社会福祉の情報教育
社会福祉教育における情報技術活用
川村匡由 (武蔵野女子大学現代社会学部教授)
1.はじめに
近年の少子化の進行に伴い、各大学・短大は「冬の時代」への対策に追われているが、武蔵野女子大学もご多分にもれず、ここ数年、改革に次ぐ改革に努めている。
具体的には、1998年に現代社会学部の設置、1999年に文学部人間関係学科から人間関係学部人間関係学科への独立、さらには男女共学の大学院(人間社会・文化研究科)の発足により大学3学部、1大学院のほか、既存の幼稚園から中学、高校、短大と合わせて総合学園として整備された。このうち現代社会学部は現代社会学科(定員150人)、社会福祉学科(定員100人)の2学科からなり、「違いを共に生きる(共生)」という理念のもと、時代の変化を的確に判断し、未来社会を創造できる地球人を育てるべく、法律、政治、経済、社会、福祉を学ぶことを目標としている。
中でも力を入れているのはインターネットを駆使したコンピュータリテラシーで、両学科共通の基礎科目として位置づけている。
2.具体的な内容
具体的には、両学科ではまず1年次に「コンピュータ活用1」および「コンピュータ活用2」でリテラシーとセキュリティ、ネットワークの基礎、2年次に「コンピュータ活用3」および「コンピュータ活用4」でネットワークの活用と情報検索、3年次には「コンピュータ活用5」から「コンピュータ活用7」まででプレゼンテーション、マルチメディア、プログラミングを設けている。このうち、「コンピュータ活用1」から「コンピュータ活用3」までは必須(各2単位、計6単位)、「コンピュータ活用4」から「コンピュータ活用7」までは選択(各2単位、計8単位)である。
そこで、大学では本学部の設置に先立つ1997年10月、学内LANを整備し、各部署の情報がLAN上の掲示板に掲載されるようデータベース化した。また、新館の7号館1階に学生の各種相談に応ずる情報システムセンター、および学生が授業の空き時間、246台のパソコンを無料使用できるマルチメディア教室のほか、既存の5号館3階にやはり学生が114台のパソコンを無料使用できるコンピュータ教室、および1号館1階に学生のためのコンピュータ学習相談室を設置した。
その上で、学生には入学と同時にノートパソコンを共同購入してもらい、1年次から上述した情報教育を実施している。もちろん、大学ではその購入代金(1人4万円)、およびプロバイダとの契約費用(1人年8,000円)を補助している。
この結果、学生のほぼ全員が1年次の前期までにコンピュータの基礎的な利用とネットワークでの使用法、ホームページからの情報の入手、加工、編集、ワープロ・表計算ソフトによるレポートの作成・提出、学内図書検索などインターネット上の各種情報の入手、伝達をマスターしている。
特に社会福祉学科の学生にとって至便な電子掲示板が「学部掲示板」や「学科掲示板」、「研究室探訪」である(図1)。
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図1 本学の学内LAN上の掲示板メニュー |
このうち、「学部掲示板」は学部全体に関するもので、教員と学生との間における授業計画(シラバス)の公開、学園祭などの学校行事をはじめ、各種連絡事項の告知、あるいは教員間における教学上の各種メールの送受信に利用されている。
これに対し、「学科掲示板」は学科専用のもので、社会福祉学科の場合、老人ホームなどへの現場実習の履修登録上の注意事項やテキストの追加使用の掲示、ゼミ・演習クラスの編成の結果の発表、国家資格である社会福祉士の試験結果、およびその講評などの報告に利用されている。
一方、「研究室探訪」は個々の研究室の教員が管理しているもので、教員の自著の刊行や研究室の不在日、休講の有無、レポートの提出の指示・返却の告知、マスメディアへの出演などに利用されている(図2)。もっとも、社会福祉学科の場合、厚生省や全国の地方自治体、社会福祉協議会、福祉人材センター、施設、企業からの各種調査報告書や資料、就職説明会の開催などの情報が多いため、学生はこれらの掲示板にアクセスし、レポートの作成やボランティアへの応募、専門書・ビデオ割引販売への注文、就職活動などに活用しているところが現代社会学科などと違う点である。
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図2 筆者の「研究室探訪」の内容 |
したがって、学生にノートパソコンを必携させる本学の社会福祉教育は、社会福祉サービスのネットワーク化、高齢者や障害者など「情報弱者」の救済、情報マンパワーの確保などの面で、有能な人材として各方面に輩出できるものと確信している。
3.当面の課題
しかし、このような状況のなかでも課題がないわけではない。
その一つは、学生は自宅や下宿先では有料でしかメールを送受信したり、ホームページを開いたりすることができないため、現場実習や休暇のときはノートパソコンを利用できないことである。
また、教員のなかには「コンピュータ難民」もいるため、当該教員の持つ各種情報が学生に提供されないほか、学生がレポートを送信したり、相談を希望しても対応できないことである。このほか、メールを送受信することができるにもかかわらず、これらの掲示板へ情報提供する教員は一部で、「宝の持ち腐れ」になっていることである。
しかも、これらの課題はいずれもただちに解決できるような性格のものではない。なぜなら、前者の場合、大学の財政上、これ以上の補助は困難だからである。また、後者の場合、現状では「コンピュータ難民」など当該の教員一人ひとりの自覚に待つしか方法がないからである。
いずれにしても、このような悩みは大学全体の問題であるため、抜本的な解決が望まれるが、学生においては、いずれ個人的なホームページを作成し、社会福祉に関する意見やボランティアの体験、資格・特技を学内外に発信し、学習や就職活動などで成果を発揮してもらうよう、情報教育の環境が整備できればと願っている。
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