第1分科会 学生の主体的な学びを支援するための学生情報の活用
運営委員 大竹 貞昭（明治大学）
斉藤 和郎（札幌学院大学）
宮川 良男（東京理科大学）
毛利 立夫（立教大学）
１．分科会のねらい
各大学が掲げる「学士力」を学生に確実に身につけさせるためには、教職員それぞれが専門性、組織的対応力を発揮し、連携・協働する中で学生の学びを支援し、指導や助言の質を保証する戦略が問われている。電子的な「ポートフォリオ」や「学生カルテ」などのシステムは、目的ではなく手段である。重要なことは、学生情報の活用を通じて現状の問題を整理・分析、共有し、学びの支援を組織的に取り組めるようにする情報通信技術活用のマネジメントである。
本分科会では、学生情報を組織的に活用する事例を踏まえ、実践的な学習支援の情報活用モデルの構想作りを通じて、学生一人々の質を保証する支援の仕組みを探究する。
２．討議テーマ
「学習ポートフォリオ」活用の可能性と課題
学生自ら授業の到達目標に対する学びの成果を点検・評価し、自信がない点・できない点を明らかにする情報通信技術を活用したポートフォリオ構築の意義を確認する。その上で、大学としての補完学習、個人学習の体制など学士力の質保証支援の仕組みを探求する。
「学生カルテ」情報の具体化と組織的な活用戦略の策定
一人々の学生を支援するため、学生の基本情報、成績・進路情報、相談・指導記録情報などの個人情報を教職員が総合的に共有する「学生カルテ」の内容について整理し、学生情報の一元管理のあり方、組織的な活用戦略について探求する。
３．獲得目標
- 「ポートフォリオ」や「学生カルテ」を構築する教育的意義について理解を深める
- 「ポートフォリオ」や「学生カルテ」を真に価値あるシステムとして活用するための組織的課題と職員の役割を認識する
- 自大学の現状を分析し、導入によって期待される効果、その活用のための組織的な課題を整理することができる
４．概要
本分科会の活動内容を「全体的な流れ」「事例紹介」「討議内容」として報告する。
（１）全体的な流れ
� ．瓠璽螢鵐哀螢好箸砲茲觧�前ディスカッション
研修会直前の１６日間という短い期間であったが、メーリングリスト上で自大学が抱える問題や課題解決の取組状況について報告し合った。
�◆〇�例研究
全体会で「自律的学習者の育成に向けた学習活動支援とFD活動」の事例を紹介いただいた創価大学の高木功教授をゲストとして招き、ポートフォリオの全学的導入に至る背景と課題について質疑応答、意見交換を行った。また、札幌学院大学における学生カルテの運用事例から、これを真の学生支援ツールとして活用するための人と組織の変革、情報の保護と活用のバランスなどについて考察を行った。
�� グループディスカッション
４７名の参加者を６つのグループに分割し、学習支援のための実践的な情報活用モデルの構想づくりを通じて、学生一人々の質を保証する支援の仕組みを探究した。
研修会最終日には各グループが導き出した結論を発表するとともに、これを省察的に振り返るため、グループ間で相互評価を行った。
�ぁ〇�後研修
研修会終了後、参加者自身がこの研修の成果を今後どのように活かそうと考えているかを、「アクションプラン」としてメーリングリスト上で相互に提示した。
（２）討議内容
�� 分科会全体の討議内容
まず、事前ディスカッションや事例研究で獲得した視点や問題意識にもとづき、各大学が抱える現状を分析し、本質的な課題を浮かび上がらせる作業を行った。続いて、この課題を解決するためのICTツールはどうあるべきか、といった観点から「ポートフォリオ」や「学生カルテ」の特性を具体的に定義する作業を行った。
これらの作業を経て、学生の主体的な学びを支援する実践的、戦略的なICT活用モデルを構想し、これを運用するための組織的な課題を明らかにした。
�� グループの討議内容
各グループとも熱心かつ積極的に問題意識をぶつけ合い、自由な発想の中から多様なアイディアを発散させ、それを実践的なモデルに収束させていった。以下に、各グループの討議概要を示す。
＜第1グループ＞
テーマを「eポートフォリオを導入するにあたっての適用領域と活用法」として、全学的な導入の礎とし、活用方法として「教職実践演習」での履修カルテの議論を行った。ポートフォリオ導入時の問題点や注意すべき点については、達成点・評価基準を明確にしたシラバスの記載や他システムとの連携と位置付け、教員・職員・学生の活用モチベーション維持の方策、責任部署や体制の整備などをあげ課題の整理を行った。
＜第２グループ＞
学生カルテを活用すること自体は目的ではなく手段であって、費用対効果に見合うメリットが見出せるのかとの根本的観点から、まずは導入目的の明確化とデータ化することの付加価値の整理を行った。さらに、必要となるデータを分類・精査、アクセス権限を整理することで、各教職員が自部署において必要となる情報に簡単且つ安全にアクセスできる環境を構築し、その上で教職員の情報共有を促進させ、関連部署が一体となり学生を支援できる体制を整えることが重要であるとの結論に至った。またシステムの構造を工夫するだけでは解決し得ない、人的リソースや情報漏洩リスクなどの課題と解決方法についてのまとめを行った。
＜第３グループ＞
