第２分科会 教職協働で進める教育支援のマネジメント
運営委員 土肥 順一（京都産業大学）
志田 紀子（東 海 大 学 ）
アドバイザー 斎藤真左樹（日本福祉大学）
１．分科会のねらい
各大学では教育改善に向けた方策の実現に向け、中央教育審議会の提言も参照しながら、教職員が連携した新たな教育支援体制の構築と組織的な推進が求められている。例えば、ＩＣＴを活用した入学前学習、初年次教育、キャリア形成支援教育、体験型・双方向型授業、大学間および産学連携授業などの取組があげられるが、これらは教職協働による組織的なマネジメントがあってこそ実現する。
本分科会では、「教職協働で進める教育支援のマネジメント」とは何かについて、上記の取組を題材にその具体像を議論し、ＩＣＴを活用した教育改善戦略とその期待される効果、推進する際の課題について検討する。
２．討議テーマ
- 教育支援の具体例の整理
職員が関わる教育支援にも様々な取組が考えられるが、その具体例を整理しながら、職員として何ができるか、何をしなければならないか、理想的な教育支援とはどうあるべきかという視点で捉えなおす。 - 実践的なマネジメントモデルの構想
教育支援の具体例から一つあるいは複数の題材を選び、ＩＣＴを活用した実践的な教育支援のマネジメントモデルを構想する。 - 実現に当たっての課題の探求
実践的なマネジメントモデルの構想を通じて、問題の本質を探求し、課題解決へ向けたＩＣＴ活用の方略を導き出す。
３．獲得目標
- マネジメントモデルの構想を通じて、教職協働で進める教育支援の具体的なイメージや意義を理解する
- 自大学において教育支援のマネジメントを展開する際の課題を明らかにする
- 教育改善の視点からＩＣＴ活用の有効性と課題を認識する
４．概要
本分科会の活動内容を「全体的な流れ」「事例紹介」「討議内容」として報告する。
（１）全体的な流れ
�〇�前研修
自大学における教育支援の事例とＩＣＴ活用の状況についてまとめたレポートの提出と、参加者が自身の問題意識を明確にし、研修会に能動的・積極的に取組むために、参加の動機や目的、自大学が直面する課題についてメーリングリスト上で共有を行った。
�∋�例紹介
日本福祉大学 教育開発室の仲道雅輝氏より、職員による教育支援のマネジメントへの取組について事例紹介を行った。職員が施策に関わりe-learningという手法を活用し、ＦＤ・教育改革を推進したモデルの紹介を受け、教職協働という視点から、職員として何ができるかを考える動機付けになることができた。
��グループ討議
１４名の参加者を２つのグループに分け、討議テーマを意識しながら、実践的なマネジメントモデルの構想に取り組んだ。各グループでは、職員が教育現場に踏み込むことの難しさ、職員力の底上げといった職員教育、学生への学びの促しなど活発なディスカッションがなされた。その結果、「授業評価のＰＤＣＡを中心にした授業支援モデル」や「学生サービス向上にむけた教職協働の組織改革モデル」が仕上がり、いずれの成果物も、教職協働における職員が果たすべき役割についての意欲的な提案であった。
最終日には、討議成果を発表するとともに、自グループの討議内容を省察することを目的に他グループとの相互評価を行った。
�せ�後研修
相互評価を踏まえ、グループ討議の最終まとめを行うことと、個人活動として、分科会終了後に作成したアクションプラン（「職場に帰ってすぐに実施したいこと」、「じっくり練って長期的に実施すること」）のうち、「すぐに実施したいこと」の実施状況を報告することとした。
（２）事例紹介
「職員による教育支援の企画・立案、マネジメントへの取組み」
〜インストラクションデザインと教育実践〜
発表者：日本福祉大学 仲道雅輝 教育開発室（教育デザイン研究室担当）
日本福祉大学で取組んでいる、e-learningという手法を活用した教育改革モデル、科目ガイダンスVOD（Video on Demand）を事例に、職員が施策に関わる重要性、プロジェクトチームでの運営・推進について紹介していただいた。科目ガイダンスは、履修登録前に学習目標や授業内容の確認を容易にするためにオンデマンド化されたものであり、学生への効果として想定した学習内容との相違による途中放棄が減少した。教員への効果は、全科目を科目ガイダンスの対象としたことで、e-learningに対する不安や負担感の減少及びシラバス内容の見直し、学習目標の明確化などＦＤ活動を活発化させることができた。その結果、教員の意識改革、学生の高い授業評価などに繋がっている。この成果を成し遂げるには決して楽なものではなかったが、「大学全体を見ることができる」、「あらゆるリソースを活用し、企画立案できる」、「職員業務の高度化、専門職化」といったことができる職員が施策に関わることで実現することができた。職員として、今後は「専門職人材」の育成、一方通行の業務体制からプロジェクト型へと変換していくことも重要であるとの説明がなされた。この事例紹介はグループ討議を進める上で、大変有意義となるものであった。
（３）討議内容
�（�科会全体の討議内容
分科会では、まず少人数（３〜４人）で、全体会でのイントロダクション及び事例研究について意見交換を行った。その後２つのグループに分け、討議テーマを意識しながら自由討議に入った。まず、事前研修でのレポートなどから各大学が抱える問題や現状について情報交換を行い、重点課題のピックアップを行った。次に問題の本質的な部分を浮き彫りにし、解決すべき課題を絞り込み、それを実現するための施策について検討を行った。討議の前段に幅広い教育支援の中でも教育改善に繋がる教育支援をテーマとするように促したため、職員が教育改善に関わることをイメージすることが難しかったようである。
各グループとも熱心にまた積極的にディスカッションを行い、教職協働における職員が果たすべき役割についての意欲的な提案として完成した。
