情報操作(information control)という言葉は、各方面でさまざまに使われているが、まだ、学術用語として確立したものではない。ここでは、情報処理の領域において、特定の意図のもとに情報を操作し、それを悪用しようとするときに起きる倫理問題としての意味に用いる。
この情報倫理問題としての情報操作は、具体的に、情報の独占、断絶、ねつ造、改ざんや破壊などの問題がある。これらは、ある意図によって情報を発信したり、すでにある情報を作為的に操作することによって、特定の個人や集団が都合のよいように使うことであり、その結果、虚偽の情報を流したり、情報の流通を妨害したり、誤ったた情報を提供したり、時には法を犯すなどの問題が起きる。このような情報操作は、それを行う個人や団体が不当な利益を得たり、他者の人格権や財産権を侵害することになる。この問題は、基本的には、情報操作を行う個人の倫理や集団ないいま団体における職業(企業)倫理とそのあり方が問われる社会的倫理である。
例:日本商事のインサイダー取引事件[資料(1-4)]
例:社会保険のデ−タ改ざんによって年金詐取事件[資料(1-6)]
例:日本ケミファ鎮痛剤の偽造データで新薬の申請事件[資料(1-7)]
朝日新聞の沖縄・西表島沖のサンゴ礁の撮影事件[資料(1-8)]
例:過激派による通信用の同軸ケ−ブルの切断事件[資料(1-5)]
【事例】 日本商事が自社の薬品「ソプジリン」による副作用で死亡事件が発生し、それを公表前に、自社の株を売って利益を得たというインサイダー事件が起きた。(『毎日新聞』 1994年5月20日)自社の薬品による薬害事故が公表されることによって、株価が下落するために、公表前に自社株を売って利益を得た問題である。これには、この事件を知った医師などもインサイダー取引を行ったということである。これらは、法律で禁止されているにもかかわらず利益を得るために、情報を悪用したものである。これは、情報の独占であり、それは企業倫理の問題として提起されるものである。 |
【事例】偽造データで新薬の申請事件 医療機関向けの製薬会社「日本ケミファ」は、鎮痛剤の新薬申請を臨床試験を行わずに偽のデータを使って、鎮痛、抗炎症剤「ノルベタン」を厚生省に申請して新薬製造の承認を受けていたという疑惑が起こった問題について、厚生省が事情調査を行った。(『朝日新聞』1982年11月20日) この偽造データによる新薬の申請の問題は、新薬として認可され生産されているために、すでに病院では鎮痛剤を使用しており、医療上に大きな問題を投げかけている。虚偽のデータを作り、あたかも臨床試験を行い、その効果があるように見せかけて、新薬を申請して認可を受けて製造した問題である。これらは、人命にかかわる医療上の問題であり、医の倫理にもとるばかりでななく、情報倫理の問題である。この事例にみられるように、偽のデータを作り、それがあたかも事実であるかのように情報を操作したものである。そこには、企業として、利潤をあげることを優先させることで、自社の利益を計ろうとする意図のもとに行われたものである。したがって、この問題は、製薬会社としてはしてはならないことであって、「薬事法」に違反する犯罪であり、職業倫理にももとるものである。
【事例】風説流布
【事例】沖縄・西表島の撮影事件 |
【事例】デ−タ改ざんによる年金詐取 社会保険庁の元職員が、社会保険庁の管理するコンピュータから老齢厚生年金受給者の個人データを盗用し、これをもとに受給者の住所などを勝手に変更するなどをして、五人分計272万円を詐取したという事件である。(『日本経済新聞』1987年3月12日) |
このデータ改ざんの問題は、コンピュータ、特に、データベースを使った犯罪である。これらは、データーベースの情報処理担当者にかかわる犯罪行為であるということができる。これから情報ネットワークシステムが発達し、巨大化する傾向にある状況にあって、この問題は、情報システム管理における監督機能の確立をするばかりでなく、担当者の情報倫理の重要性が強調されることになると考えられる。/tr>
【事例】情報破壊 1978年5月20日午前5時30分頃、日本の航空管制機能の中枢である埼玉県所沢市並木にある東京航空交通管制部で突然、対空通信、各空港管制塔との連絡や管制用レーダーなどあらゆる施設が機能ストップした。その結果、空港では、国内線や国際線の発着が不能となった。警察の調査によると、管制部に通ずる同軸ケーブルが過激派によって切断されていたことが判明した。(『朝日新聞』1978年5月20日) このような事件が示すように、過激派が意図的に同軸ケーブルを切断し、通信機能を作為的に破壊したものである。その結果、情報は、完全に破壊されることになった。 社会の秩序を乱したことにおいては犯罪であり、社会的倫理に反する問題であるということができる。 |
このように、情報倫理の問題としての情報操作は、それを行う個人や集団の倫理的判断の行為であり、適切な判断が要求される。この倫理的判断は、情報にかかわる問題ではあるが、個人として、また団体として基本的にもっていなければならない倫理である。