第５分科会 情報活用の重要性と情報システム部門の役割
運営委員 廣野 哲郎（慶應義塾大学）
中芝 義之（関 西 大 学 ）
小野 浩樹（日 本 大 学 ）
１．分科会のねらい
大学には「知の拠点」として、高度かつ多様な機能が求められている。たとえば、教育コンテンツの蓄積と再利用、研究成果情報の社会還元、経営情報の戦略的活用、生涯学習の充実などが挙げられる。これら、求められる機能の実現には情報技術の活用が不可欠で、情報システム部門は「システムの運用管理」から「知の資産の運用管理」、「高度化する教育研究の支援」、「安定したIT 利用環境の提供」へと、視点・軸足の転換を迫られている。
本分科会では、経営的視点から、大学における情報環境や情報システム部門の役割・あり方についての検討を行い、それを踏まえて、視点・軸足の転換、教育研究や業務における情報資産の管理運用、教育研究の支援、安定した利用環境の提供など、求められる役割の実現に向けて、現場および経営層や関係部門へのマネジメントを、経営資源やコストの観点も含めて探求する。
２．討議テーマ
（１）視点・軸足転換の意義
大学を取り巻く環境の変化と求められることについて分析を行い、視点・軸足の転換の意義について認識する。
（２）情報システム部門の課題認識
情報システム部門に求められる役割と、実現にあたっての課題などを洗い出す。
（３）情報資産管理運用のあり方
大学における情報資産の認識および洗い出しを行う。
守るべき情報と活用すべき情報について点検評価を行う。
（４）高度化する教育研究をいかに支援するか
課題掘り起しのための教育現場とのコミュニケーション。
新たな事業への取り組み。 〜いかに計画し実行するか〜
（５）安定した利用環境の提供
経営資源の有効活用。
※（３）〜（５）は、グループ（７〜８名で構成）の討議テーマにより選択する。
３．獲得目標
（１）情報システム部門の視点・軸足転換の意義、目的を認識する。
（２）自大学の情報システム部門の将来的な役割を認識する。
（３）情報資産の全体像を把握し、これをマネジメントする視点を獲得する。
（４）教育研究の支援について新たな視点に立った取り組みを企画・マネジメントする能力を獲得する。
４．概要
本分科会の活動内容を「全体的な流れ」「事例紹介」「討議内容」として報告する。
（１）全体的な流れ
本分科会は、事前研修、集合研修、事後研修の構成で行った。
�〇�前研修
事前に自己紹介を兼ねて、主たる業務、業務上抱えているICT的課題等をレポートにまとめメーリングリスト上に提出した。互いのレポート閲覧し、メーリングリスト上でディスカッションを行った。
�⊇弦膰�修
初日は分科会の趣旨説明及び自己紹介を行い、討議テーマから参加者２２名を３グループに分かれ、創造的技法を用いてグループテーマの掘り下げ・課題の洗い出し・成果発表を行なった。成果発表では１グループ２０分程度行い、相互に評価を行なった。
��事後研修
メーリングリストを利用し、各グループの最終結論とした報告書と各自から業務に活かす考え方をレポートした「アクションプラン」を提出し、相互にコメントを発信した。
（２）ミニ事例紹介
�＼�城大学 五十嵐一浩氏より
・「成城大学におけるYahoo!メールAcademicEdition〜選定から運用後評価まで〜」
安価または無償で利用可能なSaasの比較検討、選定、運用においての工夫
・「SSO基盤構築のためのShibboles-Driven Approach」
国立情報学研究所（NII）が進めている「GakuNin」への参加・運用までの経緯を説明
両事例について、自学の環境と如何に照らし合わせて検討を重ねるか、情報部門従事者にとって興味深い事例であった。
��日本大学 小野委員より
・日経VIDEO「個人情報漏洩発見！組織対応の進め方」（監修：岡村久道、鈴木正朝、財団法人日本電信電話ユーザ会）の上映
上映内容は奪われた個人データによる組織としての対応（被害者の連絡、事実関係の公表、主務官庁への報告）や漏洩ルートの特定・停止措置、調査経過報告と再発防止への取り組み等、ドラマ化した内容で、小野委員からの補足説明を加えて行った。
（３）討議内容
グループの討議内容は下記のとおりである。
「情報資産管理運用のあり方」 ・・・８名
本グループでは、自学の情報部門における課題等を紹介し、共通項目を洗い出した。大学の情報資産の定義検討から積極的な活用へ向けた「情報資産管理運用のあり方 〜学内データバンクを目指して〜」をテーマとした。
大学の情報資産を利用する各々立場（教員、職員、学生、保護者、校友、企業等）からの視点に立ち、情報資産を積極的に活用できる環境構築，そしてそれを担う情報システム部門の役割について検討を重ねた。また、大学を取り巻く厳しい環境の変化、ICT環境の変化，情報資産のリスクを織りまぜながら、従来の情報システム部門から、どのような情報システム部門が望まれるのか、できるだけ多角的な視点からの検討を行うことができた。
