私情協ニュース1

平成11年度情報教育問題フォーラム開催される



 平成11年度情報教育問題フォーラムは、開催地を大阪に移し、6月18日(金)、19日(土)の2日間、大阪経済大学において開催された。参加者数は約285名余り(113大学、17短期大学、1高専、賛助会員16社)にのぼった。
 第1日目に開催された全体集会では、フォーラム運営委員会の山崎和海委員長(立正大学)の司会のもと、私情協の戸高敏之会長(同志社大学)による開会の挨拶、そして会場校を代表して大阪経済大学の山田達夫学長による挨拶が行われた。その後、フォーラム運営委員の紹介に続き、井端事務局長による私情協活動報告として、平成11年度の事業計画、情報関係の補助金申請について補足説明等が行われた。



基調講演(6月18日)

ネットワークが開く21世紀型教育システム
大学と社会、また大学相互の新しい関係の構築をめぐって

 今年度の基調講演は、インターネットを大幅に取り入れた授業に取り組んでおられる早稲田大学文学部の井桁貞義教授から、「ネットワークが開く21世紀型教育システム:大学と社会、また大学相互の新しい関係の構築をめぐって」と題して、一部実演(ビデオやインターネット活用)を取り入れながら行われた。
 ビデオを利用しながらの「ネットワーク授業(早稲田大学、苫小牧駒澤大学[単位認定]、大分県立芸術文化短期大学[聴講])」や遠隔授業ホームページの紹介に始まり、「マルチメディア・インターネット授業」(本文、資料、リンク集、レビューシートレポート、掲示板などの紹介)の一部実演が行われた。さらに、「大学模擬授業」を体験した高校生からの反響などの紹介も行われ、臨場感あふれた講演がなされた。また、会場との質疑応答を通しても、マルチメディア時代における大学の役割について、数々の有意義な指摘(教材作りと著作権問題、知的資産の拡がりと情報の共有化、フィールド志向などの考え方とともに、教員の資質としてのプロジェクトマネジメント能力など)がなされた。
 基調講演の後に開かれたテーマ別自由討議は、第1日目(6月18日)4テーマ、第2日目(19日)4テーマの分科会が設定され、フォーラム運営委員各位による司会のもとで進められた。各分科会は約30名程から、多いところで80名を越える参加者のもと、熱意のある、2時間半ほどの時間を有効に使った活発な自由討議が行われた。数学的な一意の解を探るのではなく、今年も情報教育問題フォーラムの趣旨である「情報教育の現場で、またそれぞれの情報環境で実際に直面している問題・課題についての意見交換と情報の共有、会員同士の理解と協力を必要とする問題及び関連情報等について協議する」ことが全体的に活かされた大会であったといえよう。
 なお第1日目の分科会終了後懇親会に移り、私情協を代表し戸高会長(同志社大学)の挨拶、会場校を代表して山田達夫学長による挨拶があり、参加者相互の親睦を深めることができた。
 また、2日目の分科会終了後、大阪経済大学のキャンパスツアーが組まれ、マルチメディア教室を中心とするキャンパス見学を行った。
 ここに、本フォーラムの会場校をお引き受け下さった大阪経済大学の関係教職員の皆様に心より感謝申し上げます。

(文責:立正大学 山崎和海)



テーマ別自由討議(6月18日)

A:学内LAN運用管理技術のトレンド

 大学システムでも情報セキュリティの重要性に対する認識が高まっており、課題提議者である佐藤 宏氏(株式会社ネットマークス東日本営業統括本部副本部長)から学内LAN運用のための1)セキュリティ保証、2)セキュリティ対策と利便性のバランス、3)セキュリティシステムの構築、4)セキュリティ監査と運用管理について問題提議がなされた。さらに、その実現技術の紹介があり、それらを基に参加者による討議がなされた。
 セキュリティ対策の具体的な実施は、「データ保護」、「通信規制」、「ユーザー認証」、「特権定義」、「暗号化」、「監査」などのカテゴリに分類できるが、各々のカテゴリに対応するソフトウェア製品は、その機能・価格ともに非常に多様で、具体的に実装するにはいくつかのツールの組み合わせが必要になる。効率よい導入や運用を行うには、情報システムを利用する組織が対象、目的、内容、費用対効果を明確にしたセキュリティ方針を打ち出すことが何よりも必要である。
 以上のような一般論をまとめた上で、課題提議者からシングルサイン・オン(Single Sign On)システムとサーバ・ベースド・コンピューティング(ServerBased Computing)システムについて紹介があった。シングルサイン・オン・システムとは、PC起動時にシングルサイン・オン・サーバから一次認証を受け、そのユーザーがアクセスを許されているサーバ・アプリケーションのアクセスモジュールをダウンロードするものである。ユーザーにとっては、複数のIDとパスワードを管理する必要がなくなり、管理者にとっては、ユーザー管理をシングルサイン・オン・サーバで一元化できるのがその利点である。サーバ・ベースド・コンピューティングとは、これまでクライアントへ導入、実行していたアプリケーションをサーバへ導入し、集中的に実行・管理する方式である。サーバで管理を一元化してクライアントの管理コスト、機器コストの削減、さらにリモートやモバイルの導入などの容易化を支援するものである。

