著作権法改正への活動

公益社団法人 私立大学情報教育協会


 国の大学改革実行プランとして平成29年度までの5年間に達成すべき目標にICTを活用した授業や自修支援が明記されるなど、政府あげての対応が明確化されてきたこともあり、大学の教育・学修環境を整備するために問題提起しておくことが重要と考え、授業外でのeラーニングに電子著作物を積極的に利用できるよう、著作権法改正の要望を作成し、文化庁に申し入れることにしました。本活動は、電子著作物相互利用事業委員会にて対応することにしました。
 要望では、特に著作権者の利益が損なわれることがないよう教育機関が遵守すべき利用条件を設定し、法改正への理解を求めることにしました。その準備として、法改正に対する大学の意思を確認するとともに、本協会が設定した利用条件についての意見を伺うためアンケートを実施しました。
 以上の経緯を平成25年11月の第8回臨時総会に報告し、了承を得た後、改正要望の趣旨について大学関係団体に理解・賛同をいただくため文書で協力を求めました。

1.著作権法の問題点確認
(1)eラーニングが教育の質的向上に不可欠とされ、その利用の促進及び普及が期待さ    れている中で、公表されている電子著作物を授業に利用する場合、著作権法35条第2項では『同時利用』であれば著作権者の許諾を得ずにネットワークを介して利用できるが、サーバに教材を置いて授業の事前準備や事後の展開での『異時利用』は著作権者の利益を不当に害するとして、その都度、著作権者に利用許諾を得る必要があり、著作権法上の制約が教育の質向上において支障となっている。

(2)平成18年に著作権法35条第2項について他団体が改正要望を行ったが、「ネット上での履修者の数が不特定多数で利益を不当に害する」、「改正を検討するにしても何らかの利用制限の明確化が必要」などの理由で認められなかった。当時は、eラーニングが大学教育の学修基盤として関係者に理解されていなかったが、現在では、「大学改革実行プラン」として、平成29年度までに達成すべき目標にICTを活用した授業や自修支援が明記されるなど、政府あげての対応が明確化されている。

2.改正要望の作成
 改正要望は、以下のような視点を踏まえて作成しました。
(1) 「大学設置基準」や「第2期教育振興基本計画」において、大学教育の質的転換に向け、授業の事前準備、事後展開の学修及び双方向型授業などによる能動的学修の徹底が急がれている中で、時間や場所を問わず学生の理解度に応じて繰り返し学修を実現できるeラーニングは、大学教育に不可欠な教育システムとして大半の大学で導入されているが、公表されている他者の電子著作物を授業目的のeラーニングで許諾を得ずに利用できるよう、著作権法35条の第2項を改正する。

(2)その際、著作権者の利益を不当に害さないよう、大学教育機関で利用条件の範囲と    利用方法の指標を設け、そのガイドラインに沿って自主的に利用条件を遵守すること    を前提に要望をとりまとめることにした。

(3)また、法改正に対する大学の意思を確認し、その結果を表明することで、大学総意としての要望とするとともに、大学として守るべき利用条件についての意見を伺い、大半の大学から賛同を得ていることを証明するため、加盟校を対象に調査を実施した。

(4)教育機関が遵守すべき電子著作物の利用条件は、「利用目的を授業に限定」し、「利用対象者を授業を担当する教員と授業を受ける学生とし、ID・パスワードを設定する」ことにした。また、「市販の著作物は対象外」とした。

(5) 「複製・改ざん防止のために動画のストリーミング方式での配信、静止画・文章のPDF化など適切な措置を行う」、「著作権保護の教育・指導を徹底する」とした。

 以上の利用条件の遵守を組織的に対応していくことを前提に改正を働きかけることにしました。

3.法改正要望の意思確認及び利用条件に関するアンケート結果
 法改正に対する大学の意思表明をとりまとめるためと、大学として守るべき利用条件についての賛同及び意見を伺うため、平成25年10月に加盟校を対象に調査を実施しました。その結果、大学280校の内259校、短期大学97校の内85校の回答があり、回答率は93%でした。
 「法改正の要望」については、92%が希望しており、残りの8%の内、6%は回答が間に合わない、2%は法改正を必要としないとのことで、ほとんどの大学、短期大学が法改正を希望していることが判明しました。
「教育機関が遵守すべき利用条件」については、92%の大学、短期大学から賛同が得られ、残りの8%の内、「賛同しない」は4%にとどまりました。これらの結果を改正要望書に添付し、文化庁に提出することにしました。

 アンケート結果(詳細)

4.大学関係団体への理解・賛同の協力依頼
 大学関係団体に法改正について理解・賛同いただくため、要望の内容、利用条件の表現を文化審議会向けの要望書より解釈しやすいよう作成し、平成25年12月3日に大学関係の12団体に発信しました。

 文化審議会著作権分科会への要望書

 大学団体向けの改正要望についてのお願い

(5)文化庁への著作権法改正要望書提出と法改正に向けた今後の課題
 著作権法改正要望書と教育機関の利用条件を平成25年12月25日に文化庁著作権課に提出し、著作権分科会にて審議いただくよう申し入れました。それに対して文化庁著作権課からは、文化庁もネット上で使用する教材の著作権問題について認識しており、大学だけでなく教育機関全体に関わる問題として受け止めていること、大学では市販の著作物を著作権改正の要望の対象から除外しているが、初等中等教育機関では市販の著作物の利用が教材の多くを占めることもあり、著作権団体が納得できるような規制緩和を含めた条文改正ができるのか、問題整理に時間がかかるとのコメントがありました。
 そこで、今後は大学が著作権の規制緩和の対象としている電子著作物のイメージなど実状を理解いただくための資料の作成や著作権分科会メンバーへの説明を行う必要性などを確認し、文化庁関係者と情報交流しつつ進展を目指すことにしています。


(参考)  著作権法

(学校その他の教育機関における複製等)
 第三十五条  学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

 2  公表された著作物については、前項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合には、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。