「高度化する教育研究をいかに支援するか」 ・・・６名
グループ討議の最初は、大学を取り巻く環境の変化について、自大学の状況を含めて意見や感想を述べ合い、情報部門の現状と役割について、再認識した。その中で、各大学における課題について、事前レポートを基にさらに細かく議論を行い、「ユーザ目線にたったサービス提供の為の理想的な教育支援の在り方 〜コミュニケーションの観点から〜」をテーマとした。
討議では、課題の改善目的として、�．罅璽玉楡�に立ったサービス提供��既存サービスの周知��情報発信�ざ疑Π�のコミュニケーション�シ弍珍悗箸離灰潺絅縫院璽轡腑�-等が挙げられた。その後、目的を実現するためのICTの活用を含めた手段とし
�＼�績データベースを基に学生サポートの強化
��知恵袋的な掲示板の導入
�８Φ羲埔霾鵑糧�信
��Web会議等の新しいコミュニケーションツールの導入
�ヅ�切な情報の提供
等が検討された。
限られた時間の中で、各自の課題およびその手段等について広く意見交換を行うことができた。また、議論が進む中で、情報部門の現状と役割について”気づき”も得ることが出来た。
「安定した利用環境の提供」 ・・・８名
グループ討議は、テーマ、論点の確認、問題点の洗い出しと掘り下げ、解決策の検討、それらを踏まえて、職場に戻って取り組むべきことの順で進められた。
テーマ、論点の確認において、「安定した利用環境の提供」に対する利用者の期待として、「使い勝手が良い」、「サポート万全」、「セキュリティも高い」が想定されることから、「利用者が安心して使えるシステム」について討議することになった。
問題点の洗い出しと掘り下げでは、「利用者が安心して使えるシステム」とは、利用者からみてどのような状況が求められるのかについて話し合われ、「やりたいことに集中して目的を果たすことができる」、「データが守られている」、「困った時にフォローしてくれる」等の要素が必要で、快適に、納得して利用できることが満足度向上につながるとの結論に至り、「利用者が使いたいときに使える」環境と再定義された。また、システム提供者、利用者、加えて、大学組織が抱える課題についても触れられた。
解決策の検討では、システム構築にあたり考慮すべきこと、利用者に対して、そのニーズや利用実態の把握、情報公開、情報提供、教育、利用者に接する姿勢、日常的な人間関係作り等が肝要であること等が話し合われた。加えて、目的達成に向けては人・物・金のリソース確保も重要であり、経営層や人事等の関連部署への働きかけについても話し合われた。
５．まとめ
（１）分科会のねらいに対する結論
事後研修における各自のアクションプランから、大学情報システム部門の転換期、役割変化、情報資産の捉え方等、相互に討議を重ねるごとに、互いに“気づき”を感じていただけたと思われる。
また、各自の職場でもグループ討議手法（創造的技法）を利用することにより、質や効率の良い問題解決の手法を修得されたものと考える。
（２）討議テーマに対する結論
「情報資産管理運用のあり方」
大学の情報資産は活用されているか？をグループ共有の課題点とし、多角的視線から情報システム部門の役割の検討を重ねた。このことは、各大学の情報システム部門の置かれている環境は異なるが、課題の本質は同一と考えられ、そこに従事する参加者の多くは、自己の業務を見つめ直す有意義な機会を得たと思われる。
「高度化する教育研究をいかに支援するか」
高度化する教育研究をいかに支援するかにについては、大学内での情報共有が如何に重要かとの認識に立ち、ステークホルダー間でのコミュニケーションの質の向上を行うことにより、情報の共有化を図る。その共有化された情報を基にユーザ視点を忘れない企画・設計・運用を実施することにより、ユーザ目線に立ち、高度化する教育研究に対し、柔軟かつ適切な支援が可能との考えに至った。
「安定した利用環境の提供」
職場に戻って取り組むべきこととして、大学経営・運営層、システム管理者の三者間で共通認識を持つことが満足度向上に繋がる。そのために、利用者の期待を受け止め、全学的支援を受けた情報システム部門がサービスを提供していくという、正のスパイラルを醸成することが重要であるとの結論に至った。
グループ討議においては、職場に戻り、問題解決の牽引役となれるよう、「なぜ」の繰り返しにより問題の本質を追求する姿勢を身につけること、（システム提供者、利用者、経営層の）複眼的視点から問題に取り組むことを心がけた。他のグループの発表に対して、それらを背景にした質問を投げかけることにより、他のグループに“気づき”を与える場面も見られ、この目的も達成できたといえる。
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