(文責:武蔵大学 梅田 茂樹)

B:21世紀の情報メディア教育を考える

 電子メールやWWWの普及によって、コンピュータは作業を効率化するための「道具」としてより、表現やコミュニケーションのための「メディア」として位置づけが重要となってきたといえる。課題提起者の加藤文俊氏(龍谷大学国際文化学部講師)と長岡 健氏(産能大学経営情報学部講師)は、このことをテーマに、前半は参加者の情報メディアへの理解や意識を高めるために全員でコミュニケーションの場についてのワークショップを行った。ワークショップの課題は、学生による企画から作業、資料作成、プレゼンテーションまでの一連の情報活動の場としてふさわしい場所を考えることであった。6〜7名からなる六つのチームに別れて討議を行った結果を踏まえて、我々教員が考えるコミュニケーションの場の理解と、学生心理のと差異について討議した。このワークショップには多少時間を要したものの、教員と学生とのコミュニケーションの場に対する感じ方の差異を示すことができ、「情報メディア」教育の場を考える上で示唆を得るところが大きかった。
 後半は、加藤氏と長岡氏によって実施された「ONプロジェクト」の概要と成果について報告がなされ、活発な議論が行われた。「ONプロジェクト」は初対面の両氏のゼミ学生による共同作業プロジェクトであり、デジタルメディアを使った泊まり込みの体験学習を行いながらチーム全員で成果物を作成しようとするものである。本プロジェクトは、教員と学生との一体化以上に、学生の主体性を教員が支援する形で進行し、デジタルメディアの利用と共同作業の運営によってコミュニケーションとしての情報メディアを学生達に体験学習させる実験的な試みであった。この報告によって、人間の本質である情報活動を学生自身が自覚し開発できるような「情報メディア」教育こそが重要であることを気づかされ、今後の教育方法のヒントを得た参加者も多かったことと感じられた。

(文責:東洋大学 内木 哲也)

C:高等教育機関におけるインフォメーション・リテラシー教育の構想と展開

 最初に、石川幹人氏(明治大学文学部助教授)が課題提起を行った。明治大学では私情協のモデルシラバスを基に、インターネットコミュニケーション、インターラクティブコミュニケーション、コンピューティング、プレゼンテーションを情報基礎論 I、IIで教えている。今後、基礎的情報教育は、コンピュータリテラシー、インフォメーションリテラシーを経て、インテリジェンスリテラシーと呼ぶ段階に至る。インテリジェンスとはability to learn and understandを意味する。当面、コンピュータリテラシーに関する補習や自習支援が、専門教育では情報環境整備が急務となる。
 次に、魚田勝臣氏(専修大学経営学部教授)が課題提起を行った。ニーズから発想する情報システム学に基づくと、個人の情報の収集、処理、伝達、利用に関する活動から、学生が常識として持つ事柄を差し引いたものを情報リテラシーで学ぶべきである。大切なことは、情報を収集し処理して自分の考えとしてまとめ表現することである。
 現在、一貫したテーマのもとに、各回完結の課題を与え、解決させるシラバスを検討している。情報ツールの学習は自習を基本とする。
 続いて、司会兼提起者の濱谷英次委員(武庫川女子大学文学部教授)から、私情協の基礎的情報教育モデル中間報告に関し、補足説明がなされた。
 質疑応答では、

などが話題になった。
 最後に、情報リテラシーを論じる際、大衆性(誰でも学ぶ)、常識性(誰でも使う)がキーワードになるという司会の斎藤雄志委員(専修大学経営学部教授)の言葉で分科会は締めくくられた。

(文責:武庫川女子大学 濱谷英次)