学生カルテ、ポートフォリオのようなツールを生かすことで情報の一元管理が可能となり、SNSの場による特定情報の共有化も図れる。これによって、学生カルテ、ポートフォリオの活用推進に一石を投じることが可能となる。また、教育支援の根底には私学独自の建学の精神があるべきである。この建学の精神を達成するためのツールとしてICTを活用していることを念頭に置き、学生カルテ、ポートフォリオの導入を検討していく必要があるとの結論に至った。
＜第４グループ＞
大学は高等教育機関であるため、知識の詰め込みよりも「生き方」を身につけ、その目的を達成するためのサポートを学生カルテや学習ポートフォリオを活用して行うことが大切。情報の共有化が学生カルテのメリットであるため、今回の研修及び学生カルテの導入をきっかけに情報の共有化を図る対策を立て、実行することが大切である。実行するにはポリシーやマニュアル作成が必要となり、これを作成することで教職員へ情報共有化の意識付けともなるとの結論を得た。
＜第５グループ＞
学生カルテ、ポートフォリオのシステムの定義付けを行い共通の認識を持って討議を行った。発生するメリット・デメリット、また、システムのメリットを活かし、デメリットを極力抑えるにはどのようなシステムであるべきなのか理想像を描いた。また、システムを期待通りに活用できた場合にはどのような学修支援への効果が期待できるのか、実際にどのような問題があるのかを考えた。まとめとして、学生カルテや学生ポートフォリオは導入や運用に多大な労力を要するが、活用することで学生への学修支援における効果は大いにあるが、導入前には十分な検討が必要であるとの結論を得た。
＜第６グループ＞
学生カルテ・ポートフォリオシステムに限らず、システムはあくまでツールであって、利用する人の意識の問題、活用する技術の問題など、結局は利用する人の問題に大きく依存することになるが、この学生カルテ、ポートフォリオシステムを導入することを一つのきっかけとして、教職共同でシステム利用に関する意識の向上、運用ルールの作成などが測ることができれば、そのこと自体が最終的には大学の活性化につながるのではないかという結論が得られた。
５．まとめ
（１）分科会のねらいに対する結論
分科会終了時に、3つの獲得目標に対する達成度を参加者それぞれが自己評価した。その結果は以下のとおりである。なお、カッコ内の数字は「十分に達成できた」と「まあまあ達成できた」と回答した割合の合計である。
・「ポートフォリオ」や「学生カルテ」を構築する教育的意義について理解を深める（100.0％） ＜十分達成 63.0％、まあまあ達成 37.0％、どちらとも 0.0％、あまり 0.0％、全く 0.0%＞ ・「ポートフォリオ」や「学生カルテ」を真に価値あるシステムとして活用するための組織的課題と職員の役割を認識する（91.3％） ＜十分達成 50.0％、まあまあ達成 41.3％、どちらとも 4.3％、あまり 4.3％、全く 0.0%＞ ・自大学の現状を分析し、導入によって期待される効果、その活用のための組織的な課題を整理することができる（88.9％） ＜十分達成 42.2％、まあまあ達成 46.7％、どちらとも 4.4％、あまり 6.7％、全く 0.0%＞ |
いずれも高い目標達成度を示しており、すべての討議テーマで深い議論が展開されたことが推察される。特に、ポートフォリオや学生カルテの教育的意義について理解を深めた参加者は100%、そのうち「十分に達成できた」と回答した割合は63%と、高い割合を示している。これは、事例研究、グループ討議、成果発表という一連の流れを通じて「ポートフォリオ」や「学生カルテ」の特性が徐々に明らかになり、研修会終了時点で参加者全員がその意義を共有できたことを示しており、本分科会の大きな成果と考える。また、「自大学の現状や課題の発見」についても、事後研修のアクションプランで「研修成果を自大学での教育改革にフィードバックしたい」といったコメントが寄せられており、本研修の実践的な価値を示唆している。
（２）討議テーマに対する結論
各グループとも、学生情報の活用を通じて現状の問題を分析、共有し、学生の学びを組織的に支援するためのICT活用戦略に関して、これをコーディネート、マネジメントする観点から議論が尽くされた。これは、次の2つの点から示される。
１． 各グループが導き出した結論には、建学の精神や教育目標との関係、学生の学びや成長を評価する規準の確立、取組の活性化を図るための組織的体制、教職員の意識変革と協働の促進、費用対効果の追求、個人情報の保護など、課題解決にあたっての本質的な観点がしっかりと盛り込まれていること。 ２． 次のように、議論の最初の段階で「ポートフォリオ」と「学生カルテ」の特性と役割、意義を識別的に明示化し、その上で課題解決へ向けた戦略を構想したこと。 |
参加者は、グループ討議を通じて、教職員それぞれが専門性と組織的対応力を発揮し、連携・協働する中で学生の学びを支援し、指導や助言の質を保証することがいかに重要であるかをあらためて認識した。そして、現実の課題をテーマとした戦略的な学生支援モデルを創出するプロセスを通じて、人材育成支援、教育支援に果たすべき職員の役割について認識を深めることができたと考える。
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