第１分科会 「ポートフォリオ」や「学生カルテ」などの学生情報を活用するためのＩＣＴマネジメント
運営委員 大竹 貞昭（明 治 大 学 ）
宮川 良男（東京理科大学）
毛利 立夫（立 教 大 学 ）
１．分科会のねらい
「学士力」を学生に確実に身につけさせるためには、教職員それぞれが専門性、組織的対応力を発揮し、連携・協働する中で学生の学びを支援し、指導や助言の質を保証する戦略が問われている。電子的な「ポートフォリオ」や「学生カルテ」などのシステムは、目的ではなく手段である。重要なことは、学生情報の活用を通じて現状の問題を整理・分析、共有し、学びの支援を組織的に整備・充実することである。
本分科会では、学生の個人情報を組織として統合的に活用する事例を踏まえ、ＩＣＴを用いた学習支援の在り方を考察する中で、学生一人々の質を保証する支援の仕組みづくりを探究する。
２．討議テーマ
「学習ポートフォリオ」活用の可能性と課題
授業の到達目標に対する真の学びの成果を厳正に点検・評価し、自信がない点・できない点を明らかにするポートフォリオ構築の意義を確認する。その上で、学生に不足する能力を卒業までに補完するための組織的な学習支援の体制について探求する。
「学生カルテ」情報の具体化と組織的な活用戦略の策定
一人々の学生を支援するため、学生の基本情報、成績・進路情報、相談・指導記録情報などの個人情報を教職員が総合的に共有する「学生カルテ」の内容について整理し、学生情報の一元管理のあり方、組織的な活用戦略について探求する。
３．獲得目標
- 「ポートフォリオ」や「学生カルテ」を構築する教育的意義について理解を深め、組織的課題と職員の役割を認識する。
- 自大学での対応について振り返りを行い、改善点を整理することができる。
４．概要
（１）全体的な流れ
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研修会直前の１９日間という短い期間であったが、メーリングリスト上で自大学が抱える問題や課題解決の取組状況について報告し合うとともに、事前課題（ニーズカードの作成）を行った。
�◆〇�例研究
２大学、２企業の合計４種類の事例紹介を行った。
�� グループディスカッション
２８名の参加者を４つのグループに分割し、目的の明確化・実現案の検討を通して、学生情報を活用する目的、定義、その活用法とメリット、デメリット、理想像と課題等を整理しながら、各目的の集約整理をし、これを実践的な実現案として具体化する試みを行った。研修会最終日には各グループが導き出した実現案を発表するとともに、これを省察的に振り返るため、グループ間で相互評価を行った。
（２）ミニ事例紹介
帝塚山大学、明星大学から、現状の運用状況と課題の説明を頂き、質疑応答、意見交換を行った。また、株式会社朝日ネット、日本システム技術株式会社の導入事例紹介から、導入大学の目的、効果、導入にあたって大学で注意するポイント等について説明を頂き、システムの教育的意義と活用するための課題について理解を深めた。
（２）討議内容
�� 分科会全体の討議内容
分科会では、４グループに分かれ討議を行った。「ポートフォリオ」や「学生カルテ」などの学生情報を活用するためのＩＣＴマネジメントをテーマに、その理想の姿、あるべき状態をイメージして、目的の明確化、実現案一覧を作成した。討議のプロセスに、早稲田大学「WISDOM（経営戦略企画立案手法）」を用いて、各大学が抱える課題や問題点について話し合い、それらの課題に共通した本質的な問題の掘り起こし、学生情報を活用した戦略の検討などを通して目的の明確化を行った。そして、その実現案作成を活発な提案型討議などを通して行った。
�� グループの討議内容
以下に、各グループの討議概要を示す。なお、討議の詳細は資料編に掲載する。
＜第1グループ＞
最終的な学生を育てるイメージを共有するため、イメージ化を行った。学生が大学へ入学する際、目標を明確にすること。またその目標が、４年間のスタートにおける大きな一歩であると考える。目標を設定するためのツール、大学が入学後の学生を支援するためのツール等を提供する。保証人の協力を得るための「ポータルサイト」の構築も有効な手段であり、様々な情報発信が可能となる。学生キャリア形成の集大成を企業社会へのアピールできる材料として、授業風景の公表、取り組みの公表、またポートフォリオにてでき上がった「学生の蓄積」を企業に提出・提示できるものとして纏め上げるための仕組みを構築する。ICTツールとして有効活用することが重要であるという結論が得られた。