D:サイバースペースの利用と教育改革

 コンピュータとネットワーク技術が創り出した仮想現実空間はウイリアム・ギブソンがSF小説で創ったサイバースペースを現実のものにしつつある。この空間をプラットホームとするコミュニティの創出とそれを利用した教育は私たちがかかえる教育に関わる多くの問題の解決に魅力的な方法を提供すると思われる(大阪経済大学経営情報学部教授 家本 修氏による話題提起)。
 VRML(Virtual Reality Modeling Language)でつくられる3Dの仮想現実空間に分身を送り込んでコミュニケーションを行う技術は現実のものになりつつある。ショッピングモールなどへの利用は比較的容易であろうが、教育に活用するにはかなり高機能のエージェントを組み込んだシステムの開発が必要である。これによって従来の静的な知の教育や社会・生活技術的ないわゆるスキル教育に要する時間とコストは減少することが大いに期待できる。その結果創られる時間を発想・統合、問題解決などの動的知の教育に振り向ける可能性が生まれる。
 VODとハイビジョン、それに適切な教材(コンテンツ)があれば大学教育(今の)は要らなくなるのではとのフロアからの過激な発言もあった。高機能のエージェントの組み込まれたVRML教材、レーザ干渉を利用した立体ディスプレイなどが実用化すれば、同様な誤解がさらに増幅されかねない。しかし、本来、人間を教育できるのは人間であり、機器はそれを支援することができるのみである。とは云え、現在大学で行われている教育の多くが話題提起の中のサイバースペースを利用した教育システムによる教育に取って代られる可能性は濃厚である。
 課題提起は現在進行中である情報教育関係の特に高等学校学習指導要領の改定と大学の情報教育の在り方についても触れられた。しかし、白熱した議論はなく、平静に受け止められているとも思われるし、夢の教育システムによる教育改革の議論の後で現実の問題に引き戻され、何を議論するか戸惑いを感じてのことともとれた。

(文責:広島工業大学 喜久川政吉)



テーマ別自由討議(6月19日)

E:学内無線LANの構築と運用

 70名余りの参加者の下、鳩貝耕一氏(甲南大学情報教育研究センター助教授)により、同学内に構築した無線LANと同じ機器・ソフトを用いてのデモンストレーションを交えながら、構築の経緯と開発したソフトの紹介、および2年余りの実験結果の報告があり、併せて次のような課題が提起された。

  1. 現状の無線LANは低速であるため、データ圧縮などのソフトウェアと併用する必要がある。
  2. 無線LANではセキュリティ問題が生じやすいため、運用管理に工夫が求められる。
  3. 一つの部屋で複数の無線ブリッジを使用する場合、適切に設定しないと、電波の干渉により、同時に使用できるパソコン台数が低減する。
  4. 無線LANの使用目的・範囲を明確にし、有線LANとの役割分担を図る必要がある。
  5. 今後、無線LANを導入する場合、技術進展の著しい分野であるため、機器の拡張性や将来動向の見極めが大切である。殊に、PHS・携帯電話との関係も視野に入れておく必要がある。
  6. その他、学生1人に1台のパソコンが必要か、講義の場において学生がパソコンを活用できるか、ノートパソコンの電源、マルチメディア教材作成における補助員の必要性等、具体的な問題点が指摘された。
 鳩貝氏によるプレゼンテーションの後、熱心な質疑応答と意見交換が行われた。以下は主な討議項目である。  その他、会場からも各大学における事例紹介や意見が多数出され、関心の高さを実感させる分科会であった。

(文責:武蔵工業大学 松山 実)

F:スペースコラボレーションシステムを利用した大学間共同授業

 早稲田大学と慶応義塾大学でスペースコラボレーションシステムを利用した双方向授業「情報通信2000」が1998年度から3ヶ年間の予定で開始された。これは、スペースコラボレーションシステム(SCS)を利用した私立大学間のはじめての正規授業である。この授業を担当された高畑文雄氏(早稲田大学理工学部教授)に、その概要をご紹介いただき、大学間共同授業の留意すべき点、今後の展開等について活発な討議が行われた。
 会場における質疑応答の主要な点を以下に記す。

  1. 遠隔授業を実現する四つの技術とその問題点等
    ・スペースコラボレーションシステム(SCS) フレーム数の増大が必要
    ・ISDN
    ・TCP/IP リアルタイム、ビデオオンディマンド方式 10−100メガ
    ・ギガビット ATM網利用

  2. システム構成/全体の費用はどうか
    ・1.2億円(1/2助成の対象)、5.5mのアンテナを使用している。
    ・衛星回線料は1時間5万円であり、授業の前後に30分程度の時間が必要である。
    ・寄付金(NECの寄付講座)なしにはできない。
    ・マルチベンダー(ソニー、NEC)で、接続がうまくいかなかった。
    ・SCS設備と講義教室が離れていたため光ケーブルとCATVで接続した。

