情報教育と環境

高知工科大学におけるコンピュータリテラシー教育



1.はじめに

 高知工科大学は平成9年度に開学した公設民営(高知県が出資して設立した学校法人。このような設立運営形態を俗に第三セクター方式と呼ぶ。)の工科系単科大学であり、物質・環境システム工学科、知能機械システム工学科、電子・光システム工学科、情報システム工学科、社会システム工学科の 5学科からなっている。本学では、研究・教育・地域貢献を3本柱としており、地域の発展に大学型組織がいかに機能し得るかという観点で構築されているのが特徴であり、研究指向型の古典的かつ保守的な大学とは大きく異なっている。教育面では共通教育重視を特徴とし、コンピュータリテラシー教育は第1学年を通年で行う。


2.コンピュータリテラシー教育の目標

 コンピュータリテラシー教育の目標は、コンピュータやネットワークを日常の道具として使いこなせる能力、およびコンピュータ環境の変化に対して追従できる能力を付けることとした。
 計算機環境は、いわば現代版の「読み書きソロバン」であり、これが使えることがまず必要である。またこれを取得できているかどうかの尺度として、計算機環境の変化に耐えられることを付帯させた。十分なコンピュータリテラシーを持つということは、コンピュータリテラシーを維持するようなメンタルモデルが形成されていることであり、環境の変化に対応できることは、十分なメンタルモデルを持つことの証拠になると考えた。


3.利用環境

 コンピュータリテラシーは、主に共通教育が行われる講義棟内にあるワークステーション室で行われる。このワークステーション室には、NEXTSTEPをオペレーティングシステムとするPC互換機が学生用に100台設置されており、授業時間以外の時間には自由に使用することができる。 専門教育用には、この他に、それぞれOSをUNIX(110台)とWindows-NT(100台)としたワークステーション室が用意されており、各学科の専門教育の内容に応じて利用されている。
 また、携帯用情報端末として、1年生全員にノートパソコン(Windows95)を貸与しており、学内各所に設けられた情報コンセント(10Base-T、学内総数 約3000ポート)やPHS内線を通して、学内LANやインターネットの利用も可能になっている。

(1)オペレーティングシステム (OS)

 教育効果や管理・維持の観点でOSの選定は重要である。以下の2点を満たすことがコンピュータリテラシーで利用するOSとしての条件であった。

  1. マルチユーザ対応であること
  2. 分かりやすいGUIを持つこと
 これにあてはまるOSとして、NEXTSTEPとWindows-NTとが候補になったが、

(2)コンピュータシステム

 教育上の観点より、計算機システムに関する以下の内容を決定した。


4.教育内容の特徴と課題

(1)授業内容

 1年を4期に分け、各期における重点を決めた。第1期〜第3期は全学共通で、第4期は学科独自のカリキュラムを編成している。以下に第1期〜第3期の大まかな講義内容を示す。

  1. 基本的な操作と楽しめるアプリケーション
     コンピュータとの付き合い方のうち、大学生活に必要な基本的な事項を身に付けさせる。
     そして、メディアとしてのコンピュータに興味を持ち、自発的に次の段階に向かう気持を育てることを目標とする。
     はじめてコンピュータを触る学生に大きな精神的負担を負わせないように考慮した。


    [1]はじめまして
     ログイン、ログアウトの手順の修得。認証の重要性を教え、個人個人のパスワード管理について解説する。また、電源のon-offについて教える。

    [2]WWWで遊ぶ
     キーボード入力を伴わない情報検索を用いた、インタネット上での情報散歩を解説する。実用性と同時にネットワークに対する興味を持たせることを目的とする。また自然にポインティングデバイス操作を修得させる。

    [3]文章を作ろう
     エディタを用いて、計算機の効用(記憶、再編集等)を教える。このとき、システム構成とファイルの概念を解説する。また、文章作成の基本となる日本語入力の方法を教える。

    [4]ネットワークコミュニケーション
     電子メール、電子ニュースの利用方法の修得。
     計算機が重要なメディアであり、ネットワークコミュニケーションの素晴らしさを十分に体得させる。同時に、ネチケットについても教える。

    [5]ホームページを作る
     HTMLの書き方を教え、各自のホームページを作成させる。文章の構造を与える形式のマークアップ言語の概念の把握、画面レイアウト、文字の強調等のメディアリテラシーを教え、見やすいホームページの作成方法を修得させる。

