第３分科会 大学の情報公表とＩＣＴの戦略的活用
運営委員 東川 昌之（立 正 大 学）
正木 卓（同志社大学 ）
１．分科会のねらい
本年４月より大学設置基準において大学の教育情報の公表が義務化・努力義務化された。その意味するところは、大学が負託されている人材育成について、大学での取り組みを外から見えるようにする、分かるようにすることを通じて志願者、在学生、父兄、国・社会に対して大学としての役割と責任を明らかにすることにある。それには、義務としてではなく、どのように自らの社会的責任を果たそうとしているのかについて、教育の質的向上のための取り組みや、健全な経営の財務情報を主体的に発信していくことが求められている。
本分科会では、教育の情報公表の意義についての理解を共有した上で、公表の範囲・内容・方法及び教育情報の点検・分析を組織的に行うための体制づくりなどについて、ＩＣＴを用いた情報戦略を探究する。
２．討議テーマ
- 情報公表の意義を確認する。
大学は誰のためのものかという視点から、多様なステークホルダーに向けた最適な教育情報の公表及び財務情報の公開について、真の狙いを確認する。 - 公表すべき教育情報の内容を探る。
社会的な責任を果たすために、定型的な情報ではなく、教育活動の方針・実態・今後の課題が見えるようにするための情報内容についての意識合わせをする。 - 情報を収集・分析・統合管理するための組織的な取り組みを理解する。
大学の特色化・個性化を高める教育活動とは何か、教育活動での弱みは何かを組織的に点検・分析する体制を米国大学の事例を参考に学習する。 - ICTを用いた情報戦略を探る。
高校生向け、在学生向け、保護者向け、社会に向けた情報公表の戦略や、留学生獲得に向けた取り組みなどについても議論する。
３．獲得目標
- 討議を通じて得られた情報公表の意義やあり方を明らかにし、自大学における情報公表の考え方、方法および内容についての再確認を行う。
- 学内外に散在する多様なデータを「情報」として戦略的に利用する学内組織を整備する必要性を認識させる。
４．概要
（１）全体的な流れ
�〇�前研修
本分科会の参加者（２０名）には、短期間ではあったが各討議テーマについて事前レポートをメーリングリスト上へ提出することを課し、参加者全員が閲覧し課題意識を喚起するために活用された。
�⊇弦膰�修
初日は分科会の趣旨・研修スケジュール説明および自己紹介を行なうとともに、全体会で講演された神戸大学川嶋教授をお招きし、ご講演内容などについて活発な質疑応答がなされ、翌日からのグループ討議に向けて一体感を醸成した。その後、本分科会の参加者２０名を３グループ分け、翌日からの討議進行のための役割を決定した。また、２大学の事例紹介を行なった。各グループは創造的技法を用いてグループテーマに沿って討議を進めた。
��事後研修
メーリングリストを活用し、グループ討議内容のまとめを協力して整理、グループの最終報告書を提出するよう求めた。また、研修期間では消化できなかった課題などについて、参加者相互にコメントする場となった。
（２）ミニ事例紹介
２大学のミニ事例紹介を行なった。立正大学）柴氏は、大学基準協会へ出向した経験から、情報公表に対して大学、認証評価団体、そして社会一般の発信したい情報あるいは受信したい情報の内容が乖離している点が報告された。また、日本大学）勝俣氏は、自大学で活用されているYoutubeとTwitterについて現状と課題について報告があった。２例とも非常に興味深い説明であり、その後の討議に貴重な示唆を与えた。
・立正大学）柴氏「認証評価について」
・日本大学）勝俣氏「日本大学におけるＩＣＴを活用した情報戦略について」
（３）討議内容
初日の全体会議の講演・事例発表、分科会のミニ事例紹介や運営委員の講演を受け、グループ討議に入った。３グループに分かれて「教育の情報公表の意義について理解を共有し、情報公表の範囲・内容・方法および教育情報の点検・分析を組織的に行なうための体制作りなどについて、ＩＣＴを用いた情報戦略を探求する」ために、選択したテーマごとに活発な討議が行われた。
各グループ共に熱心かつ意欲的に意見交換し、進行・記録・発表の役割を担った参加者がお互いに助け合って最終日のグループ成果発表へと繋げていた。
【Ａグループ：６名】
Ａグループは、平成２４年度に義務化された情報公表に関する現在の対応状況について、それぞれ情報交換を行なった。その結果、大学により公表の項目が異なること、公表している情報の入口が分かりにくいこと、公表しているものの質の向上を目的としたものではなく、文部科学省や補助金獲得を意識した対応に留まっている等、ステークホルダーの視点で作成されていないことが確認できた。そこで、ステークホルダーが求める情報に限定せず、大学から主体的に情報発信し、特色ある情報公表を行うことによって、質の向上につなげる情報発信の一つの仕組みを提案することを目標として討議を進めた。この情報公表に対するモデルを提示するにあたり、購買行動プロセスを説明するモデルであるAISAS理論（発表資料参照）を利用した情報発信の一連の流れと大学の質保証を担保する自己点検・評価を行うためのPDCAサイクルとの連動もモデルに含めることとし、AISAS理論で得られた評価、情報をPDCAサイクルで学内に取り込み、分析を行った上で次の活動に活かすこと、また、その活動を新たな情報発信につなげていくスパイラルアップを行うことで大学の質向上を図るモデルを作成できた。
【Ｂグループ：７名】