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＜Aグループ＞
「授業評価を学生の理解度・満足度向上につなげるマネジメントモデル」
教育支援の範囲は、授業支援（教員支援）、基礎学力の向上に向けた支援、キャリア形成支援、学生生活全般に関する支援など幅広いテーマとなるため、今回は、教育支援を授業改善と位置付けし、学生の成長、学び力、達成感を引き出すための提案となっている。授業評価に職員が積極的関わる事項として「小テストの実施」、「職員による授業参観」、「出席管理支援」などから、教員への気づきを促し、学生の理解度の差を埋めていけるような授業内容にしていくことで、目的の達成ができるというものである。これらの実現のために、「支援体制の整備」や「新しいICTの導入」といった角度からの議論も活発になされた。
＜Bグループ＞
「つなぎプロジェクト 〜学生サービスの為の教職協働大作戦〜」
ヤル気不足、コミュニケーション苦手、帰属意識が希薄している現代の学生像を明確にし、教職員間の意識・能力の違いから教育能力の向上、職員能力の向上を行い、現代の学生にあった教育手法の工夫が必要であるとの課題を取上げ、一人の学生に対しての多角的指導が必要であり、その組織改革への提案と教職員合同で学生サービスの充実をはかり、教員・職員・学生の架け橋となることの提案がなされた。教職員が学生に指導できるファシリテーション研修や、ファシリテータになる研修を受け、指導員としての能力を身につける内容であり、大学職員の新たな能力を示唆するための結論になっている。
５．まとめ
（１）分科会のねらいに対する結論
本分科会では、教職協働で教育支援を進めるにあたり、実践的なマネジメントモデルの構想を通じて具体的なイメージや意義を理解し、それらを展開する際の課題を明確にすることと、教育改善の視点からＩＣＴ活用の有効性と課題を認識することを目標とした。分科会終了後、獲得目標の達成度についての自己評価を行い結果は以下のとおりである。
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・マネジメントモデルの構想を通じて、教務協働で進める教育支援の具体的なイメージや意識を理解する ＜十分：28.6％ まあまあ：57.1％ どちらとも：7.1％ あまり：7.1％ 全く：0%＞ ・自大学において教育支援のマネジメントを展開する際の課題をあきらかにする ＜十分：14.3％ まあまあ：64.3％ どちらとも：14.3％ あまり：7.1％ 全く：0%＞ ・教育改善の視点からICT活用の有効性と課題を認識する ＜十分：28.6％ まあまあ：42.9％ どちらとも：28.6％ あまり：0％ 全く：0%＞ |
３つの獲得目標に対して、「十分達成」と「まあまあ達成」を合わせると、多くの参加者から目標の達成ができたとの回答が得られたが、「十分達成」がいずれも３０％に達していないことから、職員が主体的にかかわり、教育改善に繋がる教育支援の具体的なイメージを持つことが難しかったように思える。しかし、最終日に提示されたアクションプランには、自大学での教育支援体制の改善や構想など様々な取組を行っていくとの意欲的な姿勢が認められ、分科会のねらいは、概ね達成されたと考える。
（２）討議テーマに対する結論
参加者は研修に先立ち、自大学におけるＩＣＴの活用状況をまとめたレポートの提出を行い、自大学が直面する課題などについて、メーリングリストにて共有することで、課題の洗い出し作業などは、比較的スムーズに行えたと思われる。また、日本福祉大学の仲道氏の事例紹介を受け、職員が教育支援の企画・立案に積極的に関わることの意義について深く考える材料となった。
教育支援という抽象的で幅広い討議テーマの中で、大学の様々な部署や業務担当者が集まり、活発なグループ討議を行った。当初は問題の本質的な部分を浮き彫りにするのに時間がかかったようだが、何度も繰り返し問題点に対して討議していくうちに、それらについて共通認識を得ることができ、教職協働における職員として果たすべき役割や意義について十分に理解ができたもとと思われる。しかし、各グループともＩＣＴ活用の具体的な方略にまで議論を深められなかったことから、今後の運営を含め来年度に向けて何らかの改善が必要と考えられる。
分科会運営に関しても、分科会の各パートが目標達成にどの程度役立ったかについての自己評価を行った。その結果は以下のとおりである。
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・事前研修について（事前レポート、メーリングリストによる事前ディスカッション） ＜十分：7.1％ まあまあ：78.6％ どちらとも：7.1％ あまり：7.1％ 全く：0%＞ ・日本福祉大学の事例紹介について ＜十分：85.7％ まあまあ：14.3％ どちらとも：0％ あまり：0％ 全く：0%＞ ・グループディスカッションについて ＜十分：78.6％ まあまあ：21.4％ どちらとも：0％ あまり：0％ 全く：0%＞ ・発表・相互評価について ＜十分：50.0％ まあまあ：21.4％ どちらとも：0％ あまり：0％ 全く：0% 無回答：28.6% ＞ |
ここでは、日本福祉大学の事例紹介とグループディスカッションが役立ったという評価が極めて高い。具体的な教育支援に対しての職員の関わりや施策についての事例に強く刺激受け、参加者は前向きにグループ討議に望んだ結果と思われる。
大学環境と取り巻く環境の変化について認識を深めるとともに、今まで気づかなかった自大学の現状や課題を発見し、創造的な議論の中から教育改革をマネジメントする資質を育てる研修が今後も必要であると思われる。
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