員の教育業績の評価システムを大学として設けることを考える時期にきていること、外部機関からの教材・資料の提供以前の問題として、大学間で相互に共同利用できるよう連携を図る必要がある。
平成11年度に向けた要望として、ノートパソコン貸与に対する補助の充実、10年度補正予算で実現したマルチメディア装置施設関連の補助を新たに運営費も一体に補助できるよう、教育・学習方法の高度情報化という新規補助で要望している。9年度の情報化投資額は、大学はほぼ8年度と同じで教育研究関係で0.7%増、1大学当り3億47万円、短期大学は20%減の3千302万円となった。大学では、大規模校の14億円から小規模校7千万円と20倍の開きがあるが、学生1人当りでみると3.6万円から8.4万円とそれほど大きな相違がみられない。なお、経費別にみると設備関係が減少しているが、これは買い取りから借り入れに切り替えたことによるもので、設備投資をしていないということではない。
Aグループ 「コンピュータ、ネットワークを活用した授業改善の方法」
藏下勝行常務理事(専修大学)の司会で二つの事例が紹介された。一つは、「インターネットを活用した授業事例」として、福田好朗氏(法政大学工学部教授)から、生産管理システムの授業で、工場の仕組みなど実際を知らない学生に、遠隔地にある工場にインターネットで接続し、工場から送られてくる実際のデータ(作業状況の動画及び数値等)を使用して、作業改善案を立案させ、大学で構築した仮想工場でシミュレーションを行い、評価が受けられようにしている。インターネットのメリットは、工場が遠隔地にあっても擬似的に工場実習が可能となること、実際の工場データを使用できるので現実感が得られ、極めて実践的な演習が可能とのことであった。
二つ目は、「コンピュータ自動学習システムを活用した授業事例」として、鈴木恒則氏(東海大学理学部助教授)から、基礎物理学の授業で自作のCAIを学内LANを介して学習させる方式で、毎回講義の最初に映像を通して物理現象の紹介と数式表現を解説し、学生に興味を持たせた上で、CAIシステムで物理現象と数式の解説を行い、演習問題を解かせる。その過程でシミュレーションを組み込み仮想実験を行っている。学生は、自分のペースでコンピュータ学習するが、次の段階では、実際に教室で小実験を体験させている。今後は、記述解答式に対応した自己診断システムとするとともに、教材の共有化を促進して、共同で教材開発が可能となるような環境が必要となるとの説明があった。なお、意見交換では、実際に体験すること以上に教育効果に勝るものはないが、限られた教育環境の中で座学だけで教育するよりは、コンピュータでも擬似体験させる方が理解が得やすいし、複雑な事象を情報システムのモデルという概念でとらえていくことは、非常に重要とのことであった。
Bグループ 「インターネット利用に対する大学の対応」
向殿常務理事(明治大学)の司会で、情報倫理教育振興研究委員会の紹介があり、最初に安田寿明委員(文教大学)から、「ネットワークの運用体制に関するガイドライン」について、大学の法的責任、社会的責任の重要性について説明があった。続いて、尾関修治委員(中部大学)から、語学教育でインターネットを使用している現場の問題として、ネットワーク上でのメール交信の知識不足等による迷惑行為、偽名メール、英文メールでの誹謗中傷、民族・文化的摩擦をあげ、対応としては、主体的にネットワークを利用できる環境を提供すること、情報の利用教育だけではなく、情報の発信・共有に早期に慣れさせること、トラブルが発生したら迅速に対応すること、円滑なコミュニケーションに必要な知識と技術を習得させるとの提案があった。引き続き、窪田誠委員(学習院大学)から、インターネット利用上のトラブルの実例として、他人のアカウントを不正使用しての中傷、他の大学の電子掲示板に同大学を中傷し、先方の大学より大学に謝罪の要請、大学のサーバを他人が不正使用し、広告メール及び卑猥な情報を送信され、大学の管理者宛にクレーム、学内の学生のWebページに国の領有権に関する持論を過激に展開し、相手国から大学にクレーム、ネットワークを利用してストーカー行為をし、大学の学則で処分された等の紹介があった。これらへの対策としては、全てのコンピュータをユーザ認証で保護するとともに、情報倫理を教育において周知徹底することにしている。また、セキュリティ対策としては、学外に情報が簡単に流出しないように情報源を管理する他、学内LANが学外者に不正使用されないよう自宅からのダイヤルアップ接続を認めないようにしている。利用者を特定することが重要なことから、指紋読み取り装置等の個人識別装置の使用なども考えらえている。
教育研究部門の規模・種別投資額のグループ別推移(1大学平均)
昼間学生1人当りの教育研究費における情報化投資額