Ｂグループは、�‐霾鷂�表の意義を確認する��公表すべき教育情報の内容を探る��情報収集・分析・統合管理するための組織的な取り組みを理解する�ぃ稗達圓鰺僂い疹霾鸚鑪�を探るのテーマに沿って討議を進めた。�，任蓮◆崚�切な情報」とは具体的に何かという点まで議論を深め、最終的に「受験生にとって、より良い大学選択が可能になる情報の公表」を実現するためには大学における内部統制が不可欠であることを確認した。�△任蓮◆崗霾鷂�表の現状」と「情報公表のあるべき姿」について討議したが、現状では文部科学省の定めた定型的な情報の「公開」にとどまっていること、また、ステークホルダーの中でも、それぞれの立場によって求めるもの・興味のあるものが違い、大学の「公開」する情報とステークホルダーの求める情報の間に溝（ミスマッチ）がある事を見出した。��では、各大学の事例を出し合い、結果、ほぼ同様の組織・取組であることが確認された。また、情報をDataからInformationそしてIntelligenceにブラッシュアップするためのアプローチのあり方について議論した。�い任蓮⊂霾鸚鑪�のツールとして考えられるものをグループメンバーで出し合った。高校生にとって手軽(使いやすい)か、効果的(興味を持つ・魅力的)か、ツール毎に4象限に分類した。また、大学にとって手軽(事務作業量が少）か、効果的(入学者増に繋がる)か、についても同様に分類した結果、理想と現状に溝があることを見出した。討議を経て明らかになった現状を踏まえ、理想の実現に向けた具体的な展開について議論した。
【Ｃグループ：７名】
Ｃグループは、�‐霾鷂�表の意義を確認する��公表内容・方法・受け手の範囲�６軌蕕両霾鵑療生 κ�析を組織的に行なうための体制作りについて、討議を進めた。�，任蓮�大学の情報を公表することについては、社会への説明責任として当然行うべきものであり、これはステークホルダー全体への説明責任として行うべきものであるとの認識を共有した。全大学が適切に情報を公表しそれを比較可能な状況とすることができれば、社会に対する説明責任を果たせるということに加え、大学自身も自らの状況を客観的に分析し、状況の似た大学・目標とする大学などベンチマークを見つけることができるなどの利点があるとの意見が出された。�△任蓮�大学が情報を公表する際に想定すべき情報の受け手について議論を行い、「在学生・その保護者」「受験生」「社会一般」「大学業界関係者」などがあげられた。このことを基礎とし、公表すべき情報の項目・内容や方法について検討した。それぞれの大学が基礎的な情報へ解説を加えたり、基礎的な情報以外の特色を公表したりすることで、「社会一般」以外の受け手も満足できるような情報公表を行っていくことができるのではないかとの結論に至った。��では、「あるべき状態」に到達するためには、「どのような情報」を「どのような方法」で公表していくべきか、また「誰」がそれらを行うべきかについて検討した。基礎的な項目や形式、および、ポータルサイトの構築主体については、私立大学自身が行うべきか、国が行うべきか、既に行っている企業によるものを発展させていくべきかについて活発な議論があった。
５．まとめ
（１）分科会のねらいに対する結論
『本来大学は誰のためのものか』という観点から、大学を取り巻く多様なステークホルダーの関心に応えられる適切かつ明確な情報とは何か、さらに情報公表の方法はいかにあるべきか、などの検討を踏まえた積極的な情報公表の実現こそが社会の理解や共感を得ることに繋がる。また、人材育成という公的な役割を負託されている機関としての説明責任は十分に果たされているのか、という視点からも活発に討議された。
研修後のアンケートでは、「数値のみの公表ではなく、分析結果やエビデンスの公表も必要である」、「学内の情報公表に対する意識を高める勉強会が必要と感じた」、また「自分が扱っている情報がデータなのかインフォメーションなのかインテリジェンスなにか考えたい」、「ＨＰ上で掲載している公開情報の内容について、自分が関われる箇所から、どのステークホルダーに対しての情報なのか認識し見直していきたい」など、短期間ではあるが今回の研修成果から、これを機に積極的な業務改善に活かそうという意欲的な姿勢が認められた。参加者全員が、各大学の現状・課題について分析し、問題解決のための課題の確認や新しい提案、またその可能性について活発な討議を展開し、概ね、所期のねらいは達成できたと考える。
分科会終了後の目標達成度について５段階評価で自己評価を行った。
集計結果は以下のとおりである。
・情報公表の意義や教育情報の点検・分析のための体制作りに必要な視点を発見する 《十分に達成できた・まあまあ達成できた・・・９５％》 ・ＩＣＴを活用した情報戦略について、自大学におけるその可能性と課題を明らかにする 《十分に達成できた・まあまあ達成できた・・・８０％》 |
（２）討議テーマに対する結論
分科会の各グループでは、それぞれの大学の現状と課題を把握・整理した。その上で、情報公表の意義やあり方を明らかにし、この情報を共有し参加者の経験を踏まえたアイデアで創造的なディスカッションを実践した。各グループの結論を次に示す。
・社会への説明責任、質の保証を果たすため、個々の大学の魅力をそれぞれの事情に適したアプローチ（AISAS理論とPDCAを併せて活用など）によって情報公表をする
・積極的で能動的な情報公表のあるべき姿へ昇華させるため、学内情報をdata⇒information⇒intelligenceにブラッシュアップする必要がある
・大学の基礎的な情報をステークホルダーが比較・検索できるポータルサイトを構築する必要がある
参加者は、３日間のグループ討議・成果発表を通じて、情報公開の意義をはじめ公表すべき情報と必要な組織的な取り組み、さらにICTをどのように活用していくかについて認識を深めたと考える。
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