特集

大学と高等学校の情報教育連携

求められる大学の基礎的情報教育1モデルの考察
中間報告(抜粋)
平成11年5月31日
私立大学情報教育協会
情報教育研究委員会第一分科会

まえがき

 2003年より高等学校の普通教科に情報教育が必修となる。そうなると3年後の2006年には、コンピュータやインターネットを操作できる学生が大学に入学してくる。授業も様変わりする。学内LANでシラバスをみて、教材をサーバーから取り出し、予習や復習をするようになる。解らないところは教員や仲間にネットワークで聞く。現在、大学で行っている基礎教育は、大半が高校までに実施されることから、大学での教育は不要になろう。しかし、その分大学では、高等教育を踏まえた上での高度な授業が求められてこよう。大学審議会でも指摘のように、「課題探求型」の授業が中心になる。情報教育も同様である。何故なら情報教育は、問題発見・解決のための一つのツール教育だからである。それ故に、情報教育の次の課題は、人間がより主体的に行動しやすくするための問題発見・解決と、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力の総合的な能力が求められてくる。
 本中間報告は、このような経緯から将来を見据えて考察したものである。現時点で取り上げるには、高度で常識を超えていると思われるところもあるが、高校での教育が定着すればその見方は変わると考え、敢えてこれからの「目標」として「考察」と言う形で提言することにした。
 分科会では、1997年にとりまとめた「情報教育モデルシラバス」を見直し、とりあげるべき内容を問題発見・解決にコンピュータやネットワークを活用する教育に重点をおいた。とりまとめに際しては、授業の展開方法、授業のねらい、授業内容について整理し、授業に必要なモデルシラバスと授業の進め方と教材のサンプルを掲載するよう心掛けたが、インターネットコミュニケーションの教材サンプルは、本年11月の最終報告までに準備することにした。
 ここにご一覧願い、意見を踏まえ11月には改めて最終報告する予定としておりますので、7月までに本協会事務局宛に忌憚のないご意見をたまわれば幸いである。


1.大学教育の変革と情報教育の必要性

 大学の教育について、「授業がわからない」、「教員からの一方通行型の授業が行われている」、「視野の狭い専門教育となっている」などが文部省の調査などで指摘されている。
 21世紀に向けた教育の在り方について、大学審議会では、課題探求能力の育成に重点を置き、教室の授業だけでなく、教室外での準備学習に学生が積極的に臨めるようにするとともに、ファカルティ・デベロップメントの組織的な研究、マルチメディア機器の活用による授業方法の改善など、教育改革の提言が行われている。
 このようなことから、これからの大学教育は、従来の教員中心の授業から教員と学生による双方向の授業になるとともに、自学自習を通して学生一人々が確実に理解できるような授業が求められてくる。
 それには、授業の基盤環境としてネットワークによる情報交流が可能になるともに、コンピュータによる分析・推論など情報及び情報技術を活用した授業がどのような分野でも日常化されてくる。したがって、学生は、大学の授業を受けるための基本的な資質として、コンピュータやネットワークなどを利用した情報の基礎能力を習得することが必至となる。また、卒業時には、一社会人として情報および情報技術に対する一定の能力が求められてくることを考慮すると、大学は教育の改革に連動して、高等教育にふさわしい情報教育を展開していくことが極めて重要な課題となってきた。


2.大学教育における基礎的情報教育に求められる方向性

 大学における基礎的情報教育は、コンピュータや情報通信ネットワークなどの操作技能習得を中心とする操作技能型と、操作技能の習得を前提として、それを問題探究の過程に活用する問題探究型という2つに大別される。
 高等学校の普通教科に「情報」が新設され、情報及び情報技術活用の知識と技能の習得が必修として行なわれるようになると、大学において基礎的情報教育として従来行なわれている操作技能型の授業内容は、高等学校で学習するため、大学においてこれまでのように重点履修させる必要はなくなり、高等学校に委ねることを基本とする必要がある。
 このような動向をふまえて、本分科会においては、大学における基礎的情報教育の方向を、操作技能型から問題探究型へ移行させることによって、問題の探究に取り組ませ、その過程で必要な能力の育成をねらうことにした。取りあげる能力として次の3本の柱を立てた。
  1. 問題発見・解決の能力
  2. インターネットコミュニケーションの能力
  3. プレゼンテーションの能力


3.高等学校における普通教科「情報」

(p.13 高等学校学習指導要領を参照)


4. 授業展開

 3本柱の能力育成の授業は、情報及び情報技術活用の基礎的な知識・技能の上に成り立つものである。そのため、これら3本柱の能力育成の授業においては、情報及び情報技術活用のための基礎的な操作技能の充実を図るように授業展開をする必要がある。
  1. 問題発見・解決能力育成の授業展開
     問題発見の過程は、漠然とした問題意識を解決するための問題として明確な形に構成する過程である。通常、問題は解決し得る明確な形になっていない。そのため、問題解決の前に問題発見の過程が必要である。
     問題発見の過程は、「問題状況の把握→問題状況の表現→問題状況の分析→モデル化→問題構成」という5つの階層に分けてとらえ、それぞれの階層における手法を明確にしたものである。そのため、階層ごとに順にその手法をたどっていくと、問題を明確な形に構成し、問題発見ができる。
     この問題発見の過程は、情報の収集、整理・分類、要素間の関係、モデル化等情報に関する基本的な考え方を随所に使うもので、操作技能型の情報教育では取り扱われていなかったものである。
     これに対して、問題解決の過程は、データ解析の手法を用いて数学モデルを構成し、これを用いて予測を立てる過程である。一般に、収集したデータは複数の多変量解析の手法を使わないと解析できないものが多い。基礎的情報教育の教材としては、データ解析の側面からは容易なものをしようするのが適当である。

  2. インターネットコミュニケーション能力育成の授業展開
     高度な情報ネットワークを介したコミュニケーションが日常的に行なわれている今日の社会においては、インターネットコミュニケーションによって、社会的経済的資源として創造された情報・知識が流通し、それが共有されるため、インターネットコミュニケーション能力は、基礎的情報教育で育成すべき重要なものである。
     上述の問題発見・解決の過程においても、関係する人々とのコミュニケーションなしには、解決への道はたどれなくなっている。特に、インターネットは、コンピュータの向う側にいる人と人とのコミュニケーションを実現しているため, 今日の社会ではインターネットコミュニケーション能力なしには、創造された情報・知識の共有は実現し得ないのである。

  3. プレゼンテーション能力育成の授業展開
     基礎的情報教育は、学習の成果を、1つ1つの課題ごとに明確な表現によるプレゼンテーションして、他者に正しく、わかりやすく伝達することで、課題に関する学習がしめくくられることになる。この意味からプレゼンテーション能力は、問題発見・解決の過程の学習においても、インターネットコミュニケーションの過程の学習においても、当然その学習過程の中で必要とされるものである。


5.前提能力の基礎枠組

 今回提案した大学教育における基礎的情報教育における教育内容の基本枠組みは、高等学校の普通教科「情報」の新設を前提とし、それと重複を避けている。しかしながら当面は、それらの部分も大学において扱わざるを得ない。以下に記載したモジュールは、基本枠組みを学習する際の最低の前提能力となるものである。必要に応じて、カリキュラムに組み入れたり、情報教育センターなどで補充講座として実施してほしい。
前提能力としてのモジュール

6.問題発見・解決の基本枠組



7.インターネットコミュニケーションの基本枠組


8.プレゼンテーションの技法の基本枠組


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