＜第２グループ＞
「ポートフォリオ」や「学生カルテ」などで学生情報を活用している理想の姿、あるべき姿を挙げ、目的・課題を検討した。これらのすべてについて、学生・教職員がポートフォリオを利用するための動機づけ、サポート体制が必要である。学生情報の共有はすべての理想像において、必要な要素である。また、目的の明確化で検討したグループについて整理し、３つの項目について具体的な実現案を検討した。
＜第３グループ＞
各自が考えてきたニーズカードから目的を発表し、目的のグループ分けを行った。次に、目的達成のための案を出し合い、組織体制、設備など組織的課題からも実現案の検討を行った。また、各目的に対して目標を設定した。「学士力」を学生に身につけさせるためには、「ポートフォリオ」や「学生カルテ」をうまく活用し、教職員が連携して１〜４年間を通した学生の指導が必要であるという結論が得られた。
＜第４グループ＞
大学の建学の精神に基づく学生の育成と、学生自身が当事者意識を持ち、自分のみならず、関係者を交えて問題を解決できる、社会人基礎力の育成を理想像（テーマ）として、学生・保護者・教員・職員が一体となって取り組むことが必要と結論付けた。その理想像に向けて、ポートフォリオや学生カルテといったＷｅｂツールを用いた3点の目標を決め、具体的な実現案を議論した。最終的には理想像の実現に向けて、目標ごとに小項目を設定した後、目的・効果・手段を意識し、より具体的な目標を設定した実現案を検討した。
５．まとめ
（１）分科会のねらいに対する結論
分科会終了時に、２つの獲得目標に対する達成度を参加者それぞれが自己評価した。その結果は以下のとおりである。なお、カッコ内の数字は「十分に達成できた」と「まあまあ達成できた」と回答した割合の合計である。
・「ポートフォリオ」や「学生カルテ」を構築する教育的意義について理解を深め, 組織的課題と職員の役割を認識する（89.3％） ＜十分達成 32.1％、まあまあ達成 57.1％、どちらとも 7.1％、あまり 3.6％、全く 0.0％＞ ・自大学での対応について振り返りを行い、改善点を整理することができる（73.0％） ＜十分達成 26.9％、まあまあ達成 42.3％、どちらとも 23.1％、あまり 3.8％、全く 3.8％＞ |
いずれも高い目標達成度を示しており、すべての討議テーマで深い議論が展開されたことが推察される。特に、ポートフォリオや学生カルテの教育的意義について理解を深め、組織的課題と職員の役割を認識した参加者は89.3%と、高い割合を示している。これは、事例研究、グループ討議、成果発表という一連の流れを通じて「ポートフォリオ」や「学生カルテ」の特性が徐々に明らかになり、研修会終了時点で参加者全員がその意義を共有できたことを示しており、本分科会の大きな成果と考える。また、「自大学での対応について振り返りを行い、改善点を整理」についても、本研修の実践的な価値を示唆している。
（２）討議テーマに対する結論
各グループとも、学生情報の活用を通じて現状の問題を分析、共有し、学生を組織的に支援するためのICTに関して、これをコーディネート、マネジメントする観点から議論が尽くされた。これは、次の点から示される。
１． 各グループが導き出した実現案には、建学の精神や教育目標との関係、学生の学びや成長を評価する規準の確立、取組の活性化を図るための組織的体制、教職員の意識変革と協働の促進、費用対効果の追及、個人情報の保護など、課題解決にあたっての本質的な観点がしっかりと盛り込まれていること。 |
参加者は、グループ討議を通じて、教職員それぞれが専門性と組織的対応力を発揮し、連携・協働する中で学生の学びを支援し、指導や助言の質を保証することがいかに重要であるかをあらためて認識した。そして、現実の課題をテーマとした実現案の作成プロセスを通じて、人材育成支援、教育支援に果たすべき職員の役割について認識を深めたと考える。
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