  3. 通常の授業と比べて教員の負担はどうか
    ・教員の負担は通常の授業と変らないが、双方向授業の講義内容の調整は必要である。
    ・外来講師は充実した資料を準備し、学生の反応に興味を持っていた。

  4. 必要なスタッフ数
    ・ミキシングはアルバイト、視聴覚の専任職員が従事した。
    ・SCS設備と教室でスタッフ2名であった。

  5. 参加学生数はどれくらいか
    ・3年生以上と大学院生が対象で200名登録し、レポート提出は150名であった。

  6. 大学間の授業時間帯の相違について
    ・早稲田大学が4:20〜5:50、慶応義塾大学が4:30〜6:00で10分のずれがあったが、それほど大きな障害ではない。

  7. 産学、国際共同/インターンシップ
    ・国際双方向衛星授業は、多様な価値観の理解を深めることが期待される。
    ・現場からの映像は刺激があるので、インターンシップに利用できるのではないか。

 今後、遠隔授業が普及し、学生もこの授業形態に慣れてきたならば、カメラワークの良し悪し、授業演出が必要になるであろうというコメントもあった。一方では、学生の基礎学力低下の問題、学生参加型の双方向授業ではリーダーシップを取る学生の確保が難しいのではないかといった懸念を表明する声もあったことを付け加えておく。

(文責:明治大学 下坂 陽男)

G:CALLの活用

 田辺春美氏(成蹊大学文学部教授)より、同大学の文学部英米文学科1年の必修科目である「英語I」について、非常勤講師を含め6名の教員が同一教材を用いて実施しているCALL授業について、CALL教室設備の概要、VODを利用した英語教材開発の状況、スケジュール管理の下6クラス同じ進度で行われている授業風景の紹介があった。さらに、学習評価は達成度により行われ、学習へ動機付けの向上と聴解能力の上昇がテストにより確かめられたこと、VODを利用したCALL授業の長所と問題点にわたって報告があった。この報告で提起された諸問題について、会場から質問・意見交換が活発に行われた。以下、その代表的なものを紹介する。

  1. 教材と運営について
     成蹊大では、1名の優秀な事務職員がサポートしてくれるので教材作成はスムーズにいっているが、そのような要員が不可欠であること、教員の中にも中心となって気配りをする者の存在が不可欠であるとの発言が田辺氏および会場から寄せられた。また、同大学では、市販の教材ソフトを利用しているが、映画等の著作権処理をする必要がある著作物を教材として気軽に利用できるようにするために、私情協等が中心になって何らかの買い付け機関の設立を考えてほしい旨の発言が会場からあった。

  2. ネットワークに関連して
     単にシステムを導入した業者にサポートを依頼しても、障害が起きた場合、その障害がネットワークなのかVOD機器なのかを切り分けることが難しく、解決できない問題があることを指摘する発言があった。また、教員が自室からVOD機器にアクセスしようとしても現状では学内ネットワークの容量点から問題があることが指摘された。

  3. プラットフォームについて
     CALLシステムを導入してしまうと、バージョンアップの都度費用がかかるが、CALLと同じ機能は他のプラットホーム、例えばWebとLANによって実現できるのではないかとの意見が会場からあり、賛同する発言もあった。

(文責:成蹊大学 飯田善久)

H:教育とアウトソーシング

 大学における情報処理教育のアウトソーシングをテーマに、椎名市郎氏(中央学院大学商学部長)と星野隆氏(中央学院大学商学部教授)から課題提起があった。中央学院大学における「情報処理論」のアウトソーシングの概要は以下の通りである。
 情報教育を担当している現場教員からの要望により、具体的な審議がスタートした。単位認定権、人事会議との調整、教材開発などさまざまな問題の検討を経て、IBM/GCS社が選定され、商学部の必修科目である「情報処理論A」および「情報処理論B」の一部(各13クラス中で各6クラス)がアウトソーシング化された。
 70名ほどの参加があり、活発な質疑や他大学での試みについての事例紹介もあり、このテーマへの関心の高さがうかがえた。昨年度の情報教育問題フォーラムでは、商用プロバイダ利用というインフラとしてのネットワーク基盤のあり方について課題提起があったが、今回は、こうした環境において教育を支える人材や授業運営、カリキュラムに関連するテーマであった。
 数年後にスタートする高等学校の新しい学習指導要領の内容等を踏まえると、大学における情報教育も変容を迫られており、その一つの方向性を示唆する事例だといえる。大学経営(マネジメント)と現場の教育という二つの立場からの見解があり、アウトソーシング化の現状や課題を多面的に考えることのできる、興味深いセッションとなった。以下は主な討議項目である。

(文責:龍谷大学 加藤文俊)


【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】