    [6]計算機とネットワークのしくみ
     計算機ネットワーク上の機能がどう実現されているのか解説する。特に、計算機内部やネットワーク内部での実行のしくみやファイルシステムがNEXTSTEPのGUI上にどのような形態で表象されているかを示し、直観的な理解を促す。



  2. よくあるアプリケーションとノートパソコンの導入

     大学の講義・研究に必要なアプリケーションのうち、基本的な事項を教える。また、個人用ノートパソコンの利用方法を教える。これが終了すると、しっかりした形式のレポートをいつでもどこからでも提出できるようになる。


    [1]図作成
     図作成ツールの操作の修得。

    [2]データ処理
     表計算ソフトツール、グラフ作成ツールを用い、統計処理を行う場合に必要なツールを紹介する。

    [3]静止画・動画・音声入力
     イメージスキャナ、ディジタルスチルカメラからの静止画の取り込み、音声の入力の方法の修得。これにより文書への図の挿入や、ホームページへの画像・音声の挿入が可能になる。

    [4]数式処理
     Mathematicaを使って、数値計算ではない数式処理を修得させる。またビジュアルな3Dグラフィックスを用いることにより、数学がより直観的に理解できることを体験させる。

    [5]個人用ノートパソコンの使い方
     貸与したノートパソコンの利用方法を教える。また、学内ネットワークにアクセスする際の基本的な作法を教える。これによって、講義レポート作成や自主学習も期待できる。

    [6]キャンパスシステムの使い方
     大学の事務(教務)システム、図書システムの利用法を教える。大学における連絡事項や登録等がすべてオンラインで行えることを強調する。



  3. プログラム開発入門と情報科学入門

     ソフトウェア工学に基づいたプログラムの開発を体験させ、コンピュータ環境の基礎となっている概念とその操作を教える。


    [1]プログラム開発
     ソフトウェアライフサイクルの概念を教える。課題から、自分の作りたいものを考え、要求分析し、仕様作成・設計する。その後、コーディング・デバッグの方法について説明する。言語とプログラム開発環境としては、Objective C+Interface Builderを使用する。GUIベースの電卓やスケジュール管理などを課題とする。これにより、統一された環境の上での自分自身のためのツールを作る技法が身につく。また、個人用・研究用に作成したツールに改良を施して全学的に利用可能とするような、大学に対するフィードバックを期待できる。

    [2]情報科学入門
     コンピュータやネットワークの動作を解説する。また、コンピュータにできないことやできることを教え、プログラム開発入門で芽生えた疑問に答える。経験により構成されたメンタルモデルを、座学による学習で正確で確実なモデルに仕上げる。



(2)担当教員

 コンピュータリテラシー担当教員には以下の二つが要求される。

 コンピュータを使いこなせるだけ、あるいは使いこなせているように外から見えるだけではこれらの能力を備えているとは言えない。
 なお、教員の配置に関しては、一般情報教育の経験がある教員が望ましいと考えたものの、現状では十分な能力を持つ教員の絶対数が不足しているため、各学科の学生に対してその学科の教員で担当している。

(3)モバイル環境

 1年生全員がWindows95を搭載したノートパソコンを携帯している。これは大学が購入し、学生に1年間貸与しているものである。
 据え置き型端末と携帯型端末とで利用環境が大きく異なる。特にホームディレクトリが共有できないことは、ユーザに著しい不都合を生じさせる。今後、徐々にモバイル環境を基本とした情報環境に移行していくであろう。その場合には情報環境としての考え方を新たな観点から考え直す必要がある。

(4)メンタルモデルの形成

 コンピュータリテラシーでは、コンピュータやネットワークを道具として用いる際に必要な、汎用的なメンタルモデルを形成することを目的としている。いわゆるハウツー、すなわち特定のアプリケーションの使い方を習得することを直接の目的としていない。
 しかしながら、コンピュータやネットワークの仕組みや動作を座学で教授しても何らメンタルモデルは形成できない。このため、最初はいくつかのアプリケーションを使わせることにより、メンタルモデルの形成を期待することになる。するとそのメンタルモデルは、特定のアプリケーションに依存したものになるのではないだろうかという疑問が生じる。これを解決するために、実習と座学とがインタリーブする形の授業が必要であると考えるものの、適切なインタリーブの間隔が不明なままであり、まだ授業には反映されていないのが現状である。



文責: 高知工科大学  
  情報システム工学科長・情報図書館長 寺田 浩詔
  情報システム工学科助教授 岩田  誠
菊池  豊
篠森 敬三
  情報システム工学科講師 福本 